表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

第2章 ジンの森 "The Forest of GWM" 4

 王女派が「ジンの森」に逃げ込み、陣を張ったことには意味があった。


 この森の奥に妖精の遺跡があり、求める聖剣カラドボルグがそこにあるというのは第一の理由ではあったが、理由はそれだけではない。

 それ以上にこの森が恐れられていることが重要だった。


 人々はこの森に近づこうとはしない。

 神の領域であり、神を守る数々の魔物が人が近寄ることを許さなかった。

 この森に入ることを許されるのは、王族と神官のみ。

 その両方の役割を兼ね備えたソルレオーネは幼き頃より、この森になれ親しんでいた。

 カラドボルグそのものさえ、見たことがある。

 姫君の力は存外に大きかった。

 彼女の生まれ持つ強大なオーラは、一行全体に及び、皆の命を守っていた。

 ある意味、その力はヴェルダージやその他のどんな戦士よりも強いと言えた。

 そのオーラの及ぶ範囲内には、通常、彼らを襲う聖獣は入ることができない。

 それだけに、オーラの壁を振り切って、怒り狂った聖獣のコングが彼らを襲ったことは、この森に何か異変が起きていることを物語っているとも言えた。


 もう一つの理由は、ある人物に助けを求めることだった。

 森の奥で隠遁生活を送る、刀鍛冶だ。

 単なる刀鍛冶ではない。

 カラドボルグとジンの森について、誰よりも精通している神官の一人であり、戦においては王を助ける戦略家だった。

 ソルの宝剣を鍛えたのも彼自身だったし、神に連なる力を込めた剣を作ることができるのは、アルスター広しと言えど、彼以外にはいなかった。

 彼を味方につければ、戦況をひっくり返す可能性さえ出てくるのだ。

 その名をゴイブンという。


「サビオ。

 提案がある。

 聞いてくれるか」


「はい、クーフーラン様」


 暁はサビオから差し出されたエールの盃を受け取った。


「俺はいつかは国に戻りたい。

 だが、状況を考えてみれば、それは簡単なことではなさそうだ。

 だから、提案したい。

 今はあんたらと共に戦おう。

 そして、あんたらが国を取り戻すことができたら、その時は、俺が国を取り戻すために手伝ってくれないか」


 暁は頭を下げた。


「クーフーラン様。

 頭をお上げくだされ。

 それは我らにとっては、願ってもないお申し出です。

 むしろ、あなた様の故郷に帰りたいお気持ちを思うと、我らのわがままを先に通させていただくのは心苦しく存じますが……ここは素直に、あなた様のお言葉に甘えさせていただきましょう。

 ありがとうございます」


「では、交渉成立だな」


 暁は右手を差し出した。

 サビオが怪訝そうに首を傾げる。


「あ、これは俺の国では、握手と言ってな、交渉の成立や仲間であることを示す時に、お互いの手を握り合う習慣なんだ」


 サビオは納得し、暁の手を握った。


 さあ、ここから俺の戦いが始まる。

 暁はジョッキの中身をごくりとあおった。

 うまい。

 これが冷えていれば、さらにうまいのだろうが。


「ところで、話は変わりますが」


「うん? なんだい?」


 二口目をあおる。


「姫のことはどうお思いですかな?」


 ぶふぉお!

 暁は今口に含んだものを吹き出した。


 そ、その話かあ。

 暁は急にしどろもどろになった。


「い、いや、その、なんと言うか。

 ま、まだ会ったばかりだし……」


「アルスターの王になれとは、今のところは申しませぬ。

 ですが、姫は一目であなた様のことを気に入られたご様子。

 もちろん、お国に想い人がおられるなら話は別ですが、そうでないなら……。

 あれは……王女だの、世継ぎだのを抜きにしても……親代わりの私から見ても、気立てのよい、優しい娘ですぞ」


 その笑顔はいとおしくて仕方のない、我が子を思うものだった。


「あ、ああ、いい子だよな。

 俺にはもったいない」


 何を言ってるんだ?

 確かにきれいだし、性格もよさそうだけどさ……。


「まあ……考えさせてくれ。

 しばらくは同行するわけだし。

 ソルのことをもっとよく知る機会もあるだろう」


「そうですな。

 では、この話はそこまでとしておきましょう」


「……ところでだ。

 まずは、そのゴイブンさんのところに行くわけだな?」


「まずはそれが第一歩となります」


「どんな人なんだい?」


「会っていただくしかありませぬが……、難しい交渉になるやもしれませぬ。

 姫が鍵になりましょう」


 暁はまだ会ったことのない、気難しいという刀鍛冶を想像しようとしたが、まったくイメージがわかなかった。




 暁は小屋の外へ出た。


 ソルがいた。


 やはり美人だな、このお姫様。

 そして、こんな若くて可憐な少女が、国の命運を握っているという。

 父親が死に、国に追われ、過酷な運命を背負っている。

 サビオやヴェルダージに限らず、皆が彼女を慕い、守りたい気持ちになるのも確かだな。


「どうした、ソル?」


 ソルが困ったような顔つきで、もじもじしている。


「あ、あの……。

 わたし……今までこんな気持になったことがなくて……。

 い、いえ、そんな話ではなくて……。

 王女としてのわたしからもお願いします。

 わたしたちと、この国にお力添えください」


 偉いな。

 いい娘だ。

 俺も助けたくなる。


「はっはっは、姫。

 ことは成りましたぞ。

 クーフーラン様は我らと共に戦ってくださいます。

 これぞ、まさに百人力」


 暁のあとから小屋を出てきたサビオが心地よさそうに笑った。


 暁がソルに頷いてみせる。


 ソルの目から涙がこぼれ……。


 ソルが暁に抱きついた。


 この攻撃はさすがの俺もかわせないな。

 暁は自分にしがみついて泣きじゃくる娘の頭を困ったように撫でてやった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