お掃除
失敗したかと思いきや、少女は立ち去る様子も見せず、淡々と水回りの掃除をし始めた。
正直言って、手際は良くない。
まあ、どう考えてもこれが本業ではないだろう。
「マイアはメンテナンス中。しばらく来ないよ。」
意外にも、情報をくれた。
「ここのお偉いさんたちが、あたしらの名前なんか、知ってたりするんだね」
「暇だし、友達いないしね」
「ぼっちかよ、あんた」
口は悪いが、好意的、と言っても良いのかな、これは。
彼らが、こんな作業に駆り出されているのは、別に、人手不足とかではないだろう。
こうした下働きの存在は、意識から除外されがちだ。
故に、潜入手段としては鉄板。
ここの園生として招かれた者の中に、これに引っ掛かるほどのバカは居るまいが、おそらく彼らは監視役だ。
ここに来た当初から気付いていたが、恐らくは、ゴミすらチェックされている。
だから、重要性はともかく見られて恥ずかしいようなモノはゴミには出さない事にしている。
「僕らとの接触に、何か制限はあるの?」
「別に。気に入りゃ何でもするけど、金もらっても、つまんねえ事はしない。」
手を出したバカでもいたのかな?
ちょっと殺気が漏れている。
「基本、監視役なんだろう?」
「そうでもない。白流はジンセイケイケンつってるけど、ほとんど暇潰しだし」
ゴミを空けつつ、ビニール袋を振って見せてきた。
「あんたのゴミには、ティッシュがない。見られる場所がわかってんだろ?」
そう。
誠志郎は、鼻をかむにもトイレットペーパーを使って、流す。
これは昔からの習慣だ。
ゴミは、見るものから見れば、情報の宝庫だ。
人は、膨大な情報を、ゴミ袋に突っ込んで他人に委ねる。
カラスに食い散らされるならまだしも、悪意ある人間に持ち去られると、とんでもない弱味を握られる羽目になったりするものだ。
だから、見られて困ったり、恥ずかしいモノは不用意に捨てない習慣が身についている。
一応健康な青年男子なので、それは、まあ、色々理由もあるわけなのだ。
というか、やっぱり調べられていた。
変なものを捨てていなくて、本当に良かった。
「信じないでも良いけど、あんたは監視されてないよ。白流も信用してるし、マイアも気に入ってるみたいだし。」
「そうなんだ?」
「思ってたよりトロ臭いけどね。」
意外に評価は辛かった。
「目玉も足も達者なんだからさあ、もうちっと、なんか、する事あんだろ?」




