一話 バンドやろう
「今回は上手くできるかな」
お昼休み、音楽室のピアノ椅子に座っている白石天音が小さく独り言をした。前の譜面台には『ショパン・エチュード作品十の四』の楽譜が広がっている。彼はピアノの鍵盤に手を乗せて、目線を楽譜に移す。そして、深く息を吐いた後、彼の指が動き始めた。
『ショパン・エチュード作品十の四』難易度が高いので有名な曲で、テンポが速いから指の動きや力の調節が難しいし、しかも弾かないといけない音符も多すぎて、完璧に演奏するには多くの時間と練習が必要だ。なのに、天音はミス一つもなし、完璧なテンポで楽譜上の音符一つも逃さずに弾いた。
鍵盤を叩く指の動きとか
『ここの上がる部分は親指から・・・』
音の大きさの調節
『このあとはクレッシェンド、なら最初は弱く・・・・・・そしてもうすぐフォルティッシモだから今よりもっと強く』
その全てが完全に楽譜とおりだ。このまま音大に行ってもおかしいくない室力だ。
そうやって、楽譜の最後の小節までミス一つもなく演奏を終わせた天音は鍵盤から手を離す。ほぼプロ顔負けの技巧だ。なのに、彼は自身の演奏に何か不満でもあるようにため息をついた。
「弾くのはできるけど、でもそれじゃーー」
「すげぇ〜! ピアノうますぎー」
天音が小さくつぶやいていた瞬間、いきなり後ろから拍手の音とともに女の子の声が聞こえた。これに彼はびっくりして、反射的に後ろを振り返る。
「マジ神じゃん。天音くん、ピアノ弾けたんだね」
そこにはある美しい女の子が椅子に座っている。女の子は天音の演奏が終わった瞬間からずっと彼に拍手を送っていた。天音が少女を見て言った。
「その・・・誰?」
「エェッ!?」
天音の一言に女の子の拍手が止める。女の子はまさか天音にそう言われるとは想像もできなくてショックを受けた顔をする。
天音はそういう女の子の顔を見て途方に暮れる。だって、オレンジ髪ストレートロングに雪のような白い肌の美しい女の子。天音は今までこんなに煌びやかな女の子を会ったことも、見たこともない全く知らない女だ。
なのに、その女の子は天音の名前を知っていた。さっき女の子の口から「白石くん」と出たのを天音ははっきりと聞いた。
「それより、僕の名前はどうやって」
「えぇえ!? 天音くん、まさかあたしのこと知らねぇの?」
天音は答えの代わりにうなずく。すると、女の子はすごく驚いてすくっと椅子から立ち上がる。
「マジで? あたしだよ、あたし、黒川奏」
「黒川・・・奏?」
「そうだよ、あたしたち同じクラスなのにマジで知らなかった?」
同じクラスと聞いても天音は全く知らない様子だ。もとも他人に対して何の興味がない天音だ。それで、高校に入学してから二週間が経った今でも、友はおろかまだ学校で話し相手さえいない彼だ。そんな彼にクラスの皆のことを覚えるのは無理だ。
奏は本当に自分のことを知らない天音の姿にため息をつく。そして、彼女は口を尖らせる。
「マジか、結構ショックだね・・・・あたしたち席も近いのに」
「・・・ごめん」
「別に、別に謝る必要は・・・・・・いや、待って」
天音の謝りに奏の表情がからりと変わる。奏はニヤリと笑い出す。
「本当にー?」
「ん? 何が」
「本当にすまないの?」
「あ、うん。本当にごめん
「ふぅ〜む、そうか」
そんな彼女の微笑に天音はなぜか不吉を感じる。
「ではさ〜」
奏がにやりと笑いながら天音がいるところへ歩く。奏の歩みによって二人の距離がだんだん近くなる。奏が一歩ずつだんだん近づく都度に、天音の中の不吉も一緒にだんだん大きくなる。彼は背筋も寒くなるような気もする。
しかし、奏はそういう彼の状態を知ってか知らずかただ歩き続けて結局奏は彼の手前まできた。
「いきなりなぁ、なんだ」
