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ep2「はじめの一歩」chap3:道のり

【前回のあらすじ】

父との関係に悩むミーヤは道場を飛び出すが、ステリアに母の過去を教えられ自分も母の道を辿りたいとエダクタス流武闘を始めることを決意。

家族の再会はぎこちないが少しずつ距離が縮まり、凍りついた時間が溶け始めた瞬間でもあった。

ミーヤは新たな一歩を踏み出し、母との絆を感じながら成長していく。

 エダクタス流武闘。ミーヤ・エダクタス。修行開始から3日目。


「うーん、ちょっと重心が前過ぎない?」

「うるさいなぁ! 分かんないよ重心がどうとかって言われたって!」

「あれぇ? もう諦めちゃうのかな?」

「……ッ! 諦めませんけど!」


こんな押し問答をずっと繰り返しながらも、エダクタス流武闘の基本の構えや交戦時の考え方、フレアフォトンの纏わせ方を少しずつ訓練している。

そんな折、道場の外から声が聞こえた。


「おじゃまします。こちらにミーヤちゃんがいると伺ってきたのですが――――」


ミーヤとステリアが声の方へ視線を向ける。緑髪に煌めく深いきらめく紫の瞳を持つ少女が立っていた。


「ヴェル!」


ミーヤは見るなり駆け寄り、抱きつく。

相手の少女も、嬉しそうにミーヤをぎゅっと抱きしめ返した。


「ミーヤちゃん! 元気だった? 可能性の神子になれたんだって? おめでとう」

「うん! まぁ私なら余裕だったかなぁ。うっ……ちょ、ヴェル? 苦しい、かも……」


ヴェルと呼ばれた少女は抱きしめたミーヤをもう二度と離さんとばかりに強く抱きしめる。


「あらあら、フィロス家のご令嬢が直々に挨拶しに来てくれるなんてね」


ステリアの声に反応するヴェル、自然と目つきが鋭くなり、警戒心を漂わせる。


「おっと、そんな睨まないでよ。別にケンカしたいわけじゃないし同じ護柱三家の仲間なんだから」

「別にそんなつもりはないですけど。私とミーヤちゃんの間に割って入る方には容赦いたしませんので」

「別にまだ割ってもいないし入ってもいないんだけどなぁ、私嫌われてる?」

「いえ、だから別にそんなつもりは……」


ヴェル・フィロス。武闘のエダクタス家に並ぶ剣術のフィロス家の当主である。

ヴェルはミーヤと同い年ながら努力と実力でその地位を守り続けている。


「まぁまぁ、久々に会えたんだし。修行もいったん休憩にしよ! 話したいこともたくさんあるんだから!」


ミーヤがここまで無邪気な笑顔を見せるのは継界天球を奪われてからは初めてだろう。


 ミーヤとヴェルは幼馴染で小さい頃からよくふたりで一緒に遊んでいた。お互いに何でも話せるいわば親友のような関係である。信頼という点だけで言えば家族をも超える絆で結ばれているだろう。ミーヤは家族である父と正面から向き合えず、ヴェルは向き合う父も母もいないのだ。必然幼い頃からふたりは互いに支えあって生きてきたようなものなのだ。


3人はそのまま道場でしばらく話し込んでいる。


「そっか、じゃあ今日は護柱三家の伝令も兼ねて来てくれたんだね」

「はい、なので後程ミーヤちゃんのお父様にもご挨拶をさせていただく予定です」




 護柱三家。

グランパレシオンを守護する武闘のエダクタス家、剣術のフィロス家、魔導のアルプシス家の三家から成る防衛機関である。

厳密には現在のグランパレシオンでは御三家の正統家系だけでなくその流派、門派の者たちや、修行中の身である若き士たちが国陸を守るために集まり構成されている組織である。


現フィロス家の当主を務めるのはヴェルだが、フィロス剣術のマスターは現在決まっていない。

というのも、先代のフィロス剣術マスターであるヴェルの父は魔神侵攻にて命を落としておいる。それ以降枝分かれした門派も名乗りを上げフィロス剣術は現在その頂の座を奪い合う形となっている。フィロス家当主の座はフィロスの正統家系であるヴェルが家臣たちと守り抜いたがヴェル個人の実力で言えば十分力はあるがまだまだ修行の身であることには変わりないのだ。


