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バンドやろ!  作者: ねる
7/10

七話

 (かなで)が指さたところには穴が九つくらいある。その一つにはもう(かなで)が挿したケーブル差し込まれている。


黒川(くろかわ)さん、このケーブルは?」


「これ? これはペダル用のケーブルだよ」


 天音(あまね)の問いに(かなで)が下のペダルを指す。ペダルから繋がった線がシンセサイザーに差し込まれているケーブルと繋がっている。差し込まれている穴の真上にサステインペダルと書かれているからこのケーブルはこの穴が正解らしい。ならもう残りの穴は八つくらいだがーー


「うーむ、確実にこのユーエスビーはないだろうし」


 天音(あまね)も経験がなさすぎるのでどの穴に差し込めば作動するのかよく分からない。それでまずユーエスビーみたいに名前だけは誰でも知ってるものから除外して選択肢を狭めていこうとする。


「ヘッドフォーンもないだろうし、このボリュー・・・ムペダル?よくわからないな。まぁ多分これもないだろう」


 こんな風に一つ一つ確認してみたら、最後にはどうしてもさっぱりわからない四つの穴に残る。


「この四つ多分二つずつセットだと思うんだけど」


 天音(あまね)は残りの四つの穴を見て顎に手を当てる。四つの穴は右に二つ、左に二つずつ離れている。各々の穴の上には他の穴のように何か書かれている。右の穴には右から英語でMIDIアウトとインと書かれており、左の穴には右から英語でライト・アウトとレフト・アウトと書かれている。


「一体どこの穴に・・・」


「そういえばさ」


 横で見守っていた(かなで)天音(あまね)に声をかける。その声に顎に手を当てていた天音(あまね)は、手を離して彼女を見つめる。


白石(しらいし)くんはなんで手を貸してくれるの?」


「ん?」


 (かなで)の問いに天音(あまね)はよく理解できず首をかしげる。その姿に(かなで)が説明を加える。


「だっていつもいつもバンドやらないと言いながら、何で手を貸してくれるのか気になってさ」


「・・・」


「あれ? 白石(しらいし)くん? また無視ぃ」


 (かなで)の説明を聞いても天音(あまね)は何の言葉も反応も見せない。ただ口をつぐんだままシンセサイザーの穴の方を凝視している。これに自分のことを無視するのかと思った(かなで)が目細めて笑う。


「ふぅ〜む、もしかしてやっとあたしと一緒にバンドやる気がーー」


「それはないから安心して」


「うっ、ひどい。それじゃなんで手伝ってくれるの」


「ただ・・・・明日も来たくないから、それだけだ」


「うぅ、これはマジで傷つくかも」


 (かなで)が自分の手で胸を掴んで傷ついたようなアクションを取る。そういう(かなで)天音(あまね)はじっと見つめる。何の反応も感情もないその目色に(かなで)が恥ずかしいなのか空咳をする。


「それより設置になんか進展はあるの?」


「それが・・・」


 (かなで)の問いに天音(あまね)は困り顔で答えるのを躊躇う。(かなで)はその顔が何を意味するのかすぐ気づき、真剣な声で天音(あまね)を呼ぶ。


白石(しらいし)くん」


「・・・」


「できなくても大丈夫だよ。すまんないと思わないで、元はと言えばちゃんと調べないあたしのせいだから」


 と言って(かなで)天音(あまね)を励ます。そして(かなで)もシンセサイザーの穴の方へ首を振り向く。


「昨日の動画では確か『モノ』と書かれている穴に・・・!」


 独り言で何と呟いた(かなで)がいきなり立ち上がって自分のバックがある方へ歩く。(かなで)はバックからスマホを取り出して何を探すのか熱心にスクロールする。


「あ! あった、あった」


 しばらく後、(かなで)はスクロールを止めてまたシンセサイザーの方へ駆け寄る。そしてケーブルが入っているカバンから二本のケーブルを取り出して天音(あまね)に差し出す。


「ちょっとこれ持っていてね」


 意味わからない彼女の行動に天音(あまね)は首をかしげたが、とりあえず彼女が差し出したケーブルを手に取る。そしたら、(かなで)はそのケーブルの反対側を取ってシンセサイザーの穴の前にしゃがむ。


