第5話
港町ルベンにて新たなる仲間「ザフィーア」を迎えたアルディア達。
ザフィーアの家で一泊した後、明朝、北の大陸へ向かう為、定期船へと乗り込むのであった。
――定期船・船上
「ザフィーアさんが昨日見せた魔法。アレって魔剣技ですよね?」
「ああ、そうだ」
エスメラルダの問いかけに、そう答えるザフィーア。
「しかもその刀、奥さん『冬雪』って言っていましたけど、まさか『四宝刀』の一振りの冬雪では……?」
「よく知ってるな」
「……ザフィーアさん、もしかしなくてもかなりの魔剣士なんじゃあ……」
ザフィーアとのやりとりで、かなりの魔法の使い手であると気づくエスメラルダ。
しかしながら、ザフィーアは特にそれを鼻にかける様子はなく、あくまで普段通り、冷静な対応をしていた。
すると、
「ねーねー、魔剣技とか四宝刀とかって何よ?」
と、二人の間に割って入るように、ルービィが尋ねる。そして、ルービィの横には、何も言わず立っているアルディアの姿もあった。
「ルービィ、アルディア……」
エスメラルダは、「あぁ、やっぱりこいつらわからないんだな」と言わんばかりの声で二人の名前を言う。
するとザフィーアが三人を見渡すと、
「ところで君たちは、どういう魔法を使うんだ?」
と尋ねた。
「えっと、僕はこの杖で紋様を描き、効果を発動させる魔法を……」
エスメラルダは手に持っている長尺の木製の杖を見せながら、ザフィーアに説明をする。
「あたし? よくわかんないけど、よくやるのはこーやって手に炎を纏わせることかな?」
ルービィはそう言うと、右手の拳を作り、その拳に炎を纏わせて見せた。
「私? 私そもそもあんまり魔法についてよくわからなくて……」
アルディアは困った感じで、そのように答えた。
「成る程……」
三人の回答を聞き、そう反応をするザフィーア。そして続けて、
「エスメラルダはルーン使い、ルービィは自覚はしていないけど魔拳法使い、アルディアは全く未知、と……」
と言った。そして更に少し間を空けた後、ため息をつきながら、
「……正直、今から引き返してもいいと思うが」
と言った。
「ホントそう思いますけどね……」
ザフィーアの言葉に、エスメラルダは苦笑いをしながら答える。だが、続けて、
「でも少なくともアルディアに関しては四柱帝を倒したいっていう想いは本物なんですよ」
とザフィーアに言ったのであった。
エスメラルダの言葉を聞いたザフィーアは、少し考えた後、
「とりあえず北の大陸につくまでまだしばらく時間はある。少し魔法について説明をしようか」
と、魔法についての説明を買って出たのであった。
「とりあえず先ずは魔法がどうして使えるかからの説明をしよう。魔法というのは星の魂と呼ばれている『アニマ』から放出される『マナ』をエネルギー源として発現する物だ。この『マナ』についてはこの星の至る所に溢れており、空気と同様、我々の目で認識できるものではない。空気と違うのは水中のような場所でも地上と変わらず溢れているという点だな」
「「へー」」
既にこの時点で全く理解できていないアルディアとルービィであるが、とりあえず返事をする二人。ザフィーアも多分理解できていないんだろうなと思いつつも、とりあえず説明を続けた。
「続けるぞ? 魔法というのは先に言った通り、マナをエネルギー源として発現させるわけだが、その際、重要となるのが『先天的な才能』『魔法に耐えうるだけの身体』『魔法を成形する技術』の3要素だ」
「「ふーん」」
「で、その中で『先天的な才能』、こればかりは生まれ持った能力だからどうにもならないが、『魔法に耐えうるだけの身体』『魔法を成形する技術』、この2要素については努力次第である程度のところまでは伸ばすことができる」
「ある程度のところ、なんだ」
「そう、残念ながらな……」
アルディアの言葉にそう答えるザフィーア。そして更に説明を続ける。
「身体については所謂トレーニングになるわけだが、当然ながら限界はある。また、技術についてもある程度までは器用に成形できるようになったりはするが、当然高度な魔法になればなるほど、技術が追いついても才能や身体が追いつかない。残酷だがこればかりは努力なんて言葉でどうにかなる事じゃあないな……」
