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メテオフォール村の非日常


メテオ。それはたまにラスボス近辺で空気になる最強魔法。だったりする


 俺はゴンドン。


 エピックツルハシから歩いて半日ほどの村で衛兵勤務をしている。


 あ。エピックツルハシって言っても本当の街の名前はエピック・ピッ…ってもうそんな事は知ってるって? そうか悪かったな。その街から最寄りの村のひとつ、メテオフォールが俺の勤務先。俺は生まれも育ちもピックの街でな、村にはいわゆる単身赴任ってヤツさ。だから、女房と子供とは月に1回か2回しか顔を合わせられない可哀相な男だよ。…え? ピックの街ってどこだって? だからエピックツルハシがそーなの!ピックじゃあなくてツルハシだろってアンタがさっきそれはもう知ってるからって言ったんじゃあないか?! ってもうその話はいいだろ。アンタはそのピックの街で有名な冒険者の男の話が聞きたいんだろう? …俺とアイツがはじめて会った時の事をさ。


 その日も特に何もない晴れた日だったさ。俺がもう長い事、衛兵として駐屯してるメテオフォールはとても平和な場所なんだぜ。何でも村の周囲に埋まっている悪魔の残骸を恐れてモンスター共が近づかないんだとか。村の連中はそう言って信じてやまないが、実際はどうなんだろうねぇ? 少し前に王城から学者連中が来て色々と調べていったみたいだが詳しいことはサッパリだ。俺、星とか神話とか、ちょうしぜんかがく?とかそんな意識高い系の事知らねーし。悪魔ってのはもう遥か昔に降ってきたでっかい火の玉のことなんだと。ぶっちゃけ燃えた隕鉄の塊だったみたいだがな。その隕鉄を王城に献上したドワーフ人が褒美にこの土地を貰って、火の玉が落っこちたその跡地近辺に村を起こしたらしいぜ。まあ、村の外れにはその時のクレーターだって場所があるし、未だに貴重な隕鉄が出土するって話だ。だから、メテオフォールなんて名前負けした単なる喉かな田舎の村だよ。盗賊ひとり来た事すらないぜ。だから駐屯兵も俺ひとりだ。嫁と子供も連れてこれればよかったんだが…。


「よ!ゴンドン。今日も朝っぱらから暇そうだな?」

「今日は特に村に何か出入りする予定もないし…門番としちゃあアクビする事しかやることがなくてな? まあ、長老と爺様達に畑を手伝ってくれと請われてるからな。そっちに行くとするよ」

「職務怠慢ってヤツじゃあないのか? でも、まあ助かるぜ。若い連中はなにかと街に行きたがるがよ。モンスターも盗賊も近づかないこの村にいた方がよっぽど楽ができるのになぁ」

「仕方ないさ。ま、仮にモンスターの大群か盗賊団が押し寄せてきたとしても、衛兵ひとりじゃあ焼け石に水だ。俺には街まで助けを求めに走るのが精一杯だよ。だからこの村にいる限り平和が1番だ!」

「ハハハ!違げーねーな!」


 そんな風にいつも通り村の連中とのやり取りを交わしていると、誰かが手を振りながらコチラに駆けてくる。


「おやおや、噂をすりゃあ…バカ息子だな」

「ん? ありゃ村長んとこのバカ息子のポウルじゃあないか」

「あ、ほんとだ。ありゃバカ息子のポウルでねーか」

「どうした~? バカ息子、また家畜の世話サボってんのか? オメェの母ちゃんにチクるぞ」

「な、なんだよ!皆してバカ息子バカ息子って?! この村で街の学術院出てんの俺だけなのにっ! 頭の出来だって村で1番だって街の奴も言ってたぞ? …マトモに自分の名前が書けるって」

「で、どしたんだ?」

「あ!そうだ皆アレ見てよ!」


 そう言ってバカ息子は空を指さした。


 ?


 いつも通りの青空が広がっているだけだった。鳥が数羽、変な鳴き声を上げて飛んでいる。


「なんだ? ポウル、オメー鳥も知らんのか」

「バカ息子にもほどがあるぞ?」

「いい歳こいて俺達に何のアピールだよ」

「違うっ!? よく見てよ!太陽の少し右下辺りだよっ!」


 んん?


 確かにバカ息子の言った通り、太陽の近くでなにか…光ってる?


