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ドナドナ・ドナ


特に捻りはありません(直球)


 天空の男。もといセルはちょっとコンパクト過ぎる荷車に乗せられ、墜落したメテオフォール村からピッケルツルハシまで運ばれていた。


「もうすぐで街道に出る。まあ急いでもあと2時間ほど掛かるだろう。しかし、すっかり日が落ちてしまったね。トキゾウ君、前方は?」

「敵影無し。問題無いでござる」

「よし。テップさんは?」

「………ブラブラ」

「ぶらぶら?」

「……ブラブラ、とてもブラブラしています」

「…後方は大丈夫なのか、聞いてるんだけど?」

「…はっ!あはい。問題ありませんっ!…と思います? その、私にはついていないもので、何とも…」

「はあ…。トキゾウ君、念の為にテップさんと後方の警戒代わって貰える?」

「…できれば、ご容赦願いたく申しあげる」


 衛兵副長のピアンがセルを乗せた荷車を曳き。その前方を新人衛兵であるトキゾウが任され、周囲を警戒する。特にこの中でトキゾウは優れた攻撃スキルを持っている為でもあった。そして荷車の後ろで後方の警戒を任された同じく新人のテップは先程から眼前にあるものに夢中になってしまっていた。ただそんな彼女だが、期待の新人に名を冠するほどの能力を持ってはいた。


 九つの山と森、そして3つの海に囲まれたバラモアの中心的な街とも言える鉱山都市エピック・ピック。通称エピックツルハシから郊外へと伸びる街道は他の村々に旅人や商人を、7つのダンジョンへと冒険者を運ぶ…この国のいわば動脈だ。そしてその近辺ではモンスターの他に野盗の類が多く潜伏しており、常に獲物を狙って探し回っている決して油断ならない場所でもあった。


 日が落ちた中、その街道を進む3人の衛兵ともうひとりの全裸も既に、目を付けられていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 私はドナ。私を拾って育ててくれたオジサンが自分の死んだ娘の名前を私にくれたの。


 私は亜人種のシーフって種族なんだって。オジサンが教えてくれた。

 オジサンも亜人種。ゴブリンとの混血でブッシュワーカーっていう種族なんだってさ。


 私はオジサンと今夜も獲物を探してた。街道が微かに見えるほど離れた雑木林の中から様子を伺う。私達の種族は街で住む事を公には許されていない。他人から物を盗むスキルしか使えないからなんだって。だからずっと森の中で暮らしてる。オジサンも月に何回か必要なものを手に入れる為に街に忍び込むだけだ。街か…暗くてもキラキラ明るくていいよね。私も一度くらいは…と思ったら私のスキルが反応した。


「踏んだよ、オジサン。獲物をマーキングできた」

「よし!距離は300ってとこだな。一応脅し用の弓はいつでも構えられるようにしとけよ?」

「うん。…踏んだのは車輪がついた…荷車みたいだよ。でも小さいなあ? 重さからして何か積んでるのは間違いないね。足音も周りに…3人だね」

「ああ、3人だな。しかし、あの恰好は街の衛兵だな。獲物にするには分が悪い…仕方ない、今夜は諦めて帰るとするか」


 私達シーフ系の種族は五感が鋭く、特に目がいい。暗闇でも数百メートル先のものを明確に目で捉えることができる。特にオジサンは私よりも凄いんだから。


「…しかしだ。衛兵がこんな夜になにしてやがるんだ? 荷車に乗せてるのは人間か? 恐らく死体だろうが、裸の男を野ざらしで運ぶなんて随分と酷い真似をしやがる…!? 衛兵自体が夜に街道を歩くことはそこまで珍しくもないが気になるな…ドナ、お前のスキルで奴らの声が聞こえるか?」

「うん。荷車をマークしているから問題ないよ。…ん」


 私は常に街道の数ヶ所にマーキングスキルで標をつけている。これは微かに私の血を混ぜた土でバレない程度にマークを描く。これに何らかの対象が触れるとマークが自動的に転写される。そしてマークした相手の周囲を感覚的に感じ取ったり、遠距離でも私のスキルの対象範囲内にできるんだ。


