第30話
オーバードライブの修行のため、カスティード宮殿内にてオーバードライブ状態にて仕事をすることとなったアルディア。
修行開始直後は力のコントロールも上手くできず、箒で掃いた勢いで突風を起こしたりしていたが、しばらく経つとコントロールも上手くできるようになり、オーバードライブ発動時に迸る白いオーラも修行開始の頃と比べ、目立たなくなってきていた。
そんなある日……。
アルディアはいつも通り、オーバードライブ状態でカスティード宮殿内の清掃をしていた。
「あんた、身体の周りに出てる白いオーラ、なくなってきたね」
オーバードライブ状態で掃除をしているアルディアに、マリーはそう話しかける。
「そうかな?」
アルディアはそう返す。
「うん。それに掃除しても突風起こしたり物壊したりしなくなったし……助かるわ」
「そっか。ありがとう」
アルディアがそう言うと、二人はまた無言で掃除を続けていった。
そのまま無言で掃除を続けていると、
「……そういえばあんた、四柱帝を倒したらしいね」
とマリーが沈黙を破るかのように話しかけた。
「う~ん、そうらしい……」
アルディアは自信なさそうにそう答える。
「なんでそんな自信なさそうなのよ」
自信なさそうに答えたアルディアに対し、そう言うマリー。
「う~ん、そう言われても……、私、ガブリエルが消えた時気絶してたから……」
「何よそれ……」
アルディアの言葉に、少し呆れた様子でそう返すマリー。
だが、
「でも、あんたの仲間たちがあんたが倒したって言ってるんだから、多分本当なんでしょ? 凄いよ、あんた」
「そう? ありがとう」
マリーの言葉にお礼を言うアルディア。
そうしてまた二人は、再び無言で掃除を続けた。
そのまままた無言で掃除を続けていると、
「……あたしの故郷さ、四柱帝に滅ぼされたんだよね」
「え?」
突然のカミングアウトに驚き、思わず手を止めてしまうアルディア。
「ちょっと、何掃除の手を止めてるのよ」
「あ、ごめんなさい」
マリーの叱責に、謝罪し再び箒で掃き始めるアルディア。
「まぁ、あたしが振ったせいなんだけどさ……」
マリーはそう言いながら掃除を続ける。
そして、
「あたしの故郷、襲ったのがガブリエル軍でさ。北の大陸の小さな町だったんだけど、だからこそ誰も戦えず、ガブリエル軍に一方的にやられたんだよね」
「……」
「あたしは辛うじて助かったけど、両親は殺されてさ」
「……」
「故郷の領主も護衛囲って真っ先に逃げたんだよね。応戦してくれてたら、もしかしたらあたしの両親も助かったのかもしれないけど……」
「ひどい……」
「貴族なんてそんなもんでしょ? その後、あたしはエクレール様に拾われて今生きていけているんだけど。エクレール様みたいな貴族の方が珍しいと思うよ、この世界」
「そう、なんだ……」
「あんた、今後他の四柱帝とも戦うんでしょ? 貴族が皆、ここ(カスティード)の人たちみたいだと思わない方がいいと思うよ」
「……」
「あたしの両親の仇のガブリエル倒してくれて、感謝してるんだから。あんたには、生きてて欲しいのよ」
「うん、わかった……」
アルディアがそう言うと、二人はまた、掃除を続けるのであった。
―――別の日 カスティード宮殿・玉座の間
いつも通り、エクレールは玉座の間にて報告等を受けていた。
すると、
「失礼します」
と、一人の兵士が玉座の間へとやって来た。
そして、エクレールの前で跪くと、
「北の海岸にて、メリュジーヌ殿が現れました」
と報告をした。
「メリュジーヌ殿が、ですか」
兵士の報告を、エクレールの横で聞き、そう言うガトー。
「はい。何でもアルディア殿たちにご用だとか」
ガトーの言葉に返事をし、続けて報告をする兵士。
「アルディアにですか。わかりました。ガトー、アルディア達をここへ。彼女達と共に北の海岸へ向かいましょう」
「畏まりました」
エクレールがそう言うと、ボウアンドスクレープをし、アルディア達を呼びにガトーは玉座の間を後にしたのであった。
少しした後……。
ガトーに呼ばれ、アルディア達は玉座の間へと集合した。
「アル(アルディアの事)、何その格好……」
エスメラルダはメイド服姿のアルディアを指差し、そう言う。
「エスメ君(エスメラルダの事)、これ? 今、オーバードライブの修行中でさ」
「一体どういう修行なんだよ……」
アルディアの説明を聞き、エスメラルダは思わず言葉を漏らすのであった。
そんなやりとりをしていると、
「皆様、急遽集まっていただき、申し訳ありません」
と、エクレールが話を始める。
