プロローグ
遠い宇宙の彼方にあるとある小さな星……。
星の魂【アニマ】の恩恵により、その星に生ける全てのものは『魔法』と呼ばれる不思議な力を使うことが出来た。
魔法の力は星の生ける者と共存し、そして文明の発展に大いに貢献をしていった。
生活に、仕事に、医療に、そして、戦の道具として……。
時は、フレイア歴9398年。
東西南北に分かれた四大陸を、四大陸の中央に位置する小さな大陸『中央大陸』が統治している平和な時代。
中央大陸に唯一存在する都市『聖都ニルヴァーナ』。世界の中心となるこの都市の統治者である教皇がこの年、病で倒れ、急遽、次代の教皇が即位をした。
新たなる教皇『ルクレツィア・クラウディウス』。齢12にして教皇となった彼女は、まだ、統治者としての教育を受けぬまま、我儘三昧で育てられてきた。
そんな彼女は、教皇に即位して早々に、先代教皇の平和路線を廃止。恐怖と力による支配の方向を打ち出した。そして、禁術により『冥界』と呼ばれる異界に住まう4柱の化物『四柱帝』を召喚し、世界を戦乱の世へと陥れた。
突然召喚をされた化物に対し、始め、戦える者達は四柱帝へと戦いを挑んだ。
だが、四柱帝達の桁違いの力を前に、戦いを挑んだ者達は皆、散っていった……。
そして、ルクレツィア教皇と四柱帝達による恐怖の時代が始まってから、2年の月日が経過をした……。
【東の大陸】
中央大陸から海(内海)を挟んで東側に位置する、外海側に広大な山脈がそびえる大陸。
東西南北に位置する大陸のうち、最も自然に恵まれており、また、気候も温暖であるため、東の大陸は全ての大陸の中で最も多くの生物が生息をしている。
この、東の大陸の北部に位置する小規模な村『アシェル』。
そして、この村に住む少女『アルディア』。二つ結びの三つ編みにしたボサボサの金色の髪、太めの眉、低い鼻にそばかすと、お世辞にも美しいとは言い難い容姿をした13歳の少女だが、裏表のない明るい性格のため村の者からはとても好かれていた。また、年不相応な妖艶な紫色をした瞳が、彼女に不思議な魅力を持たせていた。
――とある日
この日は母よりお使いを頼まれ、アルディアは隣町まで買い物へ出掛けていた。
そして、買い物を済ませ、街道を歩き村へ向かおうとした矢先、巨大な爆発音とともに、アシェル村の方角より黒煙があがりはじめた。
「な、何……!?」
突然の出来事に戸惑うアルディア。
しかしながら、村の、そして家族の安否が心配になったアルディアは、戸惑いつつも、足早にアシェル村へと向かって行った。
――アシェル村
「はぁ……はぁ……」
爆発音を聞きつけ、息を切らしながらアシェル村へと戻ったアルディア。
しかしながら、彼女が戻った時には既にアシェル村は焼け野原へと姿を変えていた。
「そん……な……」
変わり果てた村の姿に落胆をするアルディア。
だが、家族の安否が心配なアルディアは、すぐさま、村の外れにある自身の家へと向かった。
しかしながら、自身の家へと辿り着いた彼女に待っていたのは、更なる絶望であった。
「嘘……」
自身の家へと辿り着いた彼女が目撃をしたのは、村同様、焼け野原と化した家の姿、そして、かろうじて人の形をしているものの、黒焦げになった彼女の家族の姿であった。
「そんな……。お母さん……、皆……」
家族の変わり果てた姿を見て、その場で膝から崩れ落ちるアルディア。
「どうして……、どうしてこんなことに……」
「酷い有様ね」
涙を流し呟くアルディアの背後より、突然聞こえた女性の声。
聞き慣れない女性の声に、アルディアは顔を上げ、背後を振り向く。
すると、村や出先の町では見たことのない、ウェーブのかかった銀色の長い髪をした美しい女性が立っていた。
「貴女は……?」
背後に立っている女性に問いかけるアルディア。
「……ヴァナディース。ただの旅人よ」
