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最弱のレベル100D級冒険者


この異世界では2千万ほど払えば結婚してくれるらしいっスよ?(鼻ホジ)


「結婚して下さい」


シィンと静まり返る冒険者ギルド。先程までの喧騒が嘘のようだが…そんなことはどうでもいいんだ。大事なのは俺の運命のシナリオは今まさにここで決まったということだ!そう、彼女を…動揺から揺れるルビーの瞳が彼女の両の手をとった俺を見つめている。俺は彼女と幸せな家庭を気付くことが、この異世界でのハッピーエンド案件であることを確信したね!よし、押しが足りないようだからもう一度…

「結こn…「このたわけ者めがっ!?」


 ゴンッ。

 いきなり赤髪のエセサムライに後ろから頭を引っ張たかれた。だが抜かりはないッ!


「ぐあぁっ?! お主またスキルを使っておったな? 危うく某の拳が砕けるところであったぞ!」

「フン。俺の真実の愛の前では貴様の拳など効かぬのさ(でもチョットは痛いのよ)」

「あのぅ…」

「はい。わたくしの名前はセルと申します。…貴方の名前をお聞きしても?」

「は、はい! 私はギルド職員で、アデルカインスと申します…その、アディーとお呼びください」

「………アディー。とても素晴らしいお名前ですね」

「ありがとうございます…その、申し訳ないのですが、恥ずかしいので手を離しては頂けませんか?」

「嫌です」

「えっ」

「流石に某もこれ以上静観しておれぬぞ? 早くその手を離すでござる…(チャキリ)」


 後方のトキゾウが剣呑な顔で腰のソードに手を掛ける。周囲に冒険者も集まってきたので俺は渋々手を離した。


「もう!少し野暮なんじゃあないの? ひとの恋路を邪魔するなんてさぁ~」

「野暮なのはお主であろうがっ!? 女尊法…つまり婦女子を公の場で辱めてはならぬ!常識であろうっ」

「イヤ、知らんし。女尊法?」

「はあ…お主、ホントに雲の陸地から落ちて来たのかもしれぬなぁ? あながちテップの与太話も外れておらぬのかもしれないでござる」

「…衛兵さん?」

「ハッ!? こ、これは失礼つかまつった!受付嬢殿。その、この者はまるで世情に疎いのでござる。貴方に見惚れて大変な無礼を働いてしまったが、どうか容赦しては下さらぬか…身分を持たぬ身故に貴方の怒りを神殿に訴えられれば、この者は奴隷以上の罰則を受けてしまう恐れもある…」


 どうやら冗談ではすまない事態のようだ。これは迂闊。少しばかり頭を冷やした。どうやらこの世界での女性に対するセクハラは死刑(極論)らしい。なんということだ。


「反省してま~す。でも仕方ないよね? こんな美人さんがいたら」

 俺の言葉に彼女は顔を真っ赤にし、それを見た他の職員が意地悪い顔でニヤニヤしている。何故か周りのムサイ野郎冒険者もウンウンと唸りながら首を振っている。


「またお主は…!そのような軽薄な言葉がよく簡単に口にできるものだ。男が女に愛を請うなど誇りなき事でござる。好意を示すのであらば、せめて結婚する条件を問うべきであろう」

「う~む、この世界じゃあ逆ナン待ちなのかね。ところで、結婚の条件? そんなのあるのかよ…」

「あるわよ?」


 そう言ってアディーの隣に歩いてきた別のギルド職員さん。リスのような尻尾を揺らしている。後から名前を聞いたらデビーさんという名前だった。流石は受付嬢というだけあって結構な美人さんだな。


「そうねえ、仮にもギルド職員であるこのコを尊い身分でもない男が永久の伴侶としたいって言うなら…まあ凄腕のA級冒険者にでもなるか、結納金として100ゴールドくらいは必要かしらぁ」

 彼女の言葉に周囲の男どもはウッという低い悲鳴を上げ、逆に女性陣は力強く頷き、アディーちゃんはオロオロしていた。可愛い。


「100ゴールド」

「そう、100ゴールドよ」

 100ゴールド。って言われてもねえ? 俺全然わからない。100円? まさかそんなに安くはないだろ。それに…あのジャイアントドワーフも銀貨とかって言ってたよなあ~?


「なあ、トキゾーの給料っていくら?」

「言えぬわッ!? まあ教えられぬのは規則でもあるが。…無理な夢を抱かぬ方がお主の為だぞ?」

「じゃあ、俺がもしテンチョーさんのとこで働いたら?」

「…憶測でしかないが、恐らくギルドの貸し付けは銀貨50枚。つまり50シルバーでござる。それを鑑みてお主の日当は銀貨3枚。よくて4枚と言ったところか…まあ、半月ほどはタダ働きであろうがな」

「1ゴールドって何シルバーなの?」

「100シルバーでござる」

「…………ねえ、1シルバーで何買える?」

 トキゾーとのやり取りでこの世界の基本単価であるシルバーの価値は大体2千円前後であるらしいことがわかった。ということは100ゴールドは1万シルバー。つまり2千万円。家が買える。


「無理じゃん」

「だから、申したであろう」

「じゃあ、A級冒険者に俺はなる!」

 俺がそう言うと周囲からドッっと笑い声が上がる。アレ? 駄目だったかな?


