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聖女物語  作者: 野ウサギ座
Chapter1 北の大陸
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第4話

――港町ルベン・駐在所

食い逃げ犯としてザフィーアに拘束されたアルディア達。

捕まった3人は、そのまま駐在所へと連行され、事情聴取を受けていた。

「……つまり、その2人が金額を考えず食べ過ぎてしまい、会計をしたら手持ちの金額では足りなくて逃げてしまった、と」

「はい、大変申し訳ございません」

両手でアルディアとルービィの頭を地面に押さえつけながら、土下座で頭を下げるエスメラルダ。ザフィーアは呆れた表情を浮かべながらも、同行した店主に

「被害金額はいくらですか?」

と尋ねた。

「4,980ガラッドです」

「……」

店主から被害金額を聞くと、ザフィーアは右手で頭を抱え、再び呆れた表情を浮かべる。

ルベンの町の治安を守る仕事に携わっている以上、ルベンの町の事については人よりも詳しいザフィーア。それ故に、今回被害の遭った店が大衆向けの食事処であるところはザフィーアもよく知っており、価格についても十分把握はしていた。そんな店で、今回4,980ガラッドというおよそ大衆向けの店では耳にしないような被害金額、そしてそんな金額になるまで後先考えず頼み、ましてやそれだけの額の食事を3人で食べたという、とても常識では考えられないような事態に、ザフィーアとしてはただただ呆れる事しかできなかった。

「……わかりました。私が立て替えておきましょう」

ザフィーアはそう言うと、金庫から5,000ガラッドを取り出し、店主に渡す。

「あ、ありがとうございます。後でお釣りを」

「いや、結構。足しにはならないと思いますが、迷惑料って事で」

「そうですか。ありがとうございます」

店主はそう言うと、一礼をし、駐在所を去って行った。

「さて、と……」

店主が去って行ったのを見届けると、ザフィーアはアルディア達の方を向く。

ザフィーアが自身の方を向くと、エスメラルダは一層強く二人の頭を押さえつつ、頭を深く強く下げた。

「君たちは一体、何をしにこの町に来たんだ?」

ザフィーアは率直に、3人に尋ねる。

金銭感覚もない世間知らずの3人が、そもそも何の目的でルベンに来たのか。ザフィーアにとっては疑問でしかなかったのであった。

「えっと、カスティード国へ行くために北の大陸に渡りたく、北の大陸行きの船が出ているこの町へ……」

エスメラルダは頭を下げたまま、ザフィーアに説明をする。

「カスティードに……。また何で? それにそもそもお金はあったのか? まさか密航するつもりだったのではあるまい?」

「四柱帝と戦う為です。船に乗るだけのお金は用意してはいたんですが、流石にこの食費分までは……」

「まぁ、そうだな……」

ザフィーアはまたまた呆れながらそう反応をした。勿論これは、今回の3人の食費が、3人分の定期便乗船代よりも明らかに高いことを理解していたからである。

「そして、そこの2人も同じくカスティードへ?」

「はい、私は故郷を滅ぼした四柱帝を倒すために!」

「え~っと……あたしはノリで……」

「……」

ルービィの言葉に手を額にあて、軽くため息をつくザフィーア。勿論これも、四柱帝がどのような存在か、そして四柱帝と戦うという事がどれ程の事か、そしてそんな旅にノリでついていく事がどれ程常識を逸脱している発言かを十分理解した上での反応である。

そんなやりとりをしていると、

「話は聞かせてもらったわ!」

大きな女性の声と共に急に奥の襖が開き、桃色の着物を着た女性が姿を現す。

女性の姿を見ると、ザフィーアは、

「マリン! 急に出てくるなといつも……」

と、女性に苦言を呈する。

マリンと呼ばれた女性は、

「何よ! 面白そうな話だったから現れただけよ!」

と、反論をする。

相変わらず無茶苦茶な理由だな、と言わんばかりにため息をつくザフィーア。しかし、マリンはそんなザフィーアに目も呉れず、アルディアたちのところへとやってくる。そして、

