命を天秤にかけるとき 2
丁度話し終わった頃、綾の部屋側から、ベランダの引き戸をカラカラと開く音が聞こえてきた。
まさか飛び降りるつもりか!?
焦った私達はベランダ側に回り込み、綾の部屋がある2階部分を見上げた。
2階じゃ死ねないと思うかもしれないが、このアパートは急な坂道の途中に建てられており、かなり底上げされている。そのため、2階と言っても通常の建物の4階程の高さがある。
十分死ねる。
ベランダから身を乗りだし、綾がこちらに向かって叫ぶ。
「もうやめて!皆帰ってよ!私は今から死ぬんだから!明日の朝死体で見つかるかもね!」
そう叫んで、ベランダの引き戸を閉めてしまった。
かもねってなんだ?と思いつつ、
「もう一度チャイム鳴らす。」
「諒太は携帯鳴らして。」
「万が一反応が無かったら、隣の部屋のベランダ伝いに綾の部屋のベランダへ渡る。そうなったらガラス割らなきゃいけないから、貴也の車からスパナ持ってきてて。」
「佳成は警察に発信できるように携帯準備してて。」
と素早く指示を出し、近所迷惑を気にするのをやめ、チャイムを鳴らし続け、綾に呼び掛けた。
「綾!ドアを開けて!開けないと警察呼ぶよ!」
ドア越しに『もうやめてよー!』と綾が叫ぶ声が聞こえてきた。
私は一旦チャイムを鳴らすのをやめ、諒太にも携帯を切るように伝えた。
そしてドアに向かって、私は叫ぶ。
本当に死ぬつもりなら、私の言葉に少しでも耳を傾けて欲しい。今死ぬことについて考えて欲しい。
「死ぬって言っている人を前にして、止められるなら止めるでしょ。止めて欲しいんでしょ?そうじゃなきゃ何で死ぬなんて宣言すんの!」
無言だった。
「綾、綾の命は誰のもの?今何のために死のうと思っているの?」
返事はない。
「綾、今が綾の全てなの?命を天秤にかける時は今なの?」
綾のすすり泣く声が聞こえてくる。
「お願い唯。ドアから離れて。他の皆も家から離れて。考えるから。頑張って考えるから。」
綾の言葉を聞き、私達は綾の家が見える程度に離れた。そして、これからどうするか話し合った。