「確か動画ではレフトのケーブルへ挿したから」


 (かなで)が指で穴を指しながらレフトが書かれている穴を探す。その姿を見てやっと天音(あまね)は彼女が何をするつもりなのか気づく。


「これがレフトなのにライトは・・・ふぅーむ、あ! この二つを一緒に挿せばーー」


「まっ、待って! 黒川(くろかわ)さん!」


 天音(あまね)がそのままケーブルを挿そうとする(かなで)の手を取って止めた。突然手を取られた(かなで)は彼をじっと見上げる。天音(あまね)を見る(かなで)の目には「何で止めるの」と言うようだ。


「むやみに挿せたら壊れちゃうかも知らないよ」


 天音(あまね)がまことに心配する語調で(かなで)に言った。彼の語調で(かなで)は納得したように首をゆっくりうなずく。これに天音(あまね)は彼女の手を放す。


「だから、ここはまずネットで調べてぇ・・・黒川(くろかわ)さん? 待って、むやみに挿しちゃぁーー」


 天音(あまね)が手を放すなり(かなで)はすぐケーブルを穴に差し込んだ。(かなで)の行動に天音(あまね)はあまりにも驚愕すぎてそのまま固まってしまった。


「へへ、やっちゃった」


 天音(あまね)の反応と反して(かなで)は平然にとしてにっこり笑う。(かなで)は立ち上がって天音(あまね)に預けたケーブルを手に持ってそのままスピーカーの方へ歩む。右のスピーカーから始まって左のスピーカーまでケーブルを差し込む。こうして(かなで)はシンセサイザーとスピーカーが繋げる。


「よし、できた。じゃ、もう電源を入れてみようか」


 (かなで)が部室の床に転がっているマルチタップを一個を持って走ってくる。シンセサイザーの前に立ち止めって少し前に差し込んでおいた電源ケーブルのアダプター部分をマルチタップに差し込む。そして(かなで)は手を伸ばしてシンセサイザーの電源を入れようとした瞬間ーー


黒川(くろかわ)さん、待っーー」


 我に返した天音(あまね)が彼女を止めようと手を伸ばしたが、その時はもう(かなで)が電源ボタンを押した後だった。もうシンセサイザーの真ん中にあるスクリーンがオンになって色んな小さなエルイーディーがちらほら灯りがつき始める。


「ほら、成功したじゃん」


 (かなで)が胸を張って堂々と言った。彼女のそういう態度を証明するように、シンセサイザーには何の問題もなさそうに見える。あれを見てからようやく天音(あまね)はほっとする。


「なんだ、なんだ。やっと終わったんか?」


 後ろでずっと静かに見守っていた良介(りょうすけ)が彼らに問いかけた。彼の問いに(かなで)が誇らしげに胸を叩く。


「もちろん、このあたしにとってこれくらいは朝飯前だもん」


「ほう〜、どれどれ」


 良介(りょうすけ)が鍵盤の方に歩く、そして鍵盤前に立つ良介(りょうすけ)は手を伸ばしてある鍵盤を押してみる。するとーー


「うわあぁっ!」


良介(りょうすけ)、オメェェ! 何やってんだ!」


 スピーカーから大きい音が出て天音(あまね)(かなで)が耳を塞ぐ。彼らはスピーカーが二つもあり、あの大きさを見て音がかなり大きいだろうとは大体予想したが、今のは彼らの予想以上だった。しかし全然予想できなかった良介(りょうすけ)は突然の大きい音に驚きすぎて鍵盤を押しまま固まってしまった。


「これ思った以上に大きいだね」


 (かなで)がシンセサイザーの音をできるだけ小さくし、そして鍵盤を叩いて音の大きさを調節する。


「ところで黒川(くろかわ)さん、一体どうやったの」


「ん? 何が」


「きっとさっきまでどうするのかわからなかったじゃない。なのに一体どうやって・・・」


「あ〜それ? それがね・・・実はその動画『モノ』用だったの、それで動画みたいに『モノ』と書かれている穴を探してみたんだけど、このピアノにはそれがなくてちょっと迷ったの、へへ・・・」


