宗教勧誘を失敗する宗教者
この物語は、フィクションであり、現実の団体・人物と一切の関係はありません。
何か神聖なローブを羽織ってとある1人の人が来店してきた。
カランコロン 音を立てて、入ってきた。
「相談いいでしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
「じゃあ、神に興味はありますか‼︎」
「いいえ、結構です。宗教勧誘ならお帰りください。」
そう言って、扉を開けて、帰るように促すと、
「ああ‼︎ また失敗したー!!」
その場で床にうずくまり、ダンダンダンと強く床を叩く。
「あのー、すみません。相談がないなら帰ってもらってもよとそいでしょうか。」
「じゃあ、相談させてください。」
フードで見えにくい顔を急にこちらに向けて、語りかけてくる。
「いいですよ、では、こちらに。」
いつもの定位置を勧めて、相談になることになった。私は、神なぞ信じていないのに、めんどくさいことになる予感は、していた。
「では、ご相談とはなんでしょう。」
フードをさらに深く被り、ボソボソと小さな声で、
「...幸せを配りたい。」
と言った。
「幸せ、ですか。」
「私は、宗教を信仰している、今がとっても幸せです。だからこそ、多くの人に幸せを配りたいんです。」
「その宗教は、大事なんですね。」
「はい、だからこそ多くの人に入信して欲しいんです。」
手を強く握って、語る。
「宗教に入って、幸せを感じたのは、どんな時でしたか。」
「どんな時って、言われても常に幸福なので、難しいですね。」
難しい、洗脳なのか普通に信じているのかわからない。洗脳なら警察に相談だけど前回の面倒くさい事になったので頼りたくない。どうか、神を信じ込んでる一般人を願って、
「宗教の名前ってなんですか?」
「リンサイモス教です。知りませんか。」
「すみません。分からないですねー。」
最近の新聞にもネットにも目を通しているが、そんな宗教の名前は、載っていないはずだ嫌な未来を想像しながら、
「最近できた宗教なんでしょうか。」
「ごめんなさい。それは、わからないんですよね。」
「教祖さんとお会いしたりしないんですか。」
「教祖ですか?」
「教祖というか、指導者は、いないのでしょうか。」
「そんな人は、いませんよ。と言うか、そんな人がいるんですか?」
「宗教関係には、詳しくないのでなんとも言えませんが、普通はいるものだと思いますよ。」
「そうなんですね。私達は、リンサイモス様を信じる集まりなのですから。」
「リンサイモス様は、どんな神様なんでしょうか。」
「リンサイモス様は、ただ、そこにいるだけの神様です。私達に何かを教える事もありません。ただ、1つあるとしたら、信者は、助け合って生きなさいと言う言葉を残したと言われています。」
リンサイモス教について意味がわからなくなってきた。まず、教祖などの指導者がいない。だったら、リンサイモス様の教えを広める為に立ち上げたと言う可能性は、ほとんど消える。だが、いくつか気になるところがあった。
「偶像崇拝なんですか、それとも、現人神がいるんですか?」
「ごめんなさい。ぐうぞうすいはい、あらひとがみってなんですか。」
「...信仰の一種みたいな物ですよ。」
「そうなんですね。私は、集会しか、知らないのでとっても勉強になりました。」
言い方に違和感を強く感じる。まるで、言語を知らない、赤子が初めてその言葉を喋るかのような発言だった。
「そうだ、そうだ。本当に宗教に興味ありませんか。」
「ええ、ありません。私は、今の幸せで十分なので。」
「じゃあ、もっと幸せになる為に入信しませんか。」
「結構です。その幸せは、僕には合わないと思うので。」
彼女は、幸せを単純化している様に思えた。幸せは、人によって違う。珍しい物を手に入れて、幸せに感じる人や健康的な生活で幸せを感じる人もいる。だけれど、宗教に入り、信仰する事が全ての幸せだと考えているのだろう。
「あなたにとっての幸せってなんですか?」
「もちろん、宗教ですよ。」
「じゃあ、質問を変えます。宗教以外に幸せを感じた事はありますか?」
相手の表情が、一気に曇る。そして、
「あんなの幸せじゃない。…そうだ、あんな人なんかといる事自体不幸だった。…」
少しだけ、聞き取れたが、何かに対して、恨み言をぶつぶつと呟いている。永遠に続く予感がしたので、
立ち上がり、ワザと大きく手を鳴らす。
「暗い過去は、聞きませんよ。さて、本題に戻りましょう。ついでに飲み物をお持ちしますよ。飲みたい物は、ありますか。」
「じゃあ、甘い飲み物をください。」
「分かりました。」
といい、ココアを準備する。少しだけ、どう言う対策をするのか考えながら。
飲み物を彼女の前に提供し、
「リンサイモス教には、どうやって入信したんですか。」
