第1話
ヴァナディースより銀のロッドを授かり、打倒四柱帝の旅に出たアルディア。
ヴァナディースの言っていた『カスティード国』がある『北の大陸』を目指し、まずは北の大陸へ向かう方法を得るため、アルディアは昨日歩いた街道を再び歩き、アシェル村の隣町に位置する町『ゼブルンの町』へと向かった。
――ゼブルンの町
ゼブルンの町へ到着したアルディアは、早速北の大陸への行き方を聞く為、なじみの店を訪ねた。
「ごめんくださ~い」
「は~い。ってアラ、アルディアちゃんじゃない!!」
店の中からやってきた、店主と思われる恰幅の良い女性は、アルディアを見ると、驚いた様子でそう言った。
「おばさん、こんにちわ」
店主の女性を見ると、挨拶をし、一礼をするアルディア。
「どうしたのよアルディアちゃん。何かあったの?」
普段は一度の買い物である程度買い溜めをし、ある程度の日にちが経ってから、また、買い物にやってくるアルディアが昨日に引き続き訪ねてきた為、店主の女性としては何かあったのではないかと思い、アルディアに尋ねる。
「あの……えっと……、実はちょっと北の大陸にあるカスティードって国に行きたいのだけど、行き方がわからなくて……。それで誰か知らないかなと思って、とりあえずこの町に来たんです」
アシェル村の出来事を隠すため、言葉を濁しながら説明をするアルディア。
隣の村が四柱帝の襲撃を受け、滅んだなどという話をしてしまっては、隣町に住む者にとって不安を与えるだけであろう。理屈では理解できているわけではなかったが、なんとなく、そう思ったアルディアは、あえて、店主の女性にはアシェル村が滅んだ話は伏せて、話をした。
「北の大陸ねぇ……。アタシもどっかの町から船で行くってのはわかるんだけど、何分アタシもこの町の外の事はさっぱりでねぇ……」
店主の女性はそういうと、両手を腰にあて、顔を空に向けた。
そして、少し考えていると、何かをひらめいたかのように、
「ああ、そうだ! この町の酒場に行ってみてはどうだい? あそこなら旅の人たちもやってくるだろうし、誰か何か知っているだろうさ」
そういうと、町の中心部にある少し大きな建物を指さした。
「酒場……。ありがとう、行ってみます!」
アルディアはそういうと、店主の女性に頭を下げ礼を言い、女性が指さした方角へと歩いて行った。
「気をつけるんだよー!」
店主の女性は、町の酒場へ向かって歩いて行くアルディアにそう声をかけると、大きく手を振ったのであった。
――ゼブルンの町・酒場
店主の女性に教わった場所へ到着したアルディア。
初めて入る場所に戸惑いつつも、カスティード国への行き方を聞くため、恐る恐る、酒場の扉を開いた。
酒場の中は、冒険者や旅商人と思わしき者達が、各々のテーブルで豪快に飲食をしていた。
見たことのない光景に戸惑いつつも、カウンターテーブルへと向かうアルディア。そして、カウンターテーブルの空席についた。
「お客さん、ご注文は?」
カウンターテーブル越しに、店主と思わしき無精髭の屈強な男性がアルディアに声をかける。
「えっと……じゃあ、お水を……」
強面な容姿の男性におびえつつ、冷水をオーダーするアルディア。
店主の男性は何も言わず水差しの水をコップに注ぎ、
「はい、どうぞ」
と水が注がれたコップをアルディアに差し出す。
「ありがとう、ございます」
店主からコップを受け取ると、恐る恐る礼を言うアルディア。
そして、少しずつコップの水を飲みだした。
「……ところで、お嬢ちゃんみたいな子がこんな場所に、何しに来たんだ?」
水を飲んでいるアルディアにそう尋ねる店主の男性。
「えっと……カスティードって国に行きたいから、北の大陸へ行く方法が知りたいんです。よく行く雑貨屋のおばさんから、ここなら行き方を知ってる人がいるんじゃないかって聞いたので、それで……」
「北の大陸ねぇ……。それなら港町"ルベン"から船が出ている。そこから北の大陸に渡ればいい」
「港町ルベン……。そのルベンって町はどうやって行けば」
「その前に俺からもう一ついいか?」
アルディアの言葉を遮るように、アルディアに問いかける店主。
「あ、はい……」
アルディアは少し驚いたかのように、そう反応をする。
「お嬢ちゃんのような子がカスティードに行って、何をするつもりだ?」
「それは……、四柱帝を倒すためです!」
「何!?」
アルディアの言葉に驚いたかのような反応をする店主。
「私の故郷、アシェル村は四柱帝に滅ぼされました。家族も、友達も、みんな殺されました。生き残ったのは私だけです。だから、みんなの仇を討つために、四柱帝を倒したいんです!」
「そうか……お嬢ちゃん、アシェルの……。ってことは、昨日北の方からあがってた黒煙はアシェルからのか……」
アルディアの話を聞き、腕を組みながらそう言う店主。そして、一息つくと、