天音の手前でルビーみたいにキラキラ輝く奏の瞳が彼をじっと凝視する。彼女の近すぎる距離感に天音の心臓の鼓動が速くなる。
「白石くん」
「な、なんで」
距離が十分い近づいたと思った奏が天音に手を差し伸べる。
「あたしと一緒にバンドやろ!」
「・・・・・・ん?」
「あ! もし断るつもりならやめる方がいいわ。だってあたしは君を放すつもりなんてないから」
「・・・」
「そして・・・うーむ、まぁ詳しいのは後にしても構わないかな。それより今日放課後ヒマ?」
「・・・」
奏は天音の答えを待っている。だが天音はまだこれがどういう状況か全然理解していない。いきなりバンドなんて、自分が聞き間違えたのではないのか一瞬自分の耳を疑った。しかし、残念だけど彼の耳は正常に作動した。だだ彼自分自身が聞き間違えたと信じたいだけだっだ。
「ね? 天音くん? もしもーし、まだ生きてるんですか」
天音がまるで死体みたいに何の反応もない。奏はそういう彼の目の前に手を振ってみる。でもやっぱり彼は何も反応もなく、ただぼんやりと彼女を見つめている。ここに奏は我慢の限界に達して彼を一発殴るべきかと思った瞬間、幸いに昼休みの終わりを知らせる鐘が鳴った。
「もうこんな時間? うぅ、いやだ」
奏は嫌な表情で長くため息を吐く。そしてまだ我に返らない彼を見る。
「おい〜天音くん。それじゃあたし、君は放課後に時間が溢れてると勝手に思うからーー」
奏は天音からなんの答えも得られなかったので、結局自分勝手に彼に時間があると決めたことにした。
「ま、待って! 僕、放課後にはーー」
「ーー放課後に迎えに行くよ。まぁ同じクラスだだけどね」
奏は音楽室のドアの前で軽く彼に手を振りながらそのまま音楽室を出てしまった。
「・・・・家に帰らなきゃ」
天音が必死的に叫んだが、すでに音楽室には彼の叫びを聞いてもらう人はいなかった。
昼休みが終わったあと時間は流れ、とうとう放課後を知らせる鐘が鳴る。クラスには部に所属している学生たちは部室に行く準備をしていて帰宅部の学生たちはもう帰る準備をしている。その中で天音は机にうつ伏せになって小さくつぶやいている。
「放課後の時間がこんに嫌だなのは今日が初めてだ」
本来帰宅部の彼にとって、今の時間は他の帰宅部の人たちのように家に帰る時間だ。だから普段は彼が一番待つ時間だった。だが今日は違かった。
「このまま逃げちゃおうか。いやいや、多分流石にそれは無理だろう」
逃げろうとするには、奏が近すぎる。音楽室で奏が言ったことが嘘ではなように奏は天音の後ろから二番目の席に座っている。彼女はそこで午後の授業からずっと彼をめっちゃ睨んでいる。彼女の視線が感じられる都度に天音は背筋が寒くなる。今、天音はまるで監視されているような感じを受けている。
「どうしよう、バンドなどやりたくないのに」
天音は頭を抱える。
「そうだ、黒川さんにはっきりと言おう」
「あたしに? 何を」
「どう考えてもバンドやるのは無理だっとぉ・・・・うっわあああぁ!」
きっとさっきまで後ろの席に座っているはずの奏がいつの間にか天音の隣に立っている。
「く・・・黒川さん?! いつここに」
「さっきから。それよりさっきさ、なんか言ってたよね。なんと言った」
奏の問いに天音はちょっと緊張する。実際に本人に言おうとすると口がうまく動かない。だが、天音が奏に話せるチャンスは今しかない。それで、天音は勇気を出して彼女に言う。
「そそれが・・・黒川さんよく聞いてほしいことがある」
「何何」
「僕、バンドやらない」
「う〜む、そう? わかった」
天音の予想とはかなり違う奏の反応に、むしろ天音が慌てる。もし奏によく聞こえなかったのかと思って、彼はも一度はっきりと言う。
「さっきの話ちゃんと聞いた? 僕、バンドやらないって言ったよ」
