第9話
ザフィーアの魔剣技『氷波』を合図に始まった四柱帝ガブリエルのクリーチャー軍団との戦い。
ザフィーア、ルービィ、エスメラルダの活躍により、カスティード側が優位な状況で戦いは進んでいた。
しかしながら、完全に無傷で戦いが進んでいるわけではなく、カスティード側も徐々に負傷者を増やしていたのであった。
―――戦場・後衛にて
負傷した兵士、傭兵を治療するため、後衛に待機していた治療班がここで活動をしていた。
今回はカスティード軍が優勢であったこともあり、戦闘が始まって程なくの頃は治療班の出番は殆どなかったと言ってもよい程であった。
しかしながら、戦いが長引くにつれ、徐々にカスティード軍の負傷者も増えてきたこともあり、治療班の出番が増加していった。
そしていよいよ、後衛の治療班だけでは手が回らなくなりはじめ、中衛にてサポートにまわっていたエスメラルダも後衛の治療に加わることになった。
「ごめんルービィ」
ルービィに向かってそう叫ぶと、ルーンの魔法を解除するエスメラルダ。
そして続けて、
「僕も負傷者の治療にまわるからこれ以上サポートはできない。だから今からはこれまで以上に敵の攻撃に気をつけて!」
そういうと、治療班の方へ向かって走って行った。
ルービィはというと、
「おっけー! とにかく攻撃を受けなきゃいいんでしょ」
そういいながら、炎を足に纏わせ飛び回し蹴りをし、空中のクリーチャーへと攻撃をした。
―――戦場・前線にて
「攻撃を受けなければいい、と。確かに言うのは簡単だが……」
ザフィーアは敵のクリーチャーを刀で斬りながらルービィに話しかける。
「接近戦を得意とする魔拳法では中々厳しいのではないのか?」
「まぁ確かにそうだけど」
ルービィはザフィーアにそう言うと、大きく一歩引き、左腰付近で両手を合わせ、魔力を溜め始めた。
そして、ある程度魔力が溜まると、
「『火炎砲』」
と叫ぶと共に、左腰付近に構えていた両手を前方に突き出し、溜めていた魔力を直線状の火炎放射として敵のクリーチャー軍団に向かって放ったのであった。
そして、放ち終えると、ザフィーアの方を向き、
「いちおーこーいうこともできるからさ~」
と、言うのであった。
「成る程」
ザフィーアはルービィにそう答えるのであった。
―――戦場より一歩後ろにて
「今のは……?」
「魔力を溜めて、光線状に放ったわけですね」
アルディアの問いに対し、そのように答える学者風の男性。
そして続けて、
「先ほどまではエスメラルダ殿が水属性の攻撃から身を守るための魔法があったため、ルービィ殿もそこまで気にせず接近戦に持ち込めていたわけです。しかしながら、エスメラルダ殿が治療にまわり、保護魔法も展開できなくなったため、遠距離での戦い方に切り替えた、というところでしょうか」
と説明をした。
アルディアは「へ~、そーなんだー」と言わんばかりの顔で、学者風の男性の話を聞き、頷くのであった。
「しかしエスメラルダ殿の魔法による保護は、ルービィ殿に限った話ではないわけですが……。この後の展開、どうなっていくのでしょうかね」
学者風の男性は、眼鏡をクイッとあげながらそう呟いた。
するとその時、
―――戦場・前線にて
「おいおい、これはどういうことだよ」
突然、海の方から聞き慣れない声が聞こえる。
「おいおい、この状況どう説明するよ」
今度は先ほどのものとは別の、聞き慣れない声が海の方から聞こえた。
そして突然、海の方から紺色と黒色のサメが2体、現れた。
見た目こそサメの姿をしているが、体はそれぞれ紺色、黒色の単色で、更に目つきはサメというよりは猟犬のような鋭さをしており、瞳についても紺色の方は左右がそれぞれ紅色と黄色のオッドアイ、黒色の方は左右がそれぞれ黄色と藍色のオッドアイをしていた。