「ヴェルも大変だね」

「ミーヤちゃんも可能性の神子になったんだからこれから忙しくなるわよ」

「わ、私は……」


やはり継界天球の件が頭をよぎる。

ヴェルもその立場から今回の事件については聞き及んでいる。

なにしろ王宮での会議に参加していたアレクに物怖じせず進言した少女はヴェル自身なのだから。


「大丈夫。継界天球の事件を起こしたやつは私が見つけ出して斬り刻んであげるから」

「もう聞いてるんだ……さすがフィロス家当主だね……」

「私はいつでもミーヤちゃんの味方だから、元気出して」

「ヴェルぅ……!」


その言葉にミーヤは少し照れくさそうに笑いながら顔を上げる。ふたりの間に流れる和やかな空気に、ステリアはそっと一歩下がり微笑むだけだった。

しかし、ふとヴェルの表情が変わる。ミーヤを見つめる瞳に疑問が浮かんだ。


「そういえばなんでミーヤちゃんがなんで道場に?」


エダクタス家の使用人に案内され道場まで来たもののヴェルはミーヤが武術なんかに手を出すとは考えてもいなかったこともあってなんでミーヤが道場にいるのか分かっていない。


「ミーヤちゃんは帰って来てからエダクタス流武闘の修行を始めたんだよー!」

「なぁっ……!?」


実家の武術の修行をする。それ自体は大それたことではないはずだが、ヴェルはこの世の終わりのような衝撃を受けている。


「ミーヤちゃんが暴力!? この女に唆されたの!?」


突然声を荒げるヴェル。


「まぁそんなところかな」


ヴェルの視線がステリアの方にゆっくりゆっくりと向けられる。殺意と共に。


「え?いやいやいや! ミーヤちゃんも同意の上で! やりたいっていうから! ね! そうだよねミーヤちゃん!」


ステリアのこんなにも救いを求めるかのような表情は珍しい。


「ミーヤちゃんは私が守るので大丈夫です……ミーヤちゃんが戦って万が一にもケガなんかしたらどう責任を取るつもりですか……?」

「ヴェルちゃん! いったん落ち着こう! ね!」


ステリアはヴェルの真剣さに困惑しながらもなんとか場をなだめようとしたが、ヴェルの眼差しは鋭く冗談が通じる雰囲気ではなかった。

しかし、そんな空気を吹き飛ばすようにミーヤが笑い声を上げる。


「ふたりとも、そんなに真剣に心配しなくても大丈夫だよ! 私がやりたいって思ったことなんだから!」

「「ミーヤちゃん!?」」


ヴェルは信じられないという表情でミーヤを見つめ、ステリアは助け舟に感謝するような顔で安堵の息をついた。それぞれ全く異なる感情を込めて同時にミーヤの名を呼んだ。


「ママもこの道場で修行してたんだって。だから私も同じ道を歩みたいなって思ったんだ」


……良い子!

ステリアとヴェル、今度は同じ思いでミーヤの純真さに心を打たれている。


「ミーヤちゃんがそう言うなら私も信じるわ。でも何かあったらすぐ言ってね!」


目にも止まらぬ心変わりで手のひらを反すヴェル。これにはさすがのステリアも心の中でおい! と突っ込んでしまった。

そしてヴェルは目をつむりながら静かに決意した。


「……決めました」


その滲み出る決意の重さからミーヤとステリアは思わず息を飲んだ。

道場を風が吹き抜ける。


「私もミーヤちゃんの修行のお手伝いをします」

「ほんとに!? いいの?」


ミーヤは目を輝かせ愛玩動物のような眼差しでヴェルを見つめる。


「うん、ミーヤちゃんが頑張ってるんだもの。私も協力するわ」


ヴェルは天使のような笑みで語りかけた。


「毎日は難しいけど、時間があるときは来るわ」

「ヴェルぅ、ありがとう!」


抱き着いてくるミーヤを優しく受け止めた。

今のミーヤにはこれほど心強いことはないだろう。

取り返しのつかない問題を起こしてしまった中で数少ない心休まる場所になるのは間違いなかった。


「でも今日はこの後お父様にご挨拶もあるので時間があればまたこちらに顔を出します」


そう言うとヴェルはゆっくりと視線をステリアに向ける。


「ミーヤちゃんをよろしくお願いしますね」

「う、うん」


ただならぬ威圧感から大気が揺れているような気さえした。

返事をするも引きつった笑顔で答えるのが精いっぱいなステリアだった。

ヴェルはそう言うと道場を後にし、ミーヤとステリアも修行を再開するのだった。







 エダクタス家で一番大きな広間。

来賓の待合室も兼ねているこの部屋もまた質素ながらも気品が溢れている。

木目調の家具や内装である程度統一されており、それもまた厳かさに拍車をかけているのだろう。


「失礼いたします」


ヴェルが部屋に入ると正面のデスクにはミーヤの父であるクロウドの他に、部屋の一角にある来賓用のテーブルの前に腰を掛けるアルプシス家の若き当主ラヴァント・アルプシスの姿もあった。