「はじめまして! ザフィーアの妻のマリンです!」

と自己紹介をする。

「あ、はじめまして、アルディアです。」

「ルービィです」

「エスメラルダです。……ところでザフィーアってのは」

マリンの自己紹介に釣られて、アルディア達も自己紹介をする。

「何!? ザフィーア、あんた自己紹介してなかったの!?」

自己紹介の際、エスメラルダから出た言葉に反応し、マリンはザフィーアの方を向き、問いただす。

「いや、自己紹介も何も、食い逃げ犯の取り調べ中の為の連行だからな?」

「はぁ~……。アンタはホント相変わらずねぇ~……」

ザフィーアの言葉に大きくため息をつき、そう言うマリン。

そして、アルディアたちの方を見ると。

「ごめんなさいね! ザフィーアってのはこいつのこと! この堅物があたしの夫なのよ!」

ザフィーアを指さしながら、アルディアたちに紹介をした。そして続けて、

「似てないでしょ? あたしら! よく言われるのよ!」

と、笑いながらアルディアたちに話を続けた。

確かに、厳格そうな雰囲気を持っているザフィーアに対し、マリンという女性は、小柄ながらもエネルギッシュな雰囲気を持つ美しい女性ではあった。また、髪色についても暗めの青色であるザフィーアに対し、水色のおかっぱ頭のマリンは、本人の持つ雰囲気も相まって、明るめな印象を持たせていた。

「いや、そんな事ないと思いますよ?」

エスメラルダは、内心凸凹夫婦だなと思いながらも、苦笑いをしながらマリンにそう返す。

マリンは笑いながら

「無理しなくていいわよ! あたしが一番似てないって思ってるんだから!」

と、エスメラルダに返した。

「マリン……、一体君は何をしに来たんだ?」

取り調べ中に横槍を入れられ、やや不快感を示しながらマリンにそう言うザフィーア。

「ああ、ごめんごめん! いや、さっきこの子ら四柱帝を倒すとか言ってたでしょ?」

「そうだな」

「面白そうだからザフィーア、アンタも行きなさい!」

「……は?」

マリンの突然の発言に、目が点になり思わず声を漏らすザフィーア。

「は? じゃないわよ! アンタも四柱帝を何とかしてきなさいって言ってんの!」

「いや、マリン、正気か?」

「正気も正気! あたしはいつだって本気と書いてマジよ!」

マリンは親指をグッと立てて、そう言う。

「いやいや、私が旅に出たらここの仕事は誰がやるんだよ。それに私は町議の仕事も……」

「犯罪者の取り締まりなんてあたしがやってやるわよ! それに町議の仕事だって親父に言って何とかしてやるわよ!」

「いやいやいや、お義父さんに迷惑かけるなよ……」

「いーわよあんな暇してる町長! それに親父がアンタに渡した腰のその刀『冬雪とうせつ』も、こんな町の治安維持だけの為に使うの勿体ないでしょ!」

「……」

マリンに押され、眉間にしわを寄せ右人差し指と中指を当て無言で俯くザフィーア。

そして、しばらく考え込んだ後、

「……わかった。私も行こう」

と、ため息交じりでそう言うのであった。

「よし、じゃあ決まりね!」

ザフィーアの言葉を聞くと、ウィンクをしながら親指を立ててそう言うマリン。

一方、その言葉を聞いたエスメラルダは

「い、いいんですか……?」

とザフィーアに尋ねる。

「いいんだよ。ああなったらマリンは何を言っても聞かないからな……」

ザフィーアは遠い目をしながら、そう答えた。

「さ、さいでっか……」

エスメラルダは乾いた声でそう反応をするのであった。

「よし、じゃあアンタ達は今夜うちに泊まっていきなさい! 出発は明日の朝! いいわね!」

マリンはそういうと、早速奥へとアルディア達を案内する。

一方、ザフィーアは

「マリン。私は町長に事情の説明と挨拶をしに行ってくる」

そういうと、外へと出て行った。

「いってら。親父によろしくね!」

町長のもとへ向かうザフィーアを豪快に送り出すマリン。

かくしてアルディア達はルベンにて新たな仲間ザフィーアを加え、カスティードの国がある北の大陸へと向かうのであった。

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