ep3「異国漫遊事件簿」chap4:いざ、王都へ!
第1新家部隊にとって初の遠征となる外交護衛任務がついに始まった。
グランシティの領主パングスの護衛を命じられた一行はグランシティから巨大な客船で海を渡り未知なる地、第3国陸「フェルマラミナ」へと足を踏み入れる。
到着した港街トリトでは海の生物や異国の香りが漂い、色鮮やかな市場に圧倒される。
そして新たな土地での冒険が彼女たちを待ち受けていた。
第3国陸フェルマラミナの港街トリトに到着した一行。
「それじゃあさっそくフェルマラミナ王都に向かうぞ。みんな、荷物を持ってちゃんと着いてこいよ」
「えぇ……!?」
ミーヤが声を上げるとみんなの視線が集まった。
「か、観光、じゃなかった……現地の調査などはしないのでしょうか! ジュージ先生!」
ジュージが真顔でミーヤを見つめる。思わず息を呑んだ。
「いい問いだ。0点。その必要は今はないだろうな。だがお前らの頑張り次第では――――」
「ほんとに!? やったー! さぁさぁ、みんな行くよー! 日が暮れちゃうぞー!」
「まだ何も言ってないが……まぁやる気になったならいいか。よし、お前らも行くぞ」
「はーい」とまるで遠足気分の気の抜けた返事がちらほら帰ってくる。
「ミーヤさんは相変わらずね」
「そうよ。あれがミーヤちゃんのいいところなんだけどね」
フルレがこぼしたぼやきに護柱三頭のヴェルが反応した。
「護柱審判ではミーヤちゃんがお世話になったみたいね、ありがとう」
「い、いえ! 大したことはしてないですわ」
「あなたとこうして話すのももう随分久しぶりね。って言っても小さい頃に少し話しただけだから覚えてないかもしれないけど」
「覚えてますわ……」
「さぁ、私たちも行きましょう」
「ええ」
些細なやり取りだった。どちらも名家の跡継ぎという立場であり過去に顔を合わせたことがある。だが魔神侵攻以降はなかなか交流を持つ機会もなくなってしまっこともあり、久方ぶりの再開である。
一行は談笑も挟みながら和やかな雰囲気でトリトの街の中まで足を進めた。
「よし、みんな少し待っててくれ。ここからはフェルマラミナの原生生物、ジャガラの引き車で移動になるからな」
そう言うとジュージは予約をした引き車の手配のため通称ジャガラ屋と呼ばれる旅客運送店に入っていく。
「いらっしゃい、見ない顔だね」
「すみません。予約していたグランディオスの一行です」
「あぁ、あんたがね。じゃあ3台だね」
「はい? 6台の間違いでは?」
話が噛み合わない。
「何言ってんだい。7日ぐらい前に引き車を半分にしてくれって連絡を入れただろう」
「いや、そんな連絡は――――」
なんだか嫌な予感がした。ジャガラ屋が単に他の予約キャンセルと間違えた可能性もあるが、そんなピンポイントで要人警護にぶつかるものだろうか。
「申し訳ないのですが今から追加で3台は用意できませんか?」
「減らしたり増やしたりどういうつもりだい。引き車自体は店の裏にあるけども、ジャガラの乗り手はジャガラ専用の免許が必要なんだ。ジャガラってのは足は速えわ、気障は荒えわでちゃんと乗りこなすには技量が必要なんだ。だからジャガラは予約制なんだよ」
「なるほど……」
ジュージは少し顎に手を当て思考を巡らせた。すぐに店主に向き直り追加のジャガラの手配をどうにか手配できないか交渉する。
「どうにか今日中に用意はできませんか?」
「まぁできなくはないけどねえ。今日中って約束はできないね。一応乗り手は当たってみるけど、手間賃はいただかねえと割りに合わねえな」
店主は目を細めジュージを睨む。
