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柴村勇樹の憂鬱な時間

憂鬱だ。

終電での車内で独り言ちる


まぁ仕事も一段落ついて明日からの連休でリフレッシュしたいところなのだが、

憂鬱なのは、もう少しで駅に着くというのに厄介な奴がでたことだ。


柴村勇樹、二十八歳。バツイチ独身・子供なし。

現在付き合っている彼女もなし。

現在の悩み。前の車両から這ってきた女の霊をどうにかしてほしい。

・・・女の霊をどうにかしてほしい。

切実なので二回言いました。


視える体質のため夜中は動きたくなかったのだが、今日こそは家でぐっすり寝たかったのだ。

イスを並べて寝るのも、机の下に頭を突っ込んで寝るのもしたくない。

最近、視えていなかったので油断した。


まぁ、こういった霊は反応したら憑いてくるから無視するに越したことはない。

俺はスマホで小説を読みながら、奴を目に入れないようにしていた。


終電とはいえ、この車両にも人は乗っている。

俺は車両の一番後ろの扉に近いシートに座っているが、車両の前のほうには数人の乗客がいる。


その客らの顔を下から覗き込むように見上げ反応を確かめている。

カサカサ動き、じっと覗く。


腕を組んでイヤホンで曲を聴いている若い男・・・・

酔っぱらって熟睡している中年・・・・

ちょっと化粧が濃い目な若い女・・・・に移動する前にその女がこちらに移動してくる。

どうやら、あの女には奴が視えているらしい。


何気ない様子を取り繕い最後尾のドア前に立つが、硝子に映る顔は引きつっている。

奴は女の行動に気付いているようで嬉しそうにカサカサ這いよって、ついでとばかりに

俺の顔を覗き込む。


俺、スマホ画面に集中・・・

足元に奴の影がチラチラ見え、反射的に見てしましそうだが耐える。

もう駅に着く。それまでの辛抱だ。


奴は俺を通り過ぎ女の後ろまで近づいている

『ネ・・・キコ・テル・・ェ・・・』

奴は床面から女に声を掛けている


女は聞こえない振りをしているが、それだけ体が震えていたら丸わかりだろう。

『・・キコエテルヨネェ!!』

奴が女の足を取ろうとしたと同時にドアが開く。


女は一目散に飛び出していった。

とり憑くのに失敗した奴の頭を後ろから踏みつける。


しなびた風船が割れるようなフシュンといった音を立て奴が消える。

この程度で成仏したわけではないだろうが、俺が通る間の時間稼ぎにはなるだろう。


改札をでたところで先ほど駆けだした女がいた。

「あっ・・あの・・・あなたも、あ・・あ、あれをみたのでしょ?」


まさか声を掛けてくるとは思わなかった。

「アレ?あれとは、何のことです?」

「う・・嘘よ!あなた、アレが近くにいたとき不自然に固まっていたもの!視えていたはずよ!」


ちっ。いらぬところで冷静な奴だ。

「やっぱり、視えていたのね?ねぇ、私怖くて一人で歩けないの。送ってくれない?」


見た目は良い感じだし下心がある男なら送っていくだろう。

・・・だが断る!


「この時間なら向こうの出口でタクシーが2,3台止まっているから、それで帰りな。俺は、まだやることがあるのだよ」

俺は近くのベンチに座り、カバンから出した除菌シートで靴を拭く


俺の対応に腹を立てたのか、女は顔を赤くさせタクシー乗り場へ消えていった。

あの女には関わりたくはないからな。

俺もとっとと帰って、あったかい布団で寝てしまおう。





自宅でぐっすりと寝られた俺は、気分爽快で目が覚めた。

昨日の憂鬱もすっきり解消だ。

朝食というより昼食だが、飯の用意をする間にテレビをつけ、ローカルニュースを聞き流す


『・・・昨夜未明、路上で刺された女性が搬送先の病院で亡くなりました。現場では・・・』

被害女性の顔写真がテレビに映されたのを、チラ見する


「やっぱり、そうなったな。まぁ、あれだけ囲まれていたら逃げられんわな。」

昨夜の女の様子を思い浮かべる

死んだ奴は視えても、自分の周りは視えていなかったようだ


暗闇にいた女を睨みつける男の生首や腰回りにしがみつく赤ん坊が視えていたから、

関わり合いになりたくなかったのだ。


あれだけ恨まれるって何をしたのだか知らないけど、死んでいる奴らより生きている人間の方が怖いってもんだよ。


さぁ、パンも焼けたから飯を食って洗濯でもしようかね。



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