疲弊する心
私と綾と貴也は、同じ学部、同じサークル仲間だ。大学へ行けば、顔を合わせない日はない。
綾から貴也の二度目の浮気の話を聞いてから、なんとなく気まずくて、貴也からは少し距離を置いて講義を受け、話すことなく過ごしていた。
貴也は何事もなかったかのように友人達と笑い合っている。無理をしているのか、本当に気にしていないのかわからなかった。
2人が別れてからしばらくしたある日、貴也の方から話しかけてきた。
数日ぶりに話した貴也は、少し疲れたような困ったような顔をしていた。
言葉少なに私に迷惑をかけて申し訳なかったというようなことを口にしたので、清算してから次に行かないとどちらにも不誠実だし、友人も失うことになるという様な、至極当然の苦言を言わせてもらった。
貴也は「そうだよな。じゃまた」と力なく言い、離れて行った。
それから貴也は私と顔を合わせる度に、こんなことになってしまった彼なりの事情やら気持ちやらをぽつぽつと零した。
頑張ることに疲れてしまってとか、浮気相手の後輩と一緒にいると落ち着くとか。でもまだ綾が好きなんだとか…。
正直なところ私にはどうしようもないので、そんな話を聞かされても困るなと思いながら聞いていた。今はフリーなのだ、そんなに好きならその後輩ちゃんと付き合えばいいのにと思っていたが、貴也は後輩ちゃんと付き合うことは無かった。二度も浮気するほどなのに?フリーになっても付き合わないの?じゃあどういうつもりだったのか。綾のことが今も好きだと言われても、私には理解できそうにない考えで、わからないことだらけだった。
話し終えると「じゃまた」と言って去っていった。
こんなことを何度か繰り返しているうちに、誰かに話せてすっきりしたのか、そのうち貴也も日常へと戻っていった。
結果的に当事者2人から話を聞いたことになるが、私からはほとんどアドバイスのようなことはせず、ただ聞いて、時々質問して、心の整理がつくまで付き合った。
綾と貴也の2人が少しずつ日常に戻っていくのとは反対に、私の方は2人から離れたい、関わりたくないと思うほどに、心が疲弊し始めていた。