「すみません、金額は上乗せさせていただくのでなんとか……」
どんな手違いがあったかは分からないが迷惑をかけてしまったのはこちらである。それなりの誠意は見せなければならない。
袋から硬貨というにはいささか大きめなコインを取り出し10枚ほど店主の前に並べる。
「じ、100,000プリセも並べて……どうしたんだい……?」
そのコインを見るやいなや目をギョッとさせて恐る恐るジュージの顔を見上げる。
「まだ足りませんか? もちろん、乗車代は別途お支払させていただきます」
「よっしゃ! 今すぐ探させていただきますとも!」
そう言うと店主はすぐに番台をあとにし手すきのジャガラ乗りを探しに出た。
ジュージが店から出てくる。
「随分時間がかかったな」
パングスが少し不服そうにジュージに尋ねる。
「パングスさん、ヴェルさん、少しお話が――――」
パングスとヴェルは顔を見合わせお互いに嫌な予感を感じ取った。
新家の面々にその場で少し待つように声をかけ、3人は少し離れたところで今起きた出来事を共有することにした。
「なるほど……」
「あまりいい状況とは言えないな」
ヴェルとパングスの表情がいささか曇る。
「ええ。完全なキャンセルではなく台数を半分に減らされたのが引っかかります」
「そうですね。引き車を全てキャンセルではなく6台から3台へ半分に減らしたということは他の予約との間違いでもなさそうね。それにこの予約をピンポイントで狙って台数を減らしたなら私たちが予約した時間が相手に筒抜けになっている。そして身分確認もパスできる人……」
「まぁグランディオス、ひいてはグランパレシオンの内情を知る者でなければできない芸当ではあるな」
「ですが誰がなんのために……」
「我々を会談に間に合わせたくないだけなら、まぁ全ての引き車をキャンセルするだろうな。もしくは俺を嫌っている人物の嫌がらせか」
パングスが乾いた笑いを発するがヴェルもジュージもリアクションは無かった。
「まぁこんなところでうじうじしていても時間に間に合わん。俺は今手配できる3台でフェルマラミナに先に向かおうと思うが、どうだ?」
確かに突然のキャンセルは不安要素ではあるが、相手の国陸の王とその廷臣の方々を待たせる理由にはならないことをこの場の誰もが感じている。
「それでは今手配できる3台に乗れる人で先に向かいましょう。ヴェルさん、あなたはパングスさんと先に行ってください。俺は万が一に備えて後発組の新家のみんなと向かいます。新人をここに放っていくわけにもいきませんし、俺よりもヴェルさんが一緒に向かったほうが融通が利くでしょう。なにせ護柱三頭の一頭なのですから」
確かにジュージの言う通りだ。
「分かりました。パングスさんもこの案で問題ありませんか?」
「まぁ問題はもう起きてるわけだが動かんわけにもいかんからな。それで行こう」
方針は決まった。
簡単に先発組と後発組の組分けをしたのち、今の状況が新家にも伝えられ、なるべく不安は煽らないように手違いで引き車が半分しか用意できなかったと説明された。
先発組にはパングス、ヴェル、ミーヤ、フルレ、ヤック、他3名の新家が搭乗することとなった。
先頭にミーヤとフルレとヤックと他1名、2台目にパングスとヴェル、3台目に残り2名と先発組の荷物を載せている。
「それじゃあみんな、先に行ってるねー!」
ミーヤが引き車から身を乗り出し後発組の面々に手を振っている。みんな一様に手を振り返した。
「すぐ追いつくからなー! ケガするなよー!」
バークだけは声を上げ送り出している。
このふたりが第1新家部隊ののうてんき2トップと皆認知し始めている。
ガタン!
