二話 面接
「面接?」
「そう、面接」
その一言に天音は言葉を失った。もともバンドをやりたいない人に面接なんて・・・
ーーあれ? むしろチャンスじゃない?
面接なら不合格もあるのが当たり前だ。だから、バンドやりたくない天音はこの面接に合格する必要はない。この際にわざと面接を台無しにして不合格を取る。なら奏ももうこれ以上自分に「バンドやろう」と誘わないだろうと天音は思った。
「その面接、早く始めよう」
稀に天音が張り切って言った。だって天音は自然に奏から解放される機を逃したくなかった。
ーーよかった。これで明日からは・・・
「始める前にちなみに言っておくけど、この面接には不合格などないから安心してね」
「・・・・ん? 何がない」
「不合格」
「・・・」
不合格がない面接、こんな夢みたいな面接少なくとも天音は聞いたこともない。これについてツッコミたい部分は多かったけど、天音はそれは無駄なことだと悟ってすぐやめた。
「どうせ僕の話なんて聞かないから」
「白石くん、今何だっと」
「何でもない、気にするな」
「なんか今あたしの悪口を言った気がするけど、まぁいいか」
天音は奏の意に介さない姿を見てちょっと意外だと思う。
「それより白石くん何してるの」
「ん? 何が」
「面接始まったよ」
「僕面接なんて受けるつこりはない」
「えっ!? な、なんで? さっきまできっと『早く始めよう』と言ったじゃん」
天音は頭を掴む。確かに天音ばそう言ったけど、その時はこの面接に裏があるとは思いもよらなかった。天音は自分の愚かな行動に深くため息をつく。
「とにかく僕バンドやりたくないっーー」
「それはもう聞いたことだよ」
「じゃあもうこのまま帰ってもいい?」
天音の言葉に奏はニコニコ笑う。
「ダメに決まってるでしょ」
天音はよくも笑顔でそういう酷いことを言えるんだと思った。ここままなら彼女のペースに巻き込まれそうな予感に天音は素早くこの部室から出ようとする。
それで天音が奏から背を向けると奏のところから立ち上がる音が聞こえてくる。その音はすぐ歩みに変わり、だんだん近づいてくる。そのおとは天音の真後ろで止まて彼の奏に取られる。突然女の子に腕をつかまれて天音はあわててあたふたする。奏はその隙に彼を無理矢理にイスに座らせる。
「よしよし、いい子だね。ではマジでバンドの面接始まります」
天音は奏の言葉にぶつぶつ言う。だが奏はそんな彼を全然構気にせず、自分のスクールバックからノートとペンを取り出す。なんか面接官の真似をするつもりみたいだけど、絶対そうには見えない。天音の目にはただのガキが大人の真似をすることしか見えない。
じっくり考えた天音は今はこれ以上どんなに抵抗しても奏には勝てないことに悟り、ひとまずここは素直に面接を受けることにした。そして彼の相反して前の子供(奏)は楽しそうにメガネまでかけて面接を始めようとしている。
「ふぅ〜む、まずはこの質問からします。いつからピアノ弾きましたか」
「多分四歳? いや、三歳だったっけ」
「なら適当に子供の頃からで。次の質問です。うちのバンドに入りたいその理由は?」
「ん? 僕が? 今でも早く帰りたいんだけど」
「はいはい、それはダメですよ。なら仕方なくあたしがこのバンドにいるからで」
「何だそんなバカみたいな理由は、早く消して」
しかも面接を受ける人の答えすら奏の勝手に変更してノートに記す。そのせいか天音は答えれば答えるほどやる気がなくなるーーまぁ最初からなかったけど。
「まぁ別にいいじゃん、誰も見ねぇし。それでは次の質問です。コードは知っていますか」
「コードだけならまぁ知ってはいるがーー」
「よし、ならいいよ」
「おい! 待って、最後まで聞け!」
「知るだけで十分だよ。では続いて次の質問です」
こんな風に奏は続々質問を続けた。そのノートの全ページが面接の質問でびっしり書いてあるのではないか疑がうくらい質問が終わらなかった。その上質問いちいちが全部バンド部とは関係ない質問だらけだった。例えば「好きな食べ物」とか「血液形」とか「趣味」や「好き嫌い」など全くバンドとは関係なさそうな質問だった。
この馬鹿みたいな質問が続くと、結局天音の堪忍袋の緒が切れた。
「あの黒川さん?」
「なんで?」
「今までの質問と一体バンドと関係ある?」
「だよねぇ!?」
奏の反応は天音の予想したのとかなり違った。きっと怒ったり無視すると思ったのに、むしろ彼女は彼の問いに激しく同意している。
「あたしたってこれ好きでやるんじゃねーから」
「ではなんで・・・?」
「あいつが『バンドメン選ぶ時はちゃんと面接とかして選べ。適当に選んだら、俺は絶対バンドやらん』と言われて仕方なく今こう面接してるのよ」
初めてみる奏の苦しそうな姿だったが、それより天音は奏が言った『あいつ』の方が気になった。
「最初はちょっと面白そうだから盛り上がったのに、これやればやるほどつまらねぇ」
奏は面接官役が疲れたのかメガネを外して机にうつ伏せになる。