「エクレール様。何かあったのでしょうか」
ザフィーアがエクレールに尋ねる。
「実は、先ほど兵より北の海岸にてメリュジーヌがアルディアを尋ねて現れたとの報告を受けました」
「メリュジーヌがですか」
「はい。ですので、皆様と私、あとガトーで北の海岸に向かおうと思いまして。それで皆様に声をかけさせていただきました」
「左様ですか。そういう事でしたら、エクレール様さえご都合がよければ早速向かいましょう」
「ありがとうございます。では、早速、北の海岸へ向かいましょうか」
ザフィーアの言葉にそう返すと、玉座から立ち上がるエクレール。
そうして一同は、北の海岸へと向かったのであった。
―――カスティード国・北の海岸
カスティード宮殿から北の海岸へ移動したアルディア達。
北の海岸に着くと、以前にメリュジーヌと会った場所と同じ場所で、メリュジーヌを見つけた。
「メリュジーヌ!」
「あ、アルディアさん」
メリュジーヌに声をかけたアルディアに気づき、メリュジーヌもアルディアに声をかける。
一同はメリュジーヌのもとに歩み寄った。
「ご無沙汰しております。アルディアさんも、目を覚まされたのですね。よかったです」
メリュジーヌは嬉しそうに、そう話し始める。
「メリュジーヌこそ、色々とありがとう」
アルディアはお礼を言うと、頭を下げる。
「いえ、お礼を言うのは私たちです。お陰様で海中も平和が訪れ、私たちも海底城に戻ることができました。本当に、本当にありがとう」
メリュジーヌはそう言うと、深々と頭を下げた。
「ところでメリュジーヌ。今日私たちを呼んだのは、何か用があったのでは?」
アルディアに頭を下げるメリュジーヌに、ザフィーアは横からそう尋ねる。
「あ、そうです。実は今日は、皆様にお会いいただきたい方を連れてきておりまして……」
「お会いいただきたい方?」
「はい。お呼びしますので、少々お待ちください」
ザフィーアの問いかけにそう答えると、メリュジーヌは海に潜る。
メリュジーヌが海に潜り少し待つと、海からメリュジーヌが顔を出した。
そして、
「お待たせいたしました。サファイアドラゴン様、こちらでございます」
と海に向かって声をかけた。
メリュジーヌが声をかけると、海中から巨大な青い龍が姿を現した。
アルディア達の前に現れたその龍は、ガブリエル達が海蛇と呼んだように、蛇のような長い身体をした姿をしていた。一方、特徴的な姿としてその龍は首からトビウオのようなヒレを翼の左右に開いていた。
「ガブリエルを倒した事、礼を言うぞ」
アルディア達の目の前に現れたサファイアドラゴンは、アルディア達にそう話かける。
「お前達のお陰で、我は海底城を取り戻せた。水魔達もガブリエルの驚異から守ることができた」
「いえ、そんな……」
サファイアドラゴンの言葉に、そう返すアルディア。
「ガブリエルの奴が造ったクリーチャーはまだ残っているが、まぁ少しずつ潰せばよい」
「クリーチャーって、ガブリエルと一緒に消えないんですか?」
サファイアドラゴンの言葉に、そう尋ねるアルディア。
「一度造られたクリーチャーは、創造主から独立している。故に創造主が死んでも残ってしまうもの。クリーチャー自体を倒すほかない」
「そうなんですね」
「まぁ、とはいえお前達がガブリエルを倒してくれたお陰で、残るクリーチャーは雑魚ばかり。驚異ではない」
「そうですか……」
アルディアがそう返すと、少しばかり沈黙が流れる。
少しばかりの沈黙の後、サファイアドラゴンが沈黙を破るかのように、
「さて、お前達には礼をしなければならないな」
そういうと、メリュジーヌに視線を送った。
サファイアドラゴンからアイコンタクトを受けたメリュジーヌは、こぶし大の藍色の宝石を両手で差し出した。
「これは……まさか!」
「そう、聖石『大海のサファイア』だ」
ザフィーアの言葉に、そう返すサファイアドラゴン。
そして続けて、アルディアに
「この聖石をお前に渡そう」
「え゛!? 私に!?」
サファイアドラゴンの言葉に、思わず上擦った声でそう言った。
「海の力、今後の戦いに役立てるとよい」
「ありがとう、ございます」
アルディアはお礼を言うと、メリュジーヌから聖石サファイアを受け取ったのであった。
「では、我はこれで失礼する」
「ありがとうございます。失礼します」
サファイアドラゴンとメリュジーヌはそう言うと、海の中へと帰って行ったのであった。
かくして四柱帝『海帝ガブリエル』を打ち破ったアルディアは、三神龍『サファイアドラゴン』より聖石『大海のサファイア』を譲り受けたのであった。




