表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/20

とっても楽しい拷問タイム 前編


気分はラ〇ボー。


「…それでは、これからとっても楽しい拷問タイムを開始しま~す」

「しま~す★」 



 椅子に拘束された俺の前に立つふたりの美少女。やや無表情が目立つが、実に明るい声でそう宣言する。美少女は神官コスの双子。スタイルも俺の審美眼を通して高評価の強者。


 …ここまでは大変によろしいのだが、何故か方や黒光りする鞭を目の前でパンッ!とやる例のデモンストレーションをやって見せ。方や自分の身長を超える大剣を背から片手で軽々と抜き放つ。…それ、その細腕でどうやって持ってるの? 重力のヤツ、ちゃんと仕事してる? そう思わず言いたくなるほど、それは剣というにはあまりにも大きすぎた…

 巨大で。

 ぶっとく。

 クソ重そう。

 そして装飾がやたら凝っていた。

 それはまさに、エクスカリバーだった。



 どうしてこうなった?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 事が起きるほんの数分前。

 

 いやぁ~体育座りのまま人に運ばれたなんて初めての経験だったよ。


 しかも裸でロープに縛られてなんてねっ★


「じゃあ、念の為にスキルロックを掛けさせて貰うよ。コレで君のその硬直も解けるはずだからね」


 そう言って俺をこの、…あ~なんて言ったか。ああ、エピックツルハシ観光案内所に運び入れた衛兵のピアンが何か持ってきた。ちなみに衛兵隊の副長さんなんだって。凄いね!


「手枷? ロープで縛られた上に手枷まで…完全に事案だぞ?」

「ロックしたら流石に捕縛スキルは解除するわよっ!でもまた逃げ出そうとしたり、暴れたりしたら…」


 もうひとりの女性衛兵テップが剣呑な表情を浮かべて腰のソードに手を掛ける。


「オーケーオーケー! 乱暴はよせっ!?」


 ガチャリ。

 手枷を嵌められた瞬間、肉体の硬直が嘘のように解かれる。おお!…しかし、体がだるい。どうやら結構な負荷が掛かってしまったようだな。


「ふう。まったく、ヤレヤレだぜ。んで、この手枷を嵌めてるとどうなるの?」

「スキルが使用できなくなる」

「マジで?」

「マジで。ああ、それは簡易的な拘束アイテムでね。3時間ほどで効果が切れて、勝手に外れるから安心してね」

「って3時間も嵌められたままなのっ?!」

「イヤイヤ、審査官の取り調べが終わったら解除できるから。おっと。君をまだ裸にしたままだったね? ナッスさんとキュリウさん。悪いが詰め所から何か彼に羽織らせられるものを取ってきてくれないかい?」

「「了解です!」」


 そう元気よく返事をしたのは新人衛兵の女の子ふたり。どちらもドワーフ人らしく背は140から150と言ったところ。というかあまり背丈で男女差が見受けられない。彼女らが部屋から出ていったタイミングでやっとロープがスルスルとほどける。


「…ああ、やっと自由に。じゃあなかった手枷されてたわ」

「ゴメンね。もうちょっとの辛抱だから」


 そう俺が気を緩ませたとほぼ同タイミングでドアがノックされる。


「ん? 随分と早いな。詰め所との往復に走っても10分は掛かるだろう。…まさかもう審査官が? という可能性もあるがそちらも早過ぎる。そう簡単に神殿が派遣してくれることなんてないからね。テップ君」

「はい、副長」


 テップがドアを開錠し、外をあらためる。


 そしてドアが開け放たれ、彼女がコチラに振り向く。やけに顔色が悪い。


「…審査官()がお着きになりました」

「…な!? 早過ぎるだろう、トキゾウ君は…」

「「問題ありません」」


 ん? なんだこのステレオ音声は…?


「ええっ?! アム様にパム様っ?! 何故、上級(・・)審査官である貴方がたがコチラに…!」

「…取り敢えず、中にいれて貰える?」「貰える?」

「っ!? ははっ!申し訳ございませんっ!!」


 そう言うとピアンは飛び退くように慌てて床に膝をついて頭を下げる。


 え? ナニコレ? もしかしなくともヤバイ人、来ちゃった?

 テップはガタガタで身震いしながら両膝を付き。ふたりが入ってきた後にドアを閉めたトキゾウはもはや平伏に近いポーズを取っていた。


 部屋に入ってきたのはふたりの少女。と言ってもどうやら双子さんっぽい。ちょっと髪色が違うだけのショートボブをすまし顔で揺らしてらっしゃる。

 …でも、普通に可愛いな。ちょっと無表情っぽいけどそこもまたポイント高い。っとそんな事を考えていると、ふたりの視線が俺に向けられる。


「あ。もしかして俺も膝とかついちゃった方がいいの…?」


 謙虚な俺が異世界のルールに従おうと、椅子から立ち上がりかけたその瞬間…


「捕縛っ!!」

「ぎゃあああああああ?!」


 テップが再度スキルを使用して俺をロープで椅子に縛り付けやがった!


