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セルとフリーザ


タイトルはアレですけど結構最後までシリアスな話ですよ?


最後、まではなあ!!


「チョット!ボクの大事な仕事道具に酷いことしないでくれる~?えーとタカハシ…メイジン君だったっけ?」

「…名人じゃあねえ。…メイジだ。ま、もう誰ももう俺の事を覚えてないだろ~がな!ところで仕事道具ってゲームで遊ぶ事がか? それがビープ、様の仕事なの?なんですか」

「そ~だよ!コレも立派な仕事なんだよン♪ ああ後、敬語なんていらないよボクは地球神の下請けをしてるだけで異界の神だからねっ」

「そうかい…」


 俺はムクリと起き上がるとフラフラと玄関と歩いて行く。


「アレ~♪ もしかして外へ出る気かい?」

「ああ。なんか外に出て空気をすいたいんだ。…あるかどうかなんてしらないがな」

「ん~止めはしないけど止めた方がいいかもよ? おかしぃなァン♪ どうやらバグの影響で魂にエラーが…」


 何やら後ろでまだ何かブツブツ言ってるな? けど、もういい。どうにでもなれだ。


 

 俺はドアノブを捻る。


 ガチャリ。なんと鍵は掛かってなかった。不用心だなぁ?



 眩しいッ!な、なんだ?



 ドアを開けて出たそこはただ真っ白な空間だった。なんだこれ?真っ白い背景か何かがうねり続けている?ただただ馬鹿広い空間に俺が明けたドアがポツンと空中にあるだけ? 


 空中?イヤ違う、無だ。何もないのだ。この部屋の外は。そう言えば宇宙は真っ暗なんだと思っていたが、どうやらそれは違うらしい。真空状態みたいなところだが暗黒物質だかなにかしらないがそんなものが宇宙に存在しているから、みたいな話を聞いたような気がする。

 

 ここには、そんなモノすら無い。真空すらない。なんだここは!


『なんだあ?坊主、迷子か? いけねーなぁ~…今回はコレ(・・)くらいで許してやる。次、ノコノコ出てきやがったらお前、全部(・・)貰うからな?』


 耳元で突然、俺ソックリの声で囁かれた。


 そして俺は自身に重力がまるで感じられなくなったかと思うと、後ろに吹き飛ばされ勢いよくドアが叩き閉められる。ドアの隙間から『俺が今からタカハシ・メイジだ!』という高笑いのような、狂人が叫ぶ呪詛のようにも聞こえる声が聞こえた気がした…。


「…呆れた。本来ならどんな存在ですらこの部屋から出ることを恐怖して拒むのにネ♪ やっぱりバグの堆積エネルギーの影響で色々と君のスイッチが吹き飛んでしまったせいかな?…でも運がいい。自殺や完全消滅すら生ぬるい行為をして、奪われたのがそれだけとは…」

「奪う? 俺が何を奪われたって?」

「ボクの聖域(サンクチュアリ)から出たが最後、外は無だ。無は有の存在を許さない。君をバラバラにして全て持っていかれるところだったんだぞ? 君はとんだラッキーソウルだナ♪ それとも偶然にも彼らが()欲であったのかな?」

「…だから、俺が何を奪われたっての?」

存在認証(アカウント)だよ。××××・×××君♪」

「は? 最後なんて言ったの? 聞き取れないし、それにアカウント?」


 俺はビープの言う意味が理解できずに首を捻った。


「そうアカウント。わかってるじゃあないか? 君の身体を見てごらン♪」

「…ん。んあっ?! 俺の体が透けてる…?」


 俺の肉体がうっすらと光って透けていた。何かが高速で俺の肉体を走っている。よく見るとそれは無数の数字や記号の羅列だった。なんじゃあコリャ?!


「君のデータはアカウントを無に盗られて次元に存在を保てなくなってるんだよン♪ まったく、無の奴らも救いが無いことを…ゼロに何を掛け合わせてもゼロなのにね? 君のデータはコードになって限りなく平面へと近づこうとしてる。そして単なる記録媒体以下の存在となるだろう。このゲームのカセットみたいにね」


 彼女は手に持ったカセットをくねらせる。


「え。ヤダ!助けて下さい!」

「良いネ♪ 自暴自棄になって消え去りたい訳じゃあないんだね? ならボクから新しいアカウントをあげるよ!きっと気に入ってくれるだろうなぁ…さあ、選んでよ!」


 新しいアカウントってのは名前みたいなもんか? よっぽど変なのじゃあなきゃいいが、致し方ないっ!


「じゃあね、セルとフリーザ。どっちがいい?」


 ………。

 ……………え?