「「へー」」
「さて、続けるぞ。先の3要素のうち、『先天的な才能』という点についてだが、この『先天的』な要素の一つに、『属性』という要素がある」
「属性?」
「そう、属性だ。簡単にいってしまえば魔法として成形できる物の種類みたいなもので、例えば私のような氷の魔法を使う者の属性は『水』、ルービィみたいに炎を纏わせる魔法を使う者の属性は『火』だな」
「へー。私も属性ってのはあるのかな?」
「アルディアの場合、まだ使っているところを見たことがないからどの属性かはわからないが、当然存在はする。ちなみに属性は水鏡を用いた診断等でも調べることはできる」
「へー。……ちなみに属性ってどれくらいあるの?」
「属性は『火』『水』『雷』『風』『地』『木』『金』『幻』『光』『闇』の10種類だな」
「「多っ!」」
ザフィーアの挙げた属性の種類を聞いたアルディアとルービィは思わず、そう叫んでしまう。
「神話の時代とかにはこれらの属性とは違う属性もあったらしいが……、まぁ結構な種類はあるな」
「昔はもっとあったんだ……」
更に違う属性もあったという話を聞き、思わず声を漏らすアルディア。
「まぁこれらの種類の属性が、産まれた時から持っている属性となり、その属性に合った魔法を使用できるわけだ。だから属性に関しては完全に先天的な要素となるな」
「「へー」」
「続けるぞ。次に『魔法を成形する技術』についてだが、これについては単純に『どのような形で魔法を発現させるかの技術』だな」
「た、単純……?」
「いや、めっちゃわかりにくいんだけど……」
ザフィーアの単純と称する説明に、それぞれリアクションをとるアルディアとルービィ。
「まぁ例えば、私の魔剣技もこの『魔法を成形する技術』の一つだな。魔剣技というのは刀に魔法を纏わせ、剣術のような斬撃と軌道を持たせるというのが基本的な技術だからな」
「「ふーん」」
「その他にも、例えばエスメラルダのルーンも『魔法を成形する技術』によって形作られた魔法の形でもあるし、ルービィの魔拳法も魔法を身体に纏わせて体術のように発現させる技術の一つだな」
「「成る程……」」
なんとなくわかったかのような反応をするアルディアとルービィ。ちなみに当然ながら全く理解はできていない。
「このように『自身の生まれ持った属性を生かし』『任意の形で発現させる』のが魔法だな。だからこそ、生活でも使用されているわけだ。ちなみに身体能力については魔法に耐えれるだけの身体を持つことだから、説明は割愛するぞ」
「へー」
「わかったよーな、わからないよーな……」
ザフィーアの説明を聞き、そんなリアクションをするアルディアとルービィ。当然ながら全く理解はできていない。そして、ザフィーアも、横で聞いていたエスメラルダも当然理解できていないことはわかってはいる。
「他にも技術については、『クリーチャー』生成なんてものもあるが、正直今までの話で整理するのが精一杯だろう? この辺については追々説明をしよう」
「「はーい」」
アルディアとルービィは返事をすると、ショートした頭の状態で、船室へと戻っていった。
そんな二人の様子を見ながら、エスメラルダは、
「大丈夫かな? あの二人」
とザフィーアに話しかける。
ザフィーアは、眉間に指をあてながら
「まぁ……いいだろう……」
と答えた。そして、続けてエスメラルダに
「そうだ。一つ頼みたい事があるのだが」
と話しかける。
「何ですか?」
「もし、船内に商人がいたら教えてくれないか?」
「商人? いいですけど、何か?」
「私もルベンから出る際、すっかり失念していたが、北の大陸の地図と防寒着、持っていないだろう?」
「……あ!」
ザフィーアの言葉に、思わず大声で反応してしまうエスメラルダ。
「最悪、北の大陸の港町で買えばいいだろうが、あんな場所、特に北の大陸の北端にあるカスティードを防寒着なしで向かうのは自殺行為だろう。私も探すが、悪いが先に見つけたら教えて欲しい」
「わかりました!」
エスメラルダはそういうと、商人を探すため船内へ入って行った。
かくして、魔法に関する説明をザフィーアから受けたアルディア達は、カスティードに向かうため、北の大陸行きの船内で、ショートした頭を休めるのであった。