「お嬢ちゃん、悪いことは言わん。カスティードへ行くのは、ましてや四柱帝と戦うなんざやめておけ」
そうアルディアへ言った。
「どうして?」
店主の突然の言葉にそう答えるアルディア。
「この2年間、一体どれ程の戦士が四柱帝に挑んだと思う? どれだけの戦果が挙げれたと思う? 誰も彼も、四柱帝の一柱さえ、落とせなかったんだぞ? お嬢ちゃんみたいなのが挑んだところで犬死にするのは目に見えてる」
「でも、四柱帝は私の家族を、村の皆を……」
「勿論、お嬢ちゃんが大切な人を奪われ、その敵討ちをしたいという気持ちもわからないわけじゃあない。同じ思いの奴らは世界中にゴマンといる。だがな、わざわざ死にに行くような真似をする子どもを放っておく気には俺はなれねぇよ……」
「……」
店主の言葉を聞き、無言で俯くアルディア。
「アシェルが滅ぼされて行く宛がないならこの町で暮らせばいい。食うものや住むところなら、俺がしばらく面倒見てやる。あと、その水は俺からのおごりだ」
「ありがとう、ございます」
「とにかく、四柱帝と戦おうなんて無謀な考えは捨てるんだ。どうするかは、しばらく考えるといい……」
「はい……。わかり、ました」
アルディアはそう言うと、店主に一礼をし、店を後にしたのだった。
――ゼブルンの町
酒場にて北の大陸、そしてカスティード国への行き方を教えてもらったアルディア。
しかしながら、最後の店主とのやりとりが彼女の頭に残っていた。
「どうしよう……これから」
カスティード国を目指し、北の大陸へ行くか、このままゼブルンの町に残るか。歩みを止め、ヴァナディースより授かった銀のロッドを眺めながら、アルディアは今後の事を考えていた。
すると、突然、後ろから
「おーい、そこの金髪の君-」
という声が聞こえる。
聞き慣れない声のため、自分を呼んでいるのではないだろうとは思いつつも、声に反応し振り返るアルディア。
アルディアが振り返ると、声の主と思われるその人はアルディアに向かって大きく手を振り、アルディアのそばへと駆け寄ってきた。
「よかった-。気がついてくれて……」
声の主はアルディアのもとに辿り着くと、そう言った。
エメラルドグリーンの綺麗なマッシュヘアの髪にくっきりとした目鼻、白い綺麗な肌に小顔と、中性的な見た目をしている声の主は、背格好から年齢はアルディアと同年くらいと思われる。また、声は高い方であるとはいえ、男性のものとは思われる為、容姿から女性とも見れそうではあるものの、恐らく男性であると思われる。
「私に、何かご用ですか?」
突然呼び止められたアルディアは、声の主に問いかける。
「ごめん、急に呼び止めて。酒場で君がカスティードに行きたいって聞いたから」
「うん、まぁ……」
少し濁したような返事をするアルディア。
「ところで、あなたは?」
「あぁ、自己紹介してなかったね! 僕はエスメラルダ。君と同じくカスティードを目指しているんだ」
「私はアルディア」
エスメラルダと名乗る人に、自身も自己紹介をするアルディア。
「アルディアだね。ところで、アルディアはどうしてカスティードへ?」
「それは……」
エスメラルダの問いかけに対し、アルディアはこれまでの経緯を全て説明した。
故郷アシェルのこと、アシェル村の人のために四柱帝と戦おうとしていること、しかし一方で酒場の主人からは四柱帝と戦うことを止められ今後について迷っていること。
「成る程、四柱帝とね。って事は僕と同じ目的か」
「え!?」
エスメラルダの言葉に少し驚いた様子を見せるアルディア。
「エスメラルダも四柱帝と戦うつもりなの?」
「うん。僕も色んな人たちに止められたけどね。それでも、僕の目的のためにも四柱帝と戦いたいんだ」
「そう、なんだ……」
「だから僕は明日の朝、この町を出てルベンへと向かおうと思っている。アルディア、君はどうするんだい?」
「私は……」
エスメラルダの問いかけに今一度、自身の気持ちに向き合うアルディア。
四柱帝はこの2年、誰も勝てなかったと言われる相手。今までアシェル村とゼブルンの町しか知らなかった自分にとって四柱帝と戦うのは無謀だろう。確かに酒場の亭主の言うことは尤もなんだと思う。しかし、それでも、四柱帝はアルディアから村を、家を、家族を奪った相手であることには変わりはない。
「私は、やっぱり、四柱帝を倒したい!」
「そっか」
エスメラルダはそう言うと、にっこりと微笑む。そして、
「じゃあ行き先は一緒だ。明日の朝、僕と共にルベンへ向かおう!」
カスティード国へ向かう旅に、アルディアを誘った。
「うん!」
アルディアはエスメラルダの誘いに2つ返事でOKを出した。
こうして、アルディアはエスメラルダと共に、カスティード国へ向かうため、ルベンの町を目指すこととなったのであった。