「うおっと……」
突然動き出した引き車の上でバランスを崩しながら着席するミーヤ。
「おおお! 動き始めた!」
「遠足じゃないんですよ!」
「えぇ〜フルレはワクワクしないの?」
「いや、まぁ……それは少しは……」
「フルレさんもなんだかんだ楽しんでそうですよね」
「ヤックまで……! もう……!」
和やかな雰囲気で引き車は動き出した。
ガラガラガラと舗装されてない荒れた道を進んでいく。
引き車に備わっているしっかりとしたサスペンションが荒れた道の揺れを吸収してくれるため車体自体にあまり揺れは伝わってこない。
ジャガラは大型の4足2手生物であり、皮膚は固く牙も鋭く野生生物のカーストの中でも上位に立つ。仲間と認めていたり、しっかりとした信頼関係が築ければ種族は関係なく共生する選択ができる知性も持ち合わせている賢い生き物である。そしてその足も速く、一度狙われればフェルマラミナの大抵の生き物は逃げ切れず捕食されてしまう。
目の前を流れる景色がどんどん速くなる。
フェルマラミナの国土の半分は緑は少なく岩場や土砂で構成された荒れた大地が広がっている。
空気はからっとしているが澄んでいてグランディオスとはまた違った風土を感じられる。
ミーヤがひとつ大きく息を吸い込む。
「んん〜〜〜! フォトンがうまい!」
「え? フォトンがおいしい?」
「え、うん」
ミーヤは空気をもぐもぐして見せてきょとんとした顔でフルレを見つめる。
「ミーヤさんはフレアフォトンの味が分かりますの?」
「え、これってみんな分かるものじゃないの?」
「空気が澄んでいたらそれはまぁ多少なり気持ちはいいですが」
「違う違う。え? フォトンの味が分からないの?」
「分からなくもない気はしますが……」
「ミーヤは食いしん坊だからフレアフォトンも美味しく食べれるんだよね!」
「ヤック、あんた今バカにしたでしょ?」
「し、してないよ!」
心地よい風を浴びながら座席の背もたれによりかかりミーヤが空を見上げおもむろに話し出す。
「でもさ、私ちょっと変わってるのかなって思うの」
「まぁ……そうでしょうね……」
「え?」
「い、いえ。どういうことですの?」
「物心ついた頃からさ、空気を吸えばフレアフォトンの味を感じたりしてたんだけど、フレアフォトンをこう……なんか……ぎゅ~っと集めたりするのが得意みたいでさ。大きく息を吸い込んでフレアフォトンを食べてお腹いっぱいな気分になったりして。そんな話をするといっつもバカにされるんだけどね」
そう言いながらミーヤは笑ってみせた。決して辛い過去だとかそういうことじゃないんだと言わんばかりに。
「フレアフォトンを集めるのは今も得意なんですの?」
「うん、まあね。そうそう、だからエダクタス流武闘の基礎もすごい早さで習得できたんだ」
「そうだったのね……」
フルレは護柱審判の実技審判を思い返していた。
――――岐閃があれだけ的確に命中したのにも関係が……
本来、岐閃は相手に攻撃を読ませないために光の刃の出現から刺突まで完全にランダムで構成されている。フルレ自身も光の刃がどこにどう出るか読みきれない技である。
だが実技試験のとき、光の刃はほぼほぼ確実にミーヤを捉えていた。違和感はあったが自分のフレアフォトンによる攻撃も吸い込んでいたのだろうか。
岐閃の命中率に違和感は覚えたがそのとき大事な審判中でもあったためはあまり深く考えていなかった。
「でも大変ですわね。フレアフォトンを集めてしまうということはさまざまな干渉があるのでは?」
「そうでもないよ! そりゃ最初はいろいろ困惑したこともあるけどね、それでもこの特性のことは嫌いじゃないし楽しいこともたくさんあったからね」
「そう、やっぱりミーヤさんは強いんですのね」
「何ぃ? 褒めてるぅ?」
「別に褒めてませんわ……!」
ふと視線が重なりほんの一瞬ふたりの間に沈黙が流れた。けれど次の瞬間、互いに堪えきれず吹き出すように笑い合った。
その笑顔には過去を軽やかに受け止めるミーヤの心とそれを知ったフルレの安心感が滲んでいるかのようだった。
そんななんでもないような話をしばらく続け岩壁沿いにジャガラがドタドタと走り続けている。ぼちぼち折り返しぐらい進んだだろうか。
ミーヤはまた深呼吸をし異国のフレアフォトンを堪能したその時だった。
ミーヤの表情が険しく変化し、バッと引き車の中で立ち上がる。
「どうしましたの、危ないですわよ?」
進行方向の空を見上げ何かを感じているようだった。
「みんな、危ない! 何か来る! 逃げて!」
ミーヤは引き車から身を乗り出し後続の引き車に向かって大きな声を張り上げる。
ひとつ後ろの引き車にいたヴェルとパングスはこちらに気づいた。ヴェルも顔を覗かせ上を見上げると何かがフレアフォトンを噴出しながら落ちてきた。
「パングスさん! こちらへ!」
「うおっ……!?」
こちらへと言いつつパングスの胸ぐらを掴み掛かる。
そのまま左手を鞘に当てるとフレアフォトンの反応音がうっすらと響く。
そして――――
爆音。
落ちてきた何かが引き車にぶつかると同時に爆発を起こし炎が燃え盛る。
「危なかった……」
ヴェルはパングスの胸ぐらを右腕1本で掴んだまま宙高くにふわりと浮いている。
そして引き車から距離を取りゆっくりと地面まで降りる。
「お怪我は?」
「いや、大丈夫だ……」
パングスは何が起こったのか理解が及ばない抜けた表情で唖然としている。
ヴェルはその間も燃え盛る引き車から目を離さずに注視していた。
――――ミーヤちゃんは?