 私は盗み聞きスキルを使い、神経を研ぎ澄ます。まあ、相手に気取られても問題ない。なぜならコッチにはオジサンの潜伏スキルが発動中だ。万が一にも見つかるはずがない。私達はこれまでずっとこうして上手くやってきたんだから。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「…にしてもですよ? ピアン副長、彼は一体どこからやって来たんでしょうね…」

「テップさん、前方の警戒をよろしく頼むよ? ただ、そうだな。あの話を聞いて気にならない者はいないだろうね。天空の男…人間が火の玉になって降ってきたなんて話を聞けばね…」

「やっぱりスキルですかね? 自分が使った、とは考えづらいから誰かの炎スキルかなんかで火の玉の中に閉じ込められて飛ばされた。とかですかね?」

「イヤイヤ、確かにそんな滅茶苦茶なスキルがあればできるかもしれないが。それだと無事だった彼がやはり異常過ぎるだろう? 激闘の末に彼が何処からか飛ばされてきた場合、彼は下手すると街ひとつ消し飛ばせるほどの実力者かもしれない危険人物ということになるよ? 仮にそうだとすると、彼と同等以上の強者が他にもいて、いずれ彼を追いかけてここまでやってくる可能性もある。まあ、想像でしかないけど」

「じゃあじゃあ、天空人って線はありませんか?」

「…天空人だって? アハハハ。テップさんには悪いが、それこそ御伽噺さ。雲の陸地にある理想郷から足を滑らせて落っこちたってことかい? もしそうだとすると彼は正真正銘の不老不死、天空人だって事になるけど…」

「…確か、あの御伽噺で天空人が落ちた国って、理想郷の軍隊に滅ぼされたんでしたっけ? 天空人の不老不死を欲したから、って」

「彼が天空人でないことを祈ろう。そういえば、トキゾウ君の生まれた国の攻城兵器で確か…鉄の筒を使って爆弾を飛ばすって技術があったよね? まあ噂に聞いたことがあるくらいだけど」

「そうなの? トキゾー」

「正しくは、某はバラモア生まれでござる。御老公に嫁がれたゾウマの姫君に付き従って海を渡った者達の子孫ゆえ」

「ごろーこー?」

「先代のバラモア王のことだよ」

「然り。某は城下の南方街の育ちでござる。よって某も実物を見たことはないが、副長殿が申すのはヒグスリを用いる大筒のことでござろう。であるが、流石に人間を矢弾の代わりに撃ち出すなどとは聞いたこともないが…」

「ヒグスリって?」

「バラモアでも馴染みがあるでござろう? 城下の祭りで夜の空に上がるあの…」

「ああ!あのワイバーン殺しの事ねっ!それなら私達トールマンも知ってるよ?」

「…せめて、花火と言って欲しいのだが。他国からゾウマに流れ着いた錬金術師がヒグスリを開発し、大筒などを始めとした武器を造る原形となった。と、某は幼少のみぎりに親方様から教えて頂いたのでござる」

「へえ!もしかして親方様ってバラモア王、アムドライオン様の事だろう? まさか、トキゾウ君は王家所縁の…?」

「そんな恐れ多い!親方様は由緒正しいゾウマの王族の血を引く御方。某の曾祖母は親方様の母君であるアケ姫に側近く仕えた飯炊きであったそうだ。地位など無いに等しい某の一族は代々、大変手厚く親方様達から扱って頂いておるのでござる…」


 そう言ってトキゾウは腰のソードの柄をギュっと握る。


「僕らはかの海戦やバラモアでの亜人戦争を知らない世代だからね。和平の使者として海を渡られた君の偉大な祖には敬意を表すよ」

「…南方の人なのかなぁ~」


 テップが振り向き、荷車に乗せられたセルの様子を伺う。それをピアンが窘めようとしたその時…


 ゴトッ!


 荷車が石を轢いてしまったのか大きく揺れた。


「「「あ」」」


 ドスン! 

