ラウンジ
ここでの日々は、退屈だ。
時に、曜日すら忘れそうになる。
なにしろ、しなければならない事が何もないのだ。
仕事はおろか、学園とは名ばかりで、授業もなければ講義もない。
至れり尽くせりで、家事さえ不要。
夢のような日々であるはずの有閑生活も、完全に社会から隔絶されてしまうと、耐え難く空虚だ。
だが、ここへと誘った人物を思うにつけ、この環境を額面通りに受け取っていてはいけないという焦りを覚える。
とにかく引き籠ってしまってはいけないと、規則正しい生活時間を自ら定め、一日の大半は他の園生らと共にラウンジで、許可されたメディアに触れて過ごした。
数日を経た現在、顔を見知った仲と言っても良さげな面子も数名できて、互いにおずおずと挨拶を交わす程度には馴染みつつある。
だが、互いに素性の知れない匿名の世界は、ネットの中でこそ気楽に羽根を伸ばせるが、生身の相手に面と向かうと、あり得ない程に厄介だ。
まして、ここ。
皆が皆、政治的かつ社会的な身分に支障を来して、ここに隠れ住むような青少年達なのである。
理事とやらに厳選された面子とはいえ、多分に呉越同舟である旨、あらかじめ念を押されてもいる。
迂闊に話は振れないし、共通の話題と言えば天候くらいのものだが、毎日、晴れたの降ったのとばかりも言ってはいられない。
頼ろうにも、大人の姿は一切なかった。
明らかに運営側の一員と見られる少年達はそこかしこで作業に勤しんでいるが、指揮者は影すら現さない。
気配すらない。
人の気配には敏いはずの誠志郎にとって、これは意外であり、かつ異常な状況だった。
何気ない動作で髪を一本引き抜いて、息を吹きかける。
ふわり、と宙を舞ったそれは、カートを押して通りがかった少年の肩に……触れるか触れないかの内に、ぱっぱと払い除けられてしまった。
また、だ。
これまでも、ずっと、そうだった。
あの少年達は、普通ではない。
そして、それを隠そうとすらしていない。
ちらりと誠志郎を顧みた眼差しが、してやったり然とした笑みを帯びていた。