これが最後
初めての投稿です。
まだ完結まで書き上げておりませんが、結末は決まっています。頑張って最後まで投稿しますので、読んで頂けると嬉しいです。
玄関のチャイムが鳴った。
今は夜の9時半だ。
こんな時間に連絡もなく訪れるような人は、大抵ろくでもないことを運んでくる。
部屋の明かりを小さくして、息を潜め静かに玄関のドアに顔を近づける。覗き穴から見てみると、あの子が立っていた。
私は寝ていたことにして、あの子の訪問に気付かなかったことにした。
しばらくするとまたチャイムが鳴った。
諦めていなかったのかと思いつつ、もう一度覗いてみるとそこには諒太がいた。
あの子の姿は見えない。諒太は入れ違いで来たようだった。
うん。これも気付かなかったことにしよう。
私は静かに玄関から離れ、ドアを見据えたままワンルームの部屋の真ん中でじっとしていた。
数分後、遠ざかっていく微かな足音を確かめるように聞きながら息をついた。
ようやく静かになったことにホッとしていると、今度はLINEの通知音が鳴った。
ため息をつきつつ確認すると、諒太からだった。
――唯さんお願い
――電話かLINEください
――綾ちゃんが、死んでやるって
――男ばかりじゃどうしようもないから
――お願い
刻んで送られてくるメッセージに何度目かのため息をつきながら、諒太に電話をかける。
諒太はワンコールで出た。焦り具合が伝わるようで、先ほどの訪れを無視したことにほんの一瞬だけ罪悪感を覚えた。
『今どこ?』
『綾ちゃんの家の前。』
『そう。今誰がいるの?』
『俺と貴也と佳成。』
『見事に男だけね。』
『だから困ってる。』
『貴也に何とかさせたら?』
『一度別れた時に合い鍵返したって。』
『本音を言うともう面倒なんだけど。』
『わかってる。でも死ぬって…』
『そう言ってるやつは死なないよ。』
『でも・・・手首切るって・・・』
『わかった。5分で行く。』
もう無理だと思った。
私のあの子への思いがぐちゃぐちゃで限界に近い。関わるのは今回まで。私が綾のために動くのは、これが最後だ。次はない。
そう心に決め、急いで必要なものだけ持って外に出た。
私とあの子・・・・綾の家は歩いて10分、走ればすぐの距離だ。
なぜこんな事態になっているのだろう。
出会った頃の私たちはこんなんじゃなかった。もっときらきらしていた。勉強して、遊んで、恋ばなして、笑ってた。
お読み頂きありがとうございました。