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正義を名乗る殺人鬼

この物語は、フィクションであり、実在する団体・人物とは、一切関係ありません。

 路地裏にある小さなお店。そこに誰かが店の中に入っていく。

 珍しく、新聞を読みながら、大きく見出しに取り上げられている、特殊な殺人事件について考える。被害者は、大きな影響力をもつ政治家で殺害現場には、汚職の証拠が残されていたらしい。容疑者は、まだ捕まってないらしい。何故、その証拠を警察に届けなかったのかいくつかの疑問点を自分なりに考えている時。玄関の扉が音を立てずに開いた気がした。

「いらっしゃい。」

「…。」

「誰もいないの。来たと思ったんだけどな。」

 何者かが、自分の首に光るものをあてていた。命を奪われる前に敵意をない事を示す為、両手を挙げる。

「何か、私に用事がありますか。」

「あなたは、店の関係者ですか。」

「そうですが、店に何用で。」

「珍しい店があると聞いて相談しに来ました。」

「うちは、珍しくないですよ。店で話した事は、当人以外話さないだけですよ。」

「だからです。」

「どこかで、話されては、困りますので。」

「職業は、話せない感じ、ですね。」

「ええ、もちろん。ここから先は、契約書を書いてから。話しましょう。」

「分かりました。」 

相手の刃物から解放され、契約書をまじまじと見る。

(契約書の内容は、情報を外部に漏らさない事以外には特に普通かな。)

「はい、書きましたよ。」

「では、本題に行きましょう。私は、粛清者です。」

「はあ、実際には、どんな活動を?」

「正義の殺人ですよ。」

「殺人に正義があるんですか。」

「皆、そう言いますよね。」

 目の前にいる、殺人をしたと名乗る女性。不気味なほど、生気が感じられなかった。

「1つ質問をいいですか。」

「ええ、いいですよ。」

「貴方にとっての正義って何ですか。」

「平等です。」

「平等ですか、難しい概念ですね。」

「簡単ですよ、自分の持つ幸福を最大限まで持ち、そこから、溢れ出る少しの幸福だけを他人に渡す事が、不平等という事ですよ。」

目の前にいる女性は、揺るがない目をしていた。自分が持つ理論が正しいと信じて、疑わない目を。

「貴方は、どのように不平等を解決するんですか。」

「奪います。再起不能になるまで。けど、大変なんですよ。最近は、シミがしつこくて。取りたくない手段を取るしかないんですよ。」

「そうなんですね。」

 怖い、自分の本能がここから逃げろと囁いてくる。だが、逃げたら何をしてくるかわからないという理性がここに留まらせている。自分ができる最善の手段は、相手が満足して帰ってくれること。そのためにも、自分の意見も混ぜながら、相手の話を聞かないといけない。

「貴方は、どう思います。」

「不平等についてですか。」

「ええ、世の中にはたくさんの不平等で、溢れています。だから、この小さな島国から不平等をなくす事が、平和への一歩なんですよ。そう思うでしょう。」

「正直に言いましょう。全くもってわかりません。

これは、私と貴方に大きな軸の違いがあるからです。」

「世界平和以外に大事な事がありますか。」

 女性は、鋭い目をこちらに向けた。それが、真実と疑わない目をしていた。僕は、その目が嫌いだった。自分が正しいと信じ込む人は、何を言っても響かないから嫌いだ。そんな気持ちを抑えながら、

「僕は、自分の周りが1番大事なので。」

「貴方みたいな人がいるから、世界は平和にならないんです。」

「そうですか、僕は世界に平和が訪れる事は無いと思っているので。」

 相手の女性は、平静を保ちながら

「どうして、平和が訪れないと考えているの。」

「簡単です。人によって、平和の基準が違うからです。」

「そうかしら、自分のことだけを考える人が消えれば、世界は、平和になると思うわよ。」

「表面上の平和は、保たれそうですよね。」

 自分自身がよく知っている。表面上の平和なぞ、役に立たない。

「表面上の平和ってどう意味かしら。」

「そのままの意味ですよ。表目上は、仲良くしていても裏では、自分の利益を最大限にしようと画策する人なんて大勢いますから。」

「その人達をお掃除したらどうかしら。」

「意味が無いと思いますよ。一度登った権力という高い山、そんな山、下山する人が珍しいですよ。多くの人は、他人に登らせないように、知恵を凝らすでしょうね。」

「だから、お掃除をするのよ。世間に私の行動を世に知らしめれば、きっと平和な世界が訪れるのよ。」

「ちなみに何ですが、情報収集は、しっかりしてるんですか。」

「はい。」

「平和な世界になったら、貴方はどうするんですか。」

「私は、裏で活動を続けますよ。どんなに綺麗にしても、ゴミは出てきますから。」

 私は、彼女の過去について知りたくなった。普通、殺人を手段とする人は、普通ならば通らない。復讐のために殺人をする人は、いるだろう。だから、宿敵を殺人して終わる。だが、彼女は殺人が、通過点、その先を求める。

 聞こうとした瞬間。首から血が流れるイメージが、脳内を流れた。

 私は、その気になればいつでも殺される可能性について再認識した。殺されないのは、彼女のポリシーによる物なんだろう。自分の命は、今、神の手の中ではなく、彼女の手の中にある。今の立場の危険性を考慮して、発言しなくては。

「どうしたんですか。」

「なんでも無いですよ。」

「ああ、そうでした。貴方に危害は、加えませんよ。」

「そうですか。良かったです。」

 そう言われても、安心する材料には、ならない。彼女が、ポリシーを破って殺される可能性もある。最大限、警戒しながら会話を続けよう。

「もし、貴方が、どんな手段でも、平和にするとしたらどうしますか。」

「さあ、わかりません。僕は、その時に考えます。」

「そうですか。」

「ええ、でも、どんな人生を歩んでもこの店を開く気がしますけどね。」

「何でですか。」

「私の人生は、少々特殊な物なので。」

「そうですか。私と似たようで別の人生を歩んだのでしょうね。」

 きっと彼女にとっても、僕にとっても、苦い過去がある。彼女の過去の苦痛と僕の過去の苦痛。それは、お互い根が深いのだろう。もし、運命が違ったら、きっと僕は彼女のように正義の名の下に殺人をしていたのかもしれない。けど、今の僕には、この店がある。来る客は、少ないし、変な人ばかりだけど、楽しいからやる気がある。

「僕は、この店があるので。それ以外の人生は、考えられないですよ。」

「そうですか。私にとっての大事なものが、貴方にとって、それなんですね。」

「はい。私も同意しますよ。」

「いい時間を過ごせました。本日は、ありがとうございました。」

 カランコロンと音を立て、扉が開く。彼女の姿が見えなくなって、生を実感する事ができた。

 僕は、彼女に恐怖を感じた。殺人をした人のオーラとかではなく、彼女という人間に恐怖を感じた。職業上、いろんな人がここに来る。しかし、どの人も人間らしかった。相談人が求めている、答えを渡せない事がある。彼女の平和は、他の人は、知らないが、私は、同調できなかった。大抵の人は、同調されない場合、感情が多少出るはずだ。しかし、彼女は、感情の起伏がなかった。いや、彼女は理解される事を前提にしていなかった。その上で、ここに来たのだろう。

 どうか、彼女の人生に彼女が納得できる結末が訪れるのを祈って、彼は相談人を待ち続ける。

この話を読んでいただきありがとうございました。

彼女は、誰にも話したくないほどの悲痛な過去があり、自分と同じような人を増やさないため、こうなりました。彼女は、きっと平和になるまで続けるんでしょう。

 次に来る客は、どんな客なんでしょうか。

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