第3章 出王都 "Leaving the Capital of the Kingdom" 7
サビオが周到に整えていた人員はその日の内に、郊外で密かに合流し、ジンの森を目指した。
森を怖れる者も少なくなかったが、なんと言っても、少人数である。
ソルのオーラは全員を容易に覆うことができた。
夜を徹して行軍し、一行は開けた浜辺へと至った。
そこには王家の者のみが入ることのできる、秘密の波止場があった。
「姫様。
ここで一息入れます。
すでに気づかれてはいるでしょうが、もはや森の奥深く。
森が我らを守ってくれましょう」
そこをひとまずの拠点とし、兵站を整えて、森の深奥へと向かうというのが、サビオの計画だった。
ジンの森は魔物、獣の心配さえなければ、食料の宝庫である。
夜が明け、ソルは久しぶりの海を眺め、思いに耽っていた。
軍の士気に関わる。
自分が暗く沈んでいるわけにもゆかぬ。
幸いなことに、明るい青空と、海からの心地よい風は彼女の心を和らげてくれた。
またがったドラゴのチクタが彼女の心を悟ってか、ぐるーと、小さく唸った。
その時。
遥か上空で何かが弾けた。
振り仰ぐと、巨大な光が広がり、轟音が轟いた。
何だろう。
思わず耳を塞いだが、地上にまで影響を及ぼすほどのものではなかった。
しかし生まれて初めて見る不思議な光景に、彼女は身をすくめた。
直後に何かがさらに地上に近い空で弾け、たくさんの破片が広い海に降り注いだ。
その破片に混じって、いくつかボール状のものも海に落ちてきた。
一つが遠くの浜辺に打ち上げられて、ポンと弾けた。
好奇心に駆られて、ソルはその浜辺へとドラゴを走らせた。
何かが浜辺にあった。
人……だろうか?
よく見れば、これまで見たこともないような衣服に身を包んだ、若い男性らしかった。
気を失っているようだ。
生きているのだろうか?
近づいてみる。
やはり男性だ。
その横顔はなぜか、見覚えがあるような気がした。
会ったことはないはずだが、懐かしい思いがソルの胸を過った。
ふと、あることに気づいた。
生きているようではあるのだが……。
なぜ、王家の私に、この人のステータスが見えない?
ドラゴが男の顔をなめ始めた。
まさか、敵を見極めることには優れた能力を持つドラゴが、初めて会う人間になつくなんて……。
「チクタ、あなた、これが誰かわかるの?」
男が飛び起きて、次の瞬間、近くの木の高枝にしがみついた。
その動きはあまりに一瞬で……ソルは呆気にとられて、3~4mも高いところの男を見上げた。
彼女は頬が引きつるのを感じた。
第3章終了。
第4章から第2章の続きに戻ります。