「なんじゃあアリャ? …星屑か?」

「こんな真っ昼間にかぁ?」

「火星じゃね?」

「おい、カセーってなんだよ?」

「…イヤ、なんかテキトーに言ってみただけ」


 とにかくこんな昼に光る星なんておかしな事もあるものだと皆して空を見上げていると、急に耳をつんざくようなキィィィィィィン!という轟音と共にその星の近くにあった大きな雲がゴバッっと大穴を開けられて四方の空へと飛び散り、空が赤く染まる。


「「「「「んなっ!?」」」」」


 そう叫び声が上がったとほぼ同時に村外れのクレーター跡地に何かが突っ込み爆発した。


 俺達はその衝撃で吹っ飛ばされた。


「「「「「ぎょえええええええええエええっ!!」」」」」



 気付くと跡地で何かが煙を噴き上げながら真っ赤に燃えていた。


「ひ、火の玉だぁあああ!?」

「悪魔の火の玉がまた降ってきたんだあああアあ!?」

「終わりだ!!この世の終わりだぁああああ!?」

「かあちゃあああああああああああんっ!?」

「と、とおちゃあああああああああああんっ?!」

「オイッ!皆っ、落ち着けっ!?」


 村の住人は叫び声をあげながら両手を上げ狂ったように縦横無尽に走り回り、村は一瞬で阿鼻叫喚の地獄と化した。


「大変だあ!長老の家の屋根が燃えてるぞぉ!?」


 その声で村人の一部が混乱状態から回復したので俺は指示を出す。


「よし!皆とにかく火を消すんだっ!あと村の人間が全員無事か確認してくれ。そして動ける奴は何人か火消しの砂を持って俺について来てくれ!」


 俺は村の門の近くにあった水瓶を担ぐと煙を噴き出している跡地へと走る。


「アチ!アチチ!地面が灼けて窯の底みてーになってるぞ?!」

「ブーツどころか足の裏まで燃えちまうぞ。気をつけろっ!」

「しかし、こりゃあ、まいったな…!」


 爆発して出来た穴の中心で未だになにかが真っ赤になって燃えている。いくらドワーフ人が火に強いったって、そりゃあ迷信だ。人間、熱いものに近づきゃあ燃えるぜ。


「思ったよりも小さいな。よし、砂をぶっかけてくれ!」

「お、おう!」

「…怒って昔話みたいに火の雨を降らせなきゃあいいがよぉ」


 村人が火消しの砂をかける。瞬間的に炎が青く光ってやがて砂の中にかき消える。よしっ!俺は持ってきた水瓶の水をバシャリとぶちまけるとジュッという音と視界を覆いつくす白い水蒸気が周囲を包み込んだ。…凄い熱だな。だが…なんとなく鋼の反応じゃあないのが分かった。いったい、何が燃えていたんだ? …イヤ、何が空から降ってきた、かだな。



 視界を奪っていた水蒸気と土煙が晴れるとそこにあったのは…!



 地面から生えた人間の下半身だった。



 …………。



 え? なにこれ? むしろ悪魔なんてものよりよっぽど怖いんですけど。


 ぶらさがっている、イヤ上下逆のはずだからぶらあがっているモノからして男、らしいが。


 俺についてきた者達が困惑した表情で俺を見ている。



「俺、応援呼んでくるわ」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 


「という訳だ」


 俺は応援としてエピックツルハシの衛兵詰め所から連れて来た奴らにいきさつを語った。


「そりゃあ…大変でしたね」

「某も同意でござる」

「…うわ~」


 応援として連れて来たのは3人。俺の後輩の衛兵ピアンと新人のふたりトキゾウとテップ。ピアンは俺と同じ出身のドワーフ人。トキゾウは南方人。いわゆるサムライって種族だ。南の海を越えてはるばるこのバラモアまでやってきたらしい。喋り方がなんか偉そうだがそういう言葉しか知らないというのだから仕方ない。もうひとりは期待の女新人衛兵だが、大丈夫か? さっきから目の前のコイツに興味津々だが。まあ、トールマンの女のことなんて俺にはわからんな。


 そう空から降ってきたのは人間の男だった。


 …人間? 本当にそうなのか? 百歩譲って人間は空から火の玉を降らせることはできても、火の玉そのものになって降ってくるなんてことができるのか?