「これはこれは、フィロス家当主のヴェルさんではありませんか。ご機嫌いかがですか?」


ラヴァントがいつもの調子で挨拶をするとヴェルはあからさまに鬱陶しそうな表情を浮かべた。


「数日前にもお会いしていますが。今日も私がここに来ることも知っていたのではないですか?」


ラヴァントはつれないなぁといった感じで鼻で息をする。


「その件については俺から説明しよう」


クロウドが会話に割って入る。


「今日はヴェルさんからの申し出があり俺とふたりでの話し合いの予定だったが、あんな事件があった後だからな。集まれるなら現御三家のトップであるこの3人で確認しておきたいこともあって俺からラヴァントを呼び出したんだ。時間もなかったからな、勝手なことをしてすまない」

「そうでしたか」

「そういうこと。積もる話もあるだろうけど――――」

「ありません」


間髪入れないヴェルの一言にラヴァントは一瞬固まった。ラヴァントは殺意のようなものを感じたが気のせいだと思うことにした。


「話したいのは僕だけだったみたいだから、先におふたりで話すことがあればどうぞ」


ラヴァントはヘラヘラしながら来賓用に出されたお茶を飲む。


「いえ、せっかくアルプシス家の当主にも来ていただいているのですから御三家で話すことがあるならば話してしまいましょう」


ヴェルが提案するもラヴァントは頑として先にふたりで話させようとしている。


「おやおや、御三家同士でありながら僕の前では話せないことがおありですか?」


強く当たりすぎただろうか。ラヴァントの機嫌を損ねてしまったかもしれないがそもそもこの男はおちゃらけた雰囲気を常に持ち併せているから何を考え何を思っているのか分かりにくい。


「いえ……ではお待たせしてさせてしまいますが僭越ながら先にお話しさせていただきます。問題ないですかクロウドさん」

「ああ、俺は問題ない。では改めてヴェルさん、俺に提案したいことというのは?」

「はい、ミーヤちゃんのことです」


まぁそうだろうなと、その場にいた誰もが思った。以前からヴェルがミーヤの事を気にかけているのは誰の目から見ても明白だった。きっかけはヴェルの幼少期にまで遡るのだがそこまで知る者はあまり多くはない。

クロウドはそのままヴェルの次の発言を待っている。


「ミーヤちゃんを護柱審判に推薦したく思います」


これにはさすがのクロウドも驚いた表情がこぼれてしまう。

護柱審判。グランパレシオン王宮を守護する組織である護柱三家への入隊審査だある。当然、王宮を、都市を、ひいては国陸を守るという任であるためそれ相応の実力も求められる。


「その意図は……?」


ディオス家当主としてだけではなく父としてもどういうつもりなのか聞かずにはいられなかった。

ミーヤとヴェルの仲が良いのはクロウドも知るところではあるが、流石に予想だにしなかった提案である。


「もちろん大前提としてミーヤちゃんがやると言わなければ無理強いはできません。ですが私自身、護柱三家に正式に加わって3年ほど経ちますが国民からの声や受ける印象はかなり変わったように感じています」


 ヴェル自身、両親がいない中で育ってきてフィロス家を守って来たとはいえやはり世間の風当たりは強いものだった。事実フィロス家を失墜させ成り替わろうという存在は多数いた。それらを跳ね除けフィロス家を守ってきたが年端もいかない少女が当主を務めることに否定的な人や疑問を抱く人は多かった。

その中でヴェルが護柱三家に護柱審判を経て正式に加入して以降、国民を、国陸を守るという使命をこなしていくうちに人々からの見る目は変わったというのだ。つまり信頼を少しずつ勝ち取っているとう事実がある。


「魔神侵攻後、幼い私はフィロス家の跡取りだから護柱三家に名目上残っているのだろうという声もたくさん聞いてきました。だからこそ改めて国民に示さなければいけなかったんです。護柱三家の威光を」


