第19話
「……オーバードライブ」
溜めていた魔力を使い、逆転の秘策としての魔法を発動させるアルディア。
魔法を発動させると、アルディアの全身から白いオーラが迸った。
「オーバードライブだと!?」
「え、アルディアの秘策ってまさか、アレ?」
オーバードライブを発動させたアルディアを見て、そう口にするザフィーアとエスメラルダ。
一方、ザフィーアとエスメラルダの反応を不思議に思ったルービィは、
「あの魔法が何か問題あるの?」
と両者に尋ねた。
「問題なんてレベルじゃないよ……」
ルービィの問いかけに、右手を額に当て俯きながら溜め息をつき、そう答えるエスメラルダ。
「オーバードライブは昔存在した魔法だ。魔力を溜め、溜めた魔力を一気に発動させ、術者の身体能力と魔法能力を一時的に強化するという効果だが……」
「だが?」
ザフィーアの説明に首を傾げるルービィ。
ザフィーアは続けて、
「ルービィもわかっていると思うが、まず、そもそも溜めに時間がかかりすぎる点。そして、折角溜めた魔力も、溜めた分ほどの強化恩恵が受けられない。それがあの魔法の弱点らしい」
と説明をした。
ザフィーアの説明の後、エスメラルダも、
「現に今のアルディア、光属性を象徴する白いオーラが迸っちゃってるしね」
と、アルディアを見ながらそう言った。
「オーラが迸ると何か問題でも?」
ルービィはエスメラルダに尋ねる。
「オーラって魔力だから、確かに一見すると凄い魔力を持っているようには見えるんだよね。でも、あれ実際は身体の中に溜められない魔力を放出してるだけだから、結局のところただの無駄な魔力なんだよね……」
エスメラルダはルービィの問いにそう答えた。
「オーバードライブの魔法が欠陥と言われる理由。まさにあのオーラがそうなんだろうな」
ザフィーアもまた、アルディアの様子を見ながら、そう言ったのであった。
「そーなんだ。でもアレがアルディアの秘策だっていうなら、アルディアに任せるしかないよね」
二人の説明を聞きながらも、ルービィはそう言い、トリトン、ポセイドンに向かうアルディアの様子を見守るのであった。
一方、トリトン、ポセイドンも、オーバードライブの魔法については知っていたようで、
「おやおや、まさか切り札がオーバードライブとは……」
「失敗作魔法が切り札とは……」
と、嘲笑しながらそう言った。
するとアルディアは、
「失敗かどうか、今にわかるよ」
と、トリトン、ポセイドンを挑発した。
アルディアの挑発する発言を受けると、トリトンは、
「ほぉ……」
と言い、身体をアルディアの方へ向ける。そして、
「ならばそうさせて貰おう!」
そういうと、牙に氷の魔法を纏い、口を大きく開け、アルディアに向かって接近した。
だが、アルディアは特に避ける様子もなく、また、特に迎え撃つ様子もなく、その場で立っていた。
トリトンがアルディアに近づくと、氷の魔法を纏ったその牙でアルディアに向かい噛みつく。
氷が砕けるような音が部屋中に響き渡り、そして冷気が一気に周囲を包んだ。
一瞬にして部屋を包む冷気を目の当たりにし、エスメラルダ、ルービィ、ザフィーアは改めて四柱帝の側近の実力を思い知る。と、同時に、この攻撃を思いっきり受けていたら、アルディアはひとたまりもないだろうということも、同時に悟った。
だが、噛みつき攻撃をしたトリトンは、攻撃後、頭を左右に振り、辺りを見渡す。
トリトンの様子を見たポセイドンは、
「どうした?」
とトリトンに尋ねる。
「いや、手応えがなかった。恐らく、避けられた」
トリトンはアルディアが攻撃を回避したであろう旨をポセイドンに伝える。そして、自身の攻撃を避けたであろうアルディアがどこへ行ったのか、アルディアの姿を探していたのであった。
すると突然、トリトンの上部から大きな光線がトリトンに向かって直撃。光線を受けたトリトンは光線の勢いも相まって、そのまま床に叩きつけられた。
そして、トリトンが床に叩きつけられた後、トリトンの目の前に、アルディアが降りてきたのであった。
「今のは?」
トリトンの目の前に現れたアルディアに、そう尋ねるポセイドン。
「私が放った、『レイ』の魔法だよ」
アルディアはポセイドンにそう答えた。
