第34話
北の大陸ホイップシティから船で東の大陸港町ルベンに到着したアルディア達。
一同はザフィーアの家に向かい、そこでマリンから衝撃の事実を告げられたのであった。
――――港町ルベン・ザフィーアの家・客間
「マリン、もう一度言ってくれるか?」
マリンから告げられた突然の事実に、思わず耳を疑い改めて尋ねるザフィーア。
「だから、ハインの奴がこのルベンにもやって来て、親父を連れて行ったのよ」
マリンはザフィーアの問いかけに対し、改めて父親が連れて行かれた旨を告げた。
マリンの話を聞いたザフィーアは、
「聞き間違いではなかったか……」
というと、深く溜め息をつくのであった。
「もしかして、町の人たちがどことなく暗い様子だったのって……」
「そ、親父がハインの奴に連れて行かれたから」
エスメラルダの問いに、マリンはそう答えた。
「そういうことだったんだ……」
マリンからの答えを聞き、エスメラルダはそう言い、ふぅーっと一息つくのであった。
「つまり、あたしらのせいじゃなかったんだね」
「エスメ君の気にしすぎだったんだね」
エスメラルダとマリンの会話を横で聞いていたルービィとアルディアは、一息つくエスメラルダの横で、そう会話をしていたのであった。
その両者のやりとりを聞いていたエスメラルダは、
「(いや、だから、誰のせいだと思ってるの!?)」
と、心の中でツッコミを入れつつも、ルービィとアルディアへの感情を押し殺すために、お茶を一気に飲み干したのであった。
「そうなると、お義父さんを攫ったハインという奴を探す事を先ずは優先した方が良さそうだな」
ザフィーアはお茶を飲みながら、そう言う。
「そうだね。妖帝ラファエルとの関わりもあるなら、ハインはどうにかした方がいいかも」
ザフィーアの提案に賛同するかのように、エスメラルダもそう言う。
「でもさ、そのハインって奴、どこに居るの?」
ルービィが、ザフィーアとエスメラルダに尋ねる。
「マリン、ハインが拠点にしている場所とか知らないか?」
ルービィの問いかけに、ザフィーアはマリンに尋ねる。
「さぁ? あいつら、各地を荒らしてるけど、拠点については何も聞いたことないわね」
マリンはザフィーアにそう答えた。
「魔王と関係ないって事は、流石に魔族の国を拠点にしているわけではなさそうだよね」
エスメラルダが、一同にそう話す。
「そうだな」
ザフィーアがエスメラルダの話に賛同するかのように、そう答える。
そして続けて、
「そうなると、どこかで情報収集をした方が良いかもしれないな」
と、言葉を続けた。
「情報収集……。ゼブルンの町の酒場とか?」
アルディアがザフィーアに尋ねる。
「いや、もっと大きな場所じゃないと難しいだろう」
「もっと大きな場所、って言うと……」
「ああ、『ディナの都』へ行こう」
もっと大きな場所というエスメラルダの言葉に、ディナの都を目指すと返したザフィーア。
エスメラルダは、
「成る程、ディナなら何らかの手がかりくらい見つかりそうだしね」
と、答えた。
すると、ザフィーアとエスメラルダが次の行き先について話をしていると、
「ところで、さっきから話の出ている魔王とか、魔族の国とか、ディナって?」
と、横からアルディアがザフィーアとエスメラルダに尋ねた。
アルディアの問いかけにザフィーアは、
「そうだな。まず、魔王についてだが、言葉通り魔族の王の事だ」
と答える。そして続けて、
「東の大陸南部『黒の森』と呼ばれる森林エリアの奥に、魔族の国があるらしいのだが、その魔族の国を治めている王が魔王だ」
とアルディアに説明した。
「へぇ。東の大陸に魔族の国なんてあったんだ」
ザフィーアの説明を聞き、アルディアは自身の生まれ育った東の大陸に魔族の国があった事を初めて知り、そう反応をした。
そしてルービィも
「ちなみにあたしも知らなかったよ!」
と、魔族の国や魔王の存在を知らなかった旨を告げた。
それを聞き、エスメラルダは
「(まぁルービィは外れ魔族だしね……)」
と、心の中で呟いたのであった。
「して、次はディナについてだな。ディナはここより南、東の大陸の南北位置としては中腹くらいの場所にある、東の大陸最大の都だ。今回目指そうと思った理由は、人口密度の高い東の大陸の中でも最も人や魔族の多いディナでなら、何らかの手がかりが手に入る。そう踏んだからだ」
「成る程~」
ザフィーアの説明を受け、アルディアはそう反応したのであった。
すると横から、
「さぁあんたたち。次の目的も決まったなら、この辺りで食事にしましょう! 外も暗くなってきたしね!」
と、マリンが一同に話しかけた。
マリンの言葉を聞いた一同は、外を見る。すると、外は既に夕焼け空になっていたのであった。
「そうか、もうそんな時間なのか」
夕焼け空の外を見たザフィーアが、そう言う。
「そうよ! 今日は折角1年ぶりに戻ってきたわけだし、腕によりをかけるわよー!」
マリンはザフィーアにそう言うと、部屋を後にし、台所へと向かったのであった。
――――しばらくした後
「「「「いただきまーす」」」」
「はい、どーぞ」
客間の机の上には、マリンがつくった料理が所狭しと並べられていた。
アルディア達はマリンが用意した料理を早速食べ始めた。
特に女性陣は、食べ始めからいつもながらのハイペースで食事に手をつけており、その様子を横目に男性陣はゆっくりと食事をしていた。
