(6)
優子ちゃんがなにを言いたかったのか、いまなら少しだけ分かるような気もする。ぼくは、ぜんぜんそんなつもりじゃなかったけど、えらそうで、みんななかよく、みたいなことを押しつけようとしているんだと思われて、それがいやだったのかもしれない。
ハートも星も優子ちゃんはいらないだろう、がいこつとか、十字架とか、そういえばハートは心臓のことだけど、そういうシールをはったライターで、国語の教科書を燃やすんだと思った。つまらない、ってだけで。もしも優子ちゃんが神さまだったら、星のかわりに夜空に、一面、がいこつを光らせて、かたかた、笑わせるだろう。
「こわい」
「ついてこないで」
「ぼくも、てっぺんに行くんだけど」
「まねしないで」
「まねしてない。いつもこのへんで遊んでるし」
「ひとりで遊んでるの」
「うん」
「なにやって」
「え。なんか、神社とかで」
「なにやってん」
「そんなふうに聞かれると、なにやってるか分かんない。虫とか、草とか探したりして」
「へえ」
「なに、笑ってんの」
「馬鹿みたい。なにがたのしいの」
「なんで、そんなこと言うの」
「だって、つまんなそうじゃん。そんなことでひまつぶしできるとか、馬鹿みたい」
「優子ちゃんは、なにするの」
「子供みたい」
「いいから」
「ちいさいときって、風邪ひくとうれしかったりしない。三十七度くらいの中途はんぱな熱だとさ、なんか興奮しちゃうよね」
「うん。え、なにそれ」
「って言ってた」
「誰が。優子ちゃんが」
「バス停にすがりついてね、わたし、まだ半分なのかと帰り道の長さにうんざりして、バスで二十分なんだけど、歩いて何分になるだろうって、頭がかっかしてて、なにから考えればいいのかも分からない。それで、
「おなかすいた」
「うん」
って、それで、はっとして顔をあげると、ベンチに、浴衣を着たふたりがすわってた。柄と色、なんとなく男の人と女の人みたいだった。バスの、なんて言うの、待合所で、月の光から、雨やどりするみたいに、くっついてた。
肩から上はまっくら闇の夜に溶けて、顔のないふたり、指の先だけやけに白くて、やわらかくて、ひらひら、おどらせながら、わたしにかまわず話をつづけてて、
「なに食べようか」
「でもけっこう食べたよね」
「たこ焼きとか、かき氷とかだから、まだ入るよ」
「もうお金ない」
「じゃあいいよ」
「花火」
「なかったね」
「なんでだろうね」
「天気いいのにね」
「まあいいけど。また今度」
「今度、いつ」
「いつがいい」
「いつでもいい。来月、水族館ができるって」
「じゃあ、それ行こう」
「いいよ」
風のすじがばらばらになって、こっちのほっぺたをなでたの。
ベンチのふたり、まだわたしに気づかないんだか、気づかないふりなんだか、
「さっき売ってたよ、駅に。花火」
「そう」
「部屋のなかでやったことある」
「なにを」
「花火」
「ないよ」
「やろうか。きれいだよ、案外」