第38話
ルベン町長タンザの行方を求め、ディナの都を訪れたアルディア達。
ディアからもタンザの行方に関する情報が得られず、ディアの屋敷を後にしディナの都の町中を歩いていると、四柱帝『妖帝ラファエル』の配下を名乗る魔族ハイン率いる集団に遭遇した。
ハインは自身の通行の邪魔になった女性を見せしめと称し処刑をしようとしたが、そこにそれを阻止すべくザフィーアとルービィが抵抗。
しかしながら、数の多さと、そして倒しても無表情で立ち上がるハインの軍団に手を焼き、ハインの下まで辿り着けずにいた。
そして、いよいよハインが女性を処刑しようとしたその時。騒ぎを聞きつけ、ディアが兵を率いて現れたのであった。
――――ディナの都・町中
「何の騒ぎだ」
騒ぎを聞きつけやって来たディアが、騒動の渦中にいる者達に尋ねる。
「あ?」
ディアの出現に、女性に向けて突き刺そうとした槍を止め、ディアの方に意識が行くハイン。
その手が止まった瞬間をルービィは見逃さず、ハインに向かって駆け寄る。そして、ハインが槍を持つ手を蹴り上げ、槍を後方へと飛ばした。
ハインの手から離れた槍は、ハインの魔力がなくなったためか、元のメイスへと形状を戻したのであった。
「貴様……!」
手を蹴り上げ槍を飛ばされたハインは、ルービィを睨みつけ、そう言う。
「ザフィーア殿、これは一体何の騒ぎですか?」
ディアは改めてザフィーアに向け、状況について尋ねる。
「ディア殿、実は……」
ザフィーアが刀を納め、ディアに事情を説明しようとした時であった。
「ッチ! ディアの軍勢まで出てきたか。面倒だな、引くぞ!」
ハインはいきなりそう言うと、左手の腕輪をまたしても光らせた。
すると、今まで襲ってきていた人族魔族の軍勢がピタリと動きを止めた。
ハイン率いる軍勢の動きが止まると、ハインは馬を180度方向転換させた。
そして、処刑しようとしていた女性をそのままに、軍勢を率い去って行ったのであった。
「一体何だったのだ……?」
突然立ち去ったハインの軍団に、状況が理解できないディア。
「場所を変えて、説明しましょう」
ザフィーアがディアにそういうと、ハインに殺されかけた女性含め、一同は場所を移動したのであった。
――――ディナの屋敷・客間
ハインが撤退した後、状況を改めて説明するべく、ディナの都の屋敷に集まった一同。
屋敷に向かう途中で、場所を移動させたアルディアとエスメラルダにも声をかけたため、屋敷の中には両者の姿もあった。
ザフィーアは、事の顛末を一つずつディアやその場から離れさせていたアルディア達に説明をした。
ザフィーアの説明を一通り聞き終えると、ディアは
「成る程。あの黒馬に乗った金髪の魔族が、最近東の大陸で暴れ回っていたハインという魔族なのか……」
と言葉を漏らす。
そして続けて、
「それにしても、滅茶苦茶だな。まさか前を横切っただけで処刑しようだなんて……。貴女も災難でしたね」
と、ハインに処刑されかけた女性の方を向き、言葉を送った。
「いえ、皆様のお陰で命拾いしました。本当にありがとうございます」
ディアの言葉に女性はそう言うと、深々と一礼をした。
「だが、あのような性格の者がこのまま易々と引く事も考えづらいですね」
ザフィーアは、ハインが再び女性の命を狙うのではないかと危惧し、ディアに尋ねる。
「その点については、彼女を私の屋敷でしばらくの間保護することで何とかしましょう。貴女もどうでしょうか?」
ザフィーアの問いかけにディアはそう答え、その上で女性にその提案を受け入れるか尋ねた。
女性は、
「ディア様、何から何までありがとうございます」
と、涙を流し、ディアに深く深く、頭を下げた。
「では、その方についてはディア殿にお任せいたしましょう」
「だが、またいつ、ハインが現れて何をするかもわかりませんな」
ザフィーアがそう言った後、そのようにディアは言った。
「そうですね。しばらくは、気をつけましょう」
ザフィーアはそう言うと、席から立ち上がった。
そして、
「ディア殿、今日は助かりました。ありがとうございます」
と、ディアにお礼を言い、一礼をした。
「いえ、こちらこそ、応戦いただきありがとうございます」
ディアもそう言うと、立ち上がり一礼をした。
ディアがザフィーアに礼を言うと、アルディア達も立ち上がり、一礼をした後、屋敷を後にしたのであった。
「いやー、何か変に疲れたねー」
屋敷の客間を後にし、宿に戻る道中、エスメラルダがザフィーアにそう話しかける。
