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(96)魔法少女歌劇団、計画始動!

第4章、引き続き、舞台は魔法少女学園です!

 教師になって一か月。俺は学園の音楽室で、窓の外の青空を見上げながら深くため息をついた。


 この一か月間、俺たちは必死に深淵魔法の手がかりを探し続けてきた。百年前の魔法少女アリエル・フロストヘイヴンの記録、妖精アステリアの在り処、そして謎の「星見の間」――。しかし、どれだけ学園内を調べても、図書館の古文書を漁っても、決定的な手がかりは見つからない。


 クラリーチェは相変わらず俺たちを監視している。ディブロットの気配を時々感じるし、学園の些細な出来事にも彼女の影響が見て取れる。だが、表立って何かを仕掛けてくることはない。まるで俺たちの動向を静観しているかのようだ。


 リリアの魔力回復への道筋は、まだ見えていない。


「師匠、何考えてるの?」


 扉が開いて、リリアが顔を覗かせた。その後ろにはミュウとエレノアの姿も見える。


「いや、なんでもない」俺は振り返って微笑んだ。「みんな、集まってくれたか」


「わたくし、武流様にお呼ばれして嬉しいのです!」ミュウが猫耳をピクピクと動かしながら入ってきた。


 エレノアは腕を組んで、少し不機嫌そうな表情を浮かべている。


「で、一体何の用事なのよ。わざわざ音楽室に呼び出すなんて」


「実は、お前たちに提案があるんだ」


 俺は三人を見回した。この一か月、俺たちは手がかりを探すことばかりに集中していた。しかし、時には視点を変えることも必要だ。そして――俺にはスーツアクターとして培った、別のアプローチがあった。


「魔法少女歌劇団を結成しようと思う」


「歌劇団?」


 三人が同時に首を傾げた。その表情には、明らかな困惑が浮かんでいる。


「歌劇って、何ですか?」リリアが素直に尋ねた。


「わたくしも初めて聞く言葉なのです」ミュウの猫耳が疑問符のように動いている。


 エレノアも困惑した表情で俺を見つめていた。


「武流、あなたまた変なこと言い出して……」


 そうか。この世界には演劇という概念が存在しないのだ。当然、歌劇と言っても通じるわけがない。


 俺は改めてこの世界の文化的な状況を思い返した。確かに、この一か月間の生活で、演劇や舞台といったエンターテイメントを見かけたことがない。祭りはあるが、それも宗教的な儀式の側面が強く、娯楽としての演技や芝居は存在しないようだ。


 映画やドラマ、アニメ、そして特撮も当然存在しない。魔法が発達したこの世界では、そうした虚構の娯楽よりも、実際の魔法や戦闘の方がよほど興味深いのかもしれない。


 俺は音楽室の中央に立ち、説明を始めることにした。


「歌劇というのは、歌と演技と踊りを組み合わせた演劇、総合的なエンターテイメントだ。役者が物語の登場人物を演じて、観客に物語を見せる」


「物語を......見せる?」エレノアが首を傾げた。


「ああ。例えば、昔話や伝説を、実際に人が演じて再現するんだ。衣装を着て、セリフを言って、歌を歌いながら物語を進めていく」


 俺の説明に、三人はますます困惑したような表情を見せた。


「でも、それって......何のために?」リリアが疑問を口にした。


「娯楽だよ。人々を楽しませ、感動させるためのものだ」


「わかった! それって、メリッサが王宮で披露した師匠への公開プロポーズみたいなものだね?」


 リリアの言葉に、俺は思わず顔を顰めた。メリッサに王宮に招待された際、彼女は人々を巻き込んで歌って踊って、アポロナイトへの愛を告白した。あれは酷い歌と踊りだった。歌詞には何のセンスもないし、何より王宮の人々が嫌々付き合わされて踊らされているのが痛々しかった。


