第2章 ジンの森 "The Forest of GWM" 2
森の中で、何かがうごめいた。
それはあまりにかすかな存在で、誰も気づきはしなかった。
それは今までとは様子の異なる展開に、小首を傾げた。
何が起きつつあるのか?
それにもまったく理解できなかった。
ただ、今まで絶望の淵にあった、それが観察する者どもに、わずかな希望のような光が指したことは感じられた。
陰は光に敏感である。
そして光を忌み嫌う。
光と陰は表裏であり、決して相容れぬもの同士。
それは暗く赤い瞳を輝かせると、樹々の陰と一体となって、姿を消した。
王が亡くなった。
太陽王とも称された、第12代アルスター王、コベリオ・アルスターの突然の死に、国は混乱した。
国は王の絶大な権力と国民の忠誠心により成り立っていて、王が隠れるなど、誰も想定していなかった。
強い王であれば、その分、内外に敵も多くいるもの。
王の不在はできるだけ避けねばならぬ。
しかし残念ながら、王には嫡子がなかった。
「王の器」と崇められる、姫がいるにはいたが、女王というのは前例もなく、これを政争の具とした反王派が反旗を翻し、国を乗っ取るという暴挙に出た。
結果、ソルレナータ・シャーヴィ・アルスター王女は無実の罪を着せられたまま、城から逃れ、反王派の貴族一派はどこからか連れてこられた「王の落し胤」を、正統な嫡子として次期王とした。
巻き返しを図る王女派に残された選択肢は2つ。
一つは王子とその一派を倒すこと。
しかしこれは余程の援軍でも手に入れなければ難しいだろうし、何より多くの民や兵士を犠牲にする。
ましてや素性の知れぬといえど、すでに皇太子が立っているのだから、立場的には王女側こそが反逆を起こしたことになる。
もう一つは、伝説の剣、カラドボルグを手に入れて、正統の王であることを証明すること。
カラドボルグは、妖精の治めるある遺跡の岩に突き立っており、アルスター王家の、王としてふさわしい者にしか抜けぬと言う。
この夢物語としか言えぬ道を選ぶしか方法はなかったが、実はこちらについては、可能性は高いとは言えぬものの、王女には秘策があった。
第3の選択肢もあるにはあったが……。
ひとまず王女派は、その奥の奥に伝説の剣があるとされる辺境の森林地帯、隣国コノートとの国境沿いでもある「ジンの森」に身を潜め、援軍を募りつつ、王都奪回の機会を狙っていた。
「我らの敵は王子派だけではござらぬ。
もともとアルスターはコノートと敵対関係にあり、ここ数十年は国境付近での小競り合い程度しかありませなんだが、太陽王がお隠れになった今、機に乗じて攻め込んでくることも十分あり得ます。
現在のメーヴという女王は抜け目のない、戦略家とも、魔女とも噂されていますし」
話がますますファンタジーだ。
アイテムやら、設定やら、中世ヨーロッパの域を通り越して、とっくに魔法の話じゃないか。
しかも何だろう? どっかで聞いた話のオンパレードだぞ。
本当にここは地球じゃないのか?
「サビオ。
第3の選択肢って何だ?」
暁には、サビオがその部分だけ、言葉を濁したように聞こえた。
「そうですな。
それはあり得ぬとこれまで思っておりましたが、今ではそれも可能性が見えてきました。
難しいが一番確実な方法。
……姫が、王にふさわしい夫を迎えること」
ふーん。
王にふさわしい旦那さんかあ。
きっとヴェルダージみたいな逞しい戦士なのだろう……。
うん?
ソレハアリエヌトオモッテオリマシタガ、イマデハソレモ……。
ま、まさか?
はは……いや、そんな……。
ソルが顔を赤らめて、暁を見上げている。
両手をぎゅっと握り合わせ、その瞳は神々しい存在を見るかのように、うっとりとし……。
ええええええ!
「サ、サビオ。
ちなみに聞くけど、王にふさわしいってどういう……?」
「我らアルスターの民は、古来、物や動物にはステータスウィンドウが浮かんで、そのものの体力や攻撃力などがわかります。
それを元に獲物を仕留めたり、攻撃を回避したり、役に立つものかどうか、などを判断します。
しかし、一部例外はあるものの、自分以外の人のステータスを見ることはできませぬ。
見ることができるのは、生まれながらにして人の上に立つことを許された人々のみ。
王族はこの世界で最上位に位置します。
つまり、王族に属す者のステータスウィンドウを見ることができるのは……」
「王族、もしくは王以上の存在……」
「さよう」
は、はは、ははは。
それで、さっきソルは運命のお方! と叫んで俺に抱きついたわけか。
暁は自分こそが窮地に追い込まれたことを悟って、血の気が引いてゆくのを覚えた。




