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防具屋バイトは儲けたい


※主人公であるセル、もといタカハシ・メイジはある意味、我々の世界と酷似した異世界の出身です。


 俺がジャイアントドワーフの店、"燃えろモーニングスター防具店"で働き始めて早1週間が経った。


 …こんな事を言うのはなんだがなあ~。日本(ヤマタイ)人は働き過ぎなのではなかろうか?

 イヤ、最早弊害…病気と言っても過言ではない。そりゃあ個人の性格もあるんだろうさ、それでも1日少なくとも8時間働いたところで誰も文句は言わないし、それどころか残業も無ければ感謝するほどである。勤労の義務をはき違えた、もはや宗教の類である。

 …でだ、結局何が俺が何を言いたいかと言えばだなあ、俺は。真面目過ぎた。

 というか仕事し過ぎた。テンチョーは店の表をすっかり俺に任して奥の工房に引き込もったままだ。余程の顔馴染みしか相手にせず、表に出てくることはない。


 まあさ? 俺も正直ファンタジーって感じで楽しいのは事実なんだよなあ~。例えば…


「なあ、店員さん。ちょっといいかな?」

「はい、何でしょう」

 その日、俺に話しかけて来たのはちょっとアマゾネスな感じの褐色女戦士さんだった。


「私の盾を新調したいのだが、どうにもしっくりこなくてなあ」

「具体的にはどのような盾をお探しですか?」

「うん。私はその見た目通りの前衛でな? 細槍に大盾というスタイルなんだが、どうにも機動力がイマイチなんだ。防御時に視界が限られるのもよろしくない」

「なるほど。不躾なのですが、普段使われる大盾…ですとこの辺ですか?」

「ああそうだな。形状も近いし、堅木の合板だな」

「ふむ。カイトシールドか。でも木製で軽さ重視…良ければ構えを一度お見せ願いますか?」

「ああ…基本はこの構え、かな」

「…………(ふむ。どうやらあまり防御重視という訳じゃあないようだな。というか見た目も軽戦士だし。あくまで受け流し狙いか、それとも…というか素晴らしい太腿だな。腹筋のシックスパックのコントラストも最高だな!)」

「……店員さん?(ジト目)」

「ああ、申し訳ありませんでした!…その重心を伺っていたものでして。ふむ。いっそ大盾ではなくバックラーなどはいかがでしょうか?」

「…バックラーねえ」

「はい。盾で攻撃を受け止める。という目的よりはあくまで回避、パーリングを目的とした用途に向いていますね。金属製でも小型の丸盾であればさほど問題は無いかと。試しにこの中央部にトゲがついた比較的シンプルなラウンドバックラーを試されては?」

「(ゴソゴソ)……うん悪くないかもな。しかし、そうなると防御面積に不安があるんだが」

「ああ。でしたらオススメの品があるんですよ。少しお待ち下さいますか?(スタスタ)コチラなんですがね?」

「おお。モンスターの顔があしらってあるのか…リザード系か?」

「ええ。色も光沢を落として少し似せておりますでしょう。で、コチラの内側の仕掛けを弄りますと…(バッ!)」

「うわっ! …な、なるほどそれはエリマキリザードの頭を模して造られた盾なのだな。まさか傘が開くとはな」

「はい。実はこのエリマキは本物のエリマキリザードの素材を補強して使用しておりまして、毒や火に強いのです。モンスターのブレスにも対応できますし、なんと言っても毒種であるエリマキリザードは野生のモンスターにとってもまた脅威!威嚇効果も期待できる代物なんです」

