モーニングは防具屋で
颯爽帰宅。早速投稿。
チュンチュンッ チュン…
どうやら異世界でも、いわゆる朝チュンというのはあるらしい。
そして俺の腹部に覆い被さった金髪の半裸美女…
…ってなんだ、テップじゃあねえか。あぁ…ヨダレがぁ~↓
「…どういうことなの!?」
俺の悲鳴が聞こえたのか格子戸を開けて誰かが中に入ってきた。ピアン副長と…え~とドチラさん?
「やあ!おはよう。気分はどうだい?」
「お。やっとお目覚めだねえ!ああ、俺はフローラだ。エピックツルハシの衛兵隊長をやってるモンだよ。ヨロシクな!!…ちうかテップ!何で宿舎に戻らずにこんなとこで寝てるんだいっ!? 起きないかっ!このバカチン」
見るからに怪力の女傑から背中に張り手を喰らうシャツパン一丁のかわいそうなテップ。痛そー。
「ぎゃいん?!」
「うごゅ!衝撃で俺の内臓にもダメージが?! ゲホゲホッ…というかここはどこなんだ? 牢屋?」
「ははは…テップさん大丈夫かい? ここは衛兵隊詰め所の留置所だよ。牢屋はあるけどね? 物騒なところだから街外れにあるんだ。えーとセル君、まずは外に出れるかな?」
「わかった。けど俺まだ裸イテテテテっ!? おい!お前どこ握りしめちゃってんだよ!? 俺のジュニアになんか恨みでもあるのか?! ねえってば!」
「効いたぁぁ~↓ へ? あ、ヤダ!? ゴ、ゴメンね…」
「…大丈夫かい? まあ彼女は夜通しで君を診てくれていたんだよ? あと悪いが、とりあえずコレを着てくれるかい?」
「おお!FUKUじゃあないか!!やっと文明を取り戻せるよ!…ってこれ貫頭衣? 布の服?」
一応に着てみた(被った)ものの、横から色々と丸見えになると思うんだが?
「衛兵じゃあない君にあげられる服はそれくらいでね。あ。ちなみにこの街では裸で歩き回っても特に罪にはならないよ? 風紀を乱す行為ではあるから場所によっては注意はするけどね」
「イヤ別に裸でいるのが好きなわけではないぞ?! というかテップも何脱いでるんだよ…(ドキドキ)」
「(モゾモゾ)え~? だって暑いでしょ?」
「イヤ現在進行形で通気性抜群の俺にそんなこと言われてもなあ…」
「ああ。このコはトールマンだろう? 純粋なトールマンは涼しい土地の出身だからね。この街の夜は暑く感じるんだろうねえ」
「テップさんは今日は休みにしとくからね。帰休扱いだから宜しく。さてセル君。とにかく立っておくれよ」
「はいはい」
俺は着替えに夢中なのか突き出されたテップの尻を回避しながら立ち上がる。この世界はあまり裸に抵抗感がないのか? 特に女性。特別コイツが無節操な可能性もあるなぁ。ん? 近くにいた男がこの場で唯一顔を赤くして腕を組み、明後日の方向を向いていた。赤い髪のマゲに…変なメイク、隈取ってヤツをしたカブキフリークなコイツは確か…えーと
「おはようございます。トキゾー様」
「む。おはようございます…なんだその呼び方は? その様に呼ばれるとむず痒いのだが」
「イヤ、なんか偉そうだから。身分が高い御方かと。お武家様なの?」
「なっ?! 畏れ多いぞ! 某は王族に嫁がれた姫様の単なる側仕え、さして百姓と変わらぬ者の子孫でござる。この土地では帯剣を許された役目を運好く得たに過ぎぬぞ!……しかし、セルと申したな。…お主、ゾウマ言葉にさといようだな。…どこぞの流れ者との混血か?」
「はあ。ゾウマ?」
トキゾウがもともと細い目をさらに細める。無駄にイケメンなので文句が出てこない。というか完全にジパングな人物だな。赤い髪はコイツくらいしか見かけない。まあ遠くの国の出身なのかね。
「おっと。トキゾウ君、今はこれ以上の詮索は止してくれ。彼にも訳があるんだろうさ。さて君の今後について相談したいんだが…とりあえずモーニングに行こうか? 案内するよ。トキゾウ君もその後のギルドまで同行してくれないかな」
「承知」
「お。モーニングですかあ!いいですねぇ~。イヤぁ~実は俺、腹ペコだったんだよね~」
流石はピアン副長だ。彼はこの世界でも有数の有徳者に違いないな。