そう言うヴェルの目には確かな輝きがあった。

クロウドは当然それを感じ取った。その場にいたラヴァントもその実直な発言と眼差しに視線を向けていた。


「幸いにもミーヤちゃんは武闘のエダクタス家の一人娘です。護柱審判を受けること自体はなんの違和感もないかと思います」


そこまで言うとヴェルはクロウドの反応を待った。

重い息をひとつ吐きクロウドはヴェルを見つめ返す。


「エダクタス家当主としても、父としても、そうなってくれればそれ以上のことはない、だが……」


クロウドは当主としても父としても心配なのだ。ヴェルの言ってることの意図も分かる。しかしながらさまざまな要因があるが、今この国陸を揺らがしかねない問題の渦中にいる愛娘を一歩間違えれば危険に晒すこととなる。


「いいじゃないですか、護柱審判」


ここまで静かに聞いていたラヴァントが突然口を開く。

自然とふたりの視線はラヴァントに集まる。

相変わらず少女からの殺意のようなものを感じた気がするがいつもの調子で続ける。


「お国のために働いて世間からの評価を良い方向に傾ける。実際に侵入者がいたことはまだ国民の知るところではないですからね。それにミーヤちゃんは今可能性の神子としての奉仕は制限もしくは禁止が検討されていますからね」


ミーヤはアレクにも言われた通り継界天球への接近が禁止されている。となるとそもそも可能性の神子としてできることはカムリ宮の簡易的な事務や清掃、行事のサポートなどになってしまう。そして事件後本日に至るまでにミーヤの処遇や扱いに関しては国の上層部でもすでに協議がなされておりミーヤの可能性の神子としての活動を制限、もしくは禁止する案が上がっている。


「もしミーヤちゃんが護柱三家に加入してくれたら何か起きた際にも僕らがすぐにフォローできるし、逆に言えばいつでも僕らの監視下に置けるんだ」

「貴様ッ!!!」


ミーヤのことを監視対象として見ているような発言にたまらずヴェルが声を上げた。

だからこいつの前ではこの話はしたくなかった。

考えるよりも先に腰に携える刀剣の柄に手を掛け踏み込もうとしたところだった。


「待て!」


クロウドが一喝しヴェルを制する。

だがヴェルの感情は収まるわけもなかった。


「いいんですか! ミーヤちゃんを、娘を監視するような発言をされて……!」

「監視、という表現はいささか言葉が強いが……」


クロウドの表情は決して明るいものではなかった。

言葉に詰まるクロウドを横目にラヴァントが話し出す。


「今日、僕が呼ばれた理由にも繋がるんだけどね」


ヴェルは刀剣に手を掛けたまま次の言葉を待っている。


「いや、俺から話そう」


クロウドが椅子から立ち上がり、その様子を見たラヴァントは静かにソファーに腰を下ろした。

ひとつ呼吸を置きクロウドは話し始めた。


「原罪人――――」


たった一言だが、その一言が場の空気をあからさまに重くした。


「俺の娘であるミーヤ・エダクタスはグランディオスの原罪『暴食』の力をその身に宿した原罪人であることはふたりとも知っての通りだな」


ヴェルとラヴァントは共に頷く。


「原罪の力は非常に危険であり、その力が狙われる可能性があるとなれば俺たちは守らなければならない。今日はそのことについても御三家当主である俺たちで国に先んじて話し合っておきたいんだ」


あまり見せることのないクロウドのこわばった顔。

それが何を意味するかはヴェルもラヴァントも即座に理解できた。

ヴェルも事の重大さを察してかいつの間にか刀剣に掛けられていた手は離れ脱力感を帯びながらぶら下がっていた。


 クロウドがヴェルも来賓用のテーブルへと誘導する。


「まぁ座ってくれ」


そう言うとクロウドとヴェルは思い思いに椅子に腰を掛けた。御三家当主が顔を合わせる形で向かい合って座している。





原罪――――





避けては通れない話題に重苦しい空気が部屋を包もうとしていた。

グランパレシオン名門の御三家の当主がそれぞれに表情を曇らせる。それだけで事の重大さを物語るには十分すぎるほどの説得力があった。


今回コンテストに向け小説家になろうになろうに投稿しました。

普段はXfolioで更新してます。


キャラデザや用語なども下記サイトで公開しています。


「CRAVING CONNECT」ポータルサイトURL

https://xfolio.jp/portfolio/chaka4_min


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