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バンドやろ!  作者: ねる
2/10

二話 面接

「面接?」


「そう、面接」


 その一言に天音(あまね)は言葉を失った。もともバンドをやりたいない人に面接なんて・・・


ーーあれ? むしろチャンスじゃない?


 面接なら不合格もあるのが当たり前だ。だから、バンドやりたくない天音(あまね)はこの面接に合格する必要はない。この際にわざと面接を台無しにして不合格を取る。なら(かなで)ももうこれ以上自分に「バンドやろう」と誘わないだろうと天音(あまね)は思った。


「その面接、早く始めよう」


 稀に天音(あまね)が張り切って言った。だって天音(あまね)は自然に(かなで)から解放される機を逃したくなかった。


ーーよかった。これで明日からは・・・


「始める前にちなみに言っておくけど、この面接には不合格などないから安心してね」


「・・・・ん? 何がない」


「不合格」


「・・・」


 不合格がない面接、こんな夢みたいな面接少なくとも天音(あまね)は聞いたこともない。これについてツッコミたい部分は多かったけど、天音(あまね)はそれは無駄なことだと悟ってすぐやめた。


「どうせ僕の話なんて聞かないから」


白石(しらいし)くん、今何だっと」


「何でもない、気にするな」


「なんか今あたしの悪口を言った気がするけど、まぁいいか」


 天音(あまね)(かなで)の意に介さない姿を見てちょっと意外だと思う。


「それより白石(しらいし)くん何してるの」


「ん? 何が」


「面接始まったよ」


「僕面接なんて受けるつこりはない」


「えっ!? な、なんで? さっきまできっと『早く始めよう』と言ったじゃん」


 天音(あまね)は頭を掴む。確かに天音(あまね)ばそう言ったけど、その時はこの面接に裏があるとは思いもよらなかった。天音(あまね)は自分の愚かな行動に深くため息をつく。


「とにかく僕バンドやりたくないっーー」


「それはもう聞いたことだよ」


「じゃあもうこのまま帰ってもいい?」


 天音(あまね)の言葉に(かなで)はニコニコ笑う。


()()に決まってるでしょ」


 天音(あまね)はよくも笑顔でそういう酷いことを言えるんだと思った。ここままなら彼女のペースに巻き込まれそうな予感に天音(あまね)は素早くこの部室から出ようとする。

 それで天音(あまね)(かなで)から背を向けると(かなで)のところから立ち上がる音が聞こえてくる。その音はすぐ歩みに変わり、だんだん近づいてくる。そのおとは天音(あまね)の真後ろで止まて彼の(かなで)に取られる。突然女の子に腕をつかまれて天音(あまね)はあわててあたふたする。(かなで)はその隙に彼を無理矢理にイスに座らせる。


「よしよし、いい子だね。ではマジでバンドの面接始まります」


 天音(あまね)(かなで)の言葉にぶつぶつ言う。だが(かなで)はそんな彼を全然構気にせず、自分のスクールバックからノートとペンを取り出す。なんか面接官の真似をするつもりみたいだけど、絶対そうには見えない。天音(あまね)の目にはただのガキが大人の真似をすることしか見えない。


 じっくり考えた天音(あまね)は今はこれ以上どんなに抵抗しても(かなで)には勝てないことに悟り、ひとまずここは素直に面接を受けることにした。そして彼の相反して前の子供((かなで))は楽しそうにメガネまでかけて面接を始めようとしている。


「ふぅ〜む、まずはこの質問からします。いつからピアノ弾きましたか」


「多分四歳? いや、三歳だったっけ」


「なら適当に子供の頃からで。次の質問です。うちのバンドに入りたいその理由は?」


「ん? 僕が? 今でも早く帰りたいんだけど」


「はいはい、それはダメですよ。なら仕方なくあたしがこのバンドにいるからで」


「何だそんなバカみたいな理由は、早く消して」


 しかも面接を受ける人の答えすら(かなで)の勝手に変更してノートに記す。そのせいか天音(あまね)は答えれば答えるほどやる気がなくなるーーまぁ最初からなかったけど。


「まぁ別にいいじゃん、誰も見ねぇし。それでは次の質問です。コードは知っていますか」


「コードだけならまぁ知ってはいるがーー」


「よし、ならいいよ」


「おい! 待って、最後まで聞け!」


「知るだけで十分だよ。では続いて次の質問です」


 こんな風に(かなで)は続々質問を続けた。そのノートの全ページが面接の質問でびっしり書いてあるのではないか疑がうくらい質問が終わらなかった。その上質問いちいちが全部バンド部とは関係ない質問だらけだった。例えば「好きな食べ物」とか「血液形」とか「趣味」や「好き嫌い」など全くバンドとは関係なさそうな質問だった。