 無理だろ。そんなけったいなスキルが存在していたら流石に話に聞いているだろうしな。


 1番の問題はこの男、軽く火傷していたがそれ以外は完全に無傷だった。…普通じゃあない。村人達からあの後、地面から何とか掘り起こされたこの男はひかれたゴザの上で大の字になってイビキを上げて寝ている。ホント、人間の姿をしたモンスターだったとかやめてよね?


「にしてもこの人、何者なんだろうね? 随分ひょろ長いが髪色とか顔つきは僕らと同じドワーフ人だな。でも肌の色合いはトキゾウ君に近い南方系かな? トキゾウ君、どう思う?」

「うむ。某はピアン殿に同意しかねる。この者には我らゾオマの国の者が成人した暁に施される隈取が無い。それに髪色も赤色ではなく黒だ。恐らくバラモア所縁の者でござろう」


 そう言って新人が自分の目元をつつく。へえ、それクマドリっていうのか。勉強になったな。


「あ、悪魔じゃあ!そやつめが悪魔の化身に違いない!儂の家の屋根を焼きよったんじゃぞぉ!?」

「チョット、長老そんなに興奮しないでよっ!」

「そうだよ!どう見たって僕らと同じ人間種じゃあないか。まあ種族まではわからないけど…」


 そうだ。何者であれその正体を調べなければ危険な存在なのかそうでないか判別できない。あいにくここに希少な鑑定スキル持ちはいない。まずは街まで連れて帰らないとなぁ。


 取り敢えず仮称として"天空の男"と呼ぶことにした。


「お~い!ゴンドン。荷車持ってきたぞぉ!」

「おお!助かるぜ。ありがとなっ」

「じゃあ借りた荷車でこの人を街まで運んで行くよ」

「ああ、ピアン。頼んだぞ! だが大丈夫か? 縄かなんかで縛った方が…」

「イヤしかし、悪人と判別もつかない内に丸裸の彼にそんな事をするのは少し気が引けてね?」

「儂の家を燃やしたぞおぉぉ!」

「長老、屋根の端がちょこっと燃えただけだろ? どうせそのうち張り替える予定だったし…」

「とにかく彼を荷車に乗せよう。トキゾウ君とテップさん、手伝ってくれ」

「合点承知」


 ピアンが手をパンパン鳴らして場を仕切ってくれる。そういやコイツ、もう副長なんだっけか? まあ、俺と違って出世できる奴だからなぁ。ああ、ひがみじゃあないぜ?


 ピアン達3人掛かりで天空の男を運ぶ。無理もない。奴はドワーフ人だとしたらやたら背丈がありやがる。まるでトールマンだ。もしかしてソッチの血も流れているんじゃあないかと俺がぼんやり考えていたその時、何故か3人がバランスを崩した。どうしたんだ?


「!? テ、テップさん!そんなところを掴んで持ち上げてはいけないよっ!?」

「え? そ、そうなんですか…? 握りやすいからつい」

「下手したら大怪我だ!?…最悪、彼のは使い物にならなくなってしまったところだよ」

「ス、スイマセン」

「………ゴクリ。なんと恐ろしいおなごなのだ」


 コイツらに任せて本当に大丈夫なんだろうか?


 天空の男は荷車になんとか乗ったが足がはみ出していた。まあしゃあないか、アレたしか村長の庭にあった屑野菜入れだったしな。


 ピアン達が天空の男を乗せた荷車を曳いて村を出ていく。遠くなっていく荷車からはみ出した足と別の何かがブラブラと揺れていたぜ。決して愉快な光景では無かったが。


 それからソイツはどうなったのかって?


 …知らねえよ。だって俺、そのまま村での勤務続行だし。他の話が聞きたければピックの街で話を聞くんだな。それに、この後長老の屋根の張替え手伝わなきゃいけねーしな。


 え? ピックの街ってどこだって? だからエピックツルハシがそーなの!? エピック・ピック!バラモアが誇る鉱石都市!エピック・ピック!!でも普段使いづらいからピックの街って言ってるんだっつーの! …ハァハァ、流石にもう覚えたろ?


 …まあ、でも優しい俺がこの話を続きがどうしても気になるアンタに大ヒントをやるよ!ただし、帰りに村の特産品であるメテオ漬けを土産に買ってってくれよ? ご飯のお供や酒の肴にピッタリだぜっ!



 …そうだな。とりま、次の話を読めばいんじゃね?



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