ep3「異国漫遊事件簿」chap5:vs炎
【前回のあらすじ】
フェルマラミナ王都に向かう一行はトラブルにより先発と後発に別れ向かうことになる。
先発組は道中で謎の仮面の襲撃者に急襲される。
炎を操る敵に新家部隊は翻弄されるもミーヤたちは連携して応戦。護衛対象のパングスを守るヴェルは炎の柱を一刀で切り裂き、一時的に窮地を脱する。
しかし、未知の敵の正体と目的は不明のまま。彼らの初の外征任務は危険な展開を迎える。
生温い風が吹き抜ける。炎を操る襲撃犯の男の背後にそびえる炎の壁がその威圧感を増す。
ヴェルは乾いた空気を吸い込み息を整えると刀剣の切っ先をゆっくりと相手の喉元に向ける。
お互い微動だにしない数秒間。
命のやり取り。この数秒間が何分、何時間にも感じる。
まだ手の内が分からない者同士、どちらから動くのか、相手の指先の僅かな動きにまで視線を配る。
刹那。角の男の両腕がヴェルに向け突き出される。
次の瞬間。
何も無い空間が発火し閃光が散る。耳に発火音が届く頃には炎柱がヴェル目がけてものすごい勢いで伸びてくる。
ヴェルの背後にはまだ戦場を知らない若き芽が控えている。
不安。振り返らずとも分かる。
誰かが光粒防皮を展開してくれるわけでもなければ、自らうねり狂う炎を相手するだけの経験もあるわけがない。
退けばその命が灰となる。
ヴェルはその場で刀剣を地面に突き立て魔導式を展開する。
キィンと高音が響いたかと思えばヴェルの前方に魔導式が広がっていく。
「風 障――――」
ヴェルが口を開くと展開された魔導式の先の方で風が渦巻き始めた。
よく見れば翠緑色のフレアフォトンも共に地で渦巻いている。
「陣 壁 鋼 陀!」
ヴェルが詠唱を終えた瞬間、荒れ狂う風の柱が幾重にも重なり合い爆発的に巻き起こった。
空気を切り裂くような轟音が辺りを支配し他の全ての音をかき消していく。その勢いは視界そのものが風に飲まれるかのような錯覚すら抱かせた。
火柱が竜巻の壁にぶつかる。
ゴウッ――――
激しい音が風の向こう側から響いたような気がした。しかし、音すらも竜巻の轟きに呑まれ確かめる術はない。ただ見えるのは、翠緑色のフレアフォトンが炎にぶつかった余波で弾け宙に散る光景だった。それはまるで嵐の中で輝く儚い花火のようだ。翠緑の火花が舞い上がり渦巻く風と交じり合うさまは、破壊の中に一瞬の美をもたらした。
風の壁は火柱をさらに激しく踊らせる。それでも風の壁は揺るがない。炎は熱と勢いを増しながらも目の前の風障を越えることなく飲み込まれていった。
突如炎の勢いが弱まるのを感じた。
襲撃犯の男はこのままでは突破できないと判断したのか、風の壁を大きく回り込みながら走りこんでくる。
それに気づきヴェルも風の壁を一度霧散させる。
仕切り直し。
まだ距離はあるが角の男はズザッと地を横滑りながら急停止する。それと同時に男の左拳にフレアフォトンが集まっていくのが見えた。
「炎 波・飛 殴」
角の男が拳を突き出す。空気が振動する。途端、男の拳の先から爆発したかのような衝撃が走り火球が射出される。
これまでの火柱のように広域へ広がる炎ではなかったが、速さ、密度、威力、それらがこれまでの攻撃とは見るからに段違いのものだった。