その姿から生物ではなく、クリーチャーであるということが瞬く間にわかる程度であった。
そして2体とも、今までのクリーチャーと比較しても、明らかに強大な力を持っているということも、瞬く間にわかる程度ではあった。
「何者だ、お前達」
ザフィーアは手に持っている刀を構えながら、サメ型のクリーチャーに尋ねる。
ルービィもその横でいつでも戦えるよう、拳を構えていた。
「我か? 我が名はポセイドン」
ザフィーアの問いかけに対し、先に答えたのは紺色のサメ型のクリーチャーであった。
そして続けて、
「我が名はトリトン」
黒色のサメ型のクリーチャーも名乗った。
「我らは四柱帝『海帝ガブリエル』様の一の僕」
「我らは四柱帝『海帝ガブリエル』様の側近」
「我ら、ガブリエル様の支配する海を守護する者」
「我ら、ガブリエル様の支配する海を脅かす敵を討ち滅ぼす者」
ポセイドン、トリトンと名乗ったクリーチャー達は、円を描きながら海を泳ぎ、話をした。
「四柱帝の側近!?」
2体のクリーチャーの言葉に戸惑うカスティードの軍勢。
と言うのも、今回の戦まではガブリエルのクリーチャー達との小競り合い程度のものであった。そのため、側近クラスのようなクリーチャーが出ることはなく、そもそもがガブリエルの配下に側近と呼ばれるようなレベルのクリーチャーが居るという事実さえ知らなかったのであった。
しかしながら、今回、ザフィーア達の活躍により、ガブリエル軍に大きなダメージを与える事に成功した。しかしその結果、側近クラスのクリーチャーである、ポセイドンとトリトンが初めてカスティード軍の前に現れたのであった。
「海がガブリエルの支配下? 何言ってんの?」
「海は誰のものでもない。自惚れも甚だしい」
戸惑うカスティード軍勢を横目に、ルービィとザフィーアはポセイドン、トリトンにそう言う。
「ふふ、随分と威勢がいいな」
「だが、我らの力を目にしても、同じ事が言えるか?」
そう言うと、ポセイドン、トリトンは泳ぐのをやめ、ザフィーア、ルービィの方へ近づく。
ガブリエル軍の幹部との戦闘が始まる。
ザフィーア達の状況を見た周囲がそう思った、そのときであった。
ポセイドン、トリトンの後方より、天にまで昇る程の、高い水柱が勢いよく立ち上がった。
その水柱は、勢いに任せたまま立ち上がった後、勢いが収まると共に海面へと降りてくると、海面より1メートル程度の高さを維持したままの状態でその場にとどまった。
そして、天より、水柱目がけ、何者かが降りてきた。
天より降りてきたソレは、水柱のところへ到着すると、水柱を椅子代わりにして座るのであった。
「おいおい、これはどういうことだ?」
水柱に座っているソレは、戦場を見て、そう言う。
浅黒い肌に、銀色の髪を後ろで束ねた姿をしているソレは、顔だけ見れば耳が尖っているあたり、魔族のように思われる容姿をしているが、正面を向いていてもわかる程の大きさの背びれが左右に一つずつ、肘の部分にもひれがあり、更に肘から手にかけては鱗状の肌をしており、そして下半身が魚の尾びれのような姿をしていた。
そのため、魔族とも異なる生物で、更には水柱を一定の高さでキープをするという芸当ができる辺り、只者ではないということは、その場に居た一同は瞬時に把握できた。
「これはこれは」
「いらしていたのですね、『ガブリエル様』」
ポセイドン、トリトンは水柱に座っているソレに、そう話しかける。
「「ガブリエル!?」」
ポセイドン、トリトンの会話を聞いていたカスティード軍のメンバーは、ガブリエルの名を聞き、驚きのあまり、そう叫んだのであった。




