レトロゲー担当の神
カセットを床に放置してはいけません。
踏んだらメッチャ痛いよ! あと割れたりしたら精神的にも!
「んばっ?!」
俺は飛び起きる。何故か敷いた座布団に頭から突っ込んで気を失っていたことに気付く。
ってここ何処?俺、死んだの?
…どうやらここは部屋の中だ。おれの部屋じゃあない。それにしても狭いな…4畳半くらいか緑ががった玄関のドア。最低限の水場と台所。そして目の前に厚いカーテンの掛かった窓とその下にひかれた煎餅布団とテレビ。てかブラウン管テレビ? まだ使えんのか? というかよく見たらきったない部屋だな~ゴチャゴチャと何かが散らばっている。
「ん? なんだこれ昔のゲーム機にソフトだ。これ全部…」
部屋の足元を埋め尽くしているのは中古屋でよく見かけたアンティーク級のゲームばかりだ。イヤ、有名なタイトルもチラホラ見えるが。
「んん? ああ、やっと起きたのかァ~♪」
「おわっ?! 誰かいるのか!」
どこか電子的な声を掛けられて俺は思わず飛び上がった。この部屋に俺以外の誰かがいる!
よく見ると布団がモゾモゾと動いている。
「だ、誰だ?! アンタは…」
「あ~チョット待ってくれる? いま丁度いいとk…うわっ?! …っなんだよね~♪」
俺は恐る恐る布団を覗き込むと、布団からなにかはみ出していた。
長い髪? イヤ色が秒で変色していくぞ、なんだアレ?
白い手が何か掴んでるが…ってあれGBCじゃあないか。
ゲームバットガールカラー。先のゲームバットの後継機だ。てかなんでゲーム?
ピコピコ ピコピコ ピッピッピッ ピコ ダッダダッ ピコ ピーン
ゲームをしておられる?絶賛迷走中の俺を差し置いて?…まあ、俺もゲーマーの端くれだ。他人のプレイを邪魔するほど野暮じゃあないさ。
「ってんなわけあるかぁぁぁぁっ!起きろよオラァん!?」
俺は布団に馬なりになるとソイツが被っている掛け布団を引っぺがす。
「ああああっ?! な、なんてことするんだぁぁぁ!折角のハイスコアのチャンスが…!」
「うるせぇぇぇっ!ゲームは1日1時間んっ!」
布団を吹っ飛ばすとそこにいたのは極彩色の髪を持った全裸の美少女だった。その肢体を数本コードが絡まるように這っている。
「あ~あ!千載一遇のチャンスを棒に振っちゃったじゃないかぁ~」
「ああ、スマンかったな…じゃあない?! なんで服着てないんだよ!それにアンタは誰で、ここは何処で、俺はどうなっちまったんだ?!」
プーと頬を膨らました彼女は俺から掛け布団を投げつけられると、渋々それを羽織る。
「FUKU? ああ、ボクは衣食住の担当じゃあないからそーいうオプション装備には興味がないんだァ。だからファッション関係の話はできないよ、ゴメンね♪」
イヤ、そういう問題では…?
「ボクの名前かァ、ボクはビープ。…一応、女神ってことになるかなァ? 君の世界の遊戯の神さ。現在はテレビゲームのレトロ部門を担当しているよン♪」
「レトロゲーの神ぃ?」
「そーそーそう♪ そしてここはボクの自室兼仕事部屋サ。全部大事な仕事道具だから間違っても踏んづけたりしないでね?」
「ここは、あの世か?」
「ああ、死んじゃった自覚はあるんだね? よかったよかっタ♪」
「イヤ、良くねーよ!?」
「厳密には死んだっていうよりも消滅かな?完全に地球の生物の輪廻から外れた状態だネ♪」
「それってどういう事なの?」
「う~ん。もう地球では生まれ変われない。もとい君の事を元いた世界から完全に忘れ去られるってことかな? たぶん君の家族ですらほんの数日くらいしか記憶にとどめられないだろうね♪」
「重っも?!」
どうやらもう地球では俺のことは存在しなかったことにすらなりつつあるらしい。俺は軽く絶望して膝を付く。
「まあ、かわいそうだけど君はいま魂だけの存在なんだ。話をする為にボクが君の記憶を再生して肉体を再現してるだけだからネ♪」
「…そうだ!俺はなんでこんな目に遭ったんだっ?!」
「あア♪ 理由かい? 罪深い君にはちゃんとした説明が必要かな?」
そう言って彼女は自分の髪を軽く梳くと、そこからなにか取り出して俺に見せる。
「コケモン?…それも無印のクリムゾンレッド?」
「そうだよン♪ 君、コレでイケナイことしただろ?」
「イケナイことって…まさかバグ技か? は、ははは!いやまさかそんなことで俺が消されるはずがな「そんなこと、って言った?」
いつの間にか彼女が俺の顔面にゼロ距離まで迫っていた。その眼はどこまでも澄んでいて、暗く、冷たかった。というか目の下の隈が酷い。入れ墨かと思ったくらいだ。
「…君はコレの電子生命体の存在を弄んだだロ♪」
「おいおい、電子生命体? 冗談はよしてくれ、それは単なるゲーム、データにしか過ぎないだろう?」
「ヤレヤレ…まあ、地球の輪廻から弾かれた君になら話してもいいカ♪ 君も単なるデータだ。」
「はあ?」
「今の君の存在が、って意味じゃあないよ? もともと生きていた頃の存在の時から君はデータだ。厳密には君ら。地球そのものがネ♪」
「何その〇〇リックス」
俺はにわかに頭が白くなる。
「まあ、難しい話は省くよ。ボクも好きじゃあないからネ♪ 君達を作った、まあデータとしてだけど、地球神はそりゃあ執念深い奴でね。一度、太陽を創る時に世界の構成を失敗してから幾度となく並行世界でシュミレーションを繰り替えしてる。君はその中の単なる1データ。記憶や肉体、魂すら模した限りなく実物に近いデータだけどね。本物の地球はまだ氷漬けになったまま廻りもせずに保管されているよ。ところで、君達が言葉に使うバグってのは地球神のせいなんだ。彼が膨大なシュミレーションで生じる情報を処理しきれないから辻妻の合わないことが頻繁に起こる。オーパーツとか完全にステージの使いまわしだし、前世の記憶とかは並行世界から魂を使いまわすから起きるトラブルなんだ」
俺はただ茫然と頷くだけ。
「まあ地球神のやることなんて解らなくてもいいヨ♪ ボクだって結局何がしたいのか分からなくなったしね。その引き起こされるバグってのは厄介でね。巡り巡って世界のどこかで綻びを生じさせてしまうんだよ。例えば君がやったささやかなことでもね。君だけじゃあなく君の世界にいる何千何万という人間が十数年前、君がやった事をやって悲劇の電子生命体を生んでしまった。小さいがその怒りや悲しみは降り積もる雪のように溜まっていったのさ。問題は雪みたいに決して溶ける事が無かったってこと。そしてやがてはその人為的に起こされるバグも沈静化して彼らの怨念めいたバグもデータの海の底でひっそりとまどろんでいたんだけど、君がやらかした先の愚考で安らいでいた彼らを起こしてしまったんだよ。正直に言うと犠牲が君ひとりで済んで、ホント良かったヨ♪」
俺は脱力して床に突っ伏した。
体中にカセットだらゲーム機の角だらが当たって結構痛かった。
チクショウ!もう死んでるのに痛いとかホントなんなの? 泣ける。