あの人いいなあ
高校って恋愛に落ちやすいはずなのに、何故か一人も付き合ったことない人もいる。
でも、大抵は「俺、誰々と付き合ってんねんでー」
って自慢するだけの事だ。
だから長続きしない。
まだ中学校の方が、片想いでもラブレター書いたり、
交換日記し合ってる方が純粋に恋愛してると言える。
或る日、ベニーは、高校になって初めて恋愛におちた。
でもやはり、
「俺、坂山と付き合ってるねんで」
と自慢している。
端の人間は「それがどうした、馬鹿か?」
と鼻で笑ってる。
恋愛って自慢する事か?
でも、みんなそんな風だ。
下校時に、一緒に手を繋いで(つながない時もあるが)
歩いてるのを人に見せびらかせてるだけだ。
その癖照れ臭そうに薄笑いしてる。
じゃあ、付き合ってない人々はどうしてたか?
普通に登下校してる。
それでいいんじゃないの?
とベニーはつぶやいた。
「うわあ、羨ましいなあ」
とは全く思わない。
だって、い分が本当に好きな女と付き合わなければ
本当の愛じゃない。
でも彼は、ラブレターも出さない。
ところが或る日、彼は、ある女の子に恋をした。智華。
廊下ですれ違っただけなのに、ピピンときた。
なのにラブレターを出さなかったのは、大学進学が頭に一杯だったから。
それどころじゃなかったんだ。
でも、内心では「あの人いいな」と思ってたんだ。
彼は、遂に友達にち明けた。史郎だ。
ベニー「なあ、あの人ええなと思うねんけどどう思う?」
史郎は笑った。
「そんなもんわかるかよ!
お前が好きなんなら告白すればいい」
「な、なんて?」
「好きです!って言えばいいじゃん」
ベニーは困った顔をした。
「それが出来ないんだ。」
「なんで、おまえクラスメートなら喋るだろ」
「それも喋らんで。」
史郎は驚いた「そうか?」
ベニー「これまで同じクラスになったことないし」
「俺から告白してほしいのか?」
「いやあ、それは自分でやりたい」
「じゃあ、やっぱりラブレター書けや」
ベニーは肩をすくめて「ラブレターは無視されるで」
「なんで?」
「中学校の時書いたもん」
史郎は半分怒ったように
「おまえしっかりせえや。スポーツクラブ入ってるんやろ??」
ベ「告白すんの緊張するからな」
「死ぬ気でやらんかえ!」
仕方ない。智華ちゃんに告白しよう。
彼は勇気をふりしぼったが、
一人で、告白するのは無理だ。
史郎に付き添ってもらおう。
史郎から、智華ちゃんに気持ちを伝えてもらおう。
そこで、史郎とベニー、智華ちゃんは誰か付き添い、で
遂にベニーは告白した。
単刀直入に「好きです。付き合って下さい!」
と言った。
すると、智華は少し考えて
「無理です。」
史郎「え?どうして?」
智華「私結婚前提じゃないと付き合えません」
意外な反応にベニーも驚いた。」
ベニー「じゃあ結婚しましょう!」
智華は素直に「する!」と答えた。
こうして二人は付き合う事になった。
史郎も安堵の表情を見せた。
でもやっぱり、下校時に一緒に歩いてるだけじゃん。
ベ「映画でも見にいかん?」
智「黒澤明とか?」
「うん」
「私、黒澤苦手や」
「じゃあ、もっとロマンティックなフレッド・アステアとかは?」
「いいわね」
「よし、じゃあ、うちの部屋にDVDあるからそれで見ようよ」
智華は反対した。
「なんだ、映画館で観るんじゃないの?」
ベ「今時映画館で古い映画やってないよ」
智「変な事せんとってや」
「変なって何?」
「エッチww」
「まさか」
ベ「アステアかっこええな」
智「ジンジャー・ロジャース可愛い」
「どの辺がかわいい?」
「イケズなとこww」
ベ「ここで、踊ってみようか?」
「うん」
部屋はドタバタいった。
下の階からおふくろが上がって来て「静かにしーよー!」
と怒った。
もう映画はいいな。
「大魔神」とか見たかったんだが、
この次にして
二人は川沿いを歩いた。
夕暮れ時だ。
「夕暮れ時は寂しそう♪」ていう歌があるが、
二人はちっとも寂しくない。
智華「中学校の頃は誰と付き合ってたの?」
ベニー「誰も付き合ってないよ。」
「でも好きな子はいたんやろ?」
「そんなん誰から聴いたん?」
智「ビッグファイア」
「あの子なんでそんなん知ってるの?」
智「本人から聴いたらしいで」
ベニーはガクッときて
「なんでそんな事が話題になるのかなあ」
智華の方を向き直って
「俺、秀才の女の子にラブレター出しただけやで」
智「秀才って誰よ?」
べ「県立高校に行った、・・・ま、誰でもいいやんけ」
智「結局フラれたのね。」
べ「秀才にフラれたから、おいらは東京の大学に行こうと思ったんだ。今でもそう思ってる。」
「へえー。今の成績で行けるの?」
べ「行くさー!と思ってる。今でも、その夢は捨ててない。
あとは、スポーツのトーナメントに進むことかな」
智「なるほど」
「君はどうするんだ?」
智「女子大に行くわね」
べ「クラブとかはどうするの?」
智「最後までいるわ。」
二人は智華の家の前まで来た。
智「じゃあ私ここで」
ベにー「え、もうここで?」
智「近所の人がうるさいもん」
「じゃ、また明日」