「え。ヤダ!助けて下さい!」

「え? なんデ♪ どっちも良い名前だろう?」

「イヤあのさ、その名前自体が別に悪いわけじゃあないけど!なんでその二択なの!?」

「仕方ないよ。大概の名前は使用済みだシィ♪ 君に相応しそうなのを埋まってない候補からキープしてきたんだからぁ~」

「ふさわしい? じゃあ、フリーザってのは?」

「君。もし魔法が使えたら氷属性だね」

「氷?! …意外だ。俺ってばそんなイケメンクールキャラだったのか…!」

「でも君は氷魔法は使えないけどねン♪」

「何でだよ!?」

「だって、君が現実としていた世界にはえむぴぃなんて無かっただろ?」

「…そうだな」


 まあいい、フリーザ、様のことはこれでイイとしよう…。


「じゃあ、セルは?」

「単に空いてたかラ♪」

「ええっ?!」

「イヤー人気あるんだよセルって名前。ボクもビックリだよン♪ セルって名前がイヤならセル197k4g5ul102lkds47gvjutlde458glg52lA5KKM1G…(言い終わるまで6分)かな? じゃあコレでいい?」

「嫌だよ。覚えきれる訳ないだろ!いい加減にしろっ!」


 

 こんなやり取りの末、俺の新たな名前(アカウント)はセルになった。



「で…ビープ、俺はこれからどうなるんだ?」

「ン♪ 君も気が早いね? 折角のお客様だからもっとボクとお喋りしていってもいいんだよ? そうだな数千年くらい…」

「長いよ!」

「そうかい? 数千年なんてあっという間だヨ♪ 実質、君がボクの部屋に来て意識を取り戻すまで君が生きた世界の時間で数百年は軽く経過してるんだけど…それに悪いけど君のいた世界じゃあ君が生まれた国はもう無いし、並行世界では73の宇宙が滅びを迎えたしね」

「………嘘なんてついても意味が無いか」

「うン♪ 神は嘘なんて言わないよ? だって意味が無いからね。そうだな、君がとれる道はふたつある。別の世界に高跳びするか…もしくはボクとずっとこの部屋で過して、楽しく仕事を手伝って貰おうかな? 丁度、対戦モノの積みゲーがかなり溜まってるからね…」


 そう言ってビープは妖艶な笑みを浮かべると、意味ありげに布団をめくる。


 俺は最初ドキリとして何かを期待させるお誘いかな? と思ったが、布団の中を覗いて動きが止まる。そこには無数の画面がどこまでも繋がり、広がっている。そうか…今もなお、話してる彼女はずっと無数のゲームをしていたのだ。


「ふふッ♪ 引いちゃったかい? ゴメンね、見せる気は無かったんだけど…ついね。ボクの仕事、くだらないって思ってるだろう? そうなのかもしれないけど辞めるわけにはいかないんだ。世界には人間社会そのものを歪めてしまうゲームが生まれる可能性が少なからずある。例えば、赤色の存在は敵。完全なる悪だってコンセプトのテレビゲームが世に出た。それが爆発的な人気があってね。もはや洗脳だったのサ。赤い服を着ただけの人が理由も無く殺され、ついには赤い血が流れる自分達までも滅ぼしてしまった。バグがあったのさ、その世界で生まれたゲームにはね…信じられないだろう?」


 彼女はファサリと布団を下ろすと悲し気な表情でリモコンを取ってテレビの電源をいれる。


「とても、辛い仕事かもしれないんだ。だから、ボクのところに残るのはオススメはしない…ボクは常に無限にある並行世界のゲームをチェックしてる単なるデバッカーのひとりなんだヨ♪ 終わることは多分ないかも…ゲームのタイトルが一文字違う。出てくるテキストが一文字違う。ドットが1点違う。プログラムが一文字違うだけでもプレイして隅々まで調べ上げなきゃあいけないんだ。そして世界は滅んでは生まれを繰り返す…もし、付き合ってくれるなら君が思うところの永遠ってやつだねぇ。まあ、ボクもひとりが寂しい時はあってね? 今迄にゲーム好きな魂とかを誘って一緒に過ごしたんだけど、皆2、3週するとこの部屋から外へ出ていってしまったんだ。ボクが飽きたら元の世界に返してあげるって言ったのに…ネ♪」


 俺が何も言えないでいると彼女はどこからか取り出したカセットROMをゲーム機にガチャリと挿し込んだ。


「さあ、少しの間でも他人と話せてよかったよ…」


 俺が数歩、前に出るとこの部屋の左右に押し入れがあることに気付いた。


 少し隙間が空いていたので除くと、押し入れじゃあなかった。ここと同じ部屋だ…俺がいないだけでビープがもうひとり?そこには居た。黙々と埋め尽くされたモニターを前にコントローラーを操作している。俺の視線に気付くと彼女は少し悲しそうにはにかんだ。その奥にはまた押し入れの入り口が見える。俺は思わず視線をそらして反対の閉まっている押し入れも見る。アッチにもビープがいるのか…いや、ビープはたったひとりだったな。俺は前に視線を戻した。


 ビープはやはり同じ表情をしていた。


「君の新しいニューゲームがはじまるよ!ちょっとバグっちゃてるけどネ♪」

「へへっ…新しいニューゲームとか、新しいとニューで意味が被っちょっと待って。今なんて言ったの?」

「あア♪ これから君が行く世界はコケモンのゲームシステムに近くてね? 本来はレベルを上げて強くなったり、新しくスキルを覚えてモンスターと戦ったりできる世界なんだけど…君ほら、バグの怨念に汚染されたデータから再生してるからさ…」

「してるから?」

「ぶっちゃけバグらせたねぶくろチャン?とほとんど同じステータスになっちゃったんだよねン♪」

「ってことは…」

「弱いままレベル100でカンスト♪ しかも使えるスキルはたったひとつ!」


「かったくなる?!」



 こうして俺の過酷な異世界転移の物語がはじまったのだ…。



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