「まぁ、相手の言動が滅茶苦茶だからな」
エスメラルダの言葉に、ザフィーアはそう返す。
そして続けて、
「だが、先に話した通り、暫くは警戒を続ける必要はありそうだがな」
と、エスメラルダにそう言った。
「そーだねー。……はぁ」
エスメラルダはそう言うと、溜め息をついたのであった。
――――廃墟ナフタリ
東の大陸、レビ平原よりも南西の海沿いにある廃墟『ナフタリ』。
すぐ南には黒の森があり、黒く生い茂る木々はナフタリからでも目視できる。
そんな廃墟の一画、黒の森の木々により影となっている場所へ、ハインは足を運ぶ。
足を運んだハインの前には、3体の女性の姿があった。
その者は、姿こそ人族や魔族の女性ではあるものの、身体が羽毛で覆われており、肘より先が鳥の翼のような形状を、膝より下が鳥の足のような形状をしていることから、生物というよりはクリーチャーであると推察できた。
「何だ、来ていたのか」
3体の女性型のクリーチャーに、そう言うハイン。
3体のクリーチャーたちは、廃墟の壁上にとまったまま近寄るハインを見下ろし、クスクスと笑う。
「ディナに行ったそうね」
3体のうち、臙脂色の髪と羽毛を持つクリーチャーが、クスクスと笑いながらハインにそう言う。
「ガブリエルを倒した者と、接触したそうね」
3体のうち、今度は縹色の髪と羽毛を持つクリーチャーが、クスクスと笑いながらハインにそう言う。
「それで、どうだった?」
今度は山吹色の髪と羽毛を持つクリーチャーが、クスクスと笑いながらハインに尋ねる。
「どうも何も、別に俺は負けてはいない」
ハインは少し苛立った様子で、3体のクリーチャーにそう返した。
ハインの態度に、3体のクリーチャーは嘲笑うかのように、クスクスと笑い続ける。
そして、
「当然でしょう。ラファエル様の『テンプテーション』の力をお借りしているわけだし」
臙脂色の髪のクリーチャーはそう言うと、右翼の羽先でハインの左手首につけているピンク色の腕輪を差した。
「ラファエル様の力をお借りしていて、負けるなんてあってはならない事よ?」
縹色の髪のクリーチャーは、先ほどよりも口元を緩ませてクスクスと笑いそう言う。
「それに貴方が接触したのは、ガブリエルを倒した者の仲間、でしょう?」
山吹色の髪のクリーチャーは、鼻で笑いながらハインにそう言った。
「俺が戦ったのは冬雪の魔剣士だぞ!? ……奴は違うというのか?」
自身を馬鹿にするかの態度でそう言ってきた山吹色の髪のクリーチャーに対し、ハインは感情を露わにしながらそう尋ねる。
「残念でした、あれは仲間。ガブリエルを倒した本人じゃない」
山吹色の髪のクリーチャーは空を遊泳しながら、ハインに話しかける。
「ガブリエルを倒したのは、銀のロッドを持つ娘。ラファエル様はそう仰っていた」
縹色の髪のクリーチャーはそう言うと、アクロバティックに空を飛んだ。
「銀のロッドを持つ娘だと? そんな奴はいなかったぞ!?」
ハインは空を飛ぶ2体を見上げながら、そう声を荒げる。
「その場にいなかっただけ、でしょうね」
臙脂色の髪のクリーチャーは空を舞う2体を見上げながら、ハインにそう言った。
そして、
「ラファエル様が求めるのは、混沌と血。……聖女なんてもの、実在はしないと思うけど、そんな奴に妨害され、地上の生物につまらない平穏を取り戻される事は望んでいない。おわかり?」
「……分かっている」
ハインは臙脂色の髪のクリーチャーを睨みつけながら、そう答えた。
ハインがそう答えると、臙脂色の髪のクリーチャーは飛び上がり、
「ならばその娘を探しなさい」
と言いながら、ハインの目の前に降り立った。
「そしてその娘を仲間共々処分しなさい」
今度は縹色の髪のクリーチャーがハインの目の前に降り立ち、そう言う。
「そのためにラファエル様はお前に『テンプテーション』の力を授けたのだ」
2体に続き、山吹色の髪のクリーチャーもハインの目の前に降り立ち、そう言った。
「さぁ殺せ!」
「ラファエル様の為に!」
「この大地を人と魔の血で、紫色に染め上げろ!」
3体のクリーチャーは目を大きく見開きながら更にハインに顔を近づけ、それぞれそう言った。
「分かっている!」
ハインはそう言うと、後ろに振り向いた。
そして
「奴らは俺が殺す。貴様達は黙ってそこで見ていろ、『アエロ』『オキュペテ』『ケライノー』」
そう言うと、その場から去って行ったのであった。




