第2章 ジンの森 "The Forest of GWM" 5
宴が開かれた、その夜のこと。
酔いも手伝って、暁はかつて感じたことのない疲れを感じて寝についた。
何もかもが唐突に彼の前に現れ、あらゆるものが荒波となって彼を飲み込んでいた。
タフな暁とて、この世界では生まれたばかりの赤子のようなものである。
頭は飽和を起こし、誰かに助けを求めることもできなかった。
これまでは無我夢中だったが、少し冷静になって、初めて自分が孤独であることを思い知らされた気分だった。
どうやら、自分はこの世界では圧倒的な能力を発揮できるらしいが、同時にまったく情報がない。
はたして生き残って、仲間と合流し、地球に戻ることはできるのだろうか。
雨が降っていた。
寒い。
黒い服を着た人たちに囲まれて、自分は何をしているのだろう。
優しい手に肩を抱かれていた。
寒かったが、その小さなきれいな手からは、温もりが感じられた。
そうだった。
お父さんもお母さんも、もういないのだ。
骨だけになって、お墓に入るのだ。
肩に置かれた手に力が入った気がした。
見上げてみる。
その人の頬が濡れていた。
それが雨のせいではないことはわかっていた。
泣かないで……。
僕が守ってあげるから……。
頬に伝わる自分の涙の冷たさに、暁は目を覚ました。
けっして悪夢というわけではないが、あの夢を見ると、いつも涙が溢れてくる。
それは悲しいというより、なぜか温かみのある夢だった。
温かい……。
そうだ、この温もりのように。
「う、ううん」
ううん?
俺はこんな声だったっけ?
感覚が戻ってくる。
手を動かしてみる。
ぷにぷに。
柔らかい。
よい匂い。
頬が柔らかくて温かいものに触れている……。
気持ちいい……。
う……何?
「あんん」
ま、まさか……。
恐る恐る目を開けてみる。
眼の前が金色の波に覆われていた。
いや……柔らかな髪の毛だ。
ということは……腕の中にいる生き物は……。
「え、ええ?
ええええええええ?」
暁は小動物の頬に触れていた、自分の頬を慌てて引き剥がした。
「な、なんで……」
驚きで声にならない。
俺、酒に酔った勢いで、何かしたのか?
「おはようございます……暁様」
寝起きのソルが暁にうっとりと微笑んだ。
唖然。
「ソ、ソ、ソル。
なんで、君が……」
「暁様、覚えて……ないんですか?」
身を起こしたソルは半裸だ。
ネグリジェのような薄い寝間着。
胸の谷間に金のロケットペンダントが乗っている。
胸が……大きい……。
「お、俺……何かしたのか?」
股間が……。
うわ!
慌てて枕で隠す。
急にソルが泣き出した。
え、ええ?
本当に?
ま、まさか?
「何もしてくれなかったから……悲しいんです。
暁様と抱き合って寝られたのはうれしかったですが。
ぜんぜん起きてくれないし、わたしも寝ちゃいました」
唖然。
まったく理解できない。
パニックだ。
「ごめん、まったく話が見えない」
暁は顔に手を当てた。
「ヨバイ……です」
「ヨ、ヨバイ?」
夜這いだと?
お姫様がそんなことを???
唖然。
「女の子が、好きになった殿方の褥に潜り込むのです……。
……ま、まさか、暁様のお国では、そういう風習はないのですか……」
暁はぶるんぶるんと顔を横に振った。
ソルの顔が見る見る赤く染まった。
「ご、ごめんなさい……。
わ、わたし、なんてはしたないことを。
この国では、女の子が勇気を出して、殿方に体を預けることで、思いを果たすのです……。
こんなこと、初めてだったので……」
言いながら、ソルは泣き出した。
か、かわいい……。
愛おしく思えちゃうじゃないか……。
暁はソルの頭を抱きしめてやった。
「ソル。
がんばったんだな。
でも……もうちょっと待ってくれないか。
君のことが嫌なんじゃない。
むしろ、守ってあげたいと思ってる。
俺の国じゃ、大事な女の子には、男はそう簡単には手を出さないんだ。
きっと……悪いようにはしないから」
ソルは、暁の胸の中で、うんうんと頷いて、泣きじゃくった。
両の腕を暁の背に回す。
どき!
ソルの豊かな胸が押し付けられて……。
「あ」
暁は思わず腰を引いた。