「あいつがベースさえなかったら、白石くんにすぐ合格ーー」
「いや、そんなの要らない。丁重にお断るよ」
「えぇ〜何でぇ〜。うちのバンド、思ったよりいいんだよ」
「それよりこの面接はいつ終わり? 僕もう帰らなきゃ」
天音が帰るためイスから立ち上がる。そのまま部室を出ようと床にバックを拾う。
「待って! まだ終わってねぇーよ!」
奏が急いで出ようとする天音の腕を掴む。天音はいきなり腕を掴まれたが、以前とは違って今度は慌てない。
「これ離せ。僕もう帰らなきゃいけないから」
「じゃあ最後、この最後の質問で終わらせてくれるから」
奏が切に両手を合わせて彼に頼む。そういう奏の姿を見て見ぬふりして行きたかったが、天音はそうしなかった。どういうわけかは彼自身もわからなかったが、多分これが最後だと聞いたせいだろうと天音は思った。それで天音は仕方なくまたイスに座る。
「はぁ、よかった」
天音はイスに座りながらどうせ「最後だとしても前の質問と大差がないだろう」と思った。だから彼は今度は適当に答えて早く家に帰ろうと心に決める。しかし彼は結局最後の実問へ適当に答えることができなかった。
「では最後の質問です。あなたは何の為に楽器を弾くんですか」
これは天音の想定外の質問だ。『何のために楽器を弾くのか』これには天音にとって、そして一人の演奏者にとって適当に答えばいけない質問だ。天音は今自分はなぜピアノを弾くのかに対して考え込む。これについて奏も真剣な顔で彼の答えを待ってくれる。そのおかげで天音は答えを探す時間は十分だった。そしてしばらくあと、天音はとうとうこの質問の答えを見つけた。
「僕はピアノで出したい音がある。その音を出したいからピアノ弾くんだ」
「ピアノで出したい音?」
彼の意味不明な答えに奏が聞き返した。奏は彼の答えがよく理解できなかった。だってピアノが声楽やボーカルみたいに人である限り出せない音があるのでもないし、ただ鍵盤を叩くだけで音が出る楽器だ。なのに出したい音なんて。
天音はそんな奏の様子を気づいて、説明を付け加える。
「だからドレミファソラシドこの音じゃなく、弾く人によって変わる音。音色・・・と言えば分かりやすいかな」
「あぁ! 音色。知ってる、知ってる。じゃあその音色のためにピアノ弾くわけ? その音色のため?」
「ん? あ! そう、そのためーー」
「・・・あたしは十分だと思うのに」
「ん? 今なんだっと」
「いや、何でもねぇよ。それよりさーー」
いきなり奏の顔が真剣になる。その姿に天音は緊張する。
「理由それだけなの」
「そそれはもちろんーー」
「本当に? 本当にただその音色を出すだけでピアノを弾くんだと?」
「・・・・・・あっ、当たり前だろ。その以外には特に・・・ない」
「うーむ、とりあえずわかった」
奏はなんか文句ある顔だったが、これ以上何も聞かずにノートに書く。天音は内心ここでもっと根掘り葉掘り聞くのではないかと心配する。だが幸いに奏は今の答えだけをノートに書き、彼にこれ以上何かを問いかけろうとする気配は全く見えない。その姿を見てやっと天音は安心する。
しばらく後、ノートに書き終わった奏が頭を上げるーーさっきの真剣な顔はいつの間にか消え、今はいつもの奏の顔だ。奏はまたメガネをかける。
「では、これから白石天音くんの面接結果を発表します」
「発表」と言われても天音は緊張はおろか期待感も全くない。そんな彼を見て奏は口を尖らせる。
「何だその顔は。面接の結果発表だから、ちょっとくらいは緊張する気配でも見せてくれよ」
「そうしたら不合格ーー」
「それでは結果を発表します」
奏は『不合格』よいう単語にすぐ発表を続けた。
「白石天音、合格です。パチパチパチ」
やっぱり、悲しいことに面接の結果にどんでん返しはなかった。予想通りの結果に天音は落ち込んで俯く。合格したのにこんなに嬉しくないのは初めてだった。悲しいてる天音に比べて奏はニコニコ笑っている。
「白石くん、おめでとう。これでうちのバンドメンになったね。これからよろしくねぇ〜」
「よろしく? 念の為もう一度言うけど、僕合格したからってバンドをやるつもりは全くないから」
「はいぃ〜、わかった、わかった〜」
奏は天音に適当に相槌を打ちながらノートとファンを学校バックに入れる。奏はイスから立ち上がってバックを背負う。
「約束通り今日はこれで終わり。明日から真面目な活動するから、放課後にまたここに来てね」
と言って奏はそのまま部室のドアに歩く。
「ちょっと待って、僕の話聞いてる? 僕バンドやーー」
「ーーろう、一緒に。じゃあ、あたしは忙しいから、またねぇ〜」
部室のドアすぐ前に立ち止まった奏が天音に軽く手を振って部室を出る。
「ま、待って! おい! おいぃ!」
天音が慌てて何度も奏を呼んだが、すでに彼女は部室にいなかった。部室に一人取り残された天音は頭を抱えて絶望した。
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