「なるほど。実に気に入った!それを貰おう」

「この商品は一点品でして…その、素材も良いので少し値が張るのですが」

「幾らだ?」

「はい。3ゴールドになります(300シルバー:約60万前後)」

「ヌヌヌヌッ…! 買おうっ!店員さん予算が足りぬのでパーティから金を集めてくる!少し待っていてくれ!」

「お買い上げ、ありがとうございます(会心のスマイル)」 


 ということがあったりする訳だ。他にもエピソードは多々あるがここでは省略する。

 しかしだ。ここの仕事に関してあまり文句はない、だが…


「金が無い」

「いきなりなんスか?」


 現在は夜。防具店は閉まっており、俺はもうひとりの居候と火が付いた炉の前でだべっていた。


「金が…ないんだよ!お前が俺に買い食いさすからもうすっからかんだわ!」

 俺はそう叫ぶと財布袋の中身をぶちまける。


 コロン。出てきたのは銀貨ですらない1枚の金属片。これは半シルバーと呼ばれるこの国の最小通貨である。この半シルバー4枚で1シルバーの価値なのだが、それならハーフではなくクォーターでは? という疑問が沸くが、郷に入っては郷に従え。という言葉があるのだ余計な詮索は学者あたりにまかせなければハゲてしまうぞ? つまり俺の全財産は残り半シルバー(約500円)だと言うことだな!うははは!


「いい加減、外でメシ食う時はお前も金を払えよっ!」

「ええ~? だってオイラ金持ってないんスもん。見習いの内は一切見返りなしでこの工房に置いて貰ってるんスから」

 ぐぬぬ…この小娘が。コイツはモチョンマ。ドワーフ人の若い女だ。つかモチョンマとかさあ。かなり古いネタだが、いきなり宇宙から踊って現れたり。お前の血が欲しい!とか。ヒッヒッヒ!とか言いながらエクトプラズマを放射してこないか心配になる名前だなあ。


「まったく、あれだけたかっておいてよ。大体あの盾も売れなきゃあどうしてたんだよ!お前?」

「ああ。あのセルさんのアイデアをまんま再現したオイラが勝手に作っちゃってテンチョーに地面に埋まるほどゲンコツされたアレっスねぇ~? イヤぁ売れてよかったっス!アレは材料代だけで軽く2ゴールドは飛んでましたっスからねぇww」

「wwじゃあねーよ!3ゴールドで売れたけど実質赤字みたいなもんだろが」

「ホント売れてくれなかったら材料代返す為に奴隷にでもなるしかなかったっスねえ~。まあ?セルさんのおかげであの盾売れたんで、どうスか? 代わりに今夜一晩、オイラのこと買ってくれませんスか?」

 そう言って目の前の半裸サスペンダーはワザとらしく紐を弾く。

 はあ。ホントいっぺん泣かせようかな? もちろん性的な意味ではなく純粋な暴力で。…やっぱやめとくわ。なんかコイツ1回倒しても、何事も無く復活してきそうだしな。

「だから金がねえっつってんだろ」


 俺は残り財産をモチョンマの額目掛けて投擲した。もちろん回収する。



 その翌朝。


「なに? 金がないだと?」

「…外へ使いに出る度に、…その…モチョンマにたかられまして」

 テンチョーは大きな掌で顔を覆って溜め息をつく。やめろ革鎧が吹き飛ぶだろ。


「アイツはなぁ~古い鍛冶職人の仲間から預かってんだよ。悪いが金の管理はお前の責任だ。…しかしだ、オメエも駄賃を手に入れるチャンスをやる。コイツらを捨て値以上で売れたらその差額をオメエにくれてやる。ただし!あこぎなことはすんなよ? 店の表を貸してやるぜ。せいぜいしっかり売り払ってくれ」

 テンチョーがニヤリと顔を歪めると店の隅を指す。それはいわゆる最低品質の鎧や兜だ。基本は訓練場などに納品するものだが、訓練場としても破損した数以上は買ってはくれないので数が余る。だが、そんな品を一般客は見向きもしない。俺も売れたところなんて見たことも無いし、一度俺と同じD級冒険者のパーティが来たので、在庫がさばけるかもと必死にプッシュしたのだが売れんかった。皆泥仕事のようなクエストで金を貯めてその上の装備を買いたいと目をキラキラさせていた。うん。偉いね。


 俺は渋々、店の前にその商品を並べ始めた。

「つってもなあ~。コイツら捨て値で売れたって大した額になりようもないしなあ。いくら口説いたって1シルバーも高くなんて売れやしない…は!待てよっ…!」


 天才のひらめき。あなたはカードをX枚ひじゃあなかった、俺はあるビジネスを閃いたのさ。


 そう。俺にはスキルがあるじゃあないか。唯一使えるスキルがなあ!!


