嫌われる要素
……恐ろしい夢を見た
ふとしたことで恨みをかい、つきまとわれる夢だ
些細なことで憎しみの連鎖が始まり、糾弾される夢だ
やることなすことすべてを悪く捉えられ、身動きできなくなる夢だ
他人の、底しれぬ憎悪に震えた
他人の、理不尽な追及に震えた
他人の、到底理解できない言い分に震えた
次から次へと、無防備な自分に襲いかかる…他人
こちらが黙っているのをいいことに…徹底的に叩きのめされた
言葉で
視線で
足で
拳で
バットで
鉄パイプで
ナイフで
あらゆる武器で
なぜ、自分ばかりが、こんなにも
なぜ、自分ばかりが、こんなやつらに
俺に構うな
俺を放っといてくれ
俺が何をした
俺は何もしていないのに
ボロボロになって、崩れ落ちて、空を見上げた時、目が覚めた
薄汚い天井を見て、いま、この瞬間こそが現実なのだと…気がついた
周りに…俺を見下ろす者は、いない
俺の周りには…誰も、いない
夢は、夢でしか……ない
家を出て、一人暮らし
親はなく、親戚もいない
兄弟はなく、恋人もいない
友はなく、知人すらもいない
会社に上司と同僚がいるが、プライベートでは付き合いがない
それなりに外食や買い物に出ていて顔見知りはいるが、あくまでも客としての付き合いしかない
SNSの類は一切やっておらず、ネット上に親しい人物はいない
この、現実の世界に…俺を構うような誰かは、いない
この、現実の世界に…俺を追い込むような誰かは、いない
この、現実の世界には、俺を囲む人々は……存在していないのだ
他人とのいざこざを避けて…孤独を選んだ
誰にも嫌われたくないと願って…孤独を選んだ
現実でどれほど孤独を貫いていても、夢の中に見知らぬ他人が乗り込んでくる
嫌われる要素がないのに、嫌われる
嫌われる要素がないのに…、嫌われる
嫌われる要素がないというのに……嫌われる
これほど孤立しているというのに…、不思議でならない
現実と違って…夢は何が出てくるかわからないから、厄介だ
……ストレスになるような夢は、見ないにかぎる
仕事帰りに強めの酒を買うことを決め、俺は布団をめくり上げた