ポセイドンはニヤリと笑うと、
「そうかい」
と言い、それと同時に水の魔法を纏った尾でアルディアに向かって叩きつける。
しかしながら、アルディアはこの攻撃も回避。一瞬にしてポセイドンの背後に周り混むと、ロッドを持った右手を身体の近くに引き、そして
「……リヒトゾイレ」
と呟くと、ロッドを持った右手を思いっきり突き出し、突きの勢いと同時に光線を放った。
光の柱の名の通り、レイの魔法よりも高速で放たれる巨大な柱のようなその光線魔法は、ポセイドンに直撃。ポセイドンはリヒトゾイレの魔法の勢いのまま、壁面まで飛ばされ、叩きつけられた。
「ねぇ……失敗作魔法、なんだよね?」
ルービィはトリトン、ポセイドンがやられている様子を指差し、そう尋ねる。
「そう、聞いてたんだけどね……」
エスメラルダは伝承で聞いていた状況と異なる事実に、首を傾げながらそう答える。
「確かに、使い物にならない魔法として書物にも残っているし、実際アルディアの様子もオーラが迸っているあたり、完全に身体に対し魔力がキャパオーバーしているのは事実だろうが……」
ザフィーアもまた、伝承と異なる状況に戸惑いながらも、そう話した。
しかしながら続けて、
「だが、実際にあの2体を相手に優位な状況に立てているのもまた事実」
と、嬉しい誤算である旨も言葉にした。
「とりあえず、このまま行けばもしかしたら、って感じ?」
戦況に希望が見えたかのように、ルービィは問いかける。
「まぁ、後はアルディアのオーバードライブがどれだけ持つか、だけどね……」
エスメラルダはオーバードライブの効果が続く時間について、一抹の不安を持ちながらも、そう言い、アルディアの状況を見守るのであった。
一方、トリトン、ポセイドンはというと、
「くそっ」
「まさかオーバードライブでここまでやるとは……」
と、アルディアを睨みつけながら周りをぐるりと泳いだ。
だが、アルディアはそんなトリトンとポセイドンの様子には得に気に留める様子もなく、静かに立ち構え、次の行動に備えていた。
そんなアルディアの様子を見たポセイドンは、
「ならばこれならどうだ?」
と言い、トリトンに合図を送る。
ポセイドンから合図を受けたトリトンは、頭部に氷の魔法を纏い始める。
一方、ポセイドンもまた、頭部に水の魔法を纏い始めた。
2体は魔法を纏いながらも、先に続き、アルディアの周りをぐるりと泳ぐ。
そして、状況を見計らい、2体はお互いに目で合図を送ると、同時のタイミングでアルディアに向かって頭突きをした。
大きな図体を持つ2体の、魔法を纏った頭突きの衝撃で、周囲にも魔力衝撃が迸る。その様子からも、2体の攻撃が強力なものであることは明白であった。
だが、
「!また躱された」
そう言うと、辺りを見渡すトリトン。
ポセイドンもトリトンと同様に辺りを見渡し、アルディアの姿を探す。
すると、
「あ!」
そう言うと、トリトンの後方上部を指差すルービィ。
ルービィの反応に、彼女の指差した方に顔を向けるトリトンとポセイドン。
するとそこには、両手で銀のロッドを持ち、高く掲げながら降下してくるアルディアの姿があった。
更にアルディアのロッドの先には、巨大な光の玉が発生していたのであった。
「いや、指差したらバレるでしょ、ルービィ」
ルービィの行動に対し、そう指摘するエスメラルダ。
「ごめん、思わず……」
ルービィは苦笑いしながらそう謝った。
一方、トリトンとポセイドンはというと、
「一体いつの間にあのような魔力を!?」
「回避直後!? 早すぎる。あれもオーバードライブの魔法の効果だと言うのか?」
と、アルディアの様子を見ながらそう言葉にする。
だが、2体がそのような発言をしている時には時既に遅し。アルディアは高く掲げた両腕を振り下ろし、光の玉をトリトンに向けて放つ。
「しまっ……」
回避が間に合わない事に気づいたトリトンは思わず言葉を漏らすものの、その言葉が言い終わるよりも先にアルディアの放った光球が直撃。
巨大な魔法の攻撃を受けたトリトンはそのまま消滅をしたのであった。
そしてそれと同時に、アルディアから迸っていた白いオーラも消滅。彼女の発動していたオーバードライブの効果が切れたのであった。