 (かなで)がばつが悪そうにほっぺを掻きながら答える。しかし彼女の回答を聞いても天音(あまね)は疑問が解消できない。


「なら穴はどうやってわかったの? さっき君が言ったと通り『モノ』と書かれている穴はなかったじゃないか」


 天音(あまね)の問いを聞いた(かなで)はニヤリ笑う。


「それは感だよ」


「ん? 何だと」


「感だっと、この完璧な女であるあたしの感」


「・・・」


 (かなで)が顔の横でピースをする。(かなで)のとんちんかんな回答に天音(あまね)が顔をしがめる、そして(かなで)は彼のしかめ面に爆笑する。


「あははぁ〜、冗談だよ、冗談。そんなにムキにならないで」


「はぁ、分かったから早く答えてくれ」


「あ〜分かった、分かった」


 (かなで)がやっと笑いを止めて回答を続ける。


「それがね、動画で『モノ』の文字の真上に『レフト』と書かれていたのが思い出してこのピアノもレフトに挿せばいいじゃないかと思って挿してみたら、ほら」


 (かなで)がシンセサイザーを向かって腕を広げる。


「こう素敵に作動した」


「それは・・・そうだね」


「そして白石(しらいし)くん、君のおかげもあるよ」


 天音(あまね)(かなで)の意味わからない発言に首をかしげる。もちろん天音(あまね)が彼女を手伝おうとしたが、天音(あまね)は自分が実際設置した時は何の役に立てなかったと思った。それなのに(かなで)に『君のおかげもあるよ」と言われて天音(あまね)はさらに理解できない。

 天音(あまね)の戸惑い表情を見た(かなで)がこっそりと笑い彼に説明をしてくれる。


「設置する前、白石(しらいし)くんが言ったんでしょ。スピーカーが二つあればステレオで音を出せるっと」


「ああ確かにそう言ったんだ、でもそれがどうして」


「あたしがさっきも言ったように動画は『モノ』用だったよね、それでそこにはスピーカーが一つしかなかったもん。その上いざケーブルを挿そうとした瞬間にはレフトかライトかどの穴に指すべきか分からなくてさ」


 動画で『モノ』の真上に書かれているレフトを思い出したのは良かったけど、このシンセサイザーには『モノ』なしにレフトとライトだけ書かれている。多分(かなで)はこれだけではどの穴に挿すべきか分からなかったようだ。


「そんな中いきなり白石(しらいし)くんが言ってた『ステレオ』が思い浮かんでてさ。ほら、スピーカーが二つなら穴も二つじゃなきゃいけないじゃん」


「そりゃそうだろう」


「そこであたしは『この二つに全部挿してもいいじゃねぇ』と思ってやってみたら、今こう完璧に出来たよ」


 これを聞いた天音(あまね)は「別に僕のおかげじゃないと思うんだが」と思ったが、わざわざ口に出さなないことにする。そんな中固まっていた良介(りょうすけ)が彼らに声をかける。


「とにかくこれで設置完了だよな?」


「そう、お前は何もしなかったけど」


「いやいや、俺が全部持って来たじゃん。元はと言えば全部俺のおかげだろ」


「は! おめぇ正気か。どう見てもお前が一番サボったけど」


「はぁ? てめぇやるか」


 良介(りょうすけ)(かなで)がまた言い争いを始める。一体どうやってあんなに話すたびに争うのか天音(あまね)は疑問だ。でも天音(あまね)は彼らがああ見えても仲だけは良いのは知ってる。それで天音(あまね)はあえて彼らを止めずに自分のバックを肩にかける。そして静かに部室を出ようとした瞬間ーー


白石(しらいし)くん、まだ帰ちゃダメでしょ」


 いつの間にか(かなで)天音(あまね)の後ろへ立て彼の肩を掴んでいる。(かなで)の言葉に天音(あまね)が首をかしげる。


「あたしが言ったんでしょ、今日はあたしたちの初練習だっと」


「ん?」


 初耳の話に天音(あまね)が思わず聞き返す。すると想定外の彼の反応に(かなで)はしばらくきょとんとした目で彼を見つめ、すぐに何か気づいて驚いたように手で口を塞ぐ。


「あ、話すの忘れてた」

読んでいただきましてありがとうございます!

できれば毎日午後六時に投稿するつもりなんですので、いいねとブックマークお願いします!

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