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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

口は災いの元

作者: 時田翔

 雑然とした話し声と店員の声。

 友人と飲みに来た居酒屋は大盛況だ。


 どこからか漂ってくる焼き物の匂いに、腹が減ってもいないのに食欲が沸く。

 不思議な現象だ。脳の不具合としか言いようがない。


「でな……って、おい聞いてるか」

「ああ、すまん。なんの話だった?」

「ちゃんと聞いてくれよ。また先生の悪いクセが始まったんだ、時間もないってのに」


 テーブルの反対側に座る友人は、やや乱暴にビールのジョッキを置くと、酒臭い息を吐く。

 最近は会うとこの調子だな。

 念願の編集者になったと喜んでいたが、良いことばかりでもないらしい。


「でも、先生の希望に沿うよう二人三脚でやっていくのも仕事のうちとか言ってなかったか?」

「それも限度ってもんがあらぁ! なにが取材旅行に行かないと書けないだよ、それならもっと前に言ってくれよ!」


 そういえば、こいつの担当してる先生、旅行が趣味だとか聞いたな。

 そりゃスケジュール調整も難航するってものだ。


「いや俺だって色々考えたさ。動画じゃダメだって言うから、わざわざVRまで用意して。そしたら何て言ったと思う?」

「さあ……」

「匂いや味も欲しいってよ! むり言うなって!」


 まあ一般に流通してるVRなら、せいぜいゴーグルとグローブつけるくらいだ、そんなおもちゃで嗅覚や味覚なんて望むべくもない。


「苦労してるみたいだな」

「まあな、研究室に籠ってれば良いお前が羨ましいよ」


 またこれだ。

 悪いやつでは無いんだが、どうも一言余計なんだよな。


「そういえば、僕の研究室に新型のVRシステムがあるんだが試してみるか? その程度なら思いのままだぞ」

「本当か!」


 思わず立ち膝になるくらい食いついてきたな。


「そいつは良い! すぐにでも頼めるか?」

「他ならぬお前の頼みだ。ただ研究室から動かせないから、先生が……できれば一人で来てもらいたいんだが」

「ああ、そのくらいならお安い御用だ、やっぱ持つべきものは友だな」


 すっかり機嫌を良くした友人は、払いは任せろとまで言ってくれた。

 しかし思わぬところで協力者が見つかったもんだ。

 ほんと、持つべきものは友だよ。



 数日後。

 僕の研究室に怒り狂った友人がやってきた。


「おい!」

「なんだ、ずいぶん乱暴な訪問だな。ドアだってタダじゃないんだから壊さないでくれよ」

「なんだじゃねえよ! うちの先生をどこに隠した!」


 友人は目が血走り、肩で息をしている。

 やはり連絡くらいはしておくべきだったか。


「心配するな、先生なら目の前に居るだろ」


 僕は後ろにある、大きなカプセルを指差す。


「なんだこれは!」

「もう忘れたのか? このまえ話した最新のVRシステムだよ。人の五感の情報は全て脳に集約される。ならお望みの景色を体験するだけなら身体は不要だ」


 摘出した先生の脳は、カプセルに満たされた液体の中に浮かんでいる。

 既に信号を送るための電極は装着済みだ。

 今ごろは、存分に脳内旅行を楽しんでることだろう。


「あっちのパソコンでは、脳波を読み取って文字にしている。作品を書くのに、わざわざ手を動かす必要もない」

「いや、そういう問題じゃないだろ」

「なぜだ? お前は先生の我が侭を聞かなくてすむ。先生は望みの通り旅行ができる。そして僕は研究が進む。誰も損はしてないぞ」


 友人が、額に手を当てて、天を仰ぎ見る。


「……お前の話に乗った俺がバカだったよ」

「だてに研究室に篭ってるわけじゃないさ。ほら、昔からよく言うだろう?」


 僕は、にんまりと笑った。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは、御作を読みました。  その能力を他に使おう( ̄▽ ̄)  教授も難癖ばかりの方だったようですが、口は災いというより、ごく一般にミゴ的な人が混じってる方がホラーだよ。  オチに愕然…
[良い点] オチがブラック目で良かったですw
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