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バンドやろ!  作者: ねる
6/10

六話 あたしにも聞いてくれ!

「実は僕もこれが初めてで・・・ははは」


 その言葉に(かなで)良介(りょうすけ)の視線が天音(あまね)に注がれた。彼らは驚いた開いた口が塞がらないまま彼を見ている。そのため今、部室には静寂が流れる。


「な,何で」


 しばらく後、部室に流れる静寂を破って人は良介(りょうすけ)だった。良介(りょうすけ)は納得できない顔をしている。


白石(しらいし),君ピアノ弾くんだろ、なのに設置できねーのか?」


「だって僕はクラシックを弾くから、シンセはあまり」


 良介(りょうすけ)天音(あまね)の言うことが全然理解ができない。だが天音(あまね)の言うこと間違ってはいなかった。

 天音(あまね)が言ったように天音(あまね)はクラシック曲を中心的に弾いてきた。それはつまり、シンセサイザーよりグランドピアノやアップライト・ピアノの方をたくさん弾いてきたというわけ。だからほんの基本的な知識はあるかも知れないけど、じかにシンセサイザーで何をした経験はあまりない。


「だからつまり、今ここには設置できる人はいねーといこと?」


「・・・そうだね。なんかごめん」


「いやいや、君のせいじゃないから謝らなくてもいいんだ。それよりこれどうしよう、なんか方法ないかな」


 良介(りょうすけ)が床に置かれているケースをじろりと見る。天音(あまね)も彼と共に顎に手を当てて方法を探す。しばらく後、天音(あまね)が顎から手を離してポケットからスマホを取り出す。


「僕はまずネットで調べてみる」


「あっ、なら俺も」


 良介(りょうすけ)もポケットからスマホを取り出して検索し始める。このため、部室にはまた沈黙が流れ始める。そして、この沈黙の中にーー


()()()()()・・・」


 (かなで)の声が部室に響き渡る。(かなで)の声にスマホに注がれていた天音(あまね)良介(りょうすけ)の視線が彼女の方へ移す。(かなで)はなんだか不満に満ちた顔で彼らを睨んでいる。


「考えてみたら、あたしは? 何であたしには聞かねぇんだ!」


 (かなで)の予想せぬ問いに天音(あまね)良介(りょうすけ)が同時にぎくりとする。


「ねぇそうだろ、あたしにだけ聞いてねぇじゃん。まさか仲間はずれ?」


 (かなで)が鋭い目つきで良介(りょうすけ)天音(あまね)この二人を交互に見る、すると良介(りょうすけ)は上手に(かなで)の目を避けるーーまるでこういう状況に慣れているように。それで(かなで)の視線は天音(あまね)の方に移す。


白石(しらいし)くん〜ひどいと思わねぇ、あたし今いじめられてるんだよね?」


 (かなで)のわがままに天音(あまね)が困っている。それで天音(あまね)が助けを求める目つきで良介(りょうすけ)を見るが、彼は口笛を吹きながら天音(あまね)をそっぽを向く。


「た、高杉(たかすぎ)さん・・・?」


白石(しらいし)くん!」


「は、はいっ!」


 (かなで)はよそを見る天音(あまね)にゆっくり近寄る。そして結局、(かなで)天音(あまね)の距離が昨日のように近くなる。こんな状況に天音(あまね)は昨日のことが思い出して顔をしかめる。しかし(かなで)はそういう彼を見ても気にせず、微笑んで頼む。


