レベル100の防具屋バイト
短いです。本日はもう1話書きとうございます。
「え? 弱い…?」
「なんかさぁ~? デビー嬢がすんごい顔してなかったかぁ~ン?」
「イヤイヤ!それでもレベル100て!?」
「流石にそれはないんだお!おっおっ!」
冒険者や厨房から出て来た野次馬がざわざわと騒がしい。
「「「「「…デビー(先輩)?」」」」」
「申し訳ないッ★」
デビー嬢はキャピっと会心のテヘペロスマイルを決めやがった。とてもウザ可愛いから許してやんよ!
ガンッガンッガンッ!
「諸君!静まるのであるっ!」
そこへ2階から自身の手甲を打ち付けながら全身鎧のサブマス、この冒険者ギルド"シロライオン"の副ギルドマスターであるボンバーがピアンとテンチョーを伴って階段をのしのしと降りて来た。
「アデルカインス…それとデビーっ! 冒険者のステータスは個人情報である!それをみだりに一部の者以外に広めるのは本来は栄えあるギルド職員として厳罰モノだぞっ!アディーが驚くのは無理はないが、今後は気を付けるのであるぞ?」
「も、もうし訳ありません…!」
「うむ。それとデビーは当月は減給であるっ!」
「ええ?! そんな無体なぁ~↓」
「ダメであるっ!猛省せよ!」
デビーは死んだ魚の眼になって机に沈む。その様を見て、集まった面々はまるで蜘蛛の仔を散らすように逃げていきやがったぜ。
「うむ。一足遅かったようであるな…すまぬな青年」
「ボンバー。お前さんが備蓄の防具の件で余計な時間を掛けるからだぞ?」
「まあまあ…アデルカインスさん? その、彼はとても特殊でね。レベル100…は流石に驚いたよね? でも、ステータスは…(何故か俺から視線を逸らすピアン副長)そう、アレだろう? もうレベルをあげることは実質無理だろうから、ある意味とても危険の無い人物と言ってもいい」
「はい…」
アディーちゃんがとても気の毒な雰囲気を感じさせる視線を俺に向ける。…ヤメテ。なんか泣きそうだわ。
「…だからね。今後、彼が問題を起こそうとする可能性は低いし、むしろギルド側として彼を保護して貰いたいくらいなんだ。わかるだろう?」
「うむ…青年。お主の経緯はある程度ピアン副長殿よりお聞きしたのである。…気を落とすでないぞ? 強く生きろっ!」
「…………」
ピアンから憐憫の眼を向けられ、むさ苦しいフルアーマーオヤジの激励を受けた俺の頭にポンとテンチョーの手が置かれる。
「……グスッ…いいもん!俺はA級冒険者になるんだいッ!」
「…セルさん」
「本気かい?」
「青年!その意気や良し! だが、現実を見よ!目を逸らすでないであるぞッ!」
「うっさいうっさい!アディーちゃん!早速俺によさげなクエストをいっちょ見繕ってくんなあ!」
「あ~。それは当分無理だよ? セル君」
「えっ」
「オメエは明日から暫く俺のとこでタダ働きだぞ? ホレ」
テンチョーが俺の頭の上に何かが入った袋を落とす。
ズジャリ! 地味に痛え!? …硬い? なんだあコレ。
袋の紐を緩めて中身をあらためると、中にはジャラジャラと銀貨が入っている……銀貨?
「50シルバーある。ギルドからの貸付だ。お前が好きに使え。そうだな、日割りで2週間ってところだな。安心しろ、真面目に働くんなら飯は食わしてやる。その後は別の仕事を探すのも、…俺は薦めねえが冒険者をやろうとオメエの自由だ」
「では早速…ギルドの新規冒険者登録料として20シルバー頂戴します」
「あァ!?」
いつの間にか復活したデビー嬢に俺が持っていた袋から目にも留まらぬ速さで枚数きっかりに銀貨を引き抜かれた。え? プロ?
「先ずは彼のところで色々と知るといいよ。その内寄らしてもらうよ、テンチョー?」
「励めよっ!青年!」
「セルさん。頑張って下さいね」
「おう。さっさと行くぞ」
こうして俺は皆に見送られながら、防具屋に売られ…お世話になることになりました。テンチョーさん、よろしくお願いします。
ちなみに、ズルズルと連行される途中で飯を食い、自身の衣服を揃え、屋台の珍しい菓子の誘惑に負けたりして防具屋に到着する頃には俺の残り所持金は10シルバー(およそ2万円)になっていた。なんでだよ!?
これには理由がある。服だ。この異世界の衣服は古着であってもかなり高価だ。まあ全部手縫いの品々だろうし、流石にパンツまで古着は嫌だから新品を買ったてのもあったがな。店員から「女性へのプレゼントですかな?」などと言われてしまったが実はこの異世界。恐るべきことにパンツのデザインは男女共通であった。なんというかトランクスとショーツの中間と呼ぶべきか。実際に買って穿いてみるとあまり通気性はよろしくないような気がする。まあ素材なんだろうなあ…なんか革っぽいし。ちなみに女性用のブラはアーマー扱いで、テンチョーの店でも勿論扱っている。って金属製かよ! 非金属はエルフ相手にくらいしか売れないらしい。という諸事情から替えの上着とズボン。パンツを数枚買ったら18シルバーも掛かってしまった。俺が大量に衣服を買い込んだのをテンチョーからも不思議な目で見られてしまった。なんか知らんがこの異世界の一部は不潔というか適当というか嫌な感じだわあ~。まあ、現代っ子の俺には文明が追い付いていないからね!電気もガスも車も多分走ってない異世界だし!シカタナイネ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、翌日…
「…てな感じでな。とりあえずオメエは品を探してる客の相手をしろ。不思議とオメエは武器や防具の知識はあるみたいだからあまり苦労はしないだろ? もし客が商品にケチつけたり、製作依頼の連中とかが来たら俺を呼べ。店の奥の工房にいるからな。…あ。後、客の釣りをごまかしたりすんなよ? ウチはそんなこすい商売はしてないんだからな?」
「わかりました!テンチョー!」
「頼むぜ」
そう言ってテンチョーはズシンズシンと棚を揺らしながら店の奥へと引っ込んだ。
まあ、要するに店番だわな。よっしゃ!いっちょ気合入れてやっか!
そこへ店のドアが開き中のベルが鳴る。客だ。
「いらっしゃいませ!"燃えろモーニングスター防具店"へは何をお探しに?」
俺のアップルミントばりに爽やかな営業スマイルが炸裂する!
そう、俺の異世界での新たな冒険はこれから始まるんだぜ!
あ。…冒険者にはなったけど、全然冒険なんぞしてなっかたわ。
そう、俺の異世界での新たなバイトがこれから始まるんだぜ!
第一部完!(大嘘)




