三話
バンド面接があったその次の日、今日も相変わらず放課後がやってきた。皆が放放課後のためそれぞれ準備をする間、天音は席で周りを見回している。
「今日はいないのか」
昨日みたいにならないために天音は周りを警戒知る。幸い奏の姿は見えない。後ろはもちろん、教室どこにも彼女の姿は見えない。念のため天音は教室あたりの廊下や階段まで確認したが、奏の姿はどこにもなかった。
「よし、今の隙に早く帰ろう」
天音は急いで学校バックを背負って、すぐ教室を出る。天音は後ろも振り向かずに駆けってあっという間に入り口の下駄箱が見え始めた。幸いここまでくる間、奏は見えなかった。
ーーもう、下駄箱で靴しか履き替えたら全てがクリアぁ・・・
「お! 白石くんじゃん、やっほ〜」
「うっわぁー!」
「あはは、何だ〜その反応。なんか悪いことでもしたの」
下駄箱まであと少ししか残ってないのに突然下駄箱のそばから奏が現れた。予期せぬ出会いに天音が驚いて後ろに倒れた。
「く・・く、黒川さん?! なぁ、何でここに」
「あ、あたし? それが、えーと・・・あ! ここで白石くんを待ってた」
「何で僕を・・・」
「だって白石くん、今日バンドサボるつもりだったじゃん。だからこのあたしが特別ここで白石くんを連れて行くために待機してたよ」
奏の言うことに天音が本当に嫌がる表情をする。普通女の子が自分を迎えに来たと言われて、嫌がる男の子はいない。それも奏みたいに綺麗な女の子なら言うまでもない。だが天音はそういうこと望んいでなかった。奏はそういう天音の表情を見て不満そうな口ぶりで言う。
「おいおい、このあたしが直接迎えにきたのに、何だそのつらは、もっと喜べ」
奏の無理な要求に天音は作り笑いをする。だが天音の作り笑いは不自然すぎて、奏からすぐ「もういい、やめて」と言われてすぐやめた。
「さあ、では早く部室にーー」
「まっ、待って」
「ん?」
「もう一度言っとくけど、僕絶対バンドーー」
「ーーやらないだと? 知ってる知ってる、昨日耳にタコができるほど聞いたから。それより早く部室に行こうね」
奏は昨日のように天音に手を差しのびた。だがやっぱり天音は昨日のように彼女を手を握ってない。すると奏は自分の差し伸べた手を苦々しい顔で見下ろす。
「やはり、握ってくれねぇんだね。なら今日はあたしもサボちゃうかな」
天音は奏の意外な反応に驚く。奏の返事が予想とはずいぶん違ったせいもあったが、本当の理由はそうではない。今天音を本当に驚かせたのは、他でもない奏の苦々しい表情だった。いつも活発な奏が今はなぜかそわそわする顔をしている。
「一日くらいならけサボってもいいじゃんねぇかな。だよね? 白石くんどうか『うん、そうだね』と言ってくれよ」
「ん? え・・・あ! そ、それが」
今日の奏はなんか・・・いや確実に昨日とは違う。昨日だったらすでに手を握って無理矢理に部室まで引っ張っていったはずなのに、今日はそうじゃなかった。むしろ一緒にサボるのを望む様子だ。昨日とはあまりにも違う奏に天音は戸惑いのあまり、言葉すらうまく出てこない。そんな中、いきなり奏がなんか焦った顔で言う。
「白石くん! やっぱだめ、一緒に逃げろう! このままならあいつがぁ」
「おい! 奏、てめぇ!」
「ひいいいぃっ!」
奏が下駄箱に行くために背を向ける瞬間、いきなり廊下から奏を呼ぶ男の子の声が聞こえた。その声には怒りがずいぶんのせていた。一緒に声を聞いた奏がその声を知っているのか、聞くやいなや一度も見たことない怯える顔をしている。
「し白石くんあたし急用ができて先に行くから・・えーと、それじゃまたぁ」
奏は天音に大急ぎで挨拶してすぐ靴を履き替えろうとする。しかし、奏が下駄箱で靴を取り出した瞬間、身元不明の人に靴を奪われてしまう。
「アッ! あたしの靴! 一体誰がぁ・・・」
「俺だ」
奏は自分の靴を奪った犯人を見るや否や驚いて目が大きくなる。犯人は背が高いし、青黒髪をのイケメンだ。そして天音はイケメンの声とさっきの声が一致するのに気づく。
「奏、てめぇよくも逃げろうとしたな」
「奏・・・って誰? 人違いじゃ・・・」
「はあ? 人違い? そんなわけあるかいっ!」
「ひいいぃっ、ごめんなさい」
奏が助けを求める目つきで天音を見つめる。しかし、天音はそういう彼女の視線をそっぽを向いた。
「し、白石くん?」
「てめぇどこ見てるんだ!」
「ひいいぃっ! ご、ごめんなさい」
男の子が下駄箱を叩いた。どんどん雰囲気が険悪になると、横で見守っていた天音も「これは助けなきゃ」と思って奏に歩く。
「てめぇ覚悟は出来たな」