そう思っていた時期が自分にもありました。
「………ねえ。ここってさあ、いわゆる防具屋さんじゃあないの?」
「え? そうだよ? この街でモーニングと言えばここ"燃えろモーニングスター防具店"のことじゃあないか!」
「然り」
「イヤ然り…じゃねーよ!モーニングつったら朝食のことですよ~!? ていうかよぉ、燃えるモーニングスターって防具屋なのになんで武器なの? ああ、武器防具どっちも取り扱いとか…」
「いいや? ここは防具専門店だよ」
「………ボク。お腹空いたなァ」
「ああ、すまないね。薄給の身の上である我々に君の食事まで用意する余裕はない!(キッパリ)ギルドに君の身分証明を頼むまでは我慢して貰おう。悪いが決まりなんでね」
「働かざるもの食うべからず」
「…働く前に死んじゃうよ?」
「流石に怪我してたり、病気であったりして不自由であった場合はまた別なんだけどね…」
目の前にぶら下がる大きな看板には兜、小手、盾に鎧と防具がデザインされていた。文字らしきものが書いてあるが全く読めやしない。なんという不親切設定だ。ここは初心者安心パックとかの出番じゃあねーのかよ!まあ、俺の言葉(地球ちうかこの世界には存在しない言葉)が勝手に識別不能な言葉に変換されちゃう世界である。あまり過度の期待は持たないほうがいいな。
そう俺が残された糖分を脳に回していると目先の大きなドアがドカン!いやドパァンだろうか、まあどっちでもいいが開け放たれる。そしてこの世界にきて俺が目にしたもので一番大きな生き物が中から這い出て来た。…でか過ぎる2メートルを軽く超えちゃってるよお? そして俺をめっさ睨んでらっしゃるが…?
「おはよう!テンチョー」
「おう。…んでコイツがその…天空の男か?」
「なにそれカッコイイ」
「お主は…メテオフォール村の騒動を知るものからはそう呼ばれているのでござる」
ヒゲモジャでまさにドワーフ然としたその姿だが。問題はRPG界隈の最初のボスかそれ以上のサイズ感と雰囲気を誇ることだ。
「これから君が生活するにあたって身分証明を発行して貰うんだけどね。手っ取り早く冒険者ギルドで冒険者登録して貰う。でも君は無一文で家名も無し。だから身元保証人が必要なんだけど、それを防具屋店主の彼に頼もうかと思っているんだ」
「え。俺、冒険者になるの?」
「いいや。別に強制じゃあない。そも冒険者が依頼を受ける以外の他の仕事をしてはいけない決まりなんてないしね。ひとまずは防具屋で世話になったらと思ったんだけど、どうだろうテンチョー?」
さっきからテンチョーテンチョーって、あだ名か? …まさかティン・チョーさん?
「名前は?」
「セルです」
「鍛冶スキルまたは付呪スキルは?」
「どちらも持ってません」
「じゃあ鍛冶か付呪の知識は?」
「まるで知らない」
「…客商売の経験は?」
「(コンビニでバイトしてたし…)大丈夫です」
「読み書きは?」
「正直言って自分の名前どころか一文字も書けない」
「…………。ううむ…じゃあ最後の質問だ。お前の手元には銀貨が70枚ある。銀貨80枚でロングソードと銀貨50枚のレザーアーマーが売っている。少し頑張って金を溜めれば敵を切り裂くロングソードが買えるが、レザーアーマーを買うと余りで盾かヘルメットが買える。…お前はどちらを選ぶ?」
「レザーアーマーとヘルメット一択」
「…理由は?」
「そりゃあ防御力優先でしょう。世の中命あっての物種でしょ? それに盾があればなんでも防げるわけじゃあないし、攻撃がいつも正面からくるかわからない。最低片手が塞がっちゃうくらいなら急所である頭の守りを固める方がいい」
大ドワーフの顔がニヤリと歪む。
「…気に入った! 少しばかり世話を焼いてやろう」
「ありがとうございます!えーと、店長さん?」
「俺のことはテンチョー。そう呼べ」
俺の片手が大ドワーフの手で力強く握られる。痛え。スキル使っといてよかった。
にしてもこの世界でも通じたな。俺は防具派というパワーワードが。