 

 その揺れでセルはついに荷車からずり落ち、意識のないまま尻から落ちた。


「痛ってぇ?! おわぁ?! どこぉ?! 俺どこに落ちたのぉ?! 暗い!夜なのか? って、俺もろ出しじゃん!?」


「うわ!起きたっ?!」

「…よかった、人間の言葉を話してるみたいだな?」

「うむ、尻をしたたか打ったようだが大丈夫でござるか?」


 尻をさすりながら飛び跳ねるセルにピアン達が近づくと、その天空の男はやっと自分が知らない人間に囲まれていることに気付いた。



「イヤァァァァァァ!? 犯されるぅぅぅウぅぅぅ!!」



 泣け叫びながら天空の男はピアン達から脱兎の如く逃げ出した。全裸で。



 その想像を絶する光景にポカンと呆けたピアン達であったが、流石は副長の意地かピアンが声を上げる。


「誰が犯すかっ!? テップさん!トキゾウ君!頼むっ!」

「丸裸の者に無体なことをしたくはないが…許せ!峰打ちでござるっ」


 トキゾウは腰のソードを抜き放つと、剣技スキルで刃筋を打撃に変えてセルの肩目掛けて鋭く打ち込む。相手がB級冒険者以上でも昏倒させられる見事な一撃であったが…


 ガキィン!


「痛いっ! 俺、裸だよっ?! そんな相手に剣で斬りかかるとか恥ずかしくないの?!」

「なっ?! 加減いたしたとはいえ、剣を素の身で弾いた?!」


 セルは逃走する最中、実は唯一使えるスキルかったくなるを連発していた。


「スキルを使ったの!? 仕方ないっ」


 テップはダッシュスキルを使い、両手を上げて逃げるセルに時速100キロを超えるスピードで肉薄すると、腰にあった投げ縄を振り回してセルに向けて放つ。彼女は捕縛スキルも持っていた。


「捕縛!」

「おわあっ!? 縄が勝手に…っていていてイテエエエ?! 縄が食い込むぅぅぅウ!!」

「チョット!落ち着いてよっ!」

「SMは嫌だぁ!乱暴しないでぇ!流石の俺でも4Pは無理だ!勘弁してぇ~」


 ジタバタするセルを足元に溜め息をつくピアン達。


「…どうやら、それほど心配のいらない男らしい」

「まだ早計かと」

「う~ん。さっきトキゾーの剣を弾いたよね? ねえ、君スキル使った?」

「使いましたっ!許して下さいっ!」

「イヤ別に君がおとなしくしてくれたら、もうこれ以上何もしないから…」

「じゃあ縄解いてよ!ね!食い込んでアチコチ痛いんだよっ!てかなんで俺の服脱がせたんだよ?! この変態共めっ!」

「誤解よ!? 君は最初から裸だったわよ?」

「なっ…ああ、落ちてる最中に燃えちまったのか? どんだけ高いところから落としたんだアイツ…生身の人間に大気圏突入させやがって…」

「…落とされた? 僕達も君に聞きたいことがまだあるんだ。悪いが街まで連行させて貰うよ。辛いだろうけど、また逃げられると困るから縄はそのままでね。さあ、荷車に乗ってくれ」

「ええっ?! 俺なにも悪い事してないよ!? ………たぶん」

「どうして自信がなさそうなのか気になるが、それを調べる為にも街で審査官の調査を受けて貰う必要があるんだ」

「ヤメテ!俺に酷いことする気でしょう!?」

「いいからさっさと乗りなさい!」

「…わかったよ!でもなあ、ひとつだけ頼みがあるっ!」


 セルの剣幕に思わずピアン達がたじろぐ。



「…パンツ。……せめてパンツを貸して下さい。お願いします…」



 残念ながら予備のパンツを誰も持っていなかった。


 セルをあまりにも哀れに思ったピアンは自分の手拭いをセルの腰に巻いてやった。


 セルは静かに泣いていた。


 セルは荷車に体育座りで積み込まれ、エピックツルハシへと運ばれていく。ほぼ全裸で。


「…ドナドナドーナ ドーナァ~♪」

「それ、君の国の歌?」

「…そうだよ」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「?! 逃げようっ!」

「どうした?! まさか気付かれたのか!? この距離で俺のスキルが働いてるのにか!」


 私達はその場を離れ森の奥へと走る。


「荷車の男…生きてたな。もしかして捕まった盗賊かなんかだったのかもな?」

「ち、違う! 衛兵の話はよくわからなかったけど、あの裸の男は私に気付いたよ!?」

「何っ! まさか逆探知のスキル持ちだったか!」

「そこまではわからなっかたけど…アイツ、最後に私を呼んでたの…!?」



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