一方、マリンはというと、
「いいわねあんたたち! その食べっぷり、作った甲斐があるわよ!」
と、笑顔を浮かべながら、女性陣にそう言った。
そんなマリンにザフィーアは、
「マリン、あんまり持ち上げないでくれ」
と苦言を呈した。
するとマリンは、
「いいじゃない! あんたなんかいつも無言で食べるだけなんだから」
と、ザフィーアに言い返した。
それを聞いたルービィとアルディアは、
「ザフィ、それはダメでしょ」
「ちゃんとおいしいって伝えないと」
と、ザフィーアに言うのであった。
一方、エスメラルダはというと、特に何も言わず、そのやりとりを見てただ苦笑いをしていただけであった。
「ほら、やっぱりあんたに問題があるんじゃない!」
ルービィとアルディアを味方につけたマリンは、追い討ちをかけるようにザフィーアにそう言う。
マリンの言葉にザフィーアは、
「あぁ……気をつける」
と、言葉を濁し、マリンにそう返したのであった。
「本当でしょうね?」
マリンは疑うような目でザフィーアを見るものの、直ぐに
「ところでさ、あんたたち。北の大陸での話、もっと聞かせてよ」
と、別の話題に切り替え、アルディア達に尋ねたのであった。
「北の大陸の出来事ですか……」
エスメラルダはそう言うと、北の大陸での出来事をマリンに説明しはじめた。
カスティード国のこと、北の海岸での戦いのこと、水魔メリュジーヌのこと、三神龍サファイアドラゴンのこと、聖石大海のサファイアのこと、海底城のこと、四柱帝海帝ガブリエルとその配下トリトンとポセイドンのこと、そして、アルディアが四柱帝ガブリエルを倒したこと……。
マリンはエスメラルダの話を聞く度に、まるでお伽話を聞くかのように目を輝かせながら聞いていた。
そして、北の大陸の話に話題を咲かせていると、どんどんと時間が経過していき、夜も更けていったのであった。
――――夜・ザフィーアの家・寝室
夜も更けてザフィーアの家で一泊することになった一同。
アルディア、エスメラルダ、ルービィは客間に布団を敷きそのまま就寝、ザフィーアとマリンは寝室で横並びに布団を敷き、床についた。
「それにしても夕方の話、思い返してみても驚きねぇ~」
マリンは布団に入った状態で、横で眠るザフィーアの方を向き、そう言う。
「まぁ、話だけで信用しろっていうのは無理だろうな」
ザフィーアは目を瞑ったまま、そう答える。
「四柱帝だけじゃなく三神龍、聖石……。聖石については実物を見たとはいえ、実在するなんて、ねぇ」
「まぁ、な」
「しかしアルディアちゃん、まさか四柱帝を倒すなんてねぇ。三神龍や聖石も実在するなら聖女も実在して、もしかしたらそれがアルディアちゃん、なーんて可能性もあるのかしら?」
「さぁな」
「ま、とりあえずあたしとしては、あんたやアルディアちゃん達が無事なら何でもいいけどね」
マリンはそういうと、顔を天井の方へと向けた。
そして、二人の間に沈黙が流れた。
そのまま眠りについたかのように思われた二人。だが、少しした後、沈黙を打ち破るかのようにマリンが行動を起こす。
「何の真似だ、マリン」
突然自身の布団に潜り込んできたマリンに、目を瞑ったままそう言うザフィーア。
「何の真似?」
マリンは意地悪そうな顔でニヤリと笑うと、ザフィーアの手の甲をキュッとつねる。
そして続けて
「昼間の事、忘れてないわよ? 説明してもらおうかしら。とっても美人なエクレール様のこと」
と、ザフィーアに問いかけた。
「……昼間にも話した通り、カスティード国の女王様だ。衣食住の面倒は見てもらったが、それだけの関係だ」
ザフィーアは少し面倒くさそうに、マリンにそう答えた。
マリンは少々不服そうな顔をすると、
「ま、口では何とでも言えるわよね」
と言い、今度はザフィーアの腕に抱きついた。
「……一体どういうつもりだ、マリン」
マリンの目的がわからないザフィーアは、マリンの方を向き、そう尋ねる。
「どういうつもり?」
ザフィーアの問いかけに、そう言うマリン。
そして続けて、
「そうねぇ? あんたの身の潔白の確認?」
と、意地悪そうな感じでそう言った。
それを聞いたザフィーアは溜め息をつき、
「あのな、私の身の潔白の確認って、一体何を……」
と言いかける。
すると、ザフィーアの言葉を遮るかのように、マリンはザフィーアの口に自身の唇を重ねた。
突然のマリンの行動に驚きの表情を浮かべるザフィーア。
だが、マリンはそんなザフィーアに
「確認は確認。あたしがあんたが身の潔白の確認ができるまで続けまーす」
と言うと、今度はザフィーアの首に両腕を絡め、身体に抱きついた。
マリンの行動に、
「おいマリン。別室でアル達もいるんだぞ!?」
と、珍しく動揺した様子を見せるザフィーア。
しかしながら、マリンは
「あの子たちなら大丈夫。ぐっすり眠ってるしね」
と、アルディア達が居る事もお構いなしの様子であった。
そして続けて、
「1年ぶりの帰宅だもの。それに、明日からまたディナに向かって旅立つんでしょ? いいじゃない、今夜くらい……」
と、少し顔を赤らめながら優しく微笑み、ザフィーアにそう言った。
そんなマリンの様子を見たザフィーアは、
「……好きにしろ」
と、照れくさそうにそう言った。
それを聞いたマリンは、
「では、好きにさせていただきまーす」
というと、更に強く、ザフィーアに抱きついたのであった。