「痛てぇえええええ?! か、かったくなる!かったくなる!?」


 だがしかし、俺の両手に嵌められた∞みたいな形をした白い手枷が、俺がスキルを連呼する度にガキンという音と共に淡く光るだけ。よりロープがきつくなる。


「痛だだだだだだっ!? 本当にスキルが発動しないのかっ?! テップ止めろっ!俺まだ裸なんだぞっ!?」

「馬鹿っ!死にたいのっ!?」

「ええっ!?」


 いつの間にかテップと俺の前にまで移動してきた双子との間にピアンが転がり込むと土下座をする。


「ど、どうかご容赦を!彼はどうやら教会の(まつりごと)には疎いようなのです…!」

「「そうなんだ? なら致し方ないね★」」


 どうやら本気でやばかったらしい。双子以外は全身から汗を拭き出していた。俺も身体に食い込むロープの刺激から変な汗をかいていた。


「…ところで、そちら様は?」

「あ!駄目だよ。いらん事を言っちゃあ!こちらの御二人は上級審査官のアム様とパム様だ。勝手な言動や不審な行動は厳罰の対象になる。…それと、上級審査官は独断で刑を執行できる…!」

「…どんな?」

「大抵は折檻か死刑かな★」「大抵は拷問か処刑かな★」

「「「ひっ!?」」」

「でも大丈夫。君が善人であればいいのだから」

「そう大丈夫。君が悪人でなければいいのだから」


 ニッコリと微笑んだ彼女達の眼は一切笑っていない。人間のしていい瞳じゃない。…まるでガラス玉のようだ。


「私達は今日は非番でね。朝から教会の高塔で瞑想していたんだけど」

「偶然、村の方に火の玉が墜ちるのが見えたんだ」

「だから何かあると踏んで準備をして神殿の前で一日中、待っていたのさ★」

「まる★」

「……暇なの?」

「「「コラっ?!」」」

「いいよ」「いいよ」

「ここ最近平和で拷問相手もいなかったし」

「ね~★」

「…あの、ひとつ伺いたいのですが、ぼ、ぼくはいったいこれから何されるの…?」

「取り調べだよ?」「拷問だよ?」

「そこは合わせてっ?!」

「なかなか良い反応だね」「これはいい声で鳴いてくれそうだね」


 そう言って双子はマジマジと俺の顔を覗くと、まるで独り言のように口を開く。


「じゃあ、副長以外は部屋を出て貰おうかな?」

「あと悪いんだけど、水を何杯か汲んで置いてくれる?」

「「「…は、はい」」」


 そして数分後にはテーブルかなんかが片付けられた広いスペースに、これまた何故か床にクロスがひかれる。これから何か汚れちゃうのかな? 飛び散っちゃったりするのかな? 


 そしてそこに椅子に縛り付けられた俺がプットオン!


 双子の足元には水がなみなみと入った木桶が5杯ほど置かれている。


「………南無」

「……やめてくれ」


 軽く片手で合掌したトキゾウが部屋を出て、続いてテップも暗い顔をして出ていこうとするが…


「ちょっと待った」「君は残って」


 俺に捕縛スキルを使っているテップの居残りが決定した。


「これからする審査だけど、今夜はかなり無茶をしてきたからね。教会の記録官を連れてこれなかったんだ」

「だから、調書の作成は副長にお願いしようかな。あと今回は教会機密扱いするから、機密を漏らしたら…斬首ね★」

「…はい」


 ピアンとテップの顔はもはや土気色に近かった。かく言う俺も似たような表情に違いない。


「じゃあ、問答無用で始めてもいいんだけど。悪人とは限らない君に説明するね?」

「これから私達は君にいくつか質問するんだけど…」

「「決して虚偽の発言は許されない」」


 そう声を揃える双子の瞳が淡く光る。


「改めて、私は上級審査官のアム」

「同じく、私はパム」

「私達、上級審査官は鑑定スキルと嘘を見破るスキルを持ってるの」

「私達、上級審査官はその場で判断し、処罰を下せる絶対的な権力を持ってるの」

「嘘を吐く度、私の鞭で10回。君を打ちます」

「嘘を吐く度、私の剣で10ヶ所。君を刻みます」

「「楽しい時間にしましょうね…!」」



 こうして異世界に来た記念すべき初夜に、初めての街の観光案内所で、俺の楽しい審査(拷問)が始まったって訳だ。ふざけるなっ?!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