探索
外部と遮断されたこの「学園」では、各々、ある種の資質が試される。
宇宙飛行士の訓練に、これと近い環境での生活耐久訓練があるらしい。
そちらで海底や砂漠に設えた住居で閉塞生活に慣れる訓練を行うらしいが、ここでも、ほぼ屋外へは出られないことを鑑みれば、海底の基地と大差はない。
まして、何のカリキュラムも与えられないが故に、退屈な時間が重く心にのしかかる。
さらには、人的交流に、何一つとして援助が得られない。
交流を促す行事も、集いも、何もない。
お互いに名乗る事さえ稀だ。
ほとんど誰もが単独で行動し、故に派閥も存在しない。
むしろ皆、ここでの人間関係構築を恐れているかのようである。
かつて、こうも他人に無関心なコミュニティにお目にかかった事はない。
会釈や笑顔を交わしはしても、いざ積極的に会話するとなると、ここでは、極端に高いハードルを越える必要があるようだ。
だが、これしきで疎外感やら孤独に苛まれるような豆腐メンタルな人物ならば、そもそもここに招かれてはいるまい。
とにかく、精神を蝕まれないためには、自ら興味の対象を開拓するしかない。
おおよその雰囲気に慣れたところで、誠志郎は、散歩がてらに館内の探索を開始した。
館は、外見以上に奥行きがある。
居住者用の施設も大半は地下にあるようなのだが、巧妙に造られた階段やスロープの錯覚効果が絶大で、全体像を推し量る事ができない。
うまく誤魔化されてはいるが、ここの周囲一帯には、さらなる、広大な地下建造物があるようで、マニュアルにも、有事のシェルター利用について、念入りに記載されている。
いろいろ考え併せるとここは小振りな山の中腹であると察せられるが、その山そのものが大規模な要塞である可能性も無きにしも非ずだ。
ちなみに、暇にあかせて例のマニュアルを熟読したが、意外にも、ここには「立ち入り禁止」区域というものが無い。
何かにつけ周到な「学園」においては、そんな事も、些細なミスとは思えない。
なすべき事がほとんど無いも同然なのに対して、禁止事項については妙にはっきりとマニュアルに記されているのだが、反面、これは明記された禁忌以外は踏み越えて来いという挑発とも取れる。
どうせ、暇な身だ。
これが挑発であれ、気のせいであれ、ある種のクエストとして自らに課題を課すというのも一興ではないか。