「いや、あんな低次元のものじゃない」


 俺は元の世界での経験を思い出しながら続けた。


「俺がいた世界では、演劇は非常に人気のあるエンターテイメントだった。俺は『蒼光剣アポロナイト』というヒーローショーに関わっていたんだ」


「ヒーローショー?」ミュウが興味深そうに尻尾を揺らした。


「ああ。正義のヒーローが悪の怪物と戦う物語を、実際に人が演じて見せる演劇だ。俺はその主人公アポロナイトを演じていた。時には脚本も書いたし、演出も担当した」


 俺は彼女たちに、元の世界のことをあまり詳しく話していなかった。しかし、今回の企画を成功させるためには、自分の経験を正直に語る必要がある。


「ヒーローショーでは、子供たちが目を輝かせて物語に夢中になってくれた。ヒーローが勝利する瞬間、観客席から歓声が上がる。その瞬間こそが、俺がスーツアクターとして最も誇りに思えた時間だった」


 俺の言葉に、三人の表情が少しずつ変わっていく。特にリリアとミュウは、好奇心に満ちた目で俺を見つめている。


「つまり」エレノアが整理するように言った。「物語を人が演じて、それを他の人に見せて楽しませるということね」


「その通りだ。そして、この世界の魔法少女たちなら、俺の世界では絶対に不可能な、本物の魔法を使った演劇ができる。そこに歌とダンスを融合させれば、最高の歌劇が誕生するってわけだ」


 俺の説明に、リリアの目が輝き始めた。


「それって、すごく面白そう! ボク、やってみたい!」


「わたくしも興味があるのです!」ミュウの猫耳がピンと立った。「武流様の世界のエンターテイメント、とても素敵に聞こえるのです!」


 しかし、エレノアだけは慎重だった。


「ちょっと待ちなさい。今はそんなことをしている場合じゃないでしょう? アステリアを探さなければならないのに、そんな遊びみたいなことを......」


「だからこそなんだ」


 俺はエレノアの疑問に答えた。


「考えてみろ。俺たちがいくら図書館で古文書を調べても、学園内を探し回っても、決定的な手がかりは見つかっていない。なら、アプローチを変える必要がある」


「どういうこと?」リリアが興味深そうに尋ねた。


「この学園には、まだ俺たちが知らない生徒がたくさんいる。彼女たちの中には、代々魔法少女の家系の者もいるはずだ。古い言い伝えや家族の秘話を知っている可能性がある」


 俺の説明に、エレノアの表情が少し和らいだ。


「つまり、歌劇団の活動を通じて生徒たちとより親密になり、情報収集をするということね」


「その通りだ。それに......」


 俺は窓の外を見ながら続けた。


「魔法少女たちが舞台の上で演じることで、隠れた力や記憶を呼び覚ますかもしれない」


「なるほど......」ミュウが感心したように呟いた。「武流様、さすがなのです」


「でも」エレノアがまだ納得しきれない様子で言った。「そんな歌劇団なんて、クラリーチェに怪しまれるんじゃない?」


「逆だよ」俺は自信を持って答えた。「表向きは単なるクラブ活動だ。教師として生徒たちの課外活動を指導する、ごく自然な行為に見える。それに、この世界にない新しい文化を紹介することは、教育的価値もある」


 実際のところ、俺にはもう一つの狙いがあった。この学園の魔法少女たちをより深く俺の影響下に置くことだ。歌劇団活動を通じて、彼女たちとの絆を深め、信頼関係を築く。それは、いずれクラリーチェと対峙する時に、強力な味方となってくれるはずだ。


 しかし、それは今は言えない。


「......分かったわ」エレノアが折れた。「確かに、現状では手詰まりですものね。新しいアプローチを試すのも悪くないかもしれない」


「やった!」リリアが手を叩いた。「師匠の世界のエンターテイメント、体験してみたい!」


「わたくしも参加するのです!」ミュウの猫耳が嬉しそうに立っている。「歌と踊りとお芝居、全部楽しそうなのです!」


 その時、音楽室の扉がノックされた。


「失礼します!」


 元気の良い声と共に、ステラが入ってきた。その後ろには、眼鏡をかけたアイリーンの姿もある。


「武流先生、新しいクラブ活動を始められると伺ったのですが!」


 ステラの目は期待で輝いている。


「どんな活動なんですか? 自分も参加させてください!」


「私も生徒会長として、新しい活動をサポートしたいと思います」


 アイリーンが眼鏡を押し上げながら言った。しかし、その頬は微かに赤く染まっており、俺と一緒に活動できることへの期待が隠せない。


 さて、彼女たちは協力してくれるだろうか。

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