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バンドやろ!  作者: ねる
9/10

九話

 ショートホームルームから時間は流れ昼休みになった。今日もいつもとおり音楽室に出勤する天音は今、困難な状況に立たされている。


「あの・・・黒川さん? いつまでそこに立っているつもりなの? もうどいて欲しいだけど」


 音楽室に入ろうとする天音の前に奏が音楽室の扉を全身で立ち塞いでいる。たぶん天音が来る前からそこでずっと立って彼を来るのを待っていたらしい。しかもまだお昼ご飯も食べずにずっと待っていたらしい。さっきから奏のお腹からぐーぐー音が鳴っている。


「黒川さんお昼ご飯もまだだろ。とりあえずご飯を食べてからーー」


「いや! 今ここではっきり『今日練習に行くよ』と言うまでに、ここから一歩も動かないから」


「それは無理だって言ったじゃん。僕コード演奏はできないから」


「それは問題ない」


「は? どういうこと」


 奏のわけもわからない言葉に天音は当惑する。そしてそういう彼を見て奏は自分の右手に持っているある紙何枚を彼の目の前に突きつける。


「これを見て」


「・・・・・・これは」


 奏の命令(?)に紙を見た天音は驚きを禁じ得ない。そんな天音の反応に奏が意気揚々と彼に言う。


「えへん、これが何かわかる? これ純粋白パーセントあたしの手作りだから」


「えっ、うそ」


「マジだってば、これのせいで昨日めちゃ苦労したよ」


 天音は奏の衝撃的な言うことを信じられない。まず奏が突きつけた紙の正体はある曲の楽譜だった。奏が言ったとおりその楽譜はプリンターのインクではなく音符や記号一つ一つが彼女の自筆で書き込まれている。しかもこれクラシック曲ではなくコード楽譜だが、コードだけじゃなく演奏する時右手と左手で弾く全ての音を楽譜に書き込んであった。

 そのせいで、天音はこれを全部自筆でやったのが信じられなかった。だが奏の手にある鉛筆の跡と紙に残っている消しゴムの跡は、彼に彼女の言ったことが嘘ではないだと言っている。


「まさかこれのせいで今日遅刻したわけ?」


「それはまぁ・・・うん」


 奏は恥ずかしくて顔がちょっと赤くなる。これを見た天音は呆れてため息をつく。


「と、とにかく早くはっきり言って、今日練習に行くと」


「嫌だ」


「ちょ、待って」


 奏が楽譜を突きつけている隙に、天音は音楽室の扉を開けて中へ入る。奏が止めようとしたが、もう手遅れだった。しかし天音を逃したにもかかわらず奏は笑っている。


「まったく、やらないって言ったぁ・・・うわあっ! 何だこれぇ!」


 天音は音楽室に入るや否や驚愕する。音楽室の四方八方に奏が突きつけた楽譜が貼られている。


「フッフッ白石くんがお弁当食べている隙に、さっさと貼ったんだ」


 天音をついて入った奏は手で口元を手でそっと隠してにやりと笑う。そして手を伸ばして天音の楽譜を奪ってーー


「これはあたしが預かっておくから、今日はこの楽譜で練習して。あたしはもうお腹ぺこぺこだからまた教室で」


 そのまま逃げる。手を振りながら逃げる奏の姿はあっという間に天音の目路から消えてしまう。この全てがあまりにもあっという間に起こったことで、天音は固まったまましばらくドアの方を眺めた。


「あら〜一体何かしら、この状況は」


 そんな中、廊下を通りかかった音楽の先生がこの状況を見てしまう。先生はちっとも戸惑う気配なしじっと立っている天音の肩を叩く。


「これ全部君がやったわね? じゃあ、掃除もお願いわね」


 と言われたが、天音はまだ何と答えできる調子ではなかった。それで先生は天音を無言を肯定の意味で取り、まっすぐ音楽室を出る。


 そして時間は流れ、いつの間にか放課後の時間となった。いつものように皆それぞれ次のスケジュールのため準備をしたり、あるいは友達と話す。この騒がしい雰囲気の中、天音は精根尽きて魂が出ようとするような格好で席に腰掛けている。


「ああ・・・本当に死ぬかと思った」


 天音は力無く虚空を見上げ、死にそうな声でつぶやく。彼の机の上には数多くの紙が散らばっている。その紙全部が奏が作った楽譜だ。しかも、その一枚一枚全部彼女の自筆で書き込まれている楽譜。


「まさか音楽室の楽譜以外にもこんなにたくさんあるとは」


 机の上の楽譜は彼が音楽室掃除して持ってきた楽譜以外にもいくつの楽譜がある。その楽譜を見て天音はお昼休みの時が思い出す。


******


 お昼休みが終わる数分前、天音は次の授業のために教室に戻ったーー奏が音楽室に貼った楽譜を全部持って。天音は疲れそうな顔で席に座って再び楽譜を見る。


「これを全部自筆で」


 これは再び見ても驚きを禁じ得ない。こんなに多くな音符を全部自筆で書き込むなんて・・・天音は最初何でプリンターを使わなかったのか気になった。その方がもっと速いだし、便利だったはずなのに。だがその疑問は楽譜を見るやすぐ消えた。これは奏がコードからしてメロディー、和音、ベースまで全部直に聴いて書き込んだ楽譜だった。天音は最初奏から自分が作ったものだと言われた時、ただネットで楽譜を書き写したと思ったが、そうではなかったわけだ。


