表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

第2章 ジンの森 "The Forest of GWM" 3

 暁は剣を振っていた。


 心に迷いのある時は剣を振る。

 それは昔からの彼の習慣だった。


 近くの開けた場で、木の枝や見えない空中の敵を相手に切り込んだ。


 さすがに姫の宝剣は使えぬと思い、予備の戦士用の剣を借りていた。

 慣れた日本刀とは似ても似つかぬ、重い中世ヨーロッパ風の段平で、ヴェルダージのような屈強の戦士が振るうものと思われた。

 しかし暁の戦闘ステータスを吸い込んだ「並の剣」は一気に戦闘力を上げ、おそらくはこの世界でも最強の部類の武具に変貌を遂げていた。


 軽い。


 負荷をかけていたAR訓練室で用いていた、疑似日本刀よりもさらに軽く感じる。


 犬飼家は地球・日本において、居合の技を伝承する、名門宗家である。

 暁の先祖は有名な武士の家柄だったそうだが、そんな歴史には興味もなく、暁はただ一筋に、日本刀を抜くその型の美しさに魅了されていた。


 地球連邦軍に入ってからは実戦で振る機会はなくなったが、AR訓練では積極的に刀を武器とし、その技を維持していた。

 銃や先進の武器を一切使わず、弾丸さえかいくぐり、敵を両断する。

 模擬戦におけるそのクレイジーな戦いぶりは、同時に美学に貫かれていて、並み居る兵士をして、サムライと尊敬されてさえいた。


 舞う木の葉を切る。

 乾いた一片の葉なぞ、常人には切れたものではないが、暁の腕にかかれば、目にも留まらぬ太刀さばきに、スパスパと次々に真っ二つになってゆく。

 これが日本刀なら、さらに切れ味がよいのだが……などと、贅沢なことを思ったりもする。


 暁は研ぎ澄まされた精神状態に心を置いて、冷静に分析してみた。

 なぜ、自分はこの世界の人々よりも遥かに高いステータス有し、あれほど軽やかに体が動くのか。

 ゼヒュロスで1.2Gの重力に慣れていたいたこと、この世界が0.8Gだということ、誰よりも抜きん出た剣技を有すること……などを考えれば、自分が勇者と呼ばれるほどのヒーローに相当することは当然かもしれぬ。

 しかし、異常なほどのステータスの高さは、そうした要素だけでは説明がつかない気がした。

 彼の能力を決定づける、別の要素……。

 地球ではないこの惑星には、何かそんなものが存在するのかもしれぬ。

 とにかく不確定要素が多すぎる。

 この謎の解明は、今後の課題としておこう。

 当面は、この能力のおかげで、生き抜いてゆくことができそうだ。


 さて……これからどうするか。

 姫の一向に同行するし以外に方法が見当たらなかった。

 求められるなら、力を貸すしかなかろう。

 そして叶うなら、仲間の探索と、海の彼方に存在するかもしれないGWMの確認……。


 気配がした。


 敵……だろうか?


 いや、それに増して、実感のある確かな気配。


「おい、そこにいる奴ら、用があるなら、出てこい」


 木の陰から大小様々な男女が5人、姿を表した。

 巨大な女? 剣闘士風の壮年の男、小さな男、ソルに体格の似た、若い女……。

 中心にはヴェルダージの姿があった。

 暁に向けて頭を垂れる。


「勇者様。

 失礼しました」


「その勇者様ってのは、そろそろやめてくれよ。

 暁でも犬飼でもいいから、名前で呼んでくれ」


「では、クーフーラン様」


 ああ、そうか。

 そっちかあ。

 仕方あるまい。


「ここにおりますは、幼き頃より姫をお守りしてまいりました、親衛隊の者どもです。

 「五枚の盾」と呼ばれております。

 そのご挨拶と……一つ、確かめたいことがあります」


 うーん、なんだか読めてきたぞ。

 そういう展開か。


「不満かい?」


 図星を突かれて、ヴェルダージの顔に一瞬怒りが過った。


「我らにも姫をお守りしてきたという自負があります。

 クーフーラン様のお力を疑うわけではありませぬが、まことに姫をお預けするに足る方なのか、ぜひともお手合わせ願いたい」


 いや、預けられても困るんだけどなあ。

 とはいえ、それを言ったら、さらにこいつを怒らせることになるだろう。

 暁は顔をしかめた。

 しかし、彼らにとっては命に変えても守りたい大切な姫様のことだ。

 どこぞの馬の骨とも知れぬ輩に、はい、そうですか、と任せることができぬのも道理というものだろう。


 仕方あるまい。

 乗ってやるか。


「わかった。

 全員かい?」


「まずは私から」


 ヴェルダージが、暁のものより遥かに巨大な段平を構える。

 うん、かっこいいな。

 昔の映画のコナン・ザ・グレートみたいだ。

 だが……。


「いざ!」


 次の瞬間、暁の剣の刃はヴェルダージの喉元にあった。


 申し訳ないね。

 Lv9じゃ、俺と対等に戦うのは無理だ。

 うん? 待てよ。

 ソルより、レベルが低い?


「ま、まいった」


 ヴェルダージはくずおれて膝をついた。

 その顔面は蒼白だ。

 残りの4人は何が起こったのか理解できずにいるようだ。


「クーフーラン様。

 マリアと申します。

 次は私が」


 女が一歩出た。

 かなりの背丈のある女だ。

 暁が174cmの身長で、ヴェルダージがそれより10cmは高かったが、そのヴェルダージよりさらに10cmは高い。

 ……ってことは、2m近くもある女か?