「は? 待って、あたし何もしてないのに、なんであたしが覚悟できないと」
「はぁ?! てめぇまじでーー」
「その・・・」
男の子が言う途中天音が割り込んできた。突然聞こえる天音の声に男の子の視線が反射的に奏から天音の方に移される。男の子の目つきに天音はちょっとビビったけど、勇気を奮い起こして話を続ける。
「どういうわけか分からないけど、ちょっとやりすぎじゃない?」
「・・・・誰? 君こいつと知り合いか?」
「知り合い・・・まではないかも」
「えぇええぇ?! ちょ、ちょっと待って、白石くん!? あたしたち仲良いじゃん」
「僕たちが? そうだったっけ?」
「ん? 白石? 待って君、下の名前は何だ?」
「天音なのにそれは何で」
「天音・・・白石天音、どこかで聞いたような気が・・・ああぁどこだったっけ」
天音の名前を聞いた男の子はよく覚えてないみたいに顔をしかめる。すると、隣にいる奏がもどかしそうに男の子に言う。
「お前まじバカなの? あたしが昨日言ったじゃん、うちのバンドのピアノだと」
「ピアノ? あ、思い出した」
奏の言葉にやっと天音のことが思い出した彼は、すぐさっきとは全く違う顔で天音を見る。
「君がこいつが言ったピアノか。俺は君と同じ一年生の高杉良介」
「あ、僕はさっき言ったように白石天音」
「そして俺はバンドのベースだから、これからよろしくな」
「ベース・・・?」
『ベース』という単語に天音はふと昨日奏の口から聞いた『あいつ』が浮かぶ。
「まさか黒川さんに面接をしろとさせた人なの?」
「ん? 面接? あ〜そうそう、俺がさせた。そういえば面接はどうだった?」
「それが・・・」
天音が昨日の面接の質問について良介に話した。それを聞いた良介は怒った顔で奏を睨んだ。すると奏は素早く彼の目を逸らしたが、それでも良介は奏から目を離さないまま彼女を叱った。奏は聞きたくないように耳を塞いだ。その光景を見ると面接の質問は彼の頭から出たわけではないだろうと、天音は思った。
「てめぇは頭がおかしいか、面接の質問をそういう風にしたら『あ〜これバンドの面接だ』と思う人いるかい」
「あたしの質問がそんなに不満だったら、おめぇがやれ」
「は? そもそもこのバンドてめぇが始めたんだろ。だから当然面接をてめぇがーー」
「ああ、知らねぇ知らねぇ、そんに文句あるならおめぇがやれ」
「てめぇっ」
「君ら仲良いだな」
良介と奏が言い争いしている途中、側で見ていた天音が彼らに言った。すると良介、奏この二人が同時に目を大きく開けたまま彼に叫ぶ。
「全然違うよ!」
「全然違うだもん!」
思ったことと違う反応に天音は驚く。そして良介が解明するように天音に言う。
「こいつとはただ幼い頃から知っただけだ」
「では幼馴染じゃない?」
「うぅぅ、白石くんマジでそんな気まずい単語やめてくれ。あたしが一番嫌がる単語だから」
「ん? わ、わかった。ごめん」
本当に嫌がる顔で言った奏を見て天音は思わず彼女に謝ってしまった。
「大丈夫、次から気をつけてくれよ」
「・・・うん」
「じゃあ大体自己紹介も終わったみたいだから、一緒にあれ運ぼうか」
「あれ・・・・て?」
天音がわけがわからないという表情をすると、良介が彼の後ろを指さす。それで天音が彼の指が向かうところを見るとそこにはカバンがあった。そのカバンは長方形に赤色、そして天音よりは小さいけど彼の胸までは十分に届くほどの大きさだっだ。
「そのカバンはなんだ」
「シンセサイザーのケースだ」
「シンセサイザーぁ?!」
この四角いカバンの正体を聞いた天音は驚く。そういう天音の反応に良介が「何で?」と問いかけた。
「だってシンセ結構重いだろ。なのにこれを一人でここまで持ってきたわけ?」
シンセサイザーを一人で運ぶのが不可能ではないけど大変なことだった。シンセサイザーの重さも重さだが、その長さのせいで一人で持つには難しい。しかもあれの長さを見ると多分八十八鍵盤に見える。ならその重さと長さは一段と増える。
あれを一人で下駄箱まで、しかも階段で持って来たことに天音が驚愕する。
「本当に一人でこれを持ってきたわけ? 大変じゃない?」
「そうだよ! 白石、君いい奴だな!」
「ん? あ、ありがとう」
突然の褒め言葉に天音は照れくさがる。そんな中、いきなり良介が天音の両肩を掴む。
「白石、君なら俺の無念をわかってくれるだろうな!」
「ん? 一体どういう意味かよくーー」
「とりあえず聞いてみて」
そういう訳で天音は半強制的に彼の聞くことになる。
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