第12話
「水……魔……?」
エスメラルダの言葉にそのように反応するアルディア。
「水魔って?」
アルディア同様、水魔の存在を知らないルービィは、エスメラルダに尋ねる。
「水魔ってのは魔族の一種で、水中に住んでいる魔族なんだけど……。っていうかルービィ、君同じ魔族でしょ?」
「いや~、アタシ自分以外の魔族とか会ったことないから」
「さいでっか……」
ケラケラと笑いながらそう話すルービィに、呆れたように返すエスメラルダ。
「しかし水魔は基本的に海上に現れないものだろう? どうしてここに?」
ザフィーアは水魔を見ながらそう言う。
「確かに。倒れているとはいえ、海上に現れるとは……」
ガトーも水魔を見ながらそう言う。
「目が覚めれば何か聞けるかもだけど……」
エスメラルダがそう言った、その時であった。
浜で横たわって倒れていた水魔は、ゆっくりと目を覚ましたのであった。
「ここは……?」
目を覚ました水魔は辺りを見渡しそう言う。
ガトーは一歩前に出ると、
「失礼。私はカスティード国の大臣ガトー。ここはカスティード国の北にある海岸です」
と、挨拶としながら説明をする。
「カスティード国……。では、ここにガブリエルを追い払った方がいらっしゃるところですね!?」
水魔は顔をガトーに近づけ、そう言う。
「半年前の出来事ですかな? 確かにあそこに居る彼女、アルディアが四柱帝ガブリエルを退却させましたね」
ガトーはアルディアの方に手を向け、そう言う。
突然振られたアルディアは、驚きつつも、軽く会釈をした。
「やはり本当だったのですね。よかった……」
ガトーからガブリエルを追い払ったということが事実であるということを確認すると、ホッと胸を撫で下ろした。
そして続けて、
「実は、折り入ってお願いがあるのです」
と話を続けた。
ガトーは、
「畏まりました。しかしながら、内容によっては私では判断いたしかねるものもございます。つきましては、女王陛下にお会いいただきたいのですが……。失礼ながら地上は大丈夫でしょうか?」
と水魔に尋ねる。
水魔は
「ごめんなさい。私たち水魔は水のないところでは……」
と申し訳なさそうに言葉を詰まらせながらそう答えた。
「畏まりました。では、女王陛下にご足労いただきますので、しばらくお待ちください」
ガトーはボウアンドスクレープをし、そう言うと、エクレールを呼びにカスティード宮殿へと戻ったのであった。
―――しばらくして
ガトーに呼ばれ、エクレールが北の海岸へと足を運んだ。
そして、水魔を見かけると、水魔の方へ近づき、
「ガトーが言っていた水魔、とは、あなたの事でしょうか?」
と水魔に尋ねた。
エクレールの言葉に続き、ガトーは水魔の方を見ながら軽く頭を下げる。
水魔は、
「そうです。私が貴女たちにお願いをしに来た水魔です」
と答えた。
「そうですか。……と、失礼しました。自己紹介が遅れましたね。ガトーから既に聞いているかもしれませんが、私がカスティード国の女王、エクレール・エル・カスティードです」
水魔に名乗る事を忘れていたエクレールは、少し慌てた様子で水魔に自己紹介をした。
「こちらこそ、名乗り忘れていまして申し訳ありません。私は水魔の『メリュジーヌ』。以前ガブリエルを退けた貴女方のお力を是非お借りしたく、今回はお願いにあがりました」
水魔メリュジーヌも自身が完全に名乗り忘れていたことを思いだし、少し申し訳なさそうに自己紹介をした。
「私たちの力をですか。可能な事であればご協力いたしますよ」
エクレールはメリュジーヌの申し出にそう答えた。
「ありがとうございます。では、早速本題に入ります」
メリュジーヌはエクレールにお礼を言うと、自身の要件を話始めたのであった。
「私たち水魔は、元々『サファイアドラゴン』様の加護の下、海の中で静かに暮らしていました」
「サファイアドラゴン?」
初めて聞く名前に、首を傾げるアルディア。
一方、エスメラルダは、
「サファイアドラゴン……。海の神と呼ばれる三神龍って話は聞いたことはあるけど……」
と、存在自体は知っていたらしく、そう言いながらザフィーアの方を向いた。
ザフィーアも
「まさか実在するとは……」
