2話:とりあえず異世界へ行ってみた
達也は失血し、薄れゆく意識の中、自身の半生を振り返る。
特に何も成さず、それでいて向かいたい目標も決まっていないような人生だった。
可能であるならば、世に大きな影響を与えるような何かをしたかった。
絶命までの数分の間の永遠とも思える時間、達也はそんなことを考えていた。
どこからか声が聞こえる。
「世界を救いませんか。」
そんな声が聞こえたとき、達也は真っ白い空間の中にいた。
----------------------------------------------------------------------------------------
「ここはどこだ。」
自分が唐突に置かれた状況に困惑しながら、当然の疑問を口に出した。
「ここは次元の狭間です。」
達也は後方から自分の独り言に答える女の声を聞き、振り返る。
そこには、古代ローマ人が着ていそうな白い衣装を纏った女が立っていた。
その女は柔和な笑みで達也に微笑みかける。
「あなたはあなたの世界で命を落としました。」
と女は達也に諭すように話しかける。
「あなたは誰なんですか。」
達也は、見知らぬ女に対して、やや身構えながら問いかける。
「あなたたちの言葉で言うならば、神でしょうか。」
神と名乗る女はそう答えた。
達也の心は半ば混乱しつつも、神と名乗る女の言葉を聞き、歓びに満たされていく。
自分が今まで触れてきたアニメやゲームの中でしか起こらなかったことが、今まさに自身で経験しているからだ。
「じゃあ、さっきの世界を救わないかって言葉は、あなたが?」
「はい、あなたに世界を救っていただきたいのです。」
「俺にできるんですか。世界を救うなんてことが。」
「あなたにしかできないことです。」
その言葉を聞いて、達也は幸福に満たされた。
自分にしかできないという言葉が自分は特別な存在なのだと自分を肯定してもらえているからだ。
そして同時に不安を感じた。
「でも、俺、勉強も運動も人よりもできるわけじゃないし。」
「それはあなたの才能が、まだ花開いていなかったからです。」
「俺の才能って?」
「大業を成し遂げる才能です。」
女は確信を持っているような表情で言い切る。
達也は、女の自信に圧倒されながら、大業を成し遂げる才能という言葉に強く惹きつけられていた。
「もちろん、あなたの自由意志を尊重します。ですが、あなたは元居た世界で命を落としているので、戻ることはできません。」
「もし、世界を救わないって言ったらどうなるんですか。」
「私は何もしません。ただ、消滅するまでここで待っていただく必要があります。」
「世界を救うってどういうことですか。」
「あなたの元居た世界とは異なる世界へあなたを送り、その世界を救っていただきます。もちろん、私もささやかですが、力を貸しましょう。」
達也が取れる選択肢は、ここで消滅するまで待つか、異世界へ行き、世界を救うかの二つだった。
達也は異世界へ行き、その後のことについて思いを馳せる。
想像するのは、自身の英雄譚。
それは達也が異世界に行くだけの魔的な魅力があった。
「世界を救ってきます!」
達也は特に逡巡せず、希望にあふれた声でそう言った。
「わかりました。」
女は優しく笑い、達也に触れる。
次の瞬間、達也の視界は白い光に包まれた。