死が怖いけど死にたい青年
この物語は、フィクションであり、現実の団体・人物と一切の関係はありません。
また、一部残酷な表現があります。ご注意ください。
路地裏にあるお店、そこに何かに怯えているような青年がお店に入ってきた。
からんころんと、音を立て扉が開いた。
私が聞こえる小さな声で、
「すみません、相談屋ですか。」
「はい、そうですよ。」
「この時間に、申し訳ございません。今大丈夫でしょうか。」
「ええ、大丈夫ですよ。こちらへどうぞ。」
彼は、ビクビクと怯えた様子で誘導された椅子に座った。
「好きな飲み物とか、ありますか?」
「いえ、そんなの、無いです。」
「では、好きなお菓子は、ありますか?」
「いえ、好きなのを出して、ください。」
私は、無難なチョコレートと麦茶をだした。これならば、どんな人に出しても大丈夫な品物だと思ったからだ。
「死が、怖いんです。」
「そうなんですね。どんな風に怖いんですか?」
「いつ、くるのか。その後、どうなるか分からないから、怖いんです。」
「なるほど。死後の世界には、いろんな話がありますからね。」
「だから、怖いんですよ。私は、どんな事があっても地獄みたいな場所に行く事が決まってますから。」
「これから、善行を積めば、天国に行けるかも知れませんよ。」
「いえ、どんなに善行を積んでも。それは、解決しません。
私は、怖い。死後の世界は、どうなっているかも分からずに行くのがとても怖いんですよ。」
「地獄に行くのが怖いと言うより、未知の世界に行くのが怖いんですか。」
「どっちもです。私は、生まれる価値もない人間ですから。」
そう言った、彼の目は、とても曇っていた。彼が、どんな人生が送ってきたか明確に理解することは、できない。しかし、推測は、できるはずだ。
「何故、そんなに自分を卑下するんですか。私は、貴方も立派な人間だと思いますよ。」
「そんなわけ、無いじゃ無いですか。私は、最低の人間なんですから。」
彼は、目から涙を流し、怒りと悲しみを交えたような声でそう語った。しかし、私は、彼が言ったことを肯定する訳には、いかなかった。
「では、一つ質問をしてもよろしいでしょうか。」
「なんですか。」
「貴方は、どうしてそんなに自分を卑下するのですか。」
「私は、何も出来ないからですよ‼︎だから、早くこの世から去りたいんです。けれど、死ぬのが怖くて、出来ないんですよ。」
彼は、座っていた椅子から立ち上がり、怒りに満ちた声で、そう発言した。私は、穏やかな声で、
「何も出来ない事が、間違ってると思いますよ。」
「そんな訳無いじゃ無いですか。私は、勉強もできませんし、運動もド下手なんですから。」
「学校で、何もできないから、立派じゃ無いというのが、間違ってるんですよ。」
「どういう事ですか?」
「学校が、人生の全てでは、無いですよ。」
「そんな事、何回も言われたよ、けど、
「今が辛いから逃げたいんですよね。」
彼が、度肝を抜かれたような顔をしていた。あくまで、学校の人生の話は、僕から見た、話だ。僕は、彼の人生より長く生きていれる。だからこそ、学校が全てでは、無いと言える。しかし、今の彼は、学校や家が、すべてなのだ。だから、ここで反論をするのは、彼の目線で、納得させないといけない。
「今が、辛いからって、この世から、逃げるのはやめた方がいいと思いましますよ。」
「じゃあ、どうしろって、言うんですか。死にたいのに、死ぬのが怖い。だから、ここにきたんですよ。死に行けるための相談をしに。」
「そうでしたが、その相談は、出来ません。その相談を受けて、自殺幇助で、捕まりたく無いので。でも、具体的な方法は、思いつきますよ。」
「それは、なんですか。」
彼の声は、先程の怒っていた声が、嘘みていに、小さく、震えている声だった。
私は、彼の人生を知らない。けれど、悲惨な人生を送った事が想像できた。学校に行くと、何も出来ないと言う理由で、劣等人といじめられ、学校の先生も自分の親も頼れなかったと考える。だから、逃げたかった。その逃げ先が、死しか、思いつかなかったのだろう。彼よりも長く生きるものの責任として、別の道を提示しなければ。
「簡単ですよ。物事を大きくすればいいのです。」
彼は、不思議な顔をして聞いてくる。
「何の意味があるんですか?」
「物事は、小さければ小さいほど隠すのが容易になります。じゃあ、隠せないほど、大きくすればいいのですよ。」
「じゃあ、どこに頼ればいいんですか?」