「ははは!コイツはいいや!その歳で冒険者になるってだけでも結構な蛮勇だが、さらにA級を目指すとはなぁ~ン」

「ああ。またここにひとり麗しい受付嬢に惹きつけられた哀れな冒険者が誕生したんだお!おっおっおっ!」

 何だか外野がウザい。しかし、その中でトキゾウは何か思う所があるのかムッツリと黙り込んでしまった。


「よっしゃ!じゃあ早速だがアディーちゃん!俺に冒険者のイロハを教えてくれっ!ついでにA級冒険者のなり方も」

「は、はぁい…ちょっと!デビー先輩っ」

「フフフ。こうしてまたひとりの男が魔境へと散っていくんだわ…女って罪な生き物よね?」


 アディーは多分何らかの重要事項が書かれた紙を俺の手元に出してくれたが、俺が字が読めないと恥ずかし気に言うと、彼女は嫌な顔ひとつせずに優し気に微笑んで手ずから説明してくれた。アディーちゃんマジ天使。というかそれを周囲の男冒険者もウットリとした顔で眺めている。いいから帰れよお前ら。ホラ、注文した品がテーブルの上に放り投げられたぞ? 早く席に戻れよ!


「本日、冒険者登録されたセルさんは晴れてD級冒険者となります。その後の適性試験に問題がなければ自動的にC級冒険者に昇格します。セルさんは成人されておられるようですし、ここまでは特に問題ないかと思われます」

「うんうん」

「D級冒険者である期間は特定の限られた依頼、ギルドから斡旋した仕事しかできませんが、C級冒険者からは自由に依頼を受けることができます。ただし、依頼の責任問題が発生します。依頼を失敗すれば当然違約金なども場合によっては生じますし、依頼にかこつけた悪質な行為などで悪評価を受けることはなるべく避けて頂きたく思います。コレは常時から問題を起こさぬようにギルドからも誓約して頂きます」

「なるほどなるほど」

「そして次の段階。B級冒険者に昇格する為にはレベルが40と難度B以上の依頼達成が必要となります。この辺の冒険者さんになられれば安定してきますね。周りの冒険者さんもほとんどB級冒険者の方々ですよ?」

 そう言って彼女はクスリと笑う。何故か恥ずかしそうに照れる男ども。はよ帰れ。ゴーホーム!


「そしてA級冒険者はレベル50以上と難度A以上の依頼達成。さらにギルド側の評価を合わせて昇格できるんです。更に上位の英雄とされるS級冒険者も存在しますが、あまり現実的ではないかもしれませんね。ただ、A級冒険者からはギルド職員以上の扱いとなりますので、依頼以外の給与が月毎に授与されます。なので冒険者としては誰しもが目指す目標なんです」

「アレ? 意外とレベルはB級と大差ないんだな?」

「アララ? 強気ね~。私は好きよアンタみたいな怖いもの知らずな男は」

「はあ。どうも」

「……こんな事は申し上げにくいんですが、レベルは一般的に50前後が()とされているんですよ?」

「そうそう。まあアンタもその内わかるだろうけど、そこが平凡と超越者の境目ってヤツなのよね。その辺の飲んだくれも大概はソレで躓いた連中でしょ?」

 デビー嬢の棘のある言葉と視線に男達は蜘蛛の仔を散らすように解散していく。すげー容赦ねえ。


 まあ、レベルだけだったら俺はなんも問題はない。だって、ねえ?


「では、早速ギルドカードを作成しますね。それがセルさんの身分証明書となります。コチラの水晶盤に掌を押し付けて下さいますか?」

「うん? コレは?」

「はい。コチラでステータス鑑定をする為のマジックアイテムなんです。まあ、わかるのはレベルと簡易的なステータスだけなんですけどね? 鑑定後に下部からカードが排出されますからお受け取り下さい」

「わかった。んじゃ…」


 俺は右手の掌を何かエメラルドっぽい石か何かでできたボードに押し当てる。するとにわかに輝くと共にニュウっと例のカード●スみたいに何か出て来た。俺は早速、左手でそれを取ってみやる。うん、何が書いてあるやらサッパリだ。しかし片面の中央に描かれたシンボルマークはまさに白い獅子、ライオンであった。おお、俺はついに冒険者となったのk

「……えっ!? レベル100っ!?」「アディー?」「オイオイ、どうした?」

「う、嘘でしょ!?」「チョットよく見せてよ!」「おい早くボンバーさんを…!」


 カウンターの奥が騒がしい。誰もかもが席を立ち水晶盤の前に群がる。ああ、なんかこの下りどっかで見たような…?


「オイオイ!あの新人レベル100ってマジか?!」

「うっそだろ、お前?!」

「嫌でもレベル100なんてA級どころか…あのS級にだって…!」

 どうやら周囲の冒険者も騒がしくなってきた。やだなあ、ヒーローってのは突然やってくるもんなんだぜ?


「えっ? でも、チョット待って…!?」

 ギルド職員達がさらに信じられないようなものを見る目で水晶盤を凝視している。ん、なんというかすっごい既視感(デジャブ)だな。



「このひとコレ(・・)でレベル100なんだよね………()っわ!」

「チョット!先輩…!?」


 

 デビー嬢の容赦ない言葉が俺のクリスタルな心臓に突き刺さる!




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