 この馬鹿みたいな質問が続くと、結局天音(あまね)の堪忍袋の緒が切れた。


「あの黒川(くろかわ)さん?」


「なんで?」


「今までの質問と一体バンドと関係ある?」


「だよねぇ!?」


 (かなで)の反応は天音(あまね)の予想したのとかなり違った。きっと怒ったり無視すると思ったのに、むしろ彼女は彼の問いに激しく同意している。


「あたしたってこれ好きでやるんじゃねーから」


「ではなんで・・・?」


「あいつが『バンドメン選ぶ時はちゃんと面接とかして選べ。適当に選んだら、俺は絶対バンドやらん』と言われて仕方なく今こう面接してるのよ」


 初めてみる(かなで)の苦しそうな姿だったが、それより天音(あまね)(かなで)が言った『あいつ』の方が気になった。


「最初はちょっと面白そうだから盛り上がったのに、これやればやるほどつまらねぇ」


 (かなで)は面接官役が疲れたのかメガネを外して机にうつ伏せになる。


「あいつがベースさえなかったら、白石(しらいし)くんにすぐ合格ーー」


「いや、そんなの要らない。丁重にお断るよ」


「えぇ〜何でぇ〜。うちのバンド、思ったよりいいんだよ」


「それよりこの面接はいつ終わり? 僕もう帰らなきゃ」


 天音(あまね)が帰るためイスから立ち上がる。そのまま部室を出ようと床にバックを拾う。


「待って! まだ終わってねぇーよ!」


 (かなで)が急いで出ようとする天音(あまね)の腕を掴む。天音(あまね)はいきなり腕を掴まれたが、以前とは違って今度は慌てない。


「これ離せ。僕もう帰らなきゃいけないから」


「じゃあ最後、この最後の質問で終わらせてくれるから」


 (かなで)が切に両手を合わせて彼に頼む。そういう(かなで)の姿を見て見ぬふりして行きたかったが、天音(あまね)はそうしなかった。どういうわけかは彼自身もわからなかったが、多分これが最後だと聞いたせいだろうと天音(あまね)は思った。それで天音(あまね)は仕方なくまたイスに座る。


「はぁ、よかった」


 天音(あまね)はイスに座りながらどうせ「最後だとしても前の質問と大差がないだろう」と思った。だから彼は今度は適当に答えて早く家に帰ろうと心に決める。しかし彼は結局最後の実問へ適当に答えることができなかった。


「では最後の質問です。あなたは何の為に楽器を弾くんですか」


 これは天音(あまね)の想定外の質問だ。『何のために楽器を弾くのか』これには天音(あまね)にとって、そして一人の演(かなで)者にとって適当に答えばいけない質問だ。天音(あまね)は今自分はなぜピアノを弾くのかに対して考え込む。これについて(かなで)も真剣な顔で彼の答えを待ってくれる。そのおかげで天音(あまね)は答えを探す時間は十分だった。そしてしばらくあと、天音(あまね)はとうとうこの質問の答えを見つけた。


「僕はピアノで出したい音がある。その音を出したいからピアノ弾くんだ」


「ピアノで出したい音?」


 彼の意味不明な答えに(かなで)が聞き返した。(かなで)は彼の答えがよく理解できなかった。だってピアノが声楽やボーカルみたいに人である限り出せない音があるのでもないし、ただ鍵盤を叩くだけで音が出る楽器だ。なのに出したい音なんて。

 天音(あまね)はそんな(かなで)の様子を気づいて、説明を付け加える。


「だからドレミファソラシドこの音じゃなく、弾く人によって変わる音。音色・・・と言えば分かりやすいかな」


「あぁ! 音色。知ってる、知ってる。じゃあその音色のためにピアノ弾くわけ? その音色のため?」


「ん? あ! そう、そのためーー」


「・・・あたしは十分だと思うのに」


「ん? 今なんだっと」


「いや、何でもねぇよ。それよりさーー」


 いきなり(かなで)の顔が真剣になる。その姿に天音(あまね)は緊張する。


「理由それだけなの」


「そそれはもちろんーー」


「本当に? 本当にただその音色を出すだけでピアノを弾くんだと?」


「・・・・・・あっ、当たり前だろ。その以外には特に・・・ない」


「うーむ、とりあえずわかった」


 (かなで)はなんか文句ある顔だったが、これ以上何も聞かずにノートに書く。天音(あまね)は内心ここでもっと根掘り葉掘り聞くのではないかと心配する。だが幸いに(かなで)は今の答えだけをノートに書き、彼にこれ以上何かを問いかけろうとする気配は全く見えない。その姿を見てやっと天音(あまね)は安心する。

 しばらく後、ノートに書き終わった(かなで)が頭を上げるーーさっきの真剣な顔はいつの間にか消え、今はいつもの(かなで)の顔だ。(かなで)はまたメガネをかける。


「では、これから白石(しらいし)天音(あまね)くんの面接結果を発表します」


 「発表」と言われても天音(あまね)は緊張はおろか期待感も全くない。そんな彼を見て(かなで)は口を尖らせる。


「何だその顔は。面接の結果発表だから、ちょっとくらいは緊張する気配でも見せてくれよ」


「そうしたら不合格ーー」


「それでは結果を発表します」


 (かなで)は『不合格』よいう単語にすぐ発表を続けた。


白石(しらいし)天音(あまね)、合格です。パチパチパチ」


 やっぱり、悲しいことに面接の結果にどんでん返しはなかった。予想通りの結果に天音(あまね)は落ち込んで俯く。合格したのにこんなに嬉しくないのは初めてだった。悲しいてる天音(あまね)に比べて(かなで)はニコニコ笑っている。


白石(しらいし)くん、おめでとう。これでうちのバンドメンになったね。これからよろしくねぇ〜」


「よろしく? 念の為もう一度言うけど、僕合格したからってバンドをやるつもりは全くないから」


「はいぃ〜、わかった、わかった〜」


 (かなで)天音(あまね)に適当に相槌を打ちながらノートとファンを学校バックに入れる。(かなで)はイスから立ち上がってバックを背負う。


「約束通り今日はこれで終わり。明日から真面目な活動するから、放課後にまたここに来てね」


 と言って(かなで)はそのまま部室のドアに歩く。


「ちょっと待って、僕の話聞いてる? 僕バンドやーー」


「ーーろう、一緒に。じゃあ、あたしは忙しいから、またねぇ〜」


 部室のドアすぐ前に立ち止まった(かなで)天音(あまね)に軽く手を振って部室を出る。


「ま、待って! おい! おいぃ!」


 天音(あまね)が慌てて何度も(かなで)を呼んだが、すでに彼女は部室にいなかった。部室に一人取り残された天音(あまね)は頭を抱えて絶望した。

読んでいただきましてありがとうございまず。


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