「警察や弁護士、SNSなどもいいですねー。」
今、どんな表情をしているかが気になる。何故かって、この歳になっても悪だくみを考えるのは、楽しいからね。
「それは、やり過ぎじゃないんですか。」
「やり過ぎなくらいが丁度いいと思いますよ。」
どんだけ、悪い顔をしていたのだろう。彼の顔が、引き攣っているように見える。
「でも、失敗したらどうするんですか?」
「では、その時は、別の方法を試してみましょう。」
「そんなに楽観的でいいんですかね。」
「ずっと、悲観的だったら、人生つまらなくなってしまいますよ。」
「その結果、学校から追い出されたらどうするんですか。」
「そうですね。けれど、そんな理由で退学にする学校は、やめた方がいいと思いますよ。」
「無理ですよ。親は、僕のことなんて気にもしていません。むしと、優秀な子どもを持つために産んで育てるの繰り返しだと思いますよ。だから、出来ない僕が、死んでも、悲しまないことくらい、簡単に想像できますよ。」
「家では、どのように扱われているんですか。」
「言ったとおりですよ!僕は、優秀ではないから無関心。食事は、出してくれるけど、会話なんて一切してくれないんですよ!!」
「そうでしたか。貴方の嫌な記憶を思い出させてしまってごめんなさい。」
「そうですよ‼︎だから、早く消えたいんです。誰にも迷惑をかけませんし、迷惑をかけられませんから。」
「貴方が、消えたら、家族や学校に迷惑がかかりますよ。」
「別にいいでしょう。今まで、迷惑をかけられたんですから。」
「では、質問を変えましょう。貴方が迷惑をかけたくない人や場所は、ありますか。」
「聞いてどうするんですか?」
「いえ、マイナスな面だけでなく、プラスな面を言うだけでも気持ちが変わりますよ。」
「でも、プラスにつながりますか?」
「やってみればわかると思いますよ。では、貴方が迷惑をかけたくない場所ってどこでしょう?」
彼は、戸惑ってる様子だった。そりゃそうだ。先程まで、ずっとマイナスのことばかり聞いていた。なのに、プラスの事を教えてくださいよ聞いたから、真逆の事でスッとは、出てこないだろう。
「・・ああ!!」
「何か思いつきましたか。」
「はい。ひとつだけ、迷惑をかけたくない場所がありました。」
「そこが、安心できる場所でしょうか。」
「はい。おじいさんは、こんな僕にも優しくしてくれたんです。安心できる。本当に良い場所です。」
「そこに逃げることは、可能でしょうか?」
「いえ、遠い場所にあるので難しいと思います。」
「では、電話で助けを求めるのは、どうでしょう。」
「いえ、電話を使おうにも、番号がわからないですし、みんなから見える場所にあるのでバレてしまいます。」
「そうですか。他にどんな方法があるのか考えましょう。」
そう言って、私は彼のために考える。今の彼は、危ない状態だ。死が怖くない状態になったら、彼は、きっと...。だから、彼がせめて死を考えないような状態に持っていきたかった。それが、僕の考える、相談屋の仕事だから。
「警察に頼るってどんな方法ですか?」
「証拠を集めて、警察に助けを求めるんです。」
「何故、証拠が必要なんですか?」
「もし、お母さんたちが貴方に普通の家庭を提供してますよと言うかもしれません。だから言い逃れない証拠を集めるんですよ。」
「いいですね。親の泣き顔が見てみたいですよ。」
私が思いつくアドバイスをしながら、彼の様子を見る。少しだけ、震えているように感じるが、何かを企んでいる様な印象を受けた。
「ああ、そうだ。最初に聞くのを忘れていました。したくない事って、ありましたか?」
「特にありませんよ。」
「そうでしたか。良かったです。」
「何故、そんな事突然聞いたんですか?」
「いえ、やりたくない事を無理にやらせたくないので。」
「今更遅くないですか。」
「ええ、そうですね。」
彼の顔が少しだけ最初に来た時より、明るくなってるように感じた。少しだけ神妙な顔に戻り、
「失敗しても大丈夫ですかね。」
「失敗こそが、人生だと思いますよ。もし、失敗して、不安になったらまた来てください。料金は、後払いで、どれくらい役に立ったのかで結構です。」
「いいんですか。ありがとうございます。ところで、経営は、成り立つんですか?」
「いえいえ、別の方法で稼いでいますので、ご安心ください。」
そんな話をしていると、私は、彼との面談が、終わりに向かっていると思った。何故なら、店に来た時よりも安心して話してくれているからだ。