「正気じゃない」


 これがどれかけ時間がかかるのか、天音もやったことがないので正確には分からない。でもたくさんの時間がかかったことは確実だった。だって音楽室に貼られていたものも全て奏の自筆だったーーたとえ全て同じ曲ではあるが。


「何でそこまでして僕を」


 天音はさらに理解できなかったが、とりあえず楽譜を机の下に入れようとした。しかしーー


「あれ? なんか入ってる」


 きっと空っぽだったはずの彼の机が何かによってぎっしり詰めている。これに天音が手を伸ばして机の下にあるのを取り出す。


「これは・・・まさか」


 机の下には奏のて作り楽譜が何セットがあった。その上、楽譜の順に『今日・練習・しよう・ね』と書かれている。天音が驚愕してぶるぶる震える、そして天音は反射的に後ろを振り向く。そこには友達とおしゃべりしている奏がいる。


「やっぱり、違うんだろうな」


 天音は杞憂だと思って再び前に首を回そうとした瞬間、奏と目が会う。奏は彼を見てただニヤリと笑うだけ何の言葉もない。


「あれ? 奏ちゃんなんで急に笑うの」


「別に何でもないよ。気にしないでね」


「それよりさ、ちょっとこれ見てね」


 友人のおかげで奏の怪しい笑みはすぐ消えたが、天音にショックを与えるに十分だった。天音はまさかとして自分のスクールバックを開けてみる。


「はぁ、よかった」


 幸いにバックの中には何も入っていない。これには天音はちょっと安堵する。天音は『流石にこれ以上はないだろう」と思った。しかしながら、それはどんでもない間違いだった。


 ーー授業の時


「ねぇねぇ、白石くん」


「ん?」


 後ろから自分を呼び声に天音は振り向く。後ろ席の子は天音に何かを手渡す。


「なんだこれ」


「黒川からのお土産だって」


「ん? 黒川さんからの? まさか・・・」


 『黒川』という名前に天音は不吉な気がしてもらいたくない。だがいつまで後ろの子に迷惑をかけるるわけにはいかないので、とりあえずもらう。そしてやっぱりそのお土産の正体は奏の楽譜だった。ここにもお昼休みの時と同じく文字が書かれていた。天音はそれをわざわざ読めずにあわただしく机の下に入れる。


 ーーこの風に毎授業ごとに天音は奏からいろんな方法で楽譜を渡された。


******


 そして再び現在


「楽譜作りって思ったより簡単なことかい。何でこの楽譜果てしなくできるんだ」


 机の上に山のように積まれている楽譜を見て天音が言った。


「それもそうだが。それよりこれどうするんだ」


 天音は頭が頭がズキズキする。こんなに多い量の楽譜はいらない、練習するなら一つだけで十分だ。それで余り物はどう処理するべきかが問題だ。これを捨てようとするとなんか奏に申し訳ないし、だからと言って持ち歩くには量が多すぎる。


「本当にこれどう処理するんだ」


「何、何か問題でもあるの」


 頭を抱えている天音に奏が近づく。奏は手を後ろに組んで彼の隣に立つ。天音は自然に奏を見上げる。


「黒川さん・・・言いたいことはたくさんあるけど、まず本当に苦労したんだね」


「分かる? えっへん、ほとんど徹夜したと」


 奏は意気揚々と胸を叩く。天音は奏の目の下のクマがひどいことに今気づく。天音は額に手を当ててため息を吐く。


「はぁ・・・黒川さん、なぜそこまでするんだ」


「ん? 何が」


「何で僕一人のためにそこまでするの」


「そりゃもちろんーー」


「正直ピアノなら僕以外にも弾く人ある多いじゃないかい。その中には僕より上手い人もたくさんいるんだろうし」


 天音は全く理解できないような言い草で堰を切ったように喋り出す。そういう天音の姿は奏を瞠若たらしめる。


「なのに一体何で僕なんだ。どうしてバンドなどやりたくない僕一人のためそこまでするんだ」


 どう考えても天音としてはなぜそこまでするのが理解できない。それで天音は知りたかった、どうして奏はそこまでして自分とバンドをやろうとするのか。しかし奏は天音をただ凝視しながら瞬きするだけ、何も言わない。そのせいで、周りの雰囲気とは反対に彼らのあいだだには沈黙が流れる。

 気まずい沈黙がしばらく流れた後、じっと凝視していた奏が沈黙を破って口を開く。


「あたしね、白石くんのピアノを聴いてする虜になったよ」


「・・・はぁ?」


 奏の口から出た衝撃的な言葉に天音は慌てて何も言葉も出てこない。しかし、奏はそんな彼の姿にもかかわらず、真剣な顔で話を続ける。

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