 その筋骨も逞しく、覆いかぶされれば、暁の体なぞすっぽり隠れてしまいそうだ。

 マリアだって?

 そんなかわいい名前とはあまりにも不釣り合いな体格だな。

 それを指摘したら……きっと、腹を立てるパターン……。


 重戦車級だ……。


 片手に軽々と振り回しているのは、これも重量級にふさわしい、ハンマーのような武器だ。


「では、行くぞ」


 暁が言うと、彼がいた場所をハンマーが通り過ぎた。

 馬鹿力だけでなく、スピードもある。

 常人であればひとたまりもなかったろう。


 しかしそこに暁の体はなかった。

 マリアが驚いて辺りを見回すと、振り上げたハンマーのヘッドの上に、平然と暁が立っていた。


 ごめんね。

 こんなことも簡単にできちゃうんだな。

 ふうん。

 Lv12か。

 こっちはソルより上。

 基準がよくわからん。


 ぽんと跳ねて、マリアの肩の上に立つ。

 眺めがいい。


「まだ、やるかい?」


「ま、まいった……」


 跳ねて、元の位置に着地する。


「次は?」


「では、魔道士のミーアローナがお相手いたします」


 杖を構えた、マントの若い女が一歩前に出た。

 暁よりも10cmほど低い背丈。

 フードに覆われた顔は細部までは判断しかねたが、背丈や体格も含め、その姿はソルを思わせた。

 ソルの金髪に対して、フードから少し漏れた髪は黒。

 ソル自身が輝くような明るい娘とすれば、こちらは暗い陰気なソル……といったイメージか。

 その顔つきはソルとそれほど異なる年齢とも思えなかったが、彼女が信頼する親衛隊の魔道士ということは、それなりに力があるのだろう。

 しかしこの気候でマントとは。


 魔法か。

 これは対処の方法がわからないな。

 呪文を唱えている間に懐に入り込むことは容易だが、それではおもしろくない。

 やはり、魔法には魔法で対抗すべきだろう。

 しかし、魔法なぞ使ったことはないし、そもそも使えるのだろうか?

 とりあえず、ステータスウィンドウを調べてみる。

 魔法に関する能力……あった。

 なんだ、この「魔法耐性」って。

 そもそも地球やゼヒュロスの艦上では、MPも含め、そんなステータスは存在しなかったぞ。


 Lv.9。

 ステータスを見ると、MPは320でソルの半分ほどだが、魔法攻撃力は76あった。

 対して、暁の魔法攻撃力は15と、MPを含め、ほとんどないに等しい。

 だが、魔法耐性力なるステータスは237もあった。

 タップしてみる。

 敵の魔法から身を護る手段が、ずらーっと羅列された。

 属性だけでも地を先頭に、水や火、風……、いわゆる四元素って奴だな。

 相手の属性は火らしいが、こっちはどれを使えばいいんだ?

 水でいいのかな?

 とりあえず、先頭にある「オート」に設定する。

 こんな便利なものが使えるのか。

 ますます理屈がわからんが、まあ、やってみよう。


「うん、構わないよ。

 やってみて」


 魔道士は呪文を唱え始めた。

 戦闘時には剣士たちが肉弾戦で敵の攻撃を防ぎつつ時間を稼ぎ、攻撃魔法で相手に決定的なダメージを与えるといった戦法なのだろうな。

 魔道士の目が赤く光った。

 かざした手のひらから振動波のようなものが広がり始める。


「フレーム・ウェーブ!」


 手のひらから炎が渦を巻いてほとばしり出てきた。


 暁は特に何もしない。

 その炎に焼かれるなどとは、微塵も思わなかった。


 暁の正面、少し前に青い透明の盾のようなものが現れ、炎を飲み込んでゆく。

 魔道士や親衛隊たちの顔が引きつった。

 青い盾が反撃に出る……と暁には思えた。

 防御が攻撃に……。


 細かい泡が大量に現れ、もの凄い勢いとなって、魔道士を襲った。

 炎が消え、泡の勢いに小さな姿がすっ飛ぶ。

 それを残りの二人の内の一人、40歳ほどの男が受け止めた。


 しょ、消化器かよ……。


「ま、まいりました」


 無事なようだ。


「あと2人はどうする?」


 2人とは、ヴェルダージと似た体格の、魔導士を受け止めた壮年の男と、もう一人、マリアの半分ほどかと思われる身長の、灰色の衣をまとった、細くて小さな男だ。

 壮年の男の左手の甲に、バラをデザインしたかのような大きな傷があり、暁の目を引いた。

 5人とも膝をついて、胸に右手をあて、頭を垂れた。


「クーフーラン様。

 お力を試すなぞ、思い上がった我らをどうかお許しください。

 我らの未熟を思い知りました。

 今後は姫様と合わせ、あなた様にも忠誠を尽くします」


 まあ、あんたらの頭になるつもりはまだないんだけどね。

 方針を決めた。

 せっかく俺の存在を認めてもらえたことだし、しばらくは「共闘体制」といこう。


「忠誠と言われてもあまりぴんと来ないんだが、まあ、よろしく頼むわ」


 また気配を感じた。

 暁だけでなく、5人も同様に振り向く。

 5人とはまったく別の気配。


「誰だよ?!」


 暁が叫んだ。


 応えはなく、その声は木霊となって、森へ消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