私が、ふと視線を下ろした時に、彼が言う。
「ありがとうございました。そして、ごめんなさい。」
「いえいえ、謝る必要は、」
私が顔をあげると、
彼は、倒れていた。先程まで、普通に会話していた、青年が倒れていた。そして、彼が座っていた椅子に血が流れていた。
「大丈夫ですか!!」
私は、彼に近寄ると同時にポケットに入れていた、携帯で119に電話をかけた。
『火事ですか、救急ですか?』
「救急です。大至急駆けつけてください。目の前で人が血を流して、倒れています。」
彼を見ると首から血を大量に流してた。大急ぎで、洗面所から清潔なタオルを持ってきた時、彼の手元に輝くものが見えた気がした。それが、何かを確認する前に首からの出血を止めるために全力を尽くした。
たとえ、彼がそんな事を望んでなくても。
そんな事を考えていると救急隊が勢いよくドアを開けた。そして、止血している私の様子を見て、瞬時に理解したのか。急いで彼を病院へ運んでくれた。どうやら、携帯のGPSで場所がわかったらしい。急いでて、場所を言ってなかったことを反省しつつ。
僕の役目は、これで終わったのだ。そう安心して、少し日常を過ごしてたら。
警察にお世話なることになった。こんなことになった、運命を呪いながら。
「お前が、自殺を唆したんだろう。」
「唆してませんよ。私だって、驚いたんですから。彼が、目の前で首を切ったんですよ。」
「お前が、無罪になるように道筋を用意したんじゃないのか。」
「できませんよ。私は、初めてお店で彼と会ったんですから。」
このような、会話をずっと続けている。そうだよな、目の前で急に首を切ったなんて、あまりに信憑性がないよな。しかも、初対面で。だったら、自殺幇助の可能性を疑うよなー。と考えてると、目の前の警官が、取り調べ室から外に出た。めんどくさい事になるのかと思ってた。
しばらく、時間が経つと、警官が入ってきたと思ったら、とある封筒を渡されて、謝罪された。
「まぁ、私は人が来なければ、暇な人間なので、大丈夫ですよ。」
と警察官に言って、封筒を受け取って帰宅した。
家に着いた時、封筒を再度確認した時、あの時余裕が無かった事に再確認した。なぜなら、『最後にお世話になった人へ』と大きく封筒に書かれていた。私は、その遺書を読む事にした。
『この遺書を読んでいる人へ
この遺書を読んでいるという事は、私は、自殺したのでしょう。まず初めにあなたに迷惑をかけてごめんなさい。自殺幇助だと、思われたり、血の後片付けなどで、貴方に迷惑をかけたと思います。貴方との会話で嘘をついていないと思います。今の私は、嘘を話そうと思っていませんから。未来の私は、分からないので。なので、断言できません。
では、本題に入らせていただきます。と言っても、このような文で、いいのか分かりません。私は、劣っていますから。私の事を皆こう言います。劣等人と先生もクラスの皆も親からも。
最初は、耐える事ができました。しかし、私は、どんなに頑張っても、劣等人と言われるのです。だから、私の心は、折れてしまいました。それ以降、自殺しようとしても、怖くなってしまいました。恐らく、私は、おじいちゃんのことで踏みとどまってしまいました。おじいちゃんは、子供の頃に亡くなってしまいました。ですが、私にとって、大きな人でした。だから、死亡する時、おじいちゃんのことを思い出して、出来ませんでした。
しかし、私は、自殺しています。理由は、恐らく簡単です。貴方に、安心する事が、出来たからです。貴方に、安心して、戻る事を恐れてたから、自殺を選択したと思います。
では、長くなりましたが、本当にありがとうございました。』
やっぱり、他人のことは、よく分かりませんね。死恐怖症を持ちながら、死にたかった。私は、他人の人生を助けたいと思って、この職業を引き継いたんですけどね。それほどの覚悟をもって決断したのなら、ほとんど他人の私がどうこう言っては、いけませんね。
まぁ、次の人の経験に活かしていきましょう。でも、少しだけ悲しいですね。
ああ、どうか、彼の来世に幸福を
そして
彼と同じ運命を辿るものが現れませんように
彼は、最初から結末が決まっていたのか、それとも、店長が結末を変えてしまったのかは、誰にもわからなくなってしまいました。
だから、私も店長も同じことを考えるでしょう。それは、自分がいっぱいになる前に様々な施設に相談することです。周りから、危険だなと察するのは、難しいので。
では、ここまで読んでくださりありがとうございましts。