ヴェルは迫り来る火球に対して剣を静かに構える。
周りの酸素を燃やしながら迫りくる火球。目を閉じ意識を研ぎ澄ました次の瞬間。
一閃――――火球はふたつに割れ、魔導式のコントロールを失いそのまま空に消えた。
ヴェルが男に視線を向けたときには既に男が隣を走り抜けていくところだった。
後ろに控えるミーヤたちに狙いを定めたのだろう。
ヴェルは敵の動きに反応すると即座に魔導式を発動する。
「風 跳 之 舞 踏――――」
静かにそう唱えると、耳に響くフレアフォトンの反応音とともに彼女の身体は宙に浮かび上がる。風に吹かれる木の葉のように、重力を感じさせない動きで滑らかに空間を漂い男の背後に迫る。一瞬のうちに距離を詰めヴェルの剣が男の首元へと届こうとしたその刹那、男は驚異的な反応で前のめりに倒れ込みその刃をかろうじてかわした。だが、ヴェルはその動きを追うように風の流れに身を任せ再び宙を舞いながら男の視界の外へと消える。
次の瞬間、彼女の剣は鋭い軌跡を描き倒れている男に追撃の一太刀を繰り出す。それに対し男は炎を放ち応戦するが、ヴェルの動きはあまりにも軽やかで予測がつかない。漂うような動きから繰り出される素早い剣撃に次第に押され、男の意識は完全に彼女の動きに釘付けとなる。
その結果、彼が保っていた炎の壁が徐々に力を失い薄れていった。
「フルレさん! 今です!」
フルレの耳にヴェルの声が届く。
フルレは息を呑んだ。
「はい…!」
薄くなった炎の壁めがけてフルレが走り出す。
「衝 波 閃!」
フルレの声とともに鋭い衝撃が炎の壁を突き抜けた。まばゆい光が爆ぜ、火花とともに壁に穴を空ける。フルレはためらうことなくその隙間へと転がり込んだが、次の瞬間には炎が燃え盛り壁が再び閉じてしまった。
フルレは後に退けないことを理解し、引き車の方を見る。
「なんだ? 団長の炎の壁を突破しやがったのか?」
襲撃者はこちらに気付くと、引き車に積んであった荷物の物色をやめ立ち上がる。
引き車のかたわらには気を失っている新家のメンバーが横たわっている。
「覚悟は、できてますの?」
「はっ……おもしれえ……」
そう言うと両者は戦闘態勢に入るのだった。
「くっ……!」
ヴェルはフルレが炎の向こうに分断されてしまったことに気づくも、目の前の角の男を相手取りながら余所に気を配る余裕はなかった。男もヴェルの剣技に翻弄されていたが次第に順応し、互いに一瞬の隙も与えない激しい攻防が続く。
一進一退の応酬が繰り広げられる中、男は一歩後退し間合いを取った。そして左腕を地面に突き立て、低く呟く。
「炎 波・燃 陣……」
真っ赤な炎のようなフレアフォトンが広範囲に吹き上がる。男が突き立てた拳に力を込めた瞬間だった。
男を中心に爆発的な熱波が広がり炎の波となってヴェルたちを飲み込もうと迫る。
地面がひび割れ、焦げる匂いが鼻を突く。
「……っ!」
炎の勢いにヴェルは一瞬ひるみつつも頭を回転させる。後ろにはミーヤやパングス、仲間たちがいるが全員を一度に助けるには時間が足りない。そんな刹那の思考、答えを導き出す前に炎の波は眼前まで迫っていた。
その時――――
バキィンッ!