「うんうん、それはさっき聞いた。だから早く行こうよ。『時は金なり』だから」
奏は天音に手を差し伸べる。彼女の意味わからない行動に天音がただ黙って彼に差し伸べられた手をじろじろ見るだけだった。
すると奏がいきなり彼の手を握て彼の手を取る、そしてそのまま天音を引っ張って教室を出る。
「まっ、待って! 一体どこへぇえああっ」
奏は天音の言葉になんの反応もなしにただ走り続ける。天音は彼女を手を放そうとしたが、普段運動不足の天音が奏に抵抗するのは力不足だった。そうしばらく走って本校からずいぶん離れてついたところにはある部室がある。そして奏はそこにその建物を指差す。
「いよいよ到着! 紹介するね、あたしたちの部室を!」
「部室? ここが? 本気で?」
奏が指差しところを見た天音はショックすぎて声まで震えた。彼が見た部室は汚くて、長い間誰も来ないので周りには雑草が生い茂っている。どう見ても部室としての役やりを果たせなさそうだ。
「どう? マジで最高じゃねぇー? まず、ここの位置から説明すると・・・」
それなのに、奏はこの部室が気に入ったのか天音に自信満々紹介してくれている。だがあまりにも興奮すぎてだんだん早口になる、それで天音は奏の紹介を聞き取りにくいで途中から聞くのをやめる。
「・・・だから、ここが最高の・・・・・・ちょっと白石くん、ちゃんと聞いてるの」
「ん? あ、聞いてる、聞いてる。ここ本当に最高だね」
奏の突然の問いに天音はバレないために適当に相槌を打った。そうしたら幸いに奏は全く気づかれなかった、むしろ天音がよく聞いていると思ってもっと盛り上がる。
「でしょ? ではさ、もう中に入ろう。中は外よりもっとすごいんだわ」
奏が楽しそうに取っ手を握って部室のドアを開ける。ドアも古いのか開けた時、きしむ音がぞっとした。その上に中は闇だけで天音はバンドの部室ではなくお化け屋敷に来たような感じがする。
「ここ入る時ちょっと危ねぇから、あたしが先に入るよ」
奏はくらい闇の中に入る。天音は仕方なく奏について入る。
部室の中は思ったより暗い。暗すぎて前はもちろん、何も見えないくらいだ。確かに外と繋がる窓があるのにも外の草のせいで光が全然入らない。
「確かにこの辺にスイッチがあったのに、あっ! これだ!」
奏はこの暗い部室ですぐにスイッチを探して押す。すると部室に天気がともる。
「じゃじゃーん〜! ようこそ、あたしたちの部室へ!」
中は天音が思ったよりいい。外とは違って、中はなかなか整理整頓が行き届いている。あちこちに散らかっている本を除けば。
「どう? マジヤバくねぇー」
「まぁ確かに中が外よりいいね」
天音の答えに奏が悦に入る。そして急に彼女は隅っこに転がっている学校の机と椅子を引いて部室の真ん中に置く。
「その机はなんで」
奏の意味不明な行動に天音が問いかけたが、彼女はだたニヤリと笑うだけ、それ以外彼になんの反応もしない。天音はその笑みに音楽室の時のように不吉な予感がじた。「今でも黒川さんを止めなきゃ」と天音は思ったが、それを思った時はすでに奏は準備を終えて椅子に座っていた。
「では始めます」
「始めるなんて、一体何を」
天音の問いに奏はまたニヤリと笑う、しかし今度は言葉も一緒だ。
「当然バンドの面接だよ」
「ん? バンドの何?」
「あれ、聞こえなかった? バンドの面接。今度はちゃんと聞いたよね?」
「・・・」
「もしもし? 白石くん、今度は聞いたよね? おいぃー、白石くん」
天音は奏の言うことにあまりにも呆れすぎて二も句がつげなかった。
読んでいただきましてありがとうございまず。
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