『ヴァナディース』と名乗る女性は、アルディアにそう答えた。
そして続けて、
「貴女は、"四柱帝"を知っているかしら?」
とアルディアに問いかける。
「四柱帝?」
「そう、四柱帝。今より2年前、聖都ニルヴァーナの新たなる教皇として即位した"ルクレツィア・クラウディウス"が禁術を用いてこの世界に召喚をした冥界の皇帝達。それが四柱帝」
「冥界? 皇帝?」
初めて聞く内容に理解が追いつかないアルディア。
ヴァナディースの語る話は、世間では知らぬ者のほうが珍しい内容ではあるものの、買い物を頼まれた時以外アシェル村より出ないアルディアにとって、ヴァナディースの語る外の世界の話は、理解し難い内容であった。
「この世界に召喚された四柱帝達は、各々が我が物顔でこの世界を支配していった。当然、この村のような被害が出た町や村も、数えられないくらい、世界各地で出ているわ」
「私の家族を、村を、こんな風にしたのも、その四柱帝?」
「……この村の方角から爆発音が聞こえる前、飛行する物体を見た。恐らく、この東の大陸を支配している四柱帝"妖帝ラファエル"の配下の"魔法で造られた生物"だと思うわ」
「……どうして、どうしてその妖帝ラファエルは私の村を襲ったの? どうして世界中に被害が出てるのに、何故、誰も四柱帝を倒さないの!?」
自身の村を襲った四柱帝の名を、そして、四柱帝が世界中で被害を出しているという話を聞き、ヴァナディースに問うアルディア。
「アシェル村を襲った理由は……恐らくないわ。もし、あるとすればただの戯れ。四柱帝の破壊活動の理由なんて、そんなものよ」
「!!!!」
ヴァナディースの話に、言葉が出ないアルディア。
しかし、ヴァナディースは続けて
「それに、この2年間、数多くの名だたる戦士達が四柱帝に戦いを挑んだわ。だけど、誰も四柱帝の一柱すら倒すことができなかった。……残念だけど、これが現実」
と、アルディアに誰も止めることができなかった現実を語った。
ヴァナディースの話を聞き、俯くアルディア。だが、少し経ってから顔を上げ、
「だったら、私が四柱帝を倒します!」
と、力強く、ヴァナディースに言った。
「本気で言っているの!? この2年間、誰も一柱すら倒せなかった相手なのよ? この村の外の世界すら知らなかった貴女に勝ち目があると思っているの!?」
アルディアの言葉に驚きを隠せないヴァナディースは、強い口調で、そうアルディアに問いかける。
「わからない。でも、このままでは私みたいな人がまた出るんでしょう? もう、こんな思いをするのは私が最後にしたい! だから、私が四柱帝を倒すの!!」
「……」
アルディアの言葉に、目を閉じ、少し考え込むヴァナディース。
そして、少し考えた後、ふぅーっと一息つくと
「……わかったわ。貴女が本気なら止めはしない。せめての餞別として、これを持って行きなさい」
そういうと、アルディアに全長30㎝程度の銀製の杖を差し出した。
「間違いなく過酷な戦いの旅になる。せめて身を守る道具くらいは持っていきなさい」
「ありがとう……ございます」
アルディアは銀のロッドを受け取ると、ヴァナディースに礼を言い、頭を下げた。
「それと、貴女が本気で四柱帝と戦うつもりなら、まずは"北の大陸"にある"カスティード国"という国を目指しなさい。そこの女王は今も四柱帝を倒すために戦っているわ」
「北の大陸……。カスティード国……。わかりました」
「それじゃ。貴女の旅の無事を祈っているわ」
ヴァナディースはアルディアにそう言うと、アシェル村を後にした。
去りゆくヴァナディースに、アルディアは何も言わず、深く一礼をした。
ヴァナディースが去った後、アルディアは自身の家の跡地に穴を掘り、そこに自身の家族の亡骸を埋葬し、手を合わせた。
そして明朝、日の出と共に、アルディアは四柱帝を倒す旅に出るため、アシェル村を後にしたのであった。