爆発直前に大声で叫んでいたミーヤにすぐ意識がいった。視線をミーヤの乗っていた先頭の引き車の方に向けるが炎上はしていない。3台目の後方の引き車にも視線を送るがこちらも炎上はしていない。
だが、どちらも大破し土煙を上げバラバラになっているのは遠目にも確認できた。
パングスを守らなければいけないがミーヤのもとにも駆けつけたい。護柱三家の一角はこんな状況で心揺れていた。
2台目の引き車を引いていたジャガラが爆炎の中からその身を燃やしながら威嚇の咆哮をあげる。その声に反応し他の2台を牽引していたジャガラも燃え盛る引き車の方に向かおうとしたがさらなる爆発音が響いた。
爆炎の中から「ガァララララ……!」という悲鳴にも聞こえるジャガラの声が微かに聞こえたかと思うと、炎の中身悶えているジャガラの影はやがて地に伏し動かなくなった。
それを目の当たりにした他のジャガラはそれ以上近づくことはなかった。この燃え盛る何かには自分たちでは勝てないと悟り無駄死にを避けようと本能が足を止めさせた。
直後、空気を燃やし発火するようなボッ! という音を連ね響かせながら燃え盛る爆円の中から炎柱がヴェルとパングス目がけてものすごい速さで伸びてくる。
「失礼します……!」
「ぬおぉ!?」
再度パングスの胸ぐらを掴みフレアフォトンの反応音と共にさらに高く飛び上がる。
「ど、どうなっているのだ……!?」
「分かりません」
「……」
それはパングスが求めた答えではなかった。
突然何者かに襲われる状況、何がどうなっているのか分からないことも当然パニックの要因のひとつである。
だがそんなことよりも女性が片腕で軽々と小太りの男性を持ち上げ宙に浮いているこの状況のほうがパングスは理解し難かった。落ちたらただでは済まない高さである。
だが、隣で自身の身体を持ち上げ宙に浮いているヴェルの神妙な面持ちや、突如襲いかかってきた炎柱のことを思うと今はこれ以上は声を発することはできなかった。
一方――――
「フルレ!」
ミーヤたちも同様に襲撃され既に戦闘状態にあった。
得意の粒弾で相手の隙を作り出しフルレの攻撃に繋げる。
赤い装束に仮面を着けた襲撃犯に粒弾が直撃する。腹部を思い切り殴られたような衝撃に思わず息が詰まり姿勢を崩してしまう。
「衝 波――――」
相手の隙を見逃さずフルレが魔導式の発動と同時に一気に距離を詰める。
「閃!!!」
相手の光粒防皮に剣の切っ先が触れると同時に魔導式から空気を叩く音が響く。
見えない何か。空気の壁になすすべもなく襲撃犯は突き飛ばされる。
「ごはっ――――!」
刹那、何かにぶつかる鈍い音が響く。襲撃犯は岩壁に叩きつけられ意識を失っていた。
「ふぅ……」
フルレがのびきっている襲撃犯を見下ろしひと息つく。
「……ヤック!」
ミーヤの声が壊れた引き車の方から聞こえる。フルレも我に返りミーヤの方へ向き直る。
初の遠征任務で初の戦闘。その直後だというのにミーヤはひと息つくこともなければ、動揺することもなく傷を負った仲間のもとへ駆けつけていた。
「ヤック! 大丈夫!?」
地べたに座り込み満身創痍といった様子のヤック。
「ぼ、僕は大丈夫です……」
そのヤックの後ろには横たわるもうひとりの新家の姿があった。
「彼女のほうを気にかけてあげてください……襲撃犯の攻撃が直撃したかもしれません……」
息も絶えだえだがヤックは仲間の心配を優先してくれと懇願する。