「...とある人に救われて、流れで入信しました。」
「そこで、多くの人に救われたんですか。」
「はい。私は、あの人たちに救われました。だから、恩返しをしたいんです。」
「それが、入信活動なんですね。」
「いえ、違います。」
私は、少し驚いた。そして、反省する。また、自分の悪い癖がまた出てきた事に反吐を心の中で吐く。昔からすぐに直結して、考える癖がある。人間の思考や行動などもっと複雑で単純なのに。今までの情報から幾つかある内の一つの質問を聞く。
「貴方は、入信した人が幸せになると今も確信しているんですね。」
「それが、普通じゃないんですか。」
大きな遠回りをした、ほとんどの確率で、宗教の人たちから多くの愛情を貰った。しかし、家族からは、ほとんどもらえなかった。だからこそ、今の思想に繋がったんだろう。そして、それが普通だと考える。通りで、話が噛み合わない訳だ。一つ、残酷かもしれない質問をしよう。
「貴方は、所属している宗教の幸せと知らない人の幸せどちらが大事ですか?」
「どちらも大事です。だから、勧誘して、多くの人を幸せにするんです。」
「でも、相手がそれを望んでいないとしたら、どうするんですか。」
「その時は、説得するだけです。」
「成功すれば、いいですが、失敗したら、宗教に悪評の噂が流れますよ。」
「...そうですね。」
彼女が、少しだけ暗い顔をする。しかし、少しだけ、問題が進んだように思えた。
「でも、大丈夫です。説得の成功率は、100%ですから。」
「失敗してるのに100%っておかしくないですか?」
「やめて、ください。」
「心をさらに抉るようですが、僕は、貴方ではないので、貴方が信じる、幸福なんていらないんですよ。」
「ここ、相談屋ですよね!!勧誘を成功させる秘訣を教えてくださいよ。」
途中、話が脱線したことを忘れてるように責め立てる。けれど、私の中には、一つの答えしかなかった。
「私にも、知らないことは答えられません。それに、都合の良い事を話すお店でないので。」
「じゃあ、私はどうすれば良いんですか‼︎ただ、多くの人を幸福にしたいだけなんですよ‼︎」
今もまだ、彼女は、叫ぶ、今までの感情を押し流す様に、
「今までの人も、皆真剣に話を聞いてくれない。このリンサイモス教に入る事が幸せに繋がるというのに、誰も信じてくれない。そう、貴方もです。私を理解した様でしてくれない。
彼女は、まだ叫ぶ。多くの人に信じる神を否定され、それで多くの人を幸せにしたいという名目で、その精神の柱が今大きく揺れた。だから、こうなっているんだろう。だから、僕は語る。
「相手を不幸と決めつけるのではなく、リンサイモス教に入ったら救われそうな人を勧誘すれば良いんじゃないですか。」
「でも、幸せになる人が減りますよ。」
「貴方が思ってるより日常に幸せは、ありふれていますよ。」
「そんなわけない
「なんで、否定できるんですか。」
彼女が、激昂した瞬間した瞬間に冷たい声で言ってしまった。少し、反省しながら
「貴方の人生を知らないので、貴方が感じてる幸福には、私は否定しません。」
私は、今どんな顔を見せているのだろう、複雑に思考してる顔、それとも何かを悟ったような神妙な顔かまぁ、どうでも良い
「だけど、貴方は、他人の幸福を決めるべきでない。もし、決められるのなら神様か、ある程度の付き合いのある関係くらいだ。」
すらすらと言葉が出てくる。
「そもそも、人間は、間違う生き物だし、環境によっても別の人間になる。同じ人間なぞ、存在しない。」
彼女は、少したじろぐ。
「決めつけるのは、傲慢だ。自分の経験から、他人のことなぞ、推測できる訳がない。なぜなら、人生の経験が違うからだ。」
はぁはぁ、少しだけ、冷静になってきた。
「すみません。」
「いえ、大丈夫です。少しだけ、分かった気がします。ありがとうございました。」
そう言って、彼女は出て行った。本当に分かったのか。それとも、先程の言葉の勢いで帰ったのかは、分からない。感情的になったのを反省しつつ、次回に活かすとしよう。
彼女は、どういう人生を歩んだのか、そして、これから歩んでいくのか。それは誰にもわからない。けれど、幸福がある事を私は願う。
さて、次のお客様は、どんな人なんでしょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回は、架空の宗教を作り上げ、そこに所属する人物で、書いてみました。少し、書くのが難しかったですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
また、過去作品の前日譚や後日譚、こんな人の作品を書いて欲しい、と言うリクエストがあったら、書いてくださると、やる気につながります。
次の作品がいつになるか、分かりませんが、待ってくださると幸いです。
次回もよろしくお願いします。