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聖女物語  作者: 野ウサギ座
Chapter1 北の大陸
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第26話

 ガブリエルのタイダルウェーブをレイの魔法で相殺させたアルディア。

 しかしながら、その相殺に全てを出し切ってしまい、アルディアのオーバードライブはタイダルウェーブ相殺の後、効果が切れてしまった。

「ハァ……ハァ……」

 オーバードライブの効果を切らしたアルディアは、魔力枯渇だけではなく体力疲労という反動に襲われ、両手と膝を地面につけ、息を切らす。

 だが一方、ガブリエルも今回ばかりはかなりの魔力を使ったらしく、肩で息をしていた。

「ふふ……ははははは……!」

 肩で息をしながら笑うガブリエル。

「俺のタイダルウェーブを相殺したのは流石だな。だが、それで力尽きたか」

 自身の目の前で両手と膝を地面につけて息を切らしているアルディアに対し、そう言うガブリエル。

「さて、トドメをさせようか……」

 ガブリエルはそう言うと、アルディアに近づく。

 すると

「ッ!!」

 突然左手首に攻撃を受けるガブリエル。

 不意打ちと、魔力が減っている事も相まって攻撃を受けたガブリエルの左手は、だらりと垂らした状態となった。

「貴様ッ……」

 ガブリエルは攻撃が飛んできた方を睨みつける。

 ガブリエルの視線の先には、左手と膝を地面につけたまま、右手に持った銀のロッドをガブリエルの方へ向けたアルディアの姿があった。

 ガブリエルの左手にダメージを負わせたアルディアは、そのまま地面に倒れ込む。

 左手をダメにされたガブリエルは怒りを露わにし、

「死ねえぇぇぇぇ!!」

 と叫び、アルディア目がけ槍で攻撃を仕掛ける。

 だが、この槍による攻撃をザフィーアが刀で止めた。

 そして、ザフィーアがガブリエルの攻撃を止めている隙に、ルービィがアルディアを抱え、ガブリエルから距離を取った。

「エスメラルダ、フォローを頼む!」

 ガブリエルの攻撃を止めているザフィーアが、エスメラルダにフォローの声がけをする。

「わかった!」

 エスメラルダはそう言うと、ザフィーアの後方にまわる。

 そしてザフィーアの支援に入る、その前に、

「ルービィ!」

 アルディアを抱え走っているルービィに声をかける。

 エスメラルダの声に反応し、走りながらエスメラルダの方を向くルービィ。

 エスメラルダはルービィが自身の方に向いた事を確認すると、ローブのポケットから小瓶を取り出し、ルービィに向かって投げる。

 エスメラルダの投げた小瓶を受け取るルービィ。

「これは?」

 エスメラルダから受け取った小瓶を見ながらそう言うルービィ。

「それをアルディアに飲ませて」

 エスメラルダはルービィにそう言う。

「アルディアに?」

 ルービィはエスメラルダに尋ねる。

「そう、アルディアに。それは疲労回復に効果のある薬草とかを混ぜて作ったドリンク。魔力回復は無理だけど、体力なら多少回復できると思うから」

「わかった」

 エスメラルダから説明を受けたルービィはそう言うと、小瓶を持ったまま走った後、ガブリエルから距離を取った場所まで移動すると、アルディアを壁にもたれかけさせるとエスメラルダから貰った小瓶の中身をアルディアに飲ませたのであった。


 一方、ガブリエルと対峙するザフィーア。

 そして、ザフィーアに攻撃アシストの紋様ルーンでサポートをはじめるエスメラルダ。

 ザフィーアは刀を構えながら、霧を発生させる。

 辺り一面が霧につつまれ、ザフィーアの姿が霧に隠れる。

 ガブリエルは霧に隠れたザフィーアを、ゆっくりと辺りを見渡す。

 ガブリエルが暫く辺りを見渡すと、ガブリエルの胴辺りに攻撃が当たる。

 霧隠れからのザフィーアの斬撃がガブリエルの胴に綺麗に入ったのであった。

 不意打ちからの攻撃で防御もできず、ザフィーアの攻撃は完全に入ってはいた。

 しかしながら、同属性で、かつ、魔力上位者であるガブリエルには、エスメラルダの攻撃サポートがあってもなお、全くダメージが入らなかった。

「嘘でしょ!? 僕のサポートがあっても!?」

 ザフィーアの一撃が無傷である事実に、驚くエスメラルダ。

「くそっ! 期待はしていなかったが、まさか無傷とは……」

 ザフィーアもまた、ガブリエルにダメージが与えられなかったという事実に、ショックを隠せない様子であった。

「ふん! 俺を誰だと思っている? 海帝ガブリエル様だぞ?」

 ガブリエルは鼻で笑いながらそう言う。

「ダメージを負い、魔力も減っているとは言え、やはり四柱帝。そもそもの魔力が別格、というわけか……」

 ザフィーアは下唇を噛みながら、そう言うのであった。

 そんなザフィーアの様子を見ながら、ガブリエルは笑い、そして

「そういう事だ。雑魚が」

 そう言うと、右手に持った槍を構え矛先をザフィーアに向ける。

(くそっ……)