耳を刺すような冷たい音が響いた。
あまりのことに目を伏せてしまったがゆっくり目を開くと、炎の波が一瞬にして凍り付き氷塊へと変わっていた。空間を凍てつかせるような冷気が辺りを包み込み、ヴェルは驚きの表情を浮かべた。
「一体何が……?」
状況を理解できぬまま視線を彷徨わせていると、岩壁の上から声が響く。
「キヌ! もうやめろ!」
ヴェルが声の方へ視線を向けるとそこにはまた新たな男が立っていた。鋭い目つきのその男は冷然と襲撃犯の男を見下ろしている。
「……ちっ」
キヌと呼ばれた襲撃犯は苛立ちを隠す様子もなく止まることはなかった。
再び炎柱をヴェルたちに向けて放つ。
しかし、それも再び冷たい音と共に凍らされてしまう。
キヌは何も言わず視線を岩壁の上へと向ける。ふたりの男の視線は重なるが互いの想いが交わることはなかった。
そのまま火力をさらに増幅させ、氷を溶かしながら新たな炎を放つ。しかし、炎が勢いを増すたびに、またたく間に凍結させられてしまう。
そしてまた溶かし、凍らせを繰り返す。
状況は膠着状態に陥った。
「チッ……ここまでか」
キヌは小さく呟くと、静かに地に膝をつき両腕を地面に突き立てる。すると、炎の壁が再び立ち上がり、今度は岸壁と水平に広がっていった。
「あいつ、こんな広範囲に……! この規模では少し時間がかかるな……」
岩壁の上の男がこの炎の壁を凍結させるべく魔導式を広域展開し始める。
キヌはその凍結までのタイムラグを見逃さなかった。
炎の壁と岩壁に挟まれる形となったグランディオスの一行は身動きも取れず防戦一方、相手の出方を見るしかなかった。それに加えこちらへの敵意は感じられないがさらに正体不明の男まで現れ事態は混迷を極めていた。
ヴェルはゆっくりと剣を構える。視線を左右に振りどこから襲い来るかも分からない相手の次の一手に備えていた。
ミーヤは恐怖に足がすくみ、ただ立ち尽くすことしかできなかった。そんなミーヤの眼前の炎の壁が突然揺らぎだす。ミーヤが何かを感じとり息を吞んだそのときだった。
眼の前の炎壁の中からキヌが飛び出してきた。思わず反射的に身を守るように腕を構え、顔をそむけながらも視線だけは外せなかった。
キヌはミーヤを襲う訳でもなくそのまま横を素通りし捕らえられていた襲撃犯のひとりを抱え上げると、一気にその場から戦線を離脱しようとする。
ミーヤは動くことができなかった。キヌが横を通り過ぎたときに目があったような気がした。男は仮面をつけていたが何か強大なものに睨まれているような、見下されているような気がした。またしてもミーヤは忌々しい仮面の圧倒的な力を前に成す術もなく己の無力さを突き付けられる形になってしまった。
「待て……!」
ヴェルが追いかけようとするが、キヌは壁と壁の間の狭い空間に雑に炎を撒き散らし進路を遮った。
岸壁の上の男が魔導式を展開させるまでのわずかな時間だった。
キヌを逃がし、捕虜も奪われてしまった。
ヴェルは自然と奥歯に力が入る。
酸素も薄くなってきている。これ以上の深追いは危険と判断しヴェルは仲間のもとへ駆け寄った。
「ミーヤちゃん、大丈夫――――」
ミーヤはヴェルの方に視線を向けるとそこには恐怖で表情が歪めるミーヤがいた。
そんなミーヤを見るだけであの男への怒り、憎しみが込み上げてくる。
「あいつ……」
剣を握る拳に自然と力が入る。
何歩か歩き出したところで空気が凍りつく音が響く。すぐ横の炎の壁が氷壁へと変貌した。煩わしい暑さもすぐになくなった。
岸壁の上から男が滑り降りて来てヴェルの前に立ちはだかる。
敵意はないように感じるが何者か分からないこの男もまた警戒対象であることには違いない。
ヴェルの前に立つ男は自ら口を開く。
「あなた方がグランディオスからの客人ですね」
「だったらなんなんですか」
「私はセリオス。フェルマラミナの王宮に仕える宮廷魔道士です」
そう言うと彼はローブの肩部に入っているフェルマラミナの国章を示した。
それを見てヴェルはようやく剣を鞘に収めた。
一触即発の空気の中――――
「い、一体どういう状況ですの……?」
フルレが氷壁と岩壁の間を気を失った襲撃者を引きずりながらやって来た。
物々しい空気の中、国陸間同盟の幕が開けていくのだった。
ep3から「小説家になろう」でも不定期に更新していきます。
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