と、同じく存在自体は知っていたものの、実際に存在するものであることまでは知らなかった様子であった。
「ごめんなさい、お話を続けても大丈夫でしょうか……?」
「ああ、申し訳ない。お願いします」
話の腰を折ったことをメリュジーヌに詫びるザフィーア。
「すいません、では続けますね」
メリュジーヌはそういうと、話の続きを始めた。
「さて、私たち水魔は先ほど申し上げた通り、海の中で静かに、しかしながら平和に暮らしていました。しかしながら、2年前、四柱帝ガブリエルが現れてから一変しました。ガブリエルは自身が作り出した多数のクリーチャーと共に現れると、私たちが住んでいた『海底城』を占拠しました」
「海底……城……?」
またしても初めて聞く言葉に首を傾げながらそう言うアルディア。
メリュジーヌは、
「はい、海底城です」
と返すと、話を続けたのであった。
「海底城とはこの海の北、『黒海』と呼ばれるエリアの海底にある、元々はサファイアドラゴン様の住まわれていたお城です。しかしながら、2年前、ガブリエルに乗っ取られて以来、現在、海底城はガブリエルの居城となってしまい、私たちはサファイアドラゴン様と共に海底城を追われ、海底の洞窟に身を潜める生活をしております」
「成る程……」
メリュジーヌの話を聞き、そう言うエスメラルダ。
そして続けて
「もしかして、要件ってのは、君たちの城を乗っ取ったガブリエルを僕たちに倒して欲しい、って事かな?」
とメリュジーヌに問いかけた。
メリュジーヌは、
「はい、その通りです」
と答えた。
そして続けて
「この2年間、ガブリエルに限らず四柱帝に挑んで散っていった方々が多々いらっしゃるということは私たち水魔の耳にも届いております。しかしながら、半年前、貴女方はあの四柱帝を撤退させた、という結果を出されています。もしかしたら貴女方ならあのガブリエルを何とかしていただけるのではないか、と思い、お願いに上がりました」
とアルディア達にお願いをした。
「成る程。ご用件はわかりました」
メリュジーヌの話を一通り聞き、エクレールはメリュジーヌにそう言った。
そして続けて
「私たちとしましても、四柱帝を倒したいという思いは同じです。可能であればお力になりたいというのが私の本音でもあります。しかしながら、先ほどのお話を聞いた限りですと、1つ、問題があります」
とメリュジーヌに話した。
「問題……ですか?」
エクレールの言葉にそう尋ねるメリュジーヌ。
「はい。貴女は先ほどガブリエルの居城は海底にある海底城と言いました。しかしながら、私たち地上の者は貴女方水魔と違い、海底に潜り、活動する術がありません。海底に行く術がない以上、力を貸したくとも、貸せないとしかお答えができないかと……」
「成る程、そうですか……」
エクレールの言葉を聞き、そういうと右手を顎にあて、少し俯くメリュジーヌ。
「ごめんなさいね。決して貴女方の助けになりたくない、というわけではないのですが……」
エクレールはフォローを入れるかのように、メリュジーヌにそう言う。
「いえ、大丈夫です。それに確かに貴女の仰る通りですね……」
メリュジーヌは俯いたまま、そう答える。
そしてそのまま、少し沈黙を続けると、
「もし、もしかしたらですが、サファイアドラゴン様なら何か手はあるかもしれません」
と、メリュジーヌは思いついたかのように言葉を発した。
「サファイアドラゴン……ですか?」
エクレールはメリュジーヌにそう尋ねる。
「はい。確かに私では貴女方を海底にご案内する術はありません。しかしながら、サファイアドラゴン様であれば、あるいは可能かもしれません。ですので、もしよろしければ数日ほど、お時間をいただけないでしょうか? サファイアドラゴン様が皆様のところへ来ていただけるよう、お願いをしてみます」
「そうですか……わかりました」
メリュジーヌの提案を聞き、そう答えるエクレール。
そして続けて、
「では、また日を改めましょう。貴女が来ても対応できるよう、私たちも北の海岸の巡回を行うようにします」
と、メリュジーヌに伝えた。
「ありがとうございます。では、よろしくお願いいたします」
メリュジーヌはエクレールにお礼を言うと、そのまま海の中へと潜っていったのであった。