ミーヤはあまり話したことがなかったが、それでも倒れ込んでいる彼女も新家の仲間だ。ミーヤの頭には「助ける」という言葉が駆けめぐっていた。
「バカ言わないで! ふたりとも絶対助けるから! まずは――――」
自分たちの状況はひとまず落ち着いた。気になるのは2台目と3台目の引き車の状況だ。
ふと隣の2台目の方に視線を向けると炎の壁が燃え盛り、その炎の前に何者かが立っている。
頭部に何か鋭利な角のようなものが見える。人なのだろうか。そして――――
「また仮面……」
仮面を着けている。あの時とは違い顔全体を覆うようなものではなく目元が隠れる程度のものだ。
炎を操る襲撃犯もこちらを見る。何か口元が動いたが何を言っているのか聞き取れなかった。そして襲撃犯はゆっくりと右腕を前に突き出す。急激にフレアフォトンが集まっていくのが可視化された。次の瞬間。
酸素の燃える音。
突き出した腕からミーヤたちをめがけて炎があふれ出し伸びてくる。
――――っ……!
どうすることもできない。反射的にヤックたちの前に乗り出し両手を広げる。この期に及んで仲間を守ろうと身を呈するミーヤ。
フルレもミーヤの隣まで駆けつけ魔導式を展開する。だが感情がこの状況で乱れてしまっているためかフレアフォトンのコントロールが安定せず魔導式の出力も100%で出せる保証はない。それでもやらなければやられるのは誰が見ても明白であった。
ミーヤとフルレが覚悟を決める暇もなく、炎の柱を迎え撃とうとしたその時だった。
真っ直ぐ伸びる炎の柱に音もなく、形もなく、何かが食い込んだかのように炎が歪んだ。次の瞬間、炎柱が真っ二つに裂けた。
切断面から弾ける光が不意に「それ」を形作った――――三日月型の透明な刃。形を得た刃はそのまま炎を斬り裂き、岸壁に叩きつけられた。
轟音。暴風が熱気を巻き上げ、視界を覆った。
切り裂かれた炎はキラキラとフレアフォトンと共に散っていく。
風が収まると岸壁には巨大な亀裂だけが残されていた。
「ミーヤちゃん……!」
目の前で起きた現象に呆然と立ち尽くしていると空からヴェルの声がした。
ふと空を見上げるとゆっくりとヴェルが地上に降り立った。
「大丈夫?」
「う、うん……」
「少し、厄介なことになったかもね……」
すでにヴェルの刀剣は抜刀されている。刀剣を握る手に力が籠もる。
ヴェルに軽々と宙に浮かされたパングスはぺたりと地べたに尻もちをつき何が起きたのか理解できないといった表情で視線をキョロキョロを泳がせている。
「ミーヤちゃん、パングスさんをお願い」
「分かった……!」
未だ燃え盛る炎の壁の前に立つ新たな仮面の男と対峙することになった護柱新家の面々。
危険な任務ではなかったはず、目の前の人物が何者なのか分からないが明らかに敵だろう。
「フルレさん、あなたは隙を見て炎の向こう側の安否確認をお願いします」
「え、わたくしが…」
「大丈夫、あなたならできるわ」
ヴェルは視線をフルレに送る。
フルレは唇を噛み締め少し視線を落とした。
「……はい!」
覚悟を決め再びヴェルへと視線を戻し、小さく息を吸い込むと力強く頷いた。
ヴェルはその様子を確認すると鋭い眼光で敵を見据えた。そして刀剣を構え戦闘態勢と取るのだった。
ep3から「小説家になろう」でも不定期に更新してます。
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