 突きつけられた槍を見て、死を覚悟するザフィーア。

 すると突如、ガブリエルの右顔面に攻撃が入り、ガブリエルは吹き飛ばされた。

 ガブリエルが吹き飛ぶと、ガブリエルに攻撃をした者がザフィーア、エスメラルダの前に現れる。

「ルービィ……」

 攻撃の主を見て、思わず声を漏らすザフィーア。

 目の前に立っていたのは、拳に炎を纏わせたルービィであった。

「ルービィ、アルディアは?」

 目の前に現れたルービィに尋ねるエスメラルダ。

 ルービィは

「アルディアなら、貰った薬を飲ませて休ませてるよ!」

 とエスメラルダに答えた。

「あれ、回復薬って程のものでもないんだけどね……」

 ルービィの回答に、エスメラルダは苦笑いをしながらそう言った。

「兎に角助かった。ありがとう、ルービィ」

 ザフィーアはルービィに礼を言う。

「危機一髪って感じだったけどね!」

 ザフィーアの礼に、ルービィは笑いながらそう答えた。

 すると、

「あぁ~……」

 怒りの籠もった声をあげながら、ガブリエルが立ち上がる。

 そして、

「一々鬱陶しいんだよ、クソが!」

 そう言うと、手に持った槍を横に振り、ルービィの右脇腹を殴りつけた。

 槍の矛先での突撃ではないものの、自身の苦手とする水属性の魔力を纏い、勢いよく振られた槍の攻撃をノーガードで受けてしまったルービィ。

 ミシミシミシ、と骨にまでダメージを受けた音が鳴り、その後、振られた槍の勢いで壁面まで吹き飛ばされるルービィ。

 壁面に身体を強打すると、ルービィはそのまま倒れ込み、気を失ったのであった。

「「ルービィ!」」

 ガブリエルに吹き飛ばされ、気を失ったルービィを見て、そう叫ぶザフィーアとエスメラルダ。

 だが、吹き飛ばされたルービィに意識を持って行かれてしまったが為に、ガブリエルに対し、隙を見せてしまう。

 自身から意識を逸らしたザフィーアとエスメラルダの隙をガブリエルは見逃さなかった。ガブリエルはザフィーアを狙い、右手よりサイクロンを放った。

 ガブリエルから意識を逸らしていた為、死角からサイクロンを受けてしまったザフィーア。

 防御も間に合わず直撃を受けたザフィーアは、サイクロンの斬撃で切り刻まれながら吹き飛ばされ、ルービィ同様、壁に叩きつけられてしまった。

 壁に叩きつけられたザフィーアは、切り傷だらけになりながらも辛うじて立ち上がるものの、

「く……そ……」

 と言うと、その場で倒れ、気を失ってしまった。

「ザフィーアまで……」

 気を失ったザフィーアを見て、言葉を漏らすエスメラルダ。

 一方、ガブリエルはというと、今度は無言でエスメラルダを見るものの、サポートに徹していたエスメラルダをソロでは驚異ではないと判断をしたのか、そのまま横切り、アルディアの方へと向かっていった。

(くそっ……僕は無視しても問題ないってことか……)

 自身を横切るガブリエルを見て、心の中で呟くエスメラルダ。

「(だけどこのままじゃアルディアが……)くそー!!!」

 エスメラルダがそう叫ぶと、その直後、ガブリエルの後頭部に電撃のような衝撃を受ける。

 ダメージこそ受けていないものの、自身の苦手な電撃の攻撃に、不快感を感じるガブリエルは思わず攻撃が飛んできた方を振り向く。

 ガブリエルが振り向くと、そこには銃を構えたエスメラルダの姿があった。

「雷属性の魔石銃だけど……、やっぱ効かないか」

 銃を構えながら、そう言葉を漏らすエスメラルダ。

「見逃してやろうと思ったが……、先に殺るか」

 ガブリエルはそう言うと、ゆっくりと泳ぎ、エスメラルダに近づく。

 そして、エスメラルダの近くに寄ると、右手の槍を構えた。

(ここまで、か……)

 目の前に槍を突きつけられ、全てを諦め目を閉じるエスメラルダ。

 ガブリエルは構えた槍に魔力を込め、勢いよくエスメラルダに向かって突いた。

 だが、

「……え?」

 ガブリエルの槍がエスメラルダに当たる直前、何者かがエスメラルダの身体を強く引っ張った為、辛うじて攻撃を避けることが出来た。

 死を受け入れていたエスメラルダはまさかの事態に、思わず声を漏らしてしまう。

 そしてガブリエルはというと、

「……貴様」

 エスメラルダを引っ張った当事者を睨みつけ、そう言葉を漏らした。

 ガブリエルの視線の先には、白いオーラを滾らせたアルディアの姿があったのであった。

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