「ねぇ〜、あたしにも聞いてくれよ。まじで誠心誠意答えるから」


「わ、わかった。わかったからちょっと離れてください」


「やった!」


 天音(あまね)から望む答えを得た(かなで)は嬉しそうだ。そして彼の頼み通り後ろに三歩ほど離れてニヤニヤ笑って天音(あまね)が問いかけるのを待っている。


「じゃ、あたしは準備できたよ」


「はぁ・・・わかった、では黒川(くろかわ)さん」


「はい〜はい〜」


「君はこれ設置できる?」


 自分の望む問いを聞いたからか、それともなんか裏があるからか分からないけど、(かなで)は問いを聞くやいなや鼻で笑う。


「フッフッフッ、あたしのこと? フッフッフッ、そりゃもちろんーー」


黒川(くろかわ)さん、できなくても大丈夫」


「・・・え?」


 (かなで)の答えを最後まで聞きもせず天音(あまね)は彼女を慰めた。これに(かなで)はわけが分からないという顔をして天音(あまね)をきょとんと見る。だが、天音(あまね)は全然気づかずに慰め続ける。


「どうせここにいるみんなできないから、そんなに落ち込まないで」


「そうそう、(かなで)、君には別に期待してなかったらか」


 横で見守っていた良介(りょうすけ)天音(あまね)の側に来て(かなで)に言った。突然乱入した良介(りょうすけ)の姿に(かなで)の表情がガラリと変わる。


「今何言ってるんやん!」


 もう我慢できなくなった(かなで)が彼らに叫ぶ。突然の叫びに天音(あまね)良介(りょうすけ)はびっくりして静かになる。やっと皆が静かになると(かなで)が一度吐いて話を続ける。


「あたしがいつできないと言ったの」


「じゃあてめぇできーー」


「できるよ」


「そうそうやっぱできる・・・え?」


 (かなで)の信じられない言葉に天音(あまね)良介(りょうすけ)の開いた口が塞がらない。彼らは当然(かなで)はできないと思ってあえて聞かなかった。その時間にネットで方法を探した方がもっと得だと思った。しかしーー


「い、今何だって」


「はぁ、あたしピアノ設置できるだと」


 当然できないだと思った(かなで)が今堂々とできるだと主張している。天音(あまね)良介(りょうすけ)は何も言わずにただ信じられない顔で(かなで)をじっと見る。


「マジだってば、昨日家に帰ってすぐ調べてみたもん」


 (かなで)がいくら言っても彼らの表情は変わらない。結局(かなで)は彼らを説得させるのは諦めてじかに見せなきゃいけないと思った。それで(かなで)はケースの横にしゃがみ込んでそのままチャックを開ける。するとケースの中の赤いシンセサイザーが見えた。シンセサイザーの高音歴代鍵盤部分の上には英語で『ノードピアノ五』と書かれている。


「おい、良介(りょうすけ)これ持ってね」


「てめぇ、マジでやる気か」


 良介(りょうすけ)はまだ(かなで)ができるかどうか疑わしい。そんな良介(りょうすけ)の言葉にに(かなで)はちょっとむかついたが、良介(りょうすけ)も仕方なかった。だって彼が今まで見てきた(かなで)としては設置は絶対無理だし、むしろ壊さなければ幸いだと思った。


「今でも考え直した方が」


良介(りょうすけ)、おめぇ早く」


「念の為言っとくけど壊しちゃーー」


「ーー壊さないから早く持って」


「はぁ、わかった」


 良介(りょうすけ)は結局(かなで)の揺るぎない言い方に、しょうがなく彼女の言う通りに従うことにした。良介(りょうすけ)はケースから赤いシンセサイザーを取り出そうとしたけど一人では重すぎて天音(あまね)と一緒に持つ。


「さあ、まずピアノをスタンドに・・・あれ? そういえばうちスタンドあったっけ」


 (かなで)の問いに良介(りょうすけ)がぎくりとする。そういう彼の反応を見落とすことなく見た(かなで)が、震える指で彼を指さす。


「・・・まさか、違うよねぇー? 良介(りょうすけ)、違うんだと言ってくれよ」


「・・・ごめん、また忘れちゃった。俺が今でもまた本校に行って」


 スピーカーに続いてスタンドまで持ってくるのを忘れた良介(りょうすけ)はまた本校に行こうとする。そのためまず持っているシンセサイザーを床に置こうとする瞬間ーー


「ちょっと待って」


 (かなで)良介(りょうすけ)を止める。これに良介(りょうすけ)(かなで)を見つめる。(かなで)は顎に手を当てよく聞こえないほど小さくつぶやいている。少し後、考えが終わった(かなで)が手を離しながら言う。


「取りに行かなくても大丈夫そう」


 それを聞いた良介(りょうすけ)は首をかしげる。だって彼が聞いた言葉はあまりにも(かなで)らしくなかった。普段なら「早く持ってきて!」と大騒ぎする(かなで)なのに行かなくても大丈夫なんて、良介(りょうすけ)は普段とは違いすぎる(かなで)の姿にぎこちなさを感じる。


「何だ、そんな目は。文句でもあるんかい」


「いや、何でも・・・。それよりどうするつもり? スタンドなしでシンセを立つのは無理だと思うんだが」


「フッフッフッこのあたしを信じてみて、フッフッフッ」


 (かなで)が漫画の悪党みたいに笑い出す。その姿に天音(あまね)良介(りょうすけ)は不吉を感じたが、彼らは彼女逆らえないーー自称といえとも今ここで唯一設置できると言った人だから、まずは(かなで)の言う通りに従うしかない。

 突然、(かなで)は笑いながら机を彼らの隣へ動かし始める。(かなで)の訳のわからない行動に天音(あまね)良介(りょうすけ)がきょとんと彼女を見つめる。しばらく後、四つの机を並べた(かなで)は額の汗を拭く。


「スタンドは明日持って来ることにしてとりあえず今日はここに置こう」


 (かなで)が机を向かって手を広げる。彼女が並んだ机をスタンドの代わりに使おうというわけだった。彼女の意図に良介(りょうすけ)が渋い表情で天音(あまね)を見つめる。


「これ大丈夫かい」


「・・・僕も知らん」


「おいさっきから何をぐずぐずしてるの、早く動け」


 天音(あまね)良介(りょうすけ)はまだスタンドの代わりに机を使ってもいいか確信が持てなかったが、一応(かなで)のわがままに従うことにする。


「こう置けばいい?」


「うんうん、完璧。では今からケーブルを繋ごう」


 (かなで)が床にある鞄を拾う、そしてカバンからケーブルを取り出す。(かなで)はそのケーブルを持ってシンセサイザーの背面に合わせてしゃがんで一人でなんと呟く。


「これは電源ケーブル、これはペダル、これは・・・何だっけ」


 (かなで)が取り出したケーブルをいちいち分類する。ここからは天音(あまね)良介(りょうすけ)にできることはないので、後ろからただ(かなで)を信じて見守っているーーさっきなんか少し不安な言葉を聞いたような気がしたけどそれでも。


「まずは電源ケーブルから差し込もう、そのあとはペダル」


 だが今の不安とは裏腹に意外に(かなで)は上手にケーブルを差し込む。


「さあ、これから本番だね。まずこのケーブルは・・・あれ?」


 設置始めてから一度も止めずに動いていた(かなで)の手がどういうわけかいきなり止めた。何か問題でもできたのか(かなで)は頭を掻く。そういう(かなで)の姿に後ろ天音(あまね)が彼女に歩く。


「何、なんか問題でもできた?」


「うわぁっ、びっくりした。あはははぁ・・・問題、そうだね白石(しらいし)くんちょうど良いどころへきたね」


「何だ、僕もよく知らないけどできるだけ手伝うよ」


「はあぁ、よかった」


 さっきまで不安そうな(かなで)天音(あまね)の言葉にほっとしたように見える。(かなで)は息を深く吐いて話を続ける。


「それがね、このピアノ昨日見た動画のピアノと違って、どんな穴に挿せばいいか紛らわしいよ」


 (かなで)がシンセの右方を指さして天音(あまね)の視線も彼女の指をついて行く。

読んでいただきましてありがとうございます。

できれば毎日午後六時に投稿する予定んですので、ブックマークといいねお願いします。

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