 (それから暫く経って昼前)


「あん? なんだい。コレは?」

「ああ。こりゃあ訓練場とかにある一番弱い防具じゃあないか? お前も世話になったろう?」

「いいえ!お客様。コレは当店の新商品でございますですよ~?(ニコニコ)」


 通りがった冒険者、イヤ傭兵かな?二人組を捕まえる。チャンスだ!


「これは一見最低ランクの防具に見えますが…ところがどっこいただの防具ではないのです!見た目と違ってとっても丈夫なんですよ~? このハーフプレートはお値段も強気の50シルバーですが、とてもお値打ち品ですよ?」

「50シルバー!? オイオイ、そんな脆そうなの10分の1でも買わんぞ? 騙すならもっと手があるだろう?」

「……では、お試しになりますか?」

「何を…?」


 防具店の前は見物人で騒がしくなった。よしよしこれで残りの防具も飛ぶように売れるはずだ。多分な!


「…なあ? やっぱり止めておけって。恐らく死ぬぞ?」

「大丈夫ですって!さあ、どうぞこの胸当てに全力で攻撃なさってください!」


 有名なことわざにさあ? 矛盾ってあるじゃん?

 アレは商人が実践できないヘボだったから失敗したけども。

 俺ならできる…!"盾"の方ならできちまうんだよなあ~!


「さあ!さあ!どうしたんです? あ。もしかして自身がない…とか?(ニコニコ)」

「おう。やったるぞ(ニコニコ)」


「スマイトぉっ!」

 攻撃スキルを喰らって軽く数十メートル吹き飛ばされる俺。

 正直、一瞬息できなかったわ。攻撃スキルやべ~。


「…おい。殺しちまったんじゃあねえか?」

 周囲がザワザワとざわつくなか、俺が突然飛び起きたので驚愕の声が上がる!よし!掴みはバッチリだぜ!


「ど~ですかぁ!お客様!この頑丈さ!あの強烈な一撃を受けても私は無事ですよ? どうでしょう。この際、一式購入されてみては?」

 全力アピールする俺に対して何故か周囲のテンションがおかしい。


「……いやアンタは大丈夫なのか? その、胸当てがベッコリ凹んでるんだが?」

「(コンコン)…うん。やっぱり単なる最低ランクの防具だなあ。種も仕掛けも無い…」

「………あるぇ?」



 結果。売れませんでした。


 というかこの騒ぎに気付かれたので、テンチョー激おこ。大した品ではなかったとはいえ商品をダメにした俺は、テンチョーから会心のゲンコツを喰らって足首まで地面に埋まりました。俺、チョット背が縮んだかもしんない。


 ただ、あのふたりに防具は売れなかったが…

「…お前。防具なんていらない位、頑丈だな? 俺達は"ハイイロオオカミ"のもんだが。これは拾いもんかもしれん。また寄らして貰うぜ。そうだ、胸当ての件は俺が悪かったんだ。テンチョー、金は払うぜ…おい」

「ああ」

 

 そう言ってもう片方の女傭兵が俺の手に握らせてきたのは金貨だった。



「…オメエ、厄介な連中に目を付けられたかもしらんぞ?」

「……やっぱり?」

「(ポリポリ)アレ~? セルさん足埋まってますけど? なんかあったんスか?」


 俺はあえてチョモンマを無視した。何故か寝ぼけ眼のチョモンマは俺